魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール

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タランチュリア

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「罠かっ!」

 グリントが声を上げる。
 侵入者に対して何らかの罠が仕掛けられていることはよくあるが、致命的なものであることは、そう多くはない。誤作動によって、正規の主人が命を落とすようなものであってはならないからだ。
 とはいえ、それは遺跡の種類による。

 警報が鳴ったり、一時的に閉じ込められる、という罠は比較的メジャーだが、今回の音は、明らかに大きなものが落下したような音、振動だった。

「ひょっとして、閉じ込められちゃいましたか?」

 コルトが、やや心配そうに、曲がり角になっている通路の奥を見つめた。

「……いえ、むしろ、『解放された』という表現が正しいわね……数匹……いいえ、もっと多い、魔物達が……」

 サーシャが、高性能な魔道具で音を感知してそう口にした。

「……後ろから、一体来ます……かなり速い……」

 ライナスが、そう言いながら背中の大剣を抜く。
 彼が見つめる後方は、十メールほど先が曲がり角になっており、先ほど警戒しながら通ってきたばかりだ。

 ライナスの耳にも「エコーイアホン」が装着されているが、最も汎用的な安物だ。しかし、それでも、カサカサと不気味に近づいてくる魔物の足音は感知していた。

 しかし、それ以前に、彼にはその魔物が持つ「魔石」が壁を透過してはっきりと見えており、その正確な距離と速度が分かっていたのだ。

 そして、それは現れた……大型犬以上の体格を持つ蜘蛛の化け物だ。

「ラージ・タランチュリア!」

 サーシャが叫ぶ……星一つ、しかも貧相な装備しか持たないライナスにとっては、厳しい相手だと思えた。

 しかし、前衛のグリントとゲッペルは動かない。
 理由は二つ。一つは、前方からも複数の、近づいてくる魔物の気配があったこと。もう一つは、ライナスがどんなふうに対応するのか見極めたかったからだ。

 ライナスが突破されたとしても、二人の女性はこの程度の敵に大きなダメージを受けないぐらいには、装備のレベルが高かった。

 その大きな蜘蛛は、ライナスの3メールほど手前でジャンプし、大顎を開いて、半身で構える彼の太ももに噛みつこうとしてきた。
 それに対し、ライナスは冷静にタイミングを合わせ、大顎の下から膝蹴りを加えた。
 体格の良い彼に蹴り飛ばされた大蜘蛛は、背中から石畳に落ちた。

 そして起き上がる暇も無いまま、頭部をツーハンデッドソードで串刺しにされる。
 それでも、生命力の高い昆虫系モンスターであるラージ・タランチュリアは、八本の足をばたつかせていたが、ライナスがその魔物の体躯を、刺さった剣で勢いよく上方に跳ね上げ、そしてその刀身を引き抜き、空中で顎の中間から胴体の後部まで一刀両断にした。

「……やるわね!」
「……凄いです!」

 サーシャとコルトが、同時に感嘆の声を上げた。
 縦方向に二つに切断されても、なお蜘蛛は蠢いていたが、ライナスがダガーナイフで「透過して見えていた」魔石を片方の断面から抜き出すと、途端に動きを止めてしまった。

 軽く振って体液を払い、パーティーのメンバーに、黄色く輝く小鳥の卵ほどのそれを見せると、リーダーのグリントが、

「おまえが仕留めた獲物から出た魔石だ、取っときな……それより、前からも団体様のお出ましだ!」

 前方は、二十メールほど先が曲がり角になっており、その方向から複数の音が聞こえてくる。

 また、ライナスの目には、十数体もの魔物……先ほどの「ラージ・タランチュリア」とよく似た魔石の輝きが見えていた。

 そして彼は、「魔導コンポ」を高度に使いこなす格上のハンター達の戦いぶりを、まざまざと見せつけられるのだった。
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