50 / 72
(閑話)結婚相談所、再開!(前編)
しおりを挟む※今回は番外編で、本編より少し前、タクヤとユナがいくつかの冒険を終え、一旦サウスバブルの町に戻った頃のお話です。
-----------------------------
この日、朝一番で『タクヤ結婚相談所』にやってきたのは、二十代前半ぐらいの、全体としては素朴な雰囲気ながら、整った顔立ちの美人さんだった。
服装も、決して派手ではないが、かといって地味ではなく、垢抜けた雰囲気だ。
俺としては、結構好感が持てるタイプなのだが、この日もユナが『助手』と称して恋愛相談に参加してきたので、うかつに来客に見とれたりできない。
ちなみに、ユナは星四つ、超級のハンターで、魔導剣士。
縁あって、いくつもの大冒険を共にした仲であり、一応、恋人同士? と言えるのかな……。
ちなみに、俺は制約により、自分の理想の結婚相手は見えない。
そしてなぜか、ユナの理想の結婚相手も見えない。
これは、彼女が誰と結婚しても幸せになれないか、あるいは相手が俺だから、制約に引っかかって見えないのかのどちらかなのだが……。
さて、ほとんどのお客さんの目当ては、もちろん『最高に幸せになれる結婚相手がどんな人なのか』を占ってもらいに来るのだが、この日の客である彼女の場合、『今付き合っている彼氏が、本当に幸せになれる人なのか』を見てもらいに来たようだった。
ほんの少しだけ、テンションが下がる。
これは、別に『美人さんに彼氏がいたから落ち込んだ』と言うわけではなく、占い結果がその彼氏でなかった場合、ガッカリさせてしまうのが気の毒だからだ。
その彼氏に対しても申し訳ない気持ちになる。
まあ、大抵の場合はそのときの彼氏が最も幸せになれる相手なのだが……。
なので一応、
「彼氏がいるのなら、占い結果がご期待に添えないことがありますよ」
と警告したのだが、
「もちろん、それでもかまいません。でも、これで彼が最高のお相手と証明されれば、一生幸せが約束されるのでしょう?」
と、すでに幸せそうな顔をみせた。
うん、心の底から相手のことが大好きな、恋する乙女なんだろうな、と、うらやましくすら思った。
と、背後でコホン、とわざとらしい咳払いが聞こえた。
ユナが、何か言いたげな表情をしている……いや、誤解だから。
彼女によると、どうも俺は、綺麗な女性がお客だとデレデレしているように見えるらしい。
俺はちょっと冷静になって、きちんと占いに戻る。
名前はカリーナ、年齢は二十二歳。
現在、交際を始めて一ヶ月の彼氏がいるという。
一ヶ月でもう結婚を考えているのか……やっぱりちょっとうらやましい。
事前に占いのシステムを説明する。
今から、彼女がこの世で一番幸せになれる結婚相手を占うこと。
見えたイメージを言葉として伝えること。
もし、イメージだけで誰のことだか分からないようであれば、別料金が必要になるが、その相手の元まで同行することも可能であること。
そしてもっとも特徴的な事は、もし占いが外れた場合、料金は全額返金すること。
この最後の言葉には、彼女はかなりビックリしていたが、今まで二百人以上占って返金された事はない……つまり、外れたことはないというと、なおのこと驚いていた。
そして俺は、占いを開始した。
「……素朴な感じの青年が見える……歳は二十歳ぐらいだろうか。皮製のカバンや財布なんかを作る仕事をしている。真面目な仕事ぶりだ……彼の師匠……おそらく父親からも褒められて、工房を引き継ぐ話しも出てるみたいだ……」
と、俺がそこまで話しをすると、彼女は、えっと驚きの声を上げ、両手で口元を覆った。
「そんな……クルト、まさか……」
あきらかにうろたえた様子だ。どうも、今の彼氏とは違っているようだ。
「あの……あくまで占いなので、気に入らない結果だったとしても、落ち込まないでくださいね」
ユナがそうフォローしてくれるが、大したフォローになっていない。
彼女、相当落胆しているようだったが、律儀にお礼を言って、お金も払ってくれた。
「……ひとつだけ、アドバイスをするなら……今の彼氏と結婚しても、必ずしも幸せになれない、というわけではありません。そもそも、幸せの定義なんて一つじゃないですし……」
しかし、言えば言うほど、彼女は落ち込んでいく。
ユナからも、小声で
「フォローになってない!」
と注意されてしまう始末だ。
「……いえ、ありがとうございます。クルトは私の幼馴染みで、とっても仲の良い男の子ですよ。ただ、年下で、私にとっては弟みたいな存在でしたから、恋愛対象と見ていなかっただけです。確かに、結婚すれば、平穏無事に、幸せになれるのかもしれませんね……」
と、けなげに笑顔を浮かべてくれた。
うーん、意中の相手ではなかったけど、怒るような結果ではなかった、ということか。
ただ、その後ユナが、
「私もちょっとした占い、できるんですよ。あなたは、潜在的に不思議な力をもっているようなので、それを占ってみてもいいですか? もちろん、それは無料です」
と言い出したので、そんな事できるのかと思ったが、意外にも
「あ、はい、私の周りでは不思議な事がよくおきるので、ぜひ……」
とカリーナさんが言うので、ユナはある魔法を彼女に使った。
……なんの事はない、『魔力検知』の魔法だった。
しかしその結果に、ユナは目を見開いた。
そして、
「……貴方には、結構な量の『魔力』が存在します。普段は落ち着いていますが、感情的になると、それが表に出て来ます。めったにそんなことはないのかもしれませんが……ときに人を傷つけるかもしれませんので、気を付けてくださいね」
と、アドバイスをして、こちらは素直に受け入れられたようだった。
こうして、彼女は帰っていったのだが……なんとなく、占いの相手が意中の相手ではなかったというのは、後味が悪い。
ユナも、
「ちょっとショック……今まで、割と大喜びしたり、顔を赤らめたりっていうパターンが多かったのにね……」
と、気にかけていた。
さらにユナは、彼女には語らなかった秘密を、俺にだけこっそりと教えてくれた。
「カリーナさん……わずかにだけど、たぶん魔族の血が流れている……」
この言葉には、俺もちょっと驚いたのだった。
そしてこの日、夕方にもう一人来客があった。
素朴な感じの青年。歳は二十歳ぐらい。
はて、何処かで見たことがあるような……。
「……ひょっとして、クルトさんですか?」
と尋ねてみると、
「ど、どうして僕の名前を知っているんですか?」
と、驚かれてしまった。
だって、朝、占いの中で顔、見えたから……。
もちろん、そんな事は言葉には出さない。
相変わらず暇そうなユナもやってきて、占いに参加。
クルトさんは、もし自分に似合うお相手がいるのならば、占って欲しいと真面目に依頼してきた。
「好きな人はいないのですか?」
とも聞いてみたのだが、
「……いえ、その人にはもう、お似合いの方がいますから……逆に言うと、だからこそ、本当に僕が幸せに結婚できるならば、その方を紹介していただければ嬉しいです……」
と言ってきた。
つまるところ……好きな女性、カリーナさんをあきらめようとしているのだ。
でも、彼の場合、占うまでもなく、一番幸せな結婚相手、分かっているんだけどな……。
しかし、カリーナさんが来たなんてことをばらす訳にはいかない。
俺は真面目に彼のことを占い、そして見えたイメージをそのまま告げた。
その占い結果、相手がカリーナさんであることに、クルトさんはもちろん、(多分名前を忘れていた)ユナも、大いに驚いたのだった。
-----------------------------
次回に続きます。
ちょっとした事件に巻き込まれることになりそうですが、大冒険、とまではならないようです。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる