彼は勇者だから、彼女は魔王だから、

千羊

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ある人々のはなし

とある王の憤り

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短いです。

※胸糞悪いと思います。





*


「くそっ! くそっ! くそぉぉぉぉっ!!」

 ドンッと、繊細な彫刻が施された机が音を立てた。その上にはたくさんの宝石や装飾品が無造作に置かれており、衝撃で何個かが落ちては床に散らばった。
 しかし、その原因である男は足元に広がる宝石を気にすることもなく何度も何度も自分の拳を打ち付けた。

「何故こう思い通りにいかぬ!! 何故じゃ!! 何故じゃぁぁぁ!!」

 その様子はまるで幼子が駄々をこねているようだった。
 男はとある大国の王だ。国を治める力はあれど、今よりも栄させる力はない。そんな凡庸な王だ。
 だが、この王には自分の国はこれからどんどん繁栄してゆくと信じていた。何故ならば彼は―――……

「我は『始まり人』ぞ! 選ばれた存在ぞっ!? 何故あやつらは平伏さぬのじゃ!!」

 『始まり人』。
 神はこの世界を作った後、聖なる山に初めて降り立ったと言われる。そして神花を創り、植物を、鳥や魚、動物、最後に自分の指を切り落として人を創った。
 それが『始まりの人』。
 かの者は神に愛され、生涯神とともにあったと言われる。
 『始まりの人』には伝承がある。
 かの者が神が穀物を撒いて創った人たちを統べる初めての国を作ったというものだ。王となった『始まりの人』は国を治め、民を治め、人を繁栄させていったという。そしてその国は聖なる山の膝元にあったらしい。
 ―――つまり、現在のこの国の位置だ。
 男の国の王族は、『始まりの人』の末裔と言われているのだ。

「何故あやつらは我に従わぬ!? 『始まりの人』である我が治めれば繁栄が約束されるとなぜ分からぬのじゃっ!」

 それは喚くような声だった。
 だが男は本当に信じていた。自分が『始まりの人』の末裔ではなく、かの者の生まれ変わりであり、この世に唯一無二の栄華をもたらすのだと。
 周りの者も囃し立てた。
 貴方様がこの世界を治めるべき『始まりの人』そのものである、と。
 そう思うと、他のが自分に飼われるだけの家畜に見えた。いや、あながち間違っていないだろう。奴らは、『始まりの人』ではないのだから。

 だから、世界を一つにまとめる必要があった。
 国が複数なんていらない。この国だけで充分だ。
 自分が統べる、この国さえあればいい。

 男は隣の小国を滅ぼした。

 そして、他の国にも攻め入った。
 男の国は大国であったが故、人が多かった。
 そして、近年軍人も増えていった。
 苦戦を強いられていた国もあったが、後続によっていつかは滅ぼせると考えていた。

 ―――しかし、魔王が復活した。

 その知らせを聞いて、男はこうして悔しさを噛みしめて喚いているのだ。

「魔王じゃと!? 何故『始まりの人』である我の時代にっ!!」

 この国はどの国よりも歴史が深いと言われている。そのため、どの国よりも歴史を記してきた。
 そこにはこう書かれている。

 世界に争いが絶えぬ時、神は魔王を創り、絶望を創る。
 世界が絶望に暮れた時、神は勇者を創り、希望を創る。

 きっとこの国ではない違う国でもこの事実に気づいている王たちはいるだろう。
 戦乱の世に、人では解決しえない混沌とした時分に魔王が現れる、と。

 しかし、男は自分がたくさんの国々に攻め入っても魔王が創られることはないと信じていた。
 なぜならば、自分は神に愛された『始まりの人』なのだから。

 だが、その自信に反して魔王は創られた。
 男の戦争を止めるために。
 人知れず、魔王や魔王の配下生贄は選ばれた。

 男の怒りはなかなか収まらなかった。
 何度も何度も拳を机に打ち付けては、地団太を踏み、近くにいる従者家畜どもに暴力を振るった。しかし、止められるものはいなかった。












 やがて男の国は魔王討伐の同盟に加わった。
 そして、強力な軍事力を持って魔王討伐の一助となったという。

 魔王が倒されてからは、その国には平和が続いた。

 しかし、何年か経ち、男は兵を集め始めた。
 魔王は数百年おきに創られる。だから、大丈夫だと思った。
 今度こそは、世界は一つになって自分の手で繁栄するのだと。













 ―――とある国の王が、白い仮面の騎士によって殺されたと、風の噂が流れた。










*

全ての元凶。
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