無垢の美少女とぬいぐるみのオオカミ

エール

文字の大きさ
3 / 18

少女との契約

しおりを挟む
「それでは、これでチュートリアルを終了します。今後、不明な点がありましたら、システム的な事に関してはウインドウ画面からコマンド操作で把握することが可能です。それ以外の事柄は、別の精霊からアドバイスを貰うなど、ご自身で工夫なさってください。なお、貴方の体はこの後、『最も相性の良い巫女候補』の元に転送されることになります――それでは、貴方がこの世界で充実した日々が送れるよう、お祈り申し上げます――ご武運を!」

 その不思議な声が消えると共に、意識が暗転した。

 次に気がつくと、彼はやや薄暗く、四畳半ほどの狭い部屋で浮遊していた。
 天井に、ぼんやりと明かりが点っている。
 和紙で覆われた、「行灯あんどん」のようなイメージだが、中に入っている照明が何なのかまでは分からない。
 木造で、全体的に和風テイストだが、木製のベッドのような台が存在し、布団が敷かれている。
 その脇には、七つほどの動物の「ぬいぐるみ」が飾られていた。
 全て、枕ぐらいの大きさで統一されていて、どれも可愛らしい印象だ。
 そしてベッドには、誰も寝ていない。
 その代わりに、白い服に赤い袴……いわゆる「巫女服」を着た少女が、椅子に座り、机に突っ伏して眠っているようだった。
 彼……ステータスによれば「タク」という名前の精霊は、彼女のステータスを覗いてみた。

-----
名前:優奈
年齢:十五歳
職業:巫女見習い
契約精霊:(未契約)
状態:睡眠
生命力:45/55
呪力:78/78
戦闘力:8
素早さ:20
装備:
巫女服 (ノーマル)
備考:
(警告)精霊巫女契約期限終了まで あと0年0ヶ月0日 0時間09分52秒
-----

 タクが上から順にステータスを確認していくと、彼女が未契約の巫女見習いであることが確認できた。
 さらに、備考の「警告」により、あと僅かで精霊巫女としての契約資格を失効してしまうことも理解した。
 まさにギリギリのタイミング……そこで、彼は「現時点で最も相性の良い」巫女見習いの元へと派遣されたのだ。
 しかし、彼は躊躇した。
 チュートリアルで理解してしまっていた……精霊巫女となってしまうと、命がけで『魔物』や『妖魔』と戦わなければ鳴らなくなってしまうことを。

 タクは、彼女の顔をのぞき込み、思わずドキリとしてしまった。
 黒髪、長髪。
 小柄な体型に、より小柄な顔がちょこんと付いている。
 目を閉じてはいるが、目鼻立ちははっきりとしているように思われる。
 前世でも見たことがないぐらいの、清楚な印象の美少女が、すやすやと眠っている。
 正直、こんな子が命をかけた戦いに臨むなど、想像ができない。
 このまま期限をむかえさせてあげた方が、彼女にとって幸せなのではないか……そう考えているとき、ふと、彼女の書きかけの日記を見つけた。

 彼女に申し訳ないとは思いながらその内容を読んで、絶句した。
 詳しい事情は分からないが、彼女は、このまま「精霊巫女」になれなければ、自分の身を売って何かの返済に充てようとしていた。
 こんな可憐な少女が、なぜそんな過酷な運命を辿らなければならないのか。
 日記からは、悲壮感が伝わってきた。 
 頬に、幾筋も涙が伝った後があった。
 どうしようか、と考えたとき、精霊巫女契約解除の条件の一つを思い出した。

『双方が契約破棄に同意したとき』

 つまり、嫌になれば後から契約解除できるのだ。
 ならば、取り急ぎ彼女の「身売り」解除のため、一旦契約してしまう方が得策に思えた。
 ステータスを再度確認すると、精霊巫女契約期限まで、あと3分を切っていた。  

「――優奈、優奈、起きるんだ!」

 タクが必死に優奈に呼びかける。

「んんっ……誰?」

「俺の名前はタク……君と契約を結ぶためにやってきた、精霊だ!」

「えっ……精霊……様?」

 優奈は、彼の声に反応してその顔を上げた。
 しかし、瞼は半分閉じたままだ。

「優奈、俺と契約して、精霊巫女になってくれっ!」

「えっと……精霊、様? 契約……これは……夢、なのですね……?」

「夢じゃない、しっかりしろ! 今から契約を……」

 タクはそう言いながら、具体的に契約はどのような儀式を実践すればいいのかよく分かっていないことに気づいた。
 たしか、いろいろコマンドを操作して検索すれば、契約の方法も出てくるはず……。
 そう考えていると、優奈は、寝ぼけ眼のまま立ち上がり、オオカミのぬいぐるみのような姿の彼を抱きしめた。

「精霊様……やっと来てくださったのですね……儀式、を……」

 彼女はそう呟いて、枕ほどの大きさのタクを自分の顔の高さに持ち上げ、そしておでこ同士を合わせた。

「私、優奈は、精霊『タク』様に選ばれし事を心から感謝し、その巫女として、この魂を差し出し、妖との戦いに全力を尽くすことをここに誓います……タク様、どうか私をタク様の精霊巫女としてお認めください……」

「認めるっ!」

 タクは、反射的にそう答えた。
 すると、二人の間に光が溢れ、タクは自分の中に彼女の魂の一部が流れ込むのを、感覚的に察知した。
 もう時間が無く焦っていた彼は、急いで優奈のステータスを確認する。
 
-----
名前:優奈
年齢:十五歳
職業:精霊巫女
契約精霊:タク
状態:半睡眠
生命力:100/110
呪力:250/250
戦闘力:20
素早さ:36
装備:
巫女服 (ノーマル)
備考:
-----

 無事、職業が「精霊巫女」、そして契約精霊が「タク」に更新されていた。
 また、ステータスが著しく上昇していることも確認した。
 自分のステータスも確認する。

-----
名前:タク (モデル:オオカミ)
状態:精霊体
契約巫女名:優奈
-----

 相変わらずシンプルなステータスだが、契約巫女の名前が「優奈」となっていたことに、軽い感動を覚えた。

「精霊様……私の、精霊様……やっと来てくださった……ありがとうございます……」

 優奈は、寝言の様にそう呟くと、再びタクの精霊体――見た目はデフォルメされたオオカミのぬいぐるみ――を抱きしめた。
 そしてフラフラと簡易ベッドまで歩いて行き、半分倒れるように横になり、そのまま動かなくなった。

 タクは少し慌てて、優奈のステータスを確認した。
 状態は『睡眠』で、二日間眠れていなかったこともあり、どうやら熟睡しているだけのようだった。
 また、年齢が「十六歳」となっていた……すんでのところで間に合ったようだ。

 すやすやと眠る美少女に抱きしめられ、少し照れるタク。
 わずかに甘い香りが漂ってくるのが心地よい。

 後で分かったことだが、精霊体には、「食欲」も「性欲」も「睡眠欲」も存在しない。
 しかし、「全く眠らなくても平気」だけであって、「眠れない」わけではない。
 彼は心地よい感覚の中で、優奈と共に眠りについたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...