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エピローグ

第32話

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 楽しかったパーティーから二週間が過ぎた。
 梅雨入りしてしまって、じめじめとした毎日。
 今日も朝から、強めの雨が降りつづいている。

 美月は予定通り(?)、ダンスクラブの見学に来て、そのまま入部した。
【水】の魔眼を使って、あたしに合わせてダンス!
 その実力を見せつけて、すっかり部員たちの人気者だ。
 町の夏祭りで披露するダンスは、あたしと美月のダブルセンターで……ということになっている。


「ぐぬぬぬ……」

 休み時間――。
 あたしは重低音で、うなっていた。
 涼ちんがあきれたように、「どうしたの?」と聞いてくる。

「なんでもないよ」
 って答えたけど、そんなわけないことは自分が一番わかってる。

 そばで数人の男子とゲームの話をしている板野くんが、あたしの異変に気づいた。

「どうした桃瀬? 国語のテスト、0点とったのか?」

 からかうような言い方にカチンときた。

「そんなわけないでしょ!」

 ぎろりとにらむと、「こえ~」と、板野くんは肩をすくめた。

 あたしがイラついているのには、ワケがある。
 美しすぎる転校生・美月は学校の人気者だ。
 恋してしまう男の子が続出しているようだし、女の子の人気も高い。
 いつ五年二組の教室をのぞいても、美月は女の子に囲まれていた。
 ダンスクラブの活動のときだって、美月はずっと部員たちに囲まれている。

 下校時は美月と帰ることにしているけれど、涼ちんはともかく、二組の女の子たちもいっしょに帰りたがった。
 ダンスクラブの活動日なんて、部員の下級生もくっついてくるから、まるで集団下校のよう。

 つまりは……美月とふたりっきりになることが難しいの!
 学校終わりか休日にふたりで会う以外、ふたりの時間は持てないのだった。
 これがストレスになって、あたしを押しつぶしてくる。

 美月にもらったチョーカーを指でなぞって、心を落ちつけようとしたけれど、無駄だった。

「もう我慢できないっ! 美月成分せいぶんが足りないよっ!!」

 勢いよく立ちあがって、あたしはさけんだ。

「……ヒナタ?」

 涼ちんは、口をぽかーんと開けている。

「とうとう壊れたか……」
 なんて板野くんの声が聞こえるけど、そんなの無視!

「ちょっと美月のトコ行ってくる!」

 涼ちんの「行ってらっしゃい」という声を背中で受けとめて、教室を飛びだす。

 二組の教室に飛びこむと、そのまま美月の席に一直線!
 いつも通り、美月はクラスメイトたちに囲まれていた。
 タロットカードを並べて、ひとりの女の子を占ってあげている真っ最中だ。

「美月! ちょっと来て!」

 びっくりしている美月の手をつかんで、そのままぐいっと引っぱる。

「ちょっと待ってよ、ヒナタ! 今、タロット占いの……」
「ああ、そんなのいいから! 美月は占い師じゃないでしょ!」

 美月の言葉をさえぎり、そのままいっしょに教室を飛びだした。
 女の子たちのブーイングが廊下まで聞こえてきたけど、もちろん無視!

「どこ行くの、ヒナタ!?」
「いいから、いいから!」

 階段をのぼり、六年生の教室がある階に来て、足を止める。

「あっ……あそこ開いてる……?」

 あたしは屋上へと続く階段をさらにのぼって、ドアの前まで来ると、ようやく美月の手を離した。

「屋上に行くの禁止でしょ? 閉まってるんじゃない?」
「ううん、開いてるはずだよ」

 ドアノブをがちゃりと回す。鍵は閉まってない!
 ほらね。あたしには見えたんだ。

「ヒナタ、【洞察】の魔眼、使ったでしょ?」
「しーらないっ」

 ドアを開けて、外を見た。

「あっ、美月、見て! 雨止んだよ!」
「わあっ! ホントだ!」

 雨が止み、どんより雲を押しのけるようにして、晴れ間が見えていた。
 水たまりが跳ねないよう、そっと歩いて、柵のところまで進む。
 見晴らしがよくて、町を一望いちぼうできた。
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