16 / 42
タランチュリア
しおりを挟む
「罠かっ!」
グリントが声を上げる。
侵入者に対して何らかの罠が仕掛けられていることはよくあるが、致命的なものであることは、そう多くはない。誤作動によって、正規の主人が命を落とすようなものであってはならないからだ。
とはいえ、それは遺跡の種類による。
警報が鳴ったり、一時的に閉じ込められる、という罠は比較的メジャーだが、今回の音は、明らかに大きなものが落下したような音、振動だった。
「ひょっとして、閉じ込められちゃいましたか?」
コルトが、やや心配そうに、曲がり角になっている通路の奥を見つめた。
「……いえ、むしろ、『解放された』という表現が正しいわね……数匹……いいえ、もっと多い、魔物達が……」
サーシャが、高性能な魔道具で音を感知してそう口にした。
「……後ろから、一体来ます……かなり速い……」
ライナスが、そう言いながら背中の大剣を抜く。
彼が見つめる後方は、十メールほど先が曲がり角になっており、先ほど警戒しながら通ってきたばかりだ。
ライナスの耳にも「エコーイアホン」が装着されているが、最も汎用的な安物だ。しかし、それでも、カサカサと不気味に近づいてくる魔物の足音は感知していた。
しかし、それ以前に、彼にはその魔物が持つ「魔石」が壁を透過してはっきりと見えており、その正確な距離と速度が分かっていたのだ。
そして、それは現れた……大型犬以上の体格を持つ蜘蛛の化け物だ。
「ラージ・タランチュリア!」
サーシャが叫ぶ……星一つ、しかも貧相な装備しか持たないライナスにとっては、厳しい相手だと思えた。
しかし、前衛のグリントとゲッペルは動かない。
理由は二つ。一つは、前方からも複数の、近づいてくる魔物の気配があったこと。もう一つは、ライナスがどんなふうに対応するのか見極めたかったからだ。
ライナスが突破されたとしても、二人の女性はこの程度の敵に大きなダメージを受けないぐらいには、装備のレベルが高かった。
その大きな蜘蛛は、ライナスの3メールほど手前でジャンプし、大顎を開いて、半身で構える彼の太ももに噛みつこうとしてきた。
それに対し、ライナスは冷静にタイミングを合わせ、大顎の下から膝蹴りを加えた。
体格の良い彼に蹴り飛ばされた大蜘蛛は、背中から石畳に落ちた。
そして起き上がる暇も無いまま、頭部をツーハンデッドソードで串刺しにされる。
それでも、生命力の高い昆虫系モンスターであるラージ・タランチュリアは、八本の足をばたつかせていたが、ライナスがその魔物の体躯を、刺さった剣で勢いよく上方に跳ね上げ、そしてその刀身を引き抜き、空中で顎の中間から胴体の後部まで一刀両断にした。
「……やるわね!」
「……凄いです!」
サーシャとコルトが、同時に感嘆の声を上げた。
縦方向に二つに切断されても、なお蜘蛛は蠢いていたが、ライナスがダガーナイフで「透過して見えていた」魔石を片方の断面から抜き出すと、途端に動きを止めてしまった。
軽く振って体液を払い、パーティーのメンバーに、黄色く輝く小鳥の卵ほどのそれを見せると、リーダーのグリントが、
「おまえが仕留めた獲物から出た魔石だ、取っときな……それより、前からも団体様のお出ましだ!」
前方は、二十メールほど先が曲がり角になっており、その方向から複数の音が聞こえてくる。
また、ライナスの目には、十数体もの魔物……先ほどの「ラージ・タランチュリア」とよく似た魔石の輝きが見えていた。
そして彼は、「魔導コンポ」を高度に使いこなす格上のハンター達の戦いぶりを、まざまざと見せつけられるのだった。
グリントが声を上げる。
侵入者に対して何らかの罠が仕掛けられていることはよくあるが、致命的なものであることは、そう多くはない。誤作動によって、正規の主人が命を落とすようなものであってはならないからだ。
とはいえ、それは遺跡の種類による。
警報が鳴ったり、一時的に閉じ込められる、という罠は比較的メジャーだが、今回の音は、明らかに大きなものが落下したような音、振動だった。
「ひょっとして、閉じ込められちゃいましたか?」
コルトが、やや心配そうに、曲がり角になっている通路の奥を見つめた。
「……いえ、むしろ、『解放された』という表現が正しいわね……数匹……いいえ、もっと多い、魔物達が……」
サーシャが、高性能な魔道具で音を感知してそう口にした。
「……後ろから、一体来ます……かなり速い……」
ライナスが、そう言いながら背中の大剣を抜く。
彼が見つめる後方は、十メールほど先が曲がり角になっており、先ほど警戒しながら通ってきたばかりだ。
ライナスの耳にも「エコーイアホン」が装着されているが、最も汎用的な安物だ。しかし、それでも、カサカサと不気味に近づいてくる魔物の足音は感知していた。
しかし、それ以前に、彼にはその魔物が持つ「魔石」が壁を透過してはっきりと見えており、その正確な距離と速度が分かっていたのだ。
そして、それは現れた……大型犬以上の体格を持つ蜘蛛の化け物だ。
「ラージ・タランチュリア!」
サーシャが叫ぶ……星一つ、しかも貧相な装備しか持たないライナスにとっては、厳しい相手だと思えた。
しかし、前衛のグリントとゲッペルは動かない。
理由は二つ。一つは、前方からも複数の、近づいてくる魔物の気配があったこと。もう一つは、ライナスがどんなふうに対応するのか見極めたかったからだ。
ライナスが突破されたとしても、二人の女性はこの程度の敵に大きなダメージを受けないぐらいには、装備のレベルが高かった。
その大きな蜘蛛は、ライナスの3メールほど手前でジャンプし、大顎を開いて、半身で構える彼の太ももに噛みつこうとしてきた。
それに対し、ライナスは冷静にタイミングを合わせ、大顎の下から膝蹴りを加えた。
体格の良い彼に蹴り飛ばされた大蜘蛛は、背中から石畳に落ちた。
そして起き上がる暇も無いまま、頭部をツーハンデッドソードで串刺しにされる。
それでも、生命力の高い昆虫系モンスターであるラージ・タランチュリアは、八本の足をばたつかせていたが、ライナスがその魔物の体躯を、刺さった剣で勢いよく上方に跳ね上げ、そしてその刀身を引き抜き、空中で顎の中間から胴体の後部まで一刀両断にした。
「……やるわね!」
「……凄いです!」
サーシャとコルトが、同時に感嘆の声を上げた。
縦方向に二つに切断されても、なお蜘蛛は蠢いていたが、ライナスがダガーナイフで「透過して見えていた」魔石を片方の断面から抜き出すと、途端に動きを止めてしまった。
軽く振って体液を払い、パーティーのメンバーに、黄色く輝く小鳥の卵ほどのそれを見せると、リーダーのグリントが、
「おまえが仕留めた獲物から出た魔石だ、取っときな……それより、前からも団体様のお出ましだ!」
前方は、二十メールほど先が曲がり角になっており、その方向から複数の音が聞こえてくる。
また、ライナスの目には、十数体もの魔物……先ほどの「ラージ・タランチュリア」とよく似た魔石の輝きが見えていた。
そして彼は、「魔導コンポ」を高度に使いこなす格上のハンター達の戦いぶりを、まざまざと見せつけられるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる