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第62話 抱擁
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ロンメル将軍率いる南方蛮族の討伐隊は、事前の情報になかった巨人族の猛攻に遭い、撤退を余儀なくされた。
ウィン達、治癒魔術師は後方支援として砦に留まっていたため、直接被害を受けたわけではないが、運び込まれた多数の怪我人治療に大忙しとなった。
そんな中、将軍の大怪我を知ったウィンは、長年考えていたある計画を実行する大チャンスだと感じ取った。
その計画とは、貴族の地位に戻ることだった。
といっても、別に豪華な生活を取り戻したいと思ったわけではない。
しかし、貴族の地位でなければ得られない情報がある。
さらに、人を雇い、動かす権力も手に入る。
また、『究極完全回復魔法』が使用できるという噂が広まれば、ひょっとしたらクラーラは会いに来てくれるのではないか、と考えた。
彼女ももう、三十代半ばだ。もう冒険者としては引退していてもおかしくない。
だったら、ひょっとしたら会いに来てくれるのではないか。
いや、さすがにもう誰かと結婚して、子供がいるかもしれない。
それでもいいから、一目会いたい――。
そう、ウィンは、彼女に会いたい一心で、ロンメル将軍に対して『究極完全回復魔法』を使用し、下級ながら貴族の地位を手に入れたのだ。
そして拠点・アイゼンシュタートとして小さな寺院を設立し、そこで彼は、上級の回復魔法を伝授する活動を始めた。
故郷とは遠く離れており、治癒魔法の名門である実家とも競合することはなかった。
また、名前も変えており、見た目の年齢も全く異なるので、家族にも、まさか彼だとは分からないだろうという計算であり、事実、会ったこともなかったという。
それからは、主に弟子や使用人に情報収集を命じ、また自らも冒険者達に積極的に話をして、クラーラの情報を集めようとした。
しかし、結論から言えば、十五年が経過してもなお、結局何も分からずじまいだったという。
そしてまた彼は、旅に出るようになった。
彼女が生きていたとしてももう、五十歳を過ぎている。
それに対して、彼は二十歳の時と変わらぬ容姿だ。
それでも、会いたい。
その一心で、一年のほとんどを、旅に費やした。
一部の信頼できる高弟以外には、大治癒術師・アイゼンハイムは失踪したことにして。
そしてたまに帰ったときには、彼は新たに入門した、期待の新人治癒能力者として紹介されるように仕向けて。
何度もそれを繰り返し、気がつけば、さらに三十年という年月が過ぎていたという。
ウィンは、既に八十歳を過ぎていた。
しかし彼は相変わらず二十歳ぐらいにしか見えず、クラーラは、生きていたとしても、歩くこともおぼつかない老婆となっているはずだ。
もはや彼は、もうこの世で彼女に会うことは叶わない、と諦めていたという。
-----------
「……そんな状況で、俺が、彼の最高に幸せになれる結婚相手を占い、二十歳の頃と何ら変わらぬクラーラだと明言したんだ、そりゃあウィンだって驚いただろう」
「……本当……凄い奇跡……」
ユナは、涙声になっていた。
「……どうしたんだ? ひょっとして、感動した、とか?」
「うん、その通り……だって、ウィンはそんなに長い年月、ずっとクラーラのことを思い続けていたんでしょう? そして実際に行動もしていたんでしょう? それだけじゃない……タクの『究極縁結能力者』で彼女が見えたって言うことは、クラーラの方も、ずっと彼の事を思い続けていたっていうことよね?」
「……ああ、その可能性が高い」
「それって、それって……凄くない? だって、六十年近くもずっとお互いに思い合ってて、それにもかかわらず、会うことができていなかったんだよね? やっぱり、凄い……そんなに長い時間、思い続けても会えないなんて……可哀想だけど、でもちょっとだけ、うらやましい……」
雪の降る窓の外を眺めながら、彼女はそう呟いて、そしてはっと目を開き、こっちを見た。
「……ごめん、タクもこの半年、私を、私なんかを助けるために、本当に大変な思いをしたのよね……」
「ああ……いや、さっきも言ったように、楽しいこともあったし、充実した旅だったよ。それに何より、こうやって、ユナを無事助け出すことができた。それだけで、大満足だ」
俺が笑顔でそう言うと、ユナも涙を溢れさせながら、それでも笑顔になってくれた。
「……タク……本当に嬉しいよ。私にとっては、毒を受けてから完全回復するまでほんの数分の出来事だったけど、今までの話を聞いて、本当に凄い旅だったって分かったし……その……なんだろう、うまく言葉が出ないけど……」
「……喜んでくれてるなら、それで満足だよ。ただ、もし構わないなら……」
「うん? 何?」
涙を流しながらも微笑み、首を傾ける仕草のユナが、たまらなく可愛いらしく見えた。
心臓が早鐘を打つのが分かる。
そして、どうしても言いたい一言があった。
「ユナ……君の事、抱き締めていいか?」
思い切って言ったその一言に、彼女は一瞬驚きの表情を見せたが、すぐにまた笑顔に戻った。
「……うん、いいよ。私も、タクにぎゅって抱きつきたいって思ってたから……」
彼女も赤くなりながら、そう言ってくれた。
そして俺はユナを抱き締め、彼女もまた、俺に抱きついてくれた。
「……ユナ、愛してる……ウィンがクラーラを思う気持ちに負けないぐらい……」
「……ありがと。私も……いつまにか、タクのこと……」
そう言って、一旦彼女は体を離して……ゆっくりと目を閉じた。
そして俺とユナは、この日、初めて、唇を重ねた。
ウィン達、治癒魔術師は後方支援として砦に留まっていたため、直接被害を受けたわけではないが、運び込まれた多数の怪我人治療に大忙しとなった。
そんな中、将軍の大怪我を知ったウィンは、長年考えていたある計画を実行する大チャンスだと感じ取った。
その計画とは、貴族の地位に戻ることだった。
といっても、別に豪華な生活を取り戻したいと思ったわけではない。
しかし、貴族の地位でなければ得られない情報がある。
さらに、人を雇い、動かす権力も手に入る。
また、『究極完全回復魔法』が使用できるという噂が広まれば、ひょっとしたらクラーラは会いに来てくれるのではないか、と考えた。
彼女ももう、三十代半ばだ。もう冒険者としては引退していてもおかしくない。
だったら、ひょっとしたら会いに来てくれるのではないか。
いや、さすがにもう誰かと結婚して、子供がいるかもしれない。
それでもいいから、一目会いたい――。
そう、ウィンは、彼女に会いたい一心で、ロンメル将軍に対して『究極完全回復魔法』を使用し、下級ながら貴族の地位を手に入れたのだ。
そして拠点・アイゼンシュタートとして小さな寺院を設立し、そこで彼は、上級の回復魔法を伝授する活動を始めた。
故郷とは遠く離れており、治癒魔法の名門である実家とも競合することはなかった。
また、名前も変えており、見た目の年齢も全く異なるので、家族にも、まさか彼だとは分からないだろうという計算であり、事実、会ったこともなかったという。
それからは、主に弟子や使用人に情報収集を命じ、また自らも冒険者達に積極的に話をして、クラーラの情報を集めようとした。
しかし、結論から言えば、十五年が経過してもなお、結局何も分からずじまいだったという。
そしてまた彼は、旅に出るようになった。
彼女が生きていたとしてももう、五十歳を過ぎている。
それに対して、彼は二十歳の時と変わらぬ容姿だ。
それでも、会いたい。
その一心で、一年のほとんどを、旅に費やした。
一部の信頼できる高弟以外には、大治癒術師・アイゼンハイムは失踪したことにして。
そしてたまに帰ったときには、彼は新たに入門した、期待の新人治癒能力者として紹介されるように仕向けて。
何度もそれを繰り返し、気がつけば、さらに三十年という年月が過ぎていたという。
ウィンは、既に八十歳を過ぎていた。
しかし彼は相変わらず二十歳ぐらいにしか見えず、クラーラは、生きていたとしても、歩くこともおぼつかない老婆となっているはずだ。
もはや彼は、もうこの世で彼女に会うことは叶わない、と諦めていたという。
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「……そんな状況で、俺が、彼の最高に幸せになれる結婚相手を占い、二十歳の頃と何ら変わらぬクラーラだと明言したんだ、そりゃあウィンだって驚いただろう」
「……本当……凄い奇跡……」
ユナは、涙声になっていた。
「……どうしたんだ? ひょっとして、感動した、とか?」
「うん、その通り……だって、ウィンはそんなに長い年月、ずっとクラーラのことを思い続けていたんでしょう? そして実際に行動もしていたんでしょう? それだけじゃない……タクの『究極縁結能力者』で彼女が見えたって言うことは、クラーラの方も、ずっと彼の事を思い続けていたっていうことよね?」
「……ああ、その可能性が高い」
「それって、それって……凄くない? だって、六十年近くもずっとお互いに思い合ってて、それにもかかわらず、会うことができていなかったんだよね? やっぱり、凄い……そんなに長い時間、思い続けても会えないなんて……可哀想だけど、でもちょっとだけ、うらやましい……」
雪の降る窓の外を眺めながら、彼女はそう呟いて、そしてはっと目を開き、こっちを見た。
「……ごめん、タクもこの半年、私を、私なんかを助けるために、本当に大変な思いをしたのよね……」
「ああ……いや、さっきも言ったように、楽しいこともあったし、充実した旅だったよ。それに何より、こうやって、ユナを無事助け出すことができた。それだけで、大満足だ」
俺が笑顔でそう言うと、ユナも涙を溢れさせながら、それでも笑顔になってくれた。
「……タク……本当に嬉しいよ。私にとっては、毒を受けてから完全回復するまでほんの数分の出来事だったけど、今までの話を聞いて、本当に凄い旅だったって分かったし……その……なんだろう、うまく言葉が出ないけど……」
「……喜んでくれてるなら、それで満足だよ。ただ、もし構わないなら……」
「うん? 何?」
涙を流しながらも微笑み、首を傾ける仕草のユナが、たまらなく可愛いらしく見えた。
心臓が早鐘を打つのが分かる。
そして、どうしても言いたい一言があった。
「ユナ……君の事、抱き締めていいか?」
思い切って言ったその一言に、彼女は一瞬驚きの表情を見せたが、すぐにまた笑顔に戻った。
「……うん、いいよ。私も、タクにぎゅって抱きつきたいって思ってたから……」
彼女も赤くなりながら、そう言ってくれた。
そして俺はユナを抱き締め、彼女もまた、俺に抱きついてくれた。
「……ユナ、愛してる……ウィンがクラーラを思う気持ちに負けないぐらい……」
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