毒の美少女の物語 ~緊急搬送された病院での奇跡の出会い~

エール

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夢の架け橋

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「ブーストっていうのは、簡単に言えば総合評価ポイントがものすごい勢いで増えていくことだよ。いろんなきっかけがあるけど、今回の場合は、単純にこの作品が日間ランキングに載ったからだと思う」

「……日間ランキングに載ってるの?」

「ああ……5位以内には入っていないけど、異世界ファンタジー部門の詳細を見ると、今現在で48位にランクインしてるだろう?」

「……本当、すごーい! あ、そうか、評価ポイントつけてくれた人がいたから……」

「そう、それがきっかけで100位以内に入って、さらにこのランクインがきっかけで見てくれた人が増えて……っていう感じで、どんどん順位を伸ばしているんだ」

「……すごいね、なんか、感動する……」

 気のせいか、瞳の声は少し涙ぐんでいるように聞こえた。

「この程度で感動してちゃ身が持たないよ。俺のカンが正しければ……もっと凄いことになる」

「え……もっと?」

「ああ。PVの伸びが凄いし、ブクマもガンガン増えてる……作品情報をリロードしてみなよ」

「リロード? うん……えっ? ついさっきより6ポイント増えてる……」

「そう。初めてランクインした作品だから、注目されてるんだ。これが30位以内とかになればもっと増えるし、5位以内に入ろうものなら……って、さすがにそれは無理だろうけど」

 あまり期待させるのも良くない、と思った俺は、そのぐらいにしておいた。
 けれど、実は俺も相当興奮している。冷静を装っているだけだ。

「……和也君、どうしてそんなに落ち着いていられるの? 私、軽くパニックになっているんだけど」

「一度日間ブーストを経験しているからだよ」

「……あ、そっか。和也君の作品、一万ポイント超えてるんだったね」

「ああ、そのときは二千ポイントちょっとでブーストがかかって、二十日ぐらいで七千ポイント弱まで伸びたよ」

「……すごーい! 五千ポイント近く増えたんだ……そのとき、どう思った?」

「もちろん、興奮したよ。訳が分からなかったし。でも、ブーストは一過性のものだから、だんだん落ち着いて来るよ。どれぐらい増えるか楽しむぐらいでいいんじゃないかな……まあ、今日はもう遅いから、明日のお楽しみっていうことでもう寝たほうがいいよ」

「えっ……何もしなくていいの?」

「ああ、せっかく勢いに乗っているんだから、変なことして逆効果になるよりも、さっき言ったようにどうなるか楽しむぐらいでいいと思う」

「……うん、分かった。かなりドキドキしてるけど……うん、和也君が経験者で良かった。明日の朝、見てみるね!」

 そう言って、電話での会話は終了した。
 しかし、瞳にかけた言葉とは裏腹に、俺も相当興奮していた。

 リロードして、さらにポイントが増えているのを確認する。

 俺だけの作品ではなく、瞳との共同執筆小説。
 二人の夢を乗せた『Poison ~ 猛毒の征服者 ~』が、これだけ注目を集めている……。
 その夜は、なかなか寝付けなかった。

 一時間おきに目が覚めて、作品情報をリロードし、ポイントが増えていることを確認している自分がいた。
 瞳も、同じようにしているかもしれないな……。
 そんなこんなで、熟睡できないまま朝を迎えた。

 結果として、朝7時の段階で700ポイントを超えていた。
 と、そのときに瞳からメールが届いた。

「おはよー! 凄いね、700超えてるよ! 私達が寝ている時間帯でも、これだけ見てくれている人がいたんだね。ちょっと感動するね!」

 ……どうやら、瞳は熟睡できたらしい。かなりの大物だ……。

 この日からは、普通に授業が始まった。
 昼休みに確認すると、ポイントは800に迫っていた。
 新しい感想も、ちょこちょこつき始めている。

 さて、いつまでブーストが続くのか……。

 俺の興奮状態はまだ解けず、寝不足ということもあって、教壇に立つ先生の言葉があまり耳に入ってこない。
 まだ新学年が始まったばかりなので良かったが、これがテスト期間直前だったら相当やばかっただろう。

 放課後、早速確認してみると、そのポイントは850を超えて、まだ増え続けている。
 ランキングも異世界ファンタジー部門で20位に入ってきた。

 また瞳からメールが届いた。

「日間ブースト、すごーい! ひょっとしたら、目標の千ポイント超えるかもしれないね!」

 ……いや、この勢いを見れば分かるだろう、その目標は確実に超えてくる。

「まあ、ポイントだけが全てじゃないから。俺たちは作品の完成を目指して、頑張って行こう!」

 と、当たり障りのないメールを返しておいた。

「うん、やっぱり一万ポイント超えてる人の意見は参考になるね。先生、今後ともよろしくお願いしますね!」

 先生……俺、彼女からそんなふうに思われているんだな……まあ、冗談だろうけど。

 そしてその夜、彼女が目標とする千ポイントは、あっさり突破した。
 この二十四時間で増えたポイント数は、約450。
 ついに異世界ファンタジー部門の第9位、総合ランキングでも40位となった。

 この日も、瞳から電話があった。

「和也君、私、ちょっと怖くなって来ちゃった……私達の作品、こんなに沢山の人が見てる……日間ランキング、『リベロ』超えてるよ……」

『リベロ』は、『小説家を目指そう』発のラノベ作品で、アニメ化までされている超人気小説だ。
 もちろん、総合ポイントでは向こうは三十万ポイント超えと、圧倒的な差があるが、最大瞬間風速的な日間ランキングにおいては、一瞬とは言え、俺たちの作品がそれを上回っているのだ。

「大丈夫だって。昨日も言っただろう? 急激な伸びはすぐに落ち着いてくるから。別に悪い事している分けじゃないんだから、楽しむ感じで見ていればいいよ」

「……うん、それもそうだね。明日朝見てみるのが楽しみ! じゃあ、おやすみー!」

 ……瞳、君はどうしてそんなに単純に俺の言うことを信じられるんだ……。

 俺の方が、このポイントの勢いに動揺している。
 そしてこの日も、夜中に起きてはポイントを確認する、という作業が発生して、寝不足が解消されることはなかった。

 二日目の夜、総合ポイントは1600。
 三日目で、2500まで伸びた。

 異世界ファンタジー部門の日間ランキング、第3位。
 ここに来て5位以内に入ったことにより、トップ画面に常に表示されるようになり、さらにPV数のケタが上がった。

「和也君……これって……よくあること、なんだよね?」

 電話から聞こえてくる瞳の声が、震えているのが分かった。

「あ、ああ、もちろん。だってまだ上に二つもあるだろう? 他の部門だって一位があるわけだし。まだ2500じゃないか、俺のは14000ポイントあるんだから」

「それもそうね……うん、まだ全然大したことないんだね。一万ポイント目指して、がんばろうー!」

 相変わらず、瞳は俺が問題無いっていうと元気になる。
 それに対して、俺はずっと興奮状態と寝不足が続いている。
 正直に、

「実は俺もびびってる……」

 って言えば、気が楽になるのかな……。

 その翌日、金曜の夜には、総合ポイントは3700を超えた。
 この日も電話でポイントの増加について30分近く話をして、

「明日は土曜だから図書館で対策を練ろう」

 ということで、相変わらず怖がりながらもハイテンションな瞳をなだめて、俺もなんとか眠りについたのだった。

 土曜日、図書館で会った瞳は、思っていたより元気だった。

「私としては信じられないような快挙が続いているけど、和也君からすれば大したことないんでしょう?」

 と、まるで自分自身に言い聞かせるようなセリフを投げかけてきたので、

「まあ、俺は一応、経験者だから……正直にいうとちょっと興奮しているけど、どこまで続くか、楽しむぐらいでいいと思うよ」

 そんな風に笑顔で話す。
 すると素直な瞳は、

「うん、すごく楽しんでるよ。でも、ほんとに凄いね……人生で一番ドキドキしているかも……生きてて良かった!」

 と、まるでお婆さんのような言葉を発したが、よく考えれば彼女は、誤って農薬を飲んだことにより俺以上に危険な状態に陥っていたんだった。

 一週間ぶりにその可愛い笑顔を見ることができて、俺も本当に彼女が生きていて良かったと、神に感謝したい気持ちになった。

 そして二人の夢の架け橋であるこの作品が、これだけ支持を集め、注目を浴びていることを、まったく信じられないような気持ちで眺めていると話し合った。
 不思議なことに、感想の数はポイントの伸びほどは増えていない。
 俺は、

「ランキングを見て、とりあえずブクマしたっていう人が多いんだと思うよ。その分、『やっぱりこれ、見なくていいや』って思われたら簡単に剥がれていくから、気を付けないといけない」

 と、忠告しておいた。

「へえ、そういうものなんだ……確かに、ちょっとブクマが減っただけで、すごく落ち込むね」

「ああ。それって、『妖怪ブクマ外し』って言われて、恐れられているんだ」

「妖怪? ……うん、確かに怖いね」

 そんな会話が、たまらなく楽しかった。

 そしてこの日も作品の続きの構想を練り、解散して家に帰った後、瞳に推敲したデータを送信し、彼女がそれをアップしたのを確認した。

 そして総合ポイントを見てみると、6000ポイントを超えていた。

 この時点で、異世界ファンタジー部門日間ランキング、第二位。
 軽く純増2000ポイントを超えている状況に、電話をかけてきた瞳は

「これって、大事件じゃないの!? ねえ、和也君、私、どうすればいいの!?」

 と、動揺を隠せない様子だった。
 俺は今まで通り、

「……だ、大丈夫だって、まだ異世界ファンタジー部門でも上に一作品あるわけだし……」

 そう言いながらランキング情報のリロードボタンを押して、その手が固まった。

「……一位になってる……」

「そうでしょう? 総合でも、第二位よ……」

 これはつまり、『小説家を目指そう』全五十五万作品の中で、日間とはいえ、二番目に多くブックマークされた作品となった事を意味する。

「……これも、よくあることなの?」

「いや……俺も初めてだ……確かにこれは事件、だな……でもまあ、まだ俺の『身売り少女』の方が上なわけだし……」

 これは瞳に対して落ち着かせるための言葉というよりも、自分に対する自制の意味合いだったのかもしれない。
 さすがにその日は、俺と同様、瞳も眠れなかったという。

 俺も、同じだったのだが、幸いにも翌日は日曜日だったので、待ち合わせ場所の図書館で、お互いの眠そうな顔を見て笑いあったのだった。

 そして、日間ランキング的にはその日がピークだった。

 以降は徐々に純増ポイント数は減っていった。
 総合一位、には惜しくもなれなかったが、勢いが落ちたことで、かえって冷静になり、二人ともゆっくりと眠れるようになった。

 感想も増えてきて、第三者(ヒカルではない誰か)によるレビューもついて、瞳はそれに対する律儀な返信をずっと続けていた。

 勢いが徐々に弱まってきた、とはいえ、それでも一日数百ポイント付くような日々は続いて、翌週には一万ポイントを突破。

 この時点で、瞳からは

「大ニュース! 目標突破!」

 と、俺も気付いている情報を電話でかけてきたりと、相変わらずちょっと天然なところを見せてくれ、それはそれで俺を幸せな気分にさせてくれた。

 そして五月初めの連休に、頑張って二人で書き貯めた原稿を連続投稿していくと、ついに『Poison ~ 猛毒の征服者 ~』は、俺が単独で書いた『身売り少女 俺がまとめて守ります!』の総合ポイント数を上回ったのだった。

 その後、毎週末に更新を続け、六月に入って最初の金曜日。

 夜8時頃、瞳から電話が入った。

「和也君、大ニュースよ! 私、どうしたらいいの?」

 これまでも何度か聞いたことのあるセリフだった。
 ただ、今までよりさらにテンションが高いような気がした。

「どうしたんだ?」

「あの……落ち着いて聞いてね!」

「俺は落ちついているよ……瞳こそ、息が荒いから深呼吸したらどうだ?」

 ちょっと皮肉を込めて言ったのだが、彼女は

「それもそうね……」

 と素直にしたがって、深呼吸しているのが聞こえてくる。
 彼女のこういうところも、俺は気に入っている。

「……じゃあ、改めて言うね。あの……今日、『小説家を目指そう』の運営から、メッセージが届いていたの」

「……運営から?」

 その一言に、急に鼓動が早まるのが分かった。

「そう……私達の『Poison』に、出版の打診が来たって知らせだったの!」

 ――彼女のその一言に、アドレナリンが一気に噴出するのを自覚した――。
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