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第61話 待遇
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恋人であったクラーラが、さよならも言わずウィンの前から去ったと知り、彼は愕然とした。
自分達は、それほど薄い関係だったのかと。
確かに、彼は冒険に出ることをためらっていた。だが、それだけの理由で、一方的に別れられるものだろうか。
彼は、意地になった。
絶対に見つけ出し、捕まえてやる。そしてもう一度、やり直すんだと。
結果、また彼は冒険に出ることになったが……しかし、それは人捜しの旅であり、それまでの、常に命の危険と隣り合わせなものでは無かった。
それどころか、治癒能力者という職業の待遇の良さを、新ためて実感したという。
たとえば、遠方の街に移動したいと思ったときは、そこに向かう商人の隊列に声をかければ、喜んで迎え入れられ、護衛付きの最も豪華な馬車に乗せられた。
知らない街に辿り着いても、高レベルの治癒能力者であることの証明書を見せれば、その地域の有力者の元へと案内され、数人の病人や怪我人の治療と引き替えに、驚くほどのもてなしを受けた。
それに最初は戸惑い、やがて慣れ、なぜ冒険者に高レベルの治癒能力者が極端に少ないのか、分かるようになってきた。
そして、同じ高レベルであったとしても、幻惑魔法使用者は決してこのような待遇を受けることはないこと、さらにはクラーラが、ひょっとしたら自分の事を嫌いになったから姿を消したのではなく、自分の事を好きでいてくれるからこそ、あのような行動に出たのではないかと。
それは、単なる希望的推測かもしれない。
しかし、いや、だからこそ、会って本人の口から、真意をぜひとも聞いてみたい――。
彼は、旅を続けた。
だが、クラーラの行方は、その手掛かりすらつかめなくなってしまっていた。
――十数年の時が流れた。
彼は、自分の体の異変に気付いていた。
いや、異変ではない……いうならば、不変だ。
彼の肉体は、全く歳をとっていなかったのだ。
あの死にかけた日、神から能力を受け取った際に、神の気まぐれによりそのような肉体に改造されてしまったのだ、と無理矢理考えたのだという。
しかし、歳をとらない、ということは、決して良いことばかりではない。
三十代半ばの歳になっていたのに、いまだに十代に間違えられることがある。
本当の歳を伝えても、全く信じてもらえない。
それがもとで何度かトラブルになったため、彼は何度か名前を変え、ハンターライセンスや、高レベルの治癒能力者証明書を取得し直した。
依然として、クラーラの行方は分からないままだった。
どの領地へ赴いても、どこのギルドで尋ねても、該当する者が立ち寄った形跡すらなかったのだ。
もう彼は、旅を続ける事に疲れていた。
しかし、もはやその旅を続ける事こそが、日常となってしまっていた。
そんなとき、ある噂を聞いた。
勇猛で知られるロンメル将軍率いる部隊が、南方の蛮族達を迎え撃つために魔術師や治癒能力者を募集していると。
そしてその部隊の中には、すでに強力な幻惑魔法使用者が数人存在していると。
彼はすぐに申し込み、面接試験でその治癒能力を披露したところ、即決で採用が認められた。
そしてその事が、後の大治癒術師・アイゼンハイム誕生のきっかけになったのだった。
自分達は、それほど薄い関係だったのかと。
確かに、彼は冒険に出ることをためらっていた。だが、それだけの理由で、一方的に別れられるものだろうか。
彼は、意地になった。
絶対に見つけ出し、捕まえてやる。そしてもう一度、やり直すんだと。
結果、また彼は冒険に出ることになったが……しかし、それは人捜しの旅であり、それまでの、常に命の危険と隣り合わせなものでは無かった。
それどころか、治癒能力者という職業の待遇の良さを、新ためて実感したという。
たとえば、遠方の街に移動したいと思ったときは、そこに向かう商人の隊列に声をかければ、喜んで迎え入れられ、護衛付きの最も豪華な馬車に乗せられた。
知らない街に辿り着いても、高レベルの治癒能力者であることの証明書を見せれば、その地域の有力者の元へと案内され、数人の病人や怪我人の治療と引き替えに、驚くほどのもてなしを受けた。
それに最初は戸惑い、やがて慣れ、なぜ冒険者に高レベルの治癒能力者が極端に少ないのか、分かるようになってきた。
そして、同じ高レベルであったとしても、幻惑魔法使用者は決してこのような待遇を受けることはないこと、さらにはクラーラが、ひょっとしたら自分の事を嫌いになったから姿を消したのではなく、自分の事を好きでいてくれるからこそ、あのような行動に出たのではないかと。
それは、単なる希望的推測かもしれない。
しかし、いや、だからこそ、会って本人の口から、真意をぜひとも聞いてみたい――。
彼は、旅を続けた。
だが、クラーラの行方は、その手掛かりすらつかめなくなってしまっていた。
――十数年の時が流れた。
彼は、自分の体の異変に気付いていた。
いや、異変ではない……いうならば、不変だ。
彼の肉体は、全く歳をとっていなかったのだ。
あの死にかけた日、神から能力を受け取った際に、神の気まぐれによりそのような肉体に改造されてしまったのだ、と無理矢理考えたのだという。
しかし、歳をとらない、ということは、決して良いことばかりではない。
三十代半ばの歳になっていたのに、いまだに十代に間違えられることがある。
本当の歳を伝えても、全く信じてもらえない。
それがもとで何度かトラブルになったため、彼は何度か名前を変え、ハンターライセンスや、高レベルの治癒能力者証明書を取得し直した。
依然として、クラーラの行方は分からないままだった。
どの領地へ赴いても、どこのギルドで尋ねても、該当する者が立ち寄った形跡すらなかったのだ。
もう彼は、旅を続ける事に疲れていた。
しかし、もはやその旅を続ける事こそが、日常となってしまっていた。
そんなとき、ある噂を聞いた。
勇猛で知られるロンメル将軍率いる部隊が、南方の蛮族達を迎え撃つために魔術師や治癒能力者を募集していると。
そしてその部隊の中には、すでに強力な幻惑魔法使用者が数人存在していると。
彼はすぐに申し込み、面接試験でその治癒能力を披露したところ、即決で採用が認められた。
そしてその事が、後の大治癒術師・アイゼンハイム誕生のきっかけになったのだった。
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