無垢の美少女とぬいぐるみのオオカミ

エール

文字の大きさ
1 / 18

巫女見習い

しおりを挟む
『父上様、母上様
 私は、もう駄目です。
 もうあと一刻で、永久に資格を失ってしまいます。
 この二日間、一睡もできていません……。
 この養成所に引き取られ、一年近く修行を積んでまいりました。
 けれど、精霊様は私の前に出現なさってくださいませんでした。
 ひとえに、私の不徳の致すところでございます。
 この養成所を出た後のことは、なにも決まっていません。
 いずこかの寺社に奉公させていただければ幸いですが、それが叶わなければ、返済の為に我が身を売って……』

 その少女……優奈の目から涙がこぼれ、書いていた日記帳の上に落ちた。
 ポタポタと、連続して落ち、優奈は書きかけの日記を一旦、横にずらした。
 そしてそのまま机に顔を伏せ、泣いた。
 南向藩精霊巫女養成所、その一室。
 才能があると見込まれた少女達が過ごすこの宿舎には、小さいながらもそれぞれ個室が与えられている。
「精霊巫女」は、その候補も含めて特別な存在であり、それ故に「藩」から衣食住、不自由なく過ごせる環境が保証されているのだ。

 しかし、それにも期限がある。
 満十六歳の誕生日になるまでに精霊と契約し、正式な「精霊巫女」と呼ばれる存在になれなければ、彼女達はその後一生、資格を得られることはないのだ。
 優奈は、まだ精霊と契約できていなかった。
 期限まで、後一刻 (約二時間)しか残されていない。

 同期の少女二人は、三ヶ月以上前に精霊巫女になっていた……しかも、二人とも年下だった。
 普通は、期限の数ヶ月前には、彼女達の適性に合う精霊が現れるものなのだ。
 しかし、優奈にはその兆候すらなかった。
 もう、彼女は覚悟を決め、この夜までに荷物を纏めていた。
 優奈の父親は下級武士であったが、二年前に戦で死んだ。
 母親はその後、重い病を患った。
 優奈は母親を安心させるために、安い薬を分けてもらっていると偽り、実は高額な薬を、我が身を担保にして借金して購入していた。
 容姿端麗な彼女は多額の借り入れができたのだが、母親は結局、一年前に帰らぬ人となってしまっていた。

 優奈は借金返済の為に「身売り」されそうだったところを、聖職者による霊視にて「精霊巫女」の素質が十分にあると判断され、この精霊巫女養成所に招かれていたのだ。
 しかし、その望みは潰えかけていた。
 机に伏して泣いていた彼女は、二日間、一睡もできていなかったことも影響し、ひとしきり泣いた後、そのままの体勢で眠ってしまっていた。

『――優奈、優奈、起きるんだ!』

 ふと、彼女の彼女の頭の中に、直接、何者かの声が聞こえた。
 彼女は半分、意識がないままだったが、その者の声を無視できず、重い頭を上げて部屋の中を見渡した。
 すると、彼女のすぐ横にふわふわと浮かぶ、『ぬいぐるみ』のような何かが、必死に彼女に声をかけていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...