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ヤマネコさんは眠れない1
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森の小屋の調理場で、マオはせっせと卵黄と油、酢と塩をかき混ぜていた。
町へニワトリと買いに行ってから、卵は安定供給されるようになった。それに酢も買ったから、これで念願のマヨネーズが作れるようになったというわけだ。
この組み合わせで一体どんなものができるのかと、最初はいぶかしんでいたリンクスだったが、一度食べるとマヨネーズの虜になってしまった。
マヨネーズで和えたサラダや、マヨネーズを使って作ったタルタルソースをかけた魚のムニエルなどを出すと、客の受けもかなりよかった。
謎のおいしい料理を出すという評判を聞いて、わざわざこの森の小屋までやってきた客もいた。
というわけでマオは毎日、マヨネーズ作りに勤しんでいる。残った卵白もキノコやハムと混ぜて卵焼きにしたのをまかないとして食べるのにもはまっている。
「今日はー、魚のカリカリ、マヨマヨして食べたいー」
マヨネーズを作りながら、マオはご機嫌で歌う。魚に小麦粉をはたいてサッと揚げたものにマヨネーズをかけて食べたいと歌っている。
そばでパイ生地をこねていたリンクスは、それがおかしくてクスクス笑った。
「マオ、魚釣りに行くのか?」
「うん。ふたりの夕食分だけね」
「だったら、まあいいか。あんまり釣れないだろうから、早めに帰ってこいな。もし調子よく釣れても、切り上げて帰ってくるように!」
「なんでー?」
めずらしく出歩きに関して細かいことを言うから、マオは首を傾げた。するとリンクスは耳の毛と尻尾を確認して、ふんふんと頷く。
「天気が崩れるからだ」
「何でわかる?」
「耳毛と尻尾の予報だ。やっぱ獣人だからさ、天気の変化はわかるんだよ」
「……おひげセンサーと違うんだ」
リンクスの思わぬ能力に、マオはニヤニヤした。きっと家猫のことを考えているのだろう。
笑うマオに、リンクスは怖い顔をしてみせる。
「お前、そうやって笑ってるけど、今夜は嵐になるんだからな」
「あ、嵐……?」
「どうした? 釣りに行くなら今のうちだぞ。怖くなったから行くのやめるか?」
「行くもん!」
嵐が怖いのかと、子供扱いしたからかい方をされたのだと思って、マオはぷりぷりしながら釣り竿とカゴを持って出かけていった。
その背中を見送って、リンクスは空を見上げた。今のところ、雲の流れは速いが風はそこまで強くないし、雨雲も見当たらない。
あれだけ釘を刺していたし、どうやら嵐を恐れているから、天気が悪くなる前に帰ってくるだろうとリンクスは自分の作業に戻ることにした。
だが、そんなふうに自分を納得させつつも、結局マオが無事に魚を手に帰ってくるまで気が気ではなかったのだった。
マオは魚を三匹釣ったところで帰ってきた。
大きめの魚を一匹、一人前にはやや物足りないくらいの魚を二匹だ。
曇ってきた空の下、慌てた顔をして戻ってきたくせに、しっかりしているなとリンクスは笑った。
魚は三匹とも腸をきれいに出して鱗を取って、カリカリに揚げた。それにマヨネーズを添えたものと、豆とキノコのスープと、干し肉のパイ包みで夕食にした。
好きなものが並んだ食卓で、途中までマオはご機嫌だった。スープもおかわりしたし、リンクスがパイ包みを分けてやるとニコニコして食べた。
いつも通りの食卓、いつも通りの楽しい夕食だったはずなのに、雨が振り始めた頃からマオの様子はおかしくなった。
「マオ、この小屋、俺が丁寧に作ったから雨漏りはしないぞ」
「……うん」
小屋の中にいれば大丈夫だとなだめたかったのだが、マオの表情は晴れなかった。
雨粒が屋根を叩く音を聞いて不安そうにし、獣の咆哮のような風の音に怯えた。
そしてそんな状態で無事に夜を迎えられるはずもなく、リンクスはマオと暮らし始めて初めての自体に戸惑っていた。
町へニワトリと買いに行ってから、卵は安定供給されるようになった。それに酢も買ったから、これで念願のマヨネーズが作れるようになったというわけだ。
この組み合わせで一体どんなものができるのかと、最初はいぶかしんでいたリンクスだったが、一度食べるとマヨネーズの虜になってしまった。
マヨネーズで和えたサラダや、マヨネーズを使って作ったタルタルソースをかけた魚のムニエルなどを出すと、客の受けもかなりよかった。
謎のおいしい料理を出すという評判を聞いて、わざわざこの森の小屋までやってきた客もいた。
というわけでマオは毎日、マヨネーズ作りに勤しんでいる。残った卵白もキノコやハムと混ぜて卵焼きにしたのをまかないとして食べるのにもはまっている。
「今日はー、魚のカリカリ、マヨマヨして食べたいー」
マヨネーズを作りながら、マオはご機嫌で歌う。魚に小麦粉をはたいてサッと揚げたものにマヨネーズをかけて食べたいと歌っている。
そばでパイ生地をこねていたリンクスは、それがおかしくてクスクス笑った。
「マオ、魚釣りに行くのか?」
「うん。ふたりの夕食分だけね」
「だったら、まあいいか。あんまり釣れないだろうから、早めに帰ってこいな。もし調子よく釣れても、切り上げて帰ってくるように!」
「なんでー?」
めずらしく出歩きに関して細かいことを言うから、マオは首を傾げた。するとリンクスは耳の毛と尻尾を確認して、ふんふんと頷く。
「天気が崩れるからだ」
「何でわかる?」
「耳毛と尻尾の予報だ。やっぱ獣人だからさ、天気の変化はわかるんだよ」
「……おひげセンサーと違うんだ」
リンクスの思わぬ能力に、マオはニヤニヤした。きっと家猫のことを考えているのだろう。
笑うマオに、リンクスは怖い顔をしてみせる。
「お前、そうやって笑ってるけど、今夜は嵐になるんだからな」
「あ、嵐……?」
「どうした? 釣りに行くなら今のうちだぞ。怖くなったから行くのやめるか?」
「行くもん!」
嵐が怖いのかと、子供扱いしたからかい方をされたのだと思って、マオはぷりぷりしながら釣り竿とカゴを持って出かけていった。
その背中を見送って、リンクスは空を見上げた。今のところ、雲の流れは速いが風はそこまで強くないし、雨雲も見当たらない。
あれだけ釘を刺していたし、どうやら嵐を恐れているから、天気が悪くなる前に帰ってくるだろうとリンクスは自分の作業に戻ることにした。
だが、そんなふうに自分を納得させつつも、結局マオが無事に魚を手に帰ってくるまで気が気ではなかったのだった。
マオは魚を三匹釣ったところで帰ってきた。
大きめの魚を一匹、一人前にはやや物足りないくらいの魚を二匹だ。
曇ってきた空の下、慌てた顔をして戻ってきたくせに、しっかりしているなとリンクスは笑った。
魚は三匹とも腸をきれいに出して鱗を取って、カリカリに揚げた。それにマヨネーズを添えたものと、豆とキノコのスープと、干し肉のパイ包みで夕食にした。
好きなものが並んだ食卓で、途中までマオはご機嫌だった。スープもおかわりしたし、リンクスがパイ包みを分けてやるとニコニコして食べた。
いつも通りの食卓、いつも通りの楽しい夕食だったはずなのに、雨が振り始めた頃からマオの様子はおかしくなった。
「マオ、この小屋、俺が丁寧に作ったから雨漏りはしないぞ」
「……うん」
小屋の中にいれば大丈夫だとなだめたかったのだが、マオの表情は晴れなかった。
雨粒が屋根を叩く音を聞いて不安そうにし、獣の咆哮のような風の音に怯えた。
そしてそんな状態で無事に夜を迎えられるはずもなく、リンクスはマオと暮らし始めて初めての自体に戸惑っていた。
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