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チュートリアル
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その青年は、ただ真っ白な空間を漂っていた。
意識もあいまいで、何の感情もなく、痛みも、苦しみも、希望も、欲望も、何も感じることなく、ただ漠然と漂流している存在だった。
その彼に、突然、どこからか声が聞こえてきた。
「只今から、貴方に対しチュートリアルを開始します」
「……チュートリアル?」
「そうです。まず最初に申し上げますが、ここはいわゆる、『異世界』と呼ばれる存在への入り口となります」
「……異世界? ああ、アニメやゲーム、ラノベなんかでよく出てくる……じゃあ、俺、死んじゃったのか?」
「いえ、『魂』は存在しており、生きています。その『魂』が肉体から分離され、新たに蘇った世界、とご認識ください」
「……よくわからないけど、なんとなくはわかった。今、俺は『魂』だけなんだな」
彼は、なぜか素直に現在置かれている状況の説明が、不思議な声に説明されるとおり、素直に理解できた。
「その解釈で問題ありません。そして貴方個人に関する以前の記憶は、ほとんど残っていません」
「……記憶が無い……ああ、確かに、自分の名前も、歳も、家族の顔も思い出せない……強いていえば、『日本』という国家に住んでいた、というぐらいか」
「そうです。そのあたりが個人の記憶の限界となります。そしてこれから転送される世界は、その『日本』の『江戸時代』に近しい世界とお考えください」
「日本の江戸時代……なぜそんな場所、時代に……」
「以前の世界における、貴方の希望、相性、そして転送される世界の創造主の意思……そのようなものが一致したから、と申し上げておきます」
「……ひょっとして、そこは仮想世界……もしくは、ゲームの世界、なのか?」
「その問いに答える術を持ち合わせません。なぜなら、以前の世界もそうだったはずだからです」
「……確かに、前に生きていた時も、誰かが作った仮想世界の中で生活しているんじゃないかって思っていたな……」
青年は、その答えにも素直に納得した。
「そして、以前の世界と大きく異なる点として、次の世界では『呪法』や『呪力』、『魔物』『妖魔』と呼ばれる力が存在します。その中でも『闇』の力を持つ者達が、人間の生活を脅かしています」
「……ますますゲームっぽいな……それか、ファンタジックな世界が好きな『神』が作り上げた世界か……それで、俺は転生されることになるのか?」
「転生、という言葉には多少語弊があるかもしれません。なぜなら、貴方は人間として生まれ変わる訳ではないからです」
「……人間ではない?」
「そうです。貴方は、精霊としてその世界に出現することになります」
「精霊? ……それはどういう存在なんだ?」
「精霊は、基本的に『不老不死』です」
「不老不死か……それだけで、ものすごいチートだな。なるほど……それで、俺はその力でその『魔物』や『妖魔』と戦う事になるわけだな」
「その解釈は、一部正しく、一部間違っています。まず、通常、貴方が直接その『魔物』や『妖魔』と戦うことはできません」
「戦えない? 不老不死なんだろう?」
「はい、『基本的に』不老不死です。そして基本的に直接の戦闘能力を持っていません。しかし、『精霊』は、特定の少女と契約を結ぶことで、その少女を『精霊巫女』へと覚醒させることができます。そしてその『精霊巫女』は、『魔物』や『妖魔』と直接戦うことができます」
「……精霊……契約……精霊巫女……それって、『俺と契約して、精霊巫女になってよ』ってスカウトするってことか?」
「その通りです」
「……いや、具体的な記憶は無いんだが……なんか、ふっと良くないイメージが浮かんだ……それってひょっとして、その精霊巫女、『魔物』や『妖魔』と戦うと死んでしまうことがあるのか?」
「はい、あり得ます」
「……それ、駄目だろう……自分は不老不死なのに、契約した少女を命がけの戦いに向かわせるなんて」
「強制はしません。ただの精霊となって、漠然とこの世界を眺めて永遠の時を過ごすだけでも何ら問題はありません」
「……そうか……選べるなら、まあいいか……それで、契約って言うからには、なにか条件があるんだろう?」
「はい。満十六歳未満の女性と契約を交わすことにより、『精霊巫女』として覚醒させることができます。『精霊巫女』は、命がけで『魔物』や『妖魔』を退治する役割を担う存在であり、その分、厚遇を受けています。また、少女達もそのことを誇りに思っている風潮があります」
「なるほど、その社会で尊敬されているっていうことか。それで、ほかに条件は?」
「先ほどの『十六歳未満の少女』というのが一つ目の条件です。二つ目が、精霊は『同時に他の巫女と契約することはできない』です」
「ふんふん……その契約って言うのは、解除できるのか?」
「解除される条件は三つあり、どれか一つを満たすと解除されます。一つ目が、その少女が満二十歳を迎えたとき。二つ目が、双方が契約破棄に同意したとき。三つ目の条件……それは、契約した少女が死亡した場合、です」
「……三つ目は、考えたくないな……」
「はい、心情的にそう考える方が大半です。また、精霊は様々な『ステータス』を確認することができ、それを少女達に伝えることができます」
「ステータス?」
「そうです。例えば、今から戦おうとしている敵が強いか、弱いか。味方の戦力はどのぐらいか。それらを巫女にアドバイスして、効率的に戦闘を進めたり、撤退させたりすることができます」
「へえ……ますますゲームっぽいな……いや、そういう世界を、その『創造主』が作ったのか……まあ、どちらも同じか……」
すでに青年は、その不思議な声の言葉がすべて真実であると認識したうえで、その成り立ちを推測することが無意味であるとも理解できていた。
「また、重要なルールをもう一つお伝えします。貴方は、貴方自身の情報を『リセット』することができます。そうすると、この世界で起きた全ての記憶を失い、そしてこの場にまた戻ってくることになります」
「リセット? それもまたゲームみたいだな……記憶を失った状態で、また最初からやり直す、ということか……えっ、じゃあ、ひょっとして俺、これが何度目かの『チュートリアル』だったりするのか?」
「それを貴方が把握する術はありません。ただ一つ注意ですが、リセットしても時間が巻き戻るわけではなく、記憶を失ってこの場所に帰ってくるだけなのでご注意ください」
「……そうか……まあ、いいや。それだとリセットする意味が分からないし。それで、精霊って、どんな姿になるんだ?」
「それは個々に異なりますが、基本的には動物を模した形になります。今、貴方はこのチュートリアルを経て、既に具体的な精霊体が与えられています。ご自身のステータスをご確認ください」
不思議な声にそう促されると、いつの間にか眼前に、ウインドウを模したものが開いていることが分かった。
そこに並んでいるのは、たった三行のシンプルなステータスだった。
-----
名前:タク (モデル:オオカミ)
状態:精霊体
契約巫女名:(未契約)
-----
さらに、「意識の手」のようなもので、コマンドを模した物を操作できることが直感的に分かった。
そこで「自分の容姿」を選択する。
そうすると俯瞰した視点から、真っ白な空間を漂っている自分の姿を確認することができた。
「なんだ、これ……犬のぬいぐるみ……いや、これって……オオカミか? ステータスも、オオカミってなってるし」
そこに存在した、可愛らしくデフォルメされたオオカミが自分の姿であると認識し、彼は思わず声を出してしまった。
意識もあいまいで、何の感情もなく、痛みも、苦しみも、希望も、欲望も、何も感じることなく、ただ漠然と漂流している存在だった。
その彼に、突然、どこからか声が聞こえてきた。
「只今から、貴方に対しチュートリアルを開始します」
「……チュートリアル?」
「そうです。まず最初に申し上げますが、ここはいわゆる、『異世界』と呼ばれる存在への入り口となります」
「……異世界? ああ、アニメやゲーム、ラノベなんかでよく出てくる……じゃあ、俺、死んじゃったのか?」
「いえ、『魂』は存在しており、生きています。その『魂』が肉体から分離され、新たに蘇った世界、とご認識ください」
「……よくわからないけど、なんとなくはわかった。今、俺は『魂』だけなんだな」
彼は、なぜか素直に現在置かれている状況の説明が、不思議な声に説明されるとおり、素直に理解できた。
「その解釈で問題ありません。そして貴方個人に関する以前の記憶は、ほとんど残っていません」
「……記憶が無い……ああ、確かに、自分の名前も、歳も、家族の顔も思い出せない……強いていえば、『日本』という国家に住んでいた、というぐらいか」
「そうです。そのあたりが個人の記憶の限界となります。そしてこれから転送される世界は、その『日本』の『江戸時代』に近しい世界とお考えください」
「日本の江戸時代……なぜそんな場所、時代に……」
「以前の世界における、貴方の希望、相性、そして転送される世界の創造主の意思……そのようなものが一致したから、と申し上げておきます」
「……ひょっとして、そこは仮想世界……もしくは、ゲームの世界、なのか?」
「その問いに答える術を持ち合わせません。なぜなら、以前の世界もそうだったはずだからです」
「……確かに、前に生きていた時も、誰かが作った仮想世界の中で生活しているんじゃないかって思っていたな……」
青年は、その答えにも素直に納得した。
「そして、以前の世界と大きく異なる点として、次の世界では『呪法』や『呪力』、『魔物』『妖魔』と呼ばれる力が存在します。その中でも『闇』の力を持つ者達が、人間の生活を脅かしています」
「……ますますゲームっぽいな……それか、ファンタジックな世界が好きな『神』が作り上げた世界か……それで、俺は転生されることになるのか?」
「転生、という言葉には多少語弊があるかもしれません。なぜなら、貴方は人間として生まれ変わる訳ではないからです」
「……人間ではない?」
「そうです。貴方は、精霊としてその世界に出現することになります」
「精霊? ……それはどういう存在なんだ?」
「精霊は、基本的に『不老不死』です」
「不老不死か……それだけで、ものすごいチートだな。なるほど……それで、俺はその力でその『魔物』や『妖魔』と戦う事になるわけだな」
「その解釈は、一部正しく、一部間違っています。まず、通常、貴方が直接その『魔物』や『妖魔』と戦うことはできません」
「戦えない? 不老不死なんだろう?」
「はい、『基本的に』不老不死です。そして基本的に直接の戦闘能力を持っていません。しかし、『精霊』は、特定の少女と契約を結ぶことで、その少女を『精霊巫女』へと覚醒させることができます。そしてその『精霊巫女』は、『魔物』や『妖魔』と直接戦うことができます」
「……精霊……契約……精霊巫女……それって、『俺と契約して、精霊巫女になってよ』ってスカウトするってことか?」
「その通りです」
「……いや、具体的な記憶は無いんだが……なんか、ふっと良くないイメージが浮かんだ……それってひょっとして、その精霊巫女、『魔物』や『妖魔』と戦うと死んでしまうことがあるのか?」
「はい、あり得ます」
「……それ、駄目だろう……自分は不老不死なのに、契約した少女を命がけの戦いに向かわせるなんて」
「強制はしません。ただの精霊となって、漠然とこの世界を眺めて永遠の時を過ごすだけでも何ら問題はありません」
「……そうか……選べるなら、まあいいか……それで、契約って言うからには、なにか条件があるんだろう?」
「はい。満十六歳未満の女性と契約を交わすことにより、『精霊巫女』として覚醒させることができます。『精霊巫女』は、命がけで『魔物』や『妖魔』を退治する役割を担う存在であり、その分、厚遇を受けています。また、少女達もそのことを誇りに思っている風潮があります」
「なるほど、その社会で尊敬されているっていうことか。それで、ほかに条件は?」
「先ほどの『十六歳未満の少女』というのが一つ目の条件です。二つ目が、精霊は『同時に他の巫女と契約することはできない』です」
「ふんふん……その契約って言うのは、解除できるのか?」
「解除される条件は三つあり、どれか一つを満たすと解除されます。一つ目が、その少女が満二十歳を迎えたとき。二つ目が、双方が契約破棄に同意したとき。三つ目の条件……それは、契約した少女が死亡した場合、です」
「……三つ目は、考えたくないな……」
「はい、心情的にそう考える方が大半です。また、精霊は様々な『ステータス』を確認することができ、それを少女達に伝えることができます」
「ステータス?」
「そうです。例えば、今から戦おうとしている敵が強いか、弱いか。味方の戦力はどのぐらいか。それらを巫女にアドバイスして、効率的に戦闘を進めたり、撤退させたりすることができます」
「へえ……ますますゲームっぽいな……いや、そういう世界を、その『創造主』が作ったのか……まあ、どちらも同じか……」
すでに青年は、その不思議な声の言葉がすべて真実であると認識したうえで、その成り立ちを推測することが無意味であるとも理解できていた。
「また、重要なルールをもう一つお伝えします。貴方は、貴方自身の情報を『リセット』することができます。そうすると、この世界で起きた全ての記憶を失い、そしてこの場にまた戻ってくることになります」
「リセット? それもまたゲームみたいだな……記憶を失った状態で、また最初からやり直す、ということか……えっ、じゃあ、ひょっとして俺、これが何度目かの『チュートリアル』だったりするのか?」
「それを貴方が把握する術はありません。ただ一つ注意ですが、リセットしても時間が巻き戻るわけではなく、記憶を失ってこの場所に帰ってくるだけなのでご注意ください」
「……そうか……まあ、いいや。それだとリセットする意味が分からないし。それで、精霊って、どんな姿になるんだ?」
「それは個々に異なりますが、基本的には動物を模した形になります。今、貴方はこのチュートリアルを経て、既に具体的な精霊体が与えられています。ご自身のステータスをご確認ください」
不思議な声にそう促されると、いつの間にか眼前に、ウインドウを模したものが開いていることが分かった。
そこに並んでいるのは、たった三行のシンプルなステータスだった。
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名前:タク (モデル:オオカミ)
状態:精霊体
契約巫女名:(未契約)
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さらに、「意識の手」のようなもので、コマンドを模した物を操作できることが直感的に分かった。
そこで「自分の容姿」を選択する。
そうすると俯瞰した視点から、真っ白な空間を漂っている自分の姿を確認することができた。
「なんだ、これ……犬のぬいぐるみ……いや、これって……オオカミか? ステータスも、オオカミってなってるし」
そこに存在した、可愛らしくデフォルメされたオオカミが自分の姿であると認識し、彼は思わず声を出してしまった。
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