異世界の動画や写真をSNSにアップしたら、思いのほかバズりました!

エール

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メープルシロップ味

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「おお、シルヴィよ、ちょうどよかった。そなたにも紹介しておこう。こちら、異世界からの訪問者、ショウ殿じゃ」

 アイゼンがイヌ耳の少女に、俺のことを紹介してくれた。

「え、異世界……あの地下室の、伝説の見えない扉が開いたのですか!? 凄いじゃないですか……あの、私、シルヴィっていいます! この館のお手伝いさんをしています! お会いできて光栄です!」

 まるで神様を前にしたように両手を組み、祈るように俺のことを尊敬のまなざしで見つめる彼女。

「いや、本当に俺は向こうの世界ではただの一般市民だから。賢者と称されるアイゼンさんの方がよっぽど尊い存在だと思うよ」

「あ、もちろんアイゼン様もすばらしいお方ですが、本当に異世界から来られるということは、神様に認められたお方のはずですから……」

 うるうると憧れの眼差しで俺のことを見続けるイヌ耳の少女、シルヴィ。
 小柄ではあるが、顔も小さいので8頭身ぐらいに見える。
 だから決して子供っていうわけではなく、現代でいえば女子高生ぐらいの美少女だ……まあ、獣人の歳なんてわからないけど……そういう意味では、エルフのソフィアはもっと歳が分からないな。女子大生ぐらいに見えるが。

 と、不意にシルヴィは目を閉じ、クンクンと匂いを嗅ぐようなしぐさを見せた。
 すぐに目を開けて、そしてその目を輝かせ、

「……ショウ様、すごくおいしそうな匂いがします……」

 ちょっと口を開けて、じっとこちらを見つめる……え? 獣人って……人間を食べるのか?
 俺が怯えて後ずさりすると、こちらの考えに気づいたのか、

「いえ、もちろんショウ様がおいしそうっていう意味ではありませんよ? なにか甘い食べ物の香りがする、っていうことで……」

 両手を左右に動かして、懸命に弁解する。

「……そうか、君は鼻がいいんだな……うん、こっちに来る前に、食事代わりにケロリーメルト……まあ、お菓子みたいなの食べたんだ。たしかにあれは結構甘い匂いがするから、それが残っていたんだな」

「へえ……異世界のお菓子、ですか……美味しいんでしょうね……」

 うっ……そんなうるんだ瞳で見つめられると……しかも、耳をピコピコ動かし、しっぽもパタパタと大きく振っているではないか……これは……かわいい……。

「……えっと、今、俺が食べたメープルシロップ味のは持ってきていないんだ。荷物の中にプレーンは入れてきたけど、ちょっと味が薄いから……よかったら、メープルシロップ味もすぐに取りに戻るから、食べてみるかい?」

「本当ですか!? はい、是非食べてみたいですっ!」

 パアッと分かりやすく嬉しそうな笑顔を浮かべるイヌ耳の美少女。
 それを見たソフィアも、アイゼンも、ちょっとあきれ顔だったが、

「あ、いっぱいありますから、お二人の分も持ってきますよ」

 と付け加えると、

「……そうじゃな、そう言ってもらえるならお言葉に甘えるとするかの。お菓子を食べながらみんなで異世界の話を聞くのもいいじゃろう……あ、もう一人、メイドのミクもおる。シルヴィと同じ年頃の、人間の娘じゃ。彼女にお茶を入れさせよう……すまんがショウ殿……」

「ええ、わかりました。その娘の分も持って来ますよ」

 この異世界で人間のメイド、しかも若い女の子と聞けば、ちょっとどんな感じの子なのか気になる。

「では、儂らがお茶会の準備を始めておくとしよう……そうじゃな、ソフィアも手伝ってくれ。シルヴィはショウ殿を案内してあげなさい」

「はい、かしこまりました! ショウ様、行きましょう!」

 イヌ耳のシルヴィはお菓子につられたのか、元々の性格なのか、ものすごくテンションが高いし話しやすい。
 案内がエルフのソフィアだったら、二人だけだとちょっと気まずかっただろうから、アイゼンが気を使ってくれたのだろう。

 今歩いて来た廊下を戻って、階段を下りて地下室に入り、例のゲートにたどり着くまで、シルヴィはずっと話しっぱなしだった。おかげで随分と打ち解けた。

 彼女によると、ソフィアは相当な腕前の剣士で、人間の騎士にも負けないのだという。
 そしてメイドのミクは、普段は無口だけど、すごく可愛い女の子らしい。
 また、ミクはアイゼンから直々に魔法の指導も受けており、十八歳の若さでかなり強力な魔法が使えるのだという。

 ちなみに、シルヴィも十八歳。ミクとは同じ歳ということもあり、仲がいいらしい。
 あと、ソフィアの歳は知らないが、年上なのは間違いなく、頼りになるお姉さん的存在だということだった。

 ちなみに、シルヴィは獣人だけあって、小柄な割に体力には自信があり、丸一日でも走っていられるらしい。
 そんなことを話しているうちに、地下室のゲートにたどり着いたので、

「すぐ帰ってくるから」

 とだけ彼女に伝えて、俺にしか見えない光り輝くそのゲートをくぐった。

「お帰りニャ、早かったニャ!」

 現実世界の俺の部屋で、白ネコのトゥエルが俺を出迎えてくれる。

「ネコ……じゃなかった、トゥエル、すごいぞ! 本当に異世界だった! ほら、エルフだ!」

 俺はそう言って、さっき撮影したソフィアの写真を見せた。
 すると、トゥエルは食い入るようにその画像を見て、

「……これは本当にすごいニャ! 想定してなかったニャ!」

 と驚いていた。

「ああ、すごいだろう……想定って?」

「この画像のことニャ! 異世界からはいかなるモノも持ってこられない……それは説明した通りだニャ。でも、この撮影した画像は持ってこられた……たぶん、モノじゃないからだニャ!」

「……そういや、そんな制限があること言ってたな……うん、このエルフの画像、俺だけが独占するのはもったいない! トゥエル、この画像、ネットにアップしても構わないか?」

「……まあ、ボクは構わないニャ。そもそも、向こうの世界のことをこちらの世界の人に広めてほしい、っていうのがボクの願いでもあったからね」

 神の化身である白ネコの了解が得られたので、俺は急いでソフィアの画像を自分のトゥイッターにアップし、

「ただいま、異世界訪問中!」

 とだけコメントをつけて投稿した。
 そして買いだめしておいたケロリーメルトのメープルシロップ味をたくさんリュックに詰め、再びゲートをくぐって、シルヴィの待つ地下室に戻ったのだった。
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