ロボ彼がしたい10のこと

猫屋ちゃき

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第二話

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 一本目は、少女と犬が共に成長する物語だった。
 ある日少女の家の庭に一匹の子犬が迷い込んでくる。少女はその犬を飼うことになり、余命幾ばくもない少女の母親が犬と暮らすにあたっての大切な十個の約束を少女にさせるのだ。
 少女と子犬は途中で離れ離れになったり、また一緒に暮らすようになったり、長い時間、苦楽を共にする。それでもやはり、犬のほうが先に老いる。
 けれどもこの物語の主題は愛犬の死ではなく、共に暮らした犬が飼い主に何をもたらし、どのように幸せをくれるかというものだった。
 ラストで泣かされるだろうという予想に反して、星奈は序盤から泣いた。少女の母親の死が迫っているのを悟らせられるシーンですでに涙ぐみ、十個の約束をさせるところではボロボロ涙をこぼした。
 犬と離れ離れになるところでも、再会するところでも、大きくなって幼馴染の少年と再会するところでも。とにかく、主人公の気持ちが揺れ動くところでは泣いた。
 ここに今、瑛一がいたなら、「星奈はよく泣くなあ」と自分も鼻の頭と目を赤くして笑っただろう。
 でも今は、隣に瑛一はいない。代わりにいるエイジはあまり表情のない顔でじっと見て、部屋の隅にいってしまっていたティッシュ箱を取ってきてくれた。
 星奈はそれを受け取って、ありがたく涙と鼻水を拭った。
 二本目の映画は、実際に起こったことをもとにした作品だった。
 ある一家が地震で被災し、そこで飼われていた犬が自分の子犬たちや飼い主一家を守るために奮闘する。心配そうに鳴いてみたり、瓦礫から掘り出そうとしてみたり。その後、飼い主たちは救助ヘリに助けられるのだけれど、ペットはヘリに同乗できないため、犬たちは被災地に取り残されるのだ。
 それから、犬はまだ小さな子犬たちを守りながら、飼い主と離れて二週間以上も生き延びなければならなくなる。
 犬の健気な姿に、家族の繋がりに、被災地の人々の助け合いに、星奈はまたも涙した。飼い主たちと犬が再会できるのかわかるまで、不安でたまらなくて何度も嗚咽を漏らした。
 終盤になるとずっと目元をティッシュで覆っていたから、犬の無事はエイジに、「犬、大丈夫。生きてる」と教えてもらって気づいたほどだ。
 動物の映画を二本見て、泣きに泣いて星奈はまたカラカラになった。泣くことは体力を使うからか、久しぶりに心底お腹が空いたと思って、昨日の残りのお好み焼きを食べた。水もたくさん飲んだ。でも、映画の内容を思い出しながらエイジと話してまた泣くから、その水分補給が意味のあるものなのかわからなかった。
 お昼すぎまでそうして泣ける映画を見てエイジは満足するかと思ったのに、まだ見たいという。これ以上泣かされるのかと星奈はためらったけれど、もう一本見つくろっていたものは青春映画だから大丈夫かと思って、結局は見ることにした。
 それなのに、その日一番泣かされたのはその映画だった。
 OL生活に希望もやりがいも見出だせないまま過ごしている主人公は、同棲しているバンドマンの恋人に背中を押される形で仕事を辞める。それなのに恋人は本気で音楽に打ち込む様子はなく、そのことに苛立った主人公は恋人と衝突してしまう。
 そのときの喧嘩がきっかけで、恋人はバイトを辞めて退路を断って音楽活動に打ち込むものの、うまくいかない現実に打ちのめされて結局は主人公と別れることを決意する。
 その後、恋人は主人公とよりを戻すことを決意して連絡してくるのだけれど、主人公のところへ向かう途中で事故に会い、死んでしまう。
 その後主人公は自暴自棄になりながらも、最後は恋人が残した歌を彼がいたバンドのメンバーとライブで歌い上げるのだ。
 星奈は途中までは、主人公たちの抱えるモヤモヤや葛藤に共感し、感情移入しながら見ていた。年齢が近いぶん、主人公たちの何者にもなれない焦燥感や、つまらない大人にはなりたくはないという苛立ちみたいなものがよく理解できた。
 だからこそ、主人公が恋人と死別するという筋書きがきつかった。恋人はやっと何を選ぶのが幸せなのかを摑んだのに、それをなす前に、主人公に直接伝える前に死んでしまったということが。
 恋人がバイク事故で死んでしまうというのも、星奈にはかなりこたえることだった。画面の向こうの作り事なのに、まるでそれが自分の身に起きたことのように感じられ、苦しくて悲しくて、しゃくりあげすぎて呼吸ができなくなるかと思ったほどだ。
 朝から泣ける映画を見て涙と鼻水を拭い続けた結果、家にあるティッシュをすべて使い切ってしまった。
 嗚咽を漏らし、拭くものもなく涙と鼻水を流し続ける星奈を見かねたのか、エイジは「ここで拭いたらいい」と自分のトレーナーを指し示した。判断力を欠いていた星奈は、促されるままそこに顔を埋めた。エイジは、何も言わずじっと動かずにいてくれた。
 これが瑛一なら、抱きしめて背中を撫でてくれただろう。エイジは、震える星奈の背中にそっと手を添えただけだった。けれど、それだけでもひとりきりで泣くよりもずっとよかった。
 恋人が死んでしまうシーンを見たときは、なぜこの映画を選んでしまったのだろうと、正直言って後悔した。でも、終盤で主人公がライブのステージに立って恋人が遺した歌を歌うシーンを見て、その後悔はかなり薄れた。
 主人公を演じた女優は、決して歌は上手ではなかった。それだけに、魂を込めて歌い上げるシーンは圧巻で、星奈は泣くのをやめて見入った。
 恋人がこの世に存在したことを証明するために歌う主人公。恋人の死後、自暴自棄になっていたのに、その歌を歌おうと決めてからはがむしゃらにギターの練習をしていた。
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