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聖女、肉を食らう2

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 小屋に帰り着いたリンクスたちを待っていたのは、火だった。
 薪が計算し尽くされた形で組んであり、そこに火がついているのだ。今すぐここに串刺し肉があれば完璧だ。
 つまり、肉を焼く用意が整えられていたということだ。

「リンクス、おかえりー」

 おまけにマオは火のそばで、満面の笑みを浮かべて手を振ってくる。
 待っている間に火を起こしていたということだろうか。あまりにも手際が良すぎる。

「リンクス、戻ったのか。準備しておいたからな」
「お前かー!」

 一体誰がこんなことを、と思っていたら涼しい顔したレブラが小屋から出てきた。マオに火起こしはできないはずだから、犯人はレブラだろう。涼しい顔をしたレブラは、その手に調味料を持っている。

「めちゃくちゃ食べる気満々じゃねーか!」
「マオさんが誘ってくれたからな」
「誘ってない。小屋出て『肉肉ー』言ったら、茂みから出てきただけ」
「ああ、そうなの? ……にしても仕事が早いわ。何で火起こし完了してんだよ」

 レブラはともかく、マオに期待に満ちた目で見られるとリンクスは苦しかった。
 この子は何の疑いもなく、肉を食べられる気でいる。よもやここに肉がないなどということは、微塵も考えていない顔だ。

「言えねえよ。あの顔見たら、肉がねえって言えねえよ」

 まさかの自体におののいて、ウルサが小声で言った。
 ウルサの気持ちは大いにわかったが、先延ばしにしても傷つけてしまうだけだと、リンクスは覚悟を決めることにした。

「あのさ、マオ。今日はさ、肉がないんだよねー……」

 ショックを与えないようにと、リンクスはまずふんわり言ってみた。
 だが、伝わっていないようで、その目から輝きは失われていない。

「今から狩り行く? 大丈夫、待てる!」
「いや、今からは……行かないかな」
「何で?」
「狩りってさ、結構時間がかかるんだよね。それに、確実に獲れるってわけでもなくて、こうやって待っててもらっても手ぶらで帰ってくる可能性もあるんだよな」
「……今日、食べられない?」

 リンクスが言いにくそうに説明してやっと、マオは状況を理解したらしい。
 もしマオに耳や尻尾が生えていたなら、確実にぺたんと下がっているに違いないとうしょんぼりぶりだ。こんなにしょんぼりしたマオを初めて見て、リンクスはものすごく悪いことをした気分になった。

「ひどいー! リンクス、お前、マオさんの気持ちを弄んだな!」
「弄んだって……人聞きの悪いこと言うな!」
「事実だろ! 肉が食べられると楽しみにしていたこの子に言うことがそれか! 無理なら無理で最初から言ってやるべきだったんだ!」

 しょんぼりしたマオを見て、レブラは怒っていた。怒られたことにリンクスは腹を立てたものの、言われたことには同意できた。
 マオの今の悲しそうな顔を見れば、最初から肉を今日手に入れることが難しいと伝えるべきだったと気づかされる。
 
「お、今日は外で料理かい? 何を食わせてもらえるのかな」

 リンクスがどうマオをなだめようかと考えていると、そう声をかけてくる者がいた。
 そこにいたのは、最近よく料理を食べに来てくれる狩人二人組だった。マオが給仕する姿を見て「よくお手伝いができる嬢ちゃんだ」と言って気に入っている人たちだ。

「いや、これは、肉を焼こうかなと思ってて……」
「肉、食べたい」

 完全に料理をする用意に見える火を前に「何でもない」と言うこともできず、リンクスは苦しい言い訳をした。そこにすかさずマオが、狩人たちに訴えるように言った。その目はがっちりと、狩人たちに背負われた荷物に釘付けになっている。

「ああ、なるほどな! 今日は持ち込みの肉を焼いて食わせてくれるってのか!」
「よく獲れた日だって、わかってたんだな。さすがヤマネコさんだ!」

 気のいい狩人たちは、リンクスとマオの発言を勝手に解釈してくれたらしい。「ほらよ」と、背負っていた肉のひとつを差し出してくれた。すでに処理がしてあって、切り分ければ今すぐ食べられる状態の肉だ。

「え、いいんですか? あ、仕入れ代として払うんで、その代わり今日は無料で食べていってください」

 これで無事に肉が手に入ったと、リンクスは感謝して踊り出したい気分だった。だが、狩人たちはその申し入れを笑顔で断った。

「いつも安く食べさせてもらってんだ。だから金はいらねえよ。無料でって話には乗ったがな。今日は肉の宴としようや」
「ありがとうございます!」

 マオが肉を食べたがっているという状況を察してくれたのかどうかわからないが、狩人たちは豪快に笑って言った。
 楽しそうな提案だし、何よりマオが目をキラキラさせて喜んでいるから、リンクスはそれに乗らせてもらうことにした。

 リンクスは、張り切って肉を焼いた。ウルサも手伝ってくれたから、手際よく切り分けられた肉を様々に味付けして焼くことができた。
 マオも小屋に戻ってマヨネーズを作ってきて、それとマスタードを混ぜた特製ソースを作ってきた。
 塩胡椒したもの、香辛料を刷り込んだもの、マオ特製のマヨマスタードを塗ったもの、などなど。たくさんの味付けの肉が焼かれた。
 狩人たちも、ウルサもレブラも、おいしいおいしいとどんどん肉を食べた。狩人たちはもしかすると日頃の食事よりも食いつきがいいかもしれない。
 だが、そんな男たちよりもよく食べたのは、やはりマオだった。
 リンクスは、小さな肉食獣のように肉にかじりつくマオを見て、幸せな気分になったのだった。
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