一番美しい娘の名はサーラ

残酷な童話

文字の大きさ
4 / 9

第4話 黒魔術

しおりを挟む
 惚れ薬の一件があって以来、エミリーは以前よりも黒魔術に強い興味を示すようになりました。なぜなら計画は失敗したものの、惚れ薬自体はたしかに強力な効果があると確信できたからです。

 エミリーは黒魔術について調べていくうちに、黒魔術の中には他者を傷つける呪いがあることに気付きました。
 もしかしたら、これを使えばサーラを殺せるかもしれない……そう考えたエミリーは、呪いに関する記述を注意深く読み込みます。
 やがて一通り説明を読み終えると、呪いの儀式を手伝ってもらうために、魔女が住む森へと足を運ぶことにしました。

 暗く深い森の中を進み魔女の家までたどり着くと、エミリーは丁寧に扉をノックします。すると魔女は扉を開け、エミリーに対しこう尋ねました。


「おや、今日はいったい何の用だいお嬢ちゃん?」

「お久しぶりです、魔女のおばさま。今日は黒魔術の本に書かれている呪いについて聞きたくて来ました」


 エミリーがそう言うと、魔女はニヤリと口角を上げ笑いました。


「そうかいそうかい……ついにそこまで興味を持ち始めたんだね」


 エミリーは魔女の不気味な表情に一瞬怯みますが、意を決して魔女に頼み込みます。


「黒魔術の本に他者を殺めることができる呪いが存在すると書かれていました。でも、肝心な内容は全て黒く塗りつぶされています。なので、もし呪いについてご存知でしたら教えて頂けないでしょうか?」


 エミリーが真剣な表情で頼むと、魔女は意地悪そうな顔をしながらこう答えました。


「ああ、別にかまわないよ。ただしアタシも慈善家じゃないんだ、タダでは教えてやれないね」

「……お金、ですか?」

「いいや、違うよ。アタシが今欲しいのは金じゃ買えない物さ」

「……例えば?」

「そうだねぇ……あぁ、あんたの命の蝋燭でも見せてもらおうか」


 命の蝋燭……聞き慣れないその言葉に、エミリーは戸惑いました。エミリーが返答に困っていると、魔女は命の蝋燭について説明し始めました。


「命の蝋燭っていうのはね、簡単に言えばその人間の寿命を可視化したものだよ。蝋燭の長さがそのままその人間の寿命ってわけさ。アタシはあの蝋燭の輝きが好きでねぇ……だけど悲しいことに、命の蝋燭は他人の物しか見ることができないんだ。だからあんたが命の蝋燭を見せてくれるって言うなら、呪いを掛ける方法を教えてやってもいいと思ってるよ」


 エミリーは魔女の説明を聞いて考え込みます。
 もしも魔女の説明に偽りが無いのであれば、エミリーは自分の寿命を魔女に知られるだけで、呪いを掛ける方法を知ることができるわけです。しかし、それだと代償としては軽すぎるような気もします。エミリーが悩んでいると、魔女は苛立ち始めました。


「で、どうなんだいお嬢ちゃん? 命の蝋燭を見せてくれるのかい? それともこの話は無かったことにするのかい? アタシゃ別にどっちでもかまわないよ」


 魔女にそう急かされ、エミリーは思わず命の蝋燭を見せると言ってしまいました。
 すると魔女はニヤッと気味悪く笑った後、なぜかエミリーの胸に向かって顔を押し付けてきました。
 エミリーは魔女の予想外の行動に驚き抵抗しようとしますが、魔女は見た目からは想像できないほどの力でエミリーの腕を掴んでいたため、エミリーは身動き一つ取ることができません。
 エミリーが恐る恐る目線を自らの胸に向けると、魔女の頭はエミリーの胸の中に入っており、首より下の体しか見えない状態になっていました。エミリーがその異様な光景に怯えていると、体の中から魔女の声がしてきました。


「あぁ……燃えているよ……命の蝋燭が煌々こうこうと光っている。素晴らしい……素晴らしい……」


 エミリーは自分の体の中から自分以外の声が響く感覚に耐えられず、ついには叫んでしまいました。


「いや! やめて! もう十分でしょ!」


 魔女はゆっくりとエミリーの体の中から頭を引き出すと、満足気な顔をしつつこう言いました。


「いやぁ……久々に良いものを見せてもらったよ。あんたの命の蝋燭、とても美しかったよ」


 エミリーは内心魔女に怯えつつも、勇気を振り絞ってこう言いました。


「や、約束通り命の蝋燭は見せてあげたわ、次はあなたが約束を守る番よ」


 エミリーがそう言うと、魔女はニヤついたまま家に上がるよう促してきました。エミリーは、いっそのこと逃げ出したいという気持ちを抑えながら、意を決して魔女の家に上がり込みます。


「さて、話を聞かせてもらおうじゃないか」


 そう言って魔女は腕を組むと、椅子の背もたれに寄りかかりました。エミリーはゆっくりと深呼吸した後、意を決して魔女に頼み込みます。


「私、サーラという人間をどうしても殺したいんです。なので呪いを掛けてもらえませんか?」


 魔女はエミリーの願いを聞くと、小馬鹿にしたような表情を浮かべ、フンッと鼻で笑いました。


「あんた、自分が何を言っているのか分かってるのかい? そんなことをしたらあんたは人殺しだよ?」

「はい、でも、どうしても殺したいんです」

「……あんたは何度も利用してきたからわかってはいると思うけど、基本的に黒魔術は人の心を操る魔術なんだ。だかね、自殺願望を持っていない人間を自殺させるほどの力は無いのさ。言ってる意味がわかるかい?」

「……?」

「はぁ……つまりね、もしもあんたがサーラの心を操って自殺させたいのなら、まずサーラに自殺願望を持たせることから始めなくちゃいけないんだよ」

「どうやって?」

「そんなこと知らないよ、その女をどうしても殺したいのなら、あんたが頑張るしかないんじゃないかい?」

「そんな……サーラを追い詰めたりなんかしたら、それこそ私が町から追い出されちゃう……」

「だけどね、あんたにはもう一つの方法が残されているんだよ」

「……どんな方法ですか?」


 エミリーがそう尋ねると、魔女は身を乗り出しこう告げました。


「簡単さ、サーラに恨みのある人物を見つけ出して、そいつの心を操るんだよ。ゼロから一を生みだすのが難しくても、一を百にすることは容易い。火に油を注ぐだけだからね、ヒッヒッヒッ」


 そう言って魔女は意地の悪い笑みをを浮かべました。


「ただしね、いくら容易いとは言っても、行うことは殺人だ。それ相応の対価を支払わないと
呪いをかけることはできないよ」

「……お金、ですか?」

「金? そんなものじゃ釣り合わないよ。命を奪うために必要なのはね、同じ命だよ」

「そんな……じゃあサーラを殺すためには、私も死なないといけないんですか?」

「まぁ、待ちな。あくまであんたがやることは人の心を操ることだ、あんたが直接相手の命を奪う訳じゃない。だから呪いの代償も少しは軽いよ……そうだね、寿命を二十年ばかり削れば十分かもしれないね」

「……二十年、ですか」

「まぁ、あんたが百まで生きるのなら、二十年早まって八十でくたばるぐらいの年数だよ。どうだい、妥当だろう?」

「……わかりました、サーラが殺せるのならそれでもいいです」


 エミリーの言葉を聞いて、一瞬魔女は目を見開きます。


「……本気かい? 一度呪いの契約をしたら、あんたの寿命はもう戻せなくなるよ?」

「はい、お願いします」

「……じゃあ、この契約書にサインしな」


 そう言うと魔女は契約書と万年筆を取り出し、エミリーに手渡しました。エミリーは一旦躊躇ちゅうちょしたものの、ここまで来たら引き下がれないと思い直し、契約書に自分の名前をサインします。


「たしかに受け取ったよ、じゃあさっそく儀式の準備を始めようか」


 そう言うと魔女はエミリーを地下室へと連れて行き、そこで呪いの儀式を行いました。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

どうぞ添い遂げてください

あんど もあ
ファンタジー
スカーレット・クリムゾン侯爵令嬢は、王立学園の卒業パーティーで婚約もしていない王子から婚約破棄を宣言される。さらには、火山の噴火の生贄になるように命じられ……。 ちょっと残酷な要素があるのでR 15です。

幸福なる侯爵夫人のお話

重田いの
ファンタジー
とある侯爵家に嫁いだ伯爵令嬢。 初夜の場で、夫は「きみを愛することはない」というけれど。 最終的にすべてを手にした侯爵夫人のお話。 あるいは、負い目のある伯爵令嬢をお飾りの妻にして愛人とイチャイチャ過ごそうと思ったらとんでもないハズレくじを引いちゃった侯爵のお話。

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...