上 下
34 / 34
エピローグ

第33話

しおりを挟む
 ふたり並んで、しばらく景色をながめていると、美月はちらりとあたしを見て、
「そのチョーカー、いつもつけてくれてるね。うれしいわ」
 って言った。

「うん……」

 だけど、あたしはっ気ない返事しかできない。

「……ヒナタ、どうしたの? 何か怒ってる?」
「怒ってないよ。ただ……なかなか美月とふたりで会えないからさ……」

 美月は首をかしげた。

「……? 今度の土曜日、お父さんに空間ボール借りて、海で泳ぐ約束してるじゃない?」
「そうなんだけどさ~、そうなんだけど……学校でも少しくらい、ふたりきりになりたいの! 美月は、いっつもだれかに囲まれてるんだもん。無理やりにでも連れだすしかないじゃん」

 美月はほほ笑んで。

「ありがとう。ヤキモチいてくれたの? ヒナタかわいい」

 あたしは、ため息をついた。

「そんないいものじゃないよ。ただの嫉妬かも。ダンスクラブでも、みんな美月、美月だしさ……。あたしなんて、もはや空気……」
「そうかな? わたしが見たところ、みんなヒナタを頼りにしてるよ? 一番ダンス上手いし、ヒナタがそこにいるだけで場が明るくなるもん。言ったでしょ、ヒナタは太陽なんだから」

 美月の柔らかな笑顔を見ていたら、自然と心がほぐれていく。

「美月はやさしいね。あたしなんて無駄に声が大きいだけだし、自己中だし、そのくせこわがりだし。おまけに嫉妬深いしさ……」
「そういうところも含めて、ヒナタの魅力でしょ」

 はずかしくなって目をそらす。

「美月は、全然あたしを否定しないね。うれしいけどさ……」
「だって、わたしの瞳にうつるヒナタは、すてきな女の子だもの」

 ハッとして美月に向きなおると、美月の左目は青く光っていた。
 自分の素直な感情が言葉になって、口からあふれ出る。

「――――好き」
「え?」

 聞き返した美月に、あらためて告げる。

「あたし、美月が好きだよ」
「ええっ!」

 美月の顔がみるみる赤くなっていく。

「ど、ど、ど、どうしたの急に!?」

 耳まで真っ赤になった美月を見ていたら、あたしまで照れてきた。

「美月が言わせたんでしょ! あたしの嫉妬を、【水】の魔眼で浄化しちゃったんだから!」
「そんなこと言われても……」

 あたしの右目から、美月の感情が流れこんでくる。

「美月、あたしが今言った『好き』は、友だちとしての『好き』か、それともそれ以上なのか……って思ってるでしょ?」

 いたずらっぽい笑みを浮かべたあたしに、珍しく美月はうろたえた。

「もうっ! 【洞察】の魔眼、使ったでしょ!? ダークピースがいないときは、魔眼の使用禁止だからね!」

 美月にだけは言われたくない。


「――この町を出るの?」

 あたしがたずねると、美月は遠くを見つめながらうなずいた。

「そうだね。『執念の魔女』は倒したし、夏祭りが終わったら、次の場所に移ると思う」

 予想していた答えに、ちくっと胸が痛む。
 すると、美月がハッとしたように、あたりをきょろきょろと見回した。

「――っ!」

 全身に鳥肌が立つような感覚に、あたしも思わず身構える。
 美月は眉根を寄せた。

「一つ……二つ……三つ! ダークピースの匂いだわ!」
「うん! あたしも感じるよ!」
「わたしたちの魔眼に引きよせられて、この町に来たみたいね」
「だったら、引っ越しは延期だよね?」

 美月はニコッとして。

「延期どころか、ずっと住めるかもよ。ダークピースたちをおびき寄せることができるなら……」

 あたしたちは、ぎゅっと手を握りあった。

「この町には、あたしたちがいるもん。やってくるダークピースはすべて倒す!」
「うん。わたしたちは最強コンビだもの」

 今こそ――。
 魔眼よ、ひらけ!



 おわり
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...