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第20話 崩落
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より強固に鎖で縛られ、ミノムシのような姿で別の牢屋に入れられた。
動くこともままならない。
「クソが……解きやがれ!」
「はいはい、大人しくしててくださいよ。今からやること山積みなんですから」
こちらの発言に耳を傾ける素振りすらなく、そっぽを向いて、ごねる子供を雑になだめるように言うと、ウパルは牢屋にもたれ掛かった。
「ウェルトさん、残念でしたね。ヤクザをけしかけたのは間違いでしたよ。これであの人達にこちらの行いを全て擦り付けることが出来る。証人なんて誰も残りませんから、やりたい放題。あとはそれを利用して反乱軍も一掃。あなた方の努力は水の泡です」
体をはった無駄な努力ご苦労さまでしたという嫌味たっぷりな発言だ。
しかしウェルトは「それはどうかな?」とニヤリと笑った。
「どういうことですか?」
「外に行けば分かるさ」
その言葉に、ポルンは階段の方をちらりと見た。
しかしすぐにまた顔を戻す。
「そうやって監視の目がなくなったら脱走するつもりでは?」
「ははは、それだったらもっと前に逃げてるよ。僕はね、キミ達がもう詰んでるって言ってるのさ」
強気な態度だ。あれだけボコボコにされてよく、そんな態度が取れるなと感心してしまう。
「ラジオはないのかい? そうすれば全部分かるんだけど」
ウパルもウェルトの発言の真意を知りたいのだろう。渋い顔をした後、どこに置いてあったのかラジオを持ってきた。
チューニングを合わせると、ノイズ音が人の声に、いや機械音声に変わった。
「ザザッ……P.C.108番地市長ヴェルナーは自オアシスの水供給を過剰に制限、購入金額も過剰に高騰させている。他オアシスに繋がる水源をコントロールし、他オアシスへの水供給を制限、高額な値段で売りつけている。ヤクザと癒着し……ーーー」
流れたのはポルンの兄ケルラドが命を懸けて集めたヴェルナーの不正だった。
オレは驚きを隠せなかった。
だがそれ以上に驚愕していたのはウパルだ。
何せウェルトをハッキング前に捕まえた筈なのに、今こうして情報が流れているのだから。
「アナタ、いったい何をしたんですか!」
ウパルは檻を掴み、問い詰めた。
「解放してくれるなら教えてあげないこともないよ」
「ぐっ……」
冷静沈着なウェルトとは異なり、ウパルは相当な焦りようだ。
これではどちらが囚われの身か分かったもんじゃない。
ウパルとしても夢が崩れるのを防ぎたいのか、逡巡の後、返答する。
「やっぱりアナタ達を解放する訳にはいきません。危険人物である以上、全てが終わるまでここにいてもらいます」
「そうかい。それは残念だよ」
ウェルトが返したと同時、地下牢が揺れるほどの爆音が鳴った。
古臭い造り故に、天井からパラパラと砂状の物体が落ちてくる。
「おいおい何だよ」
「アナタ、何したんですか!?」
ヤクザの攻撃だろうか。
ウパルの問う姿はもう状況も分からず、ただただ戦いに巻き込まれた憐れな少女のそれだ。
「答えてくださ……ッ!」
再度爆音が鳴り、地下牢が揺れた。
本当に何をしでかしているのだろうか。ウパルだけでなくオレも知りたい。
というか、このままだと崩落する気しかしない。
その証拠に天井の石の位置が振動によって若干下がっている。
「ウェルト、何したか知らねぇけど、このままじゃ生き埋めだぞ」
「うーん、まぁそうなったら仕方ないかな」
「はぁ!?」
驚きよりも怒りが勝った。
「ふざけんじゃねぇよ! やっとグロリアを見つけたんだ! こんなバカみてぇな死に方してたまるかよ! お前が実行した作戦なんだろ!? なんとかしろよ!」
最後は自分でも無茶苦茶なことを言っている自覚はあった。
助けを求め、その手を握ってくれた相手に対し、恩を仇で返す発言だと分かっていた。
危険を顧みず、死地へ踏み込んでくれた恩人に掛ける言葉ではないと理解していた。
だがそれでも口から出てしまった。
信頼があったから。この状況を切り抜けられると信用していたから。
なのに出てきた言葉が「仕方ないかな」だ。
諦めととれる発言。許容出来る訳がなかった。
こうなれば自力で解決するしかない。
「外れろよ! クソが!」
だが最初とは比にならないほどに巻かれた鎖は外れない。
もはや人造人間の力を持ってしても千切ることは叶わない。
爆音が連続で鳴った。
揺れが更に強くなっていく。
「ふざけんなよ。オレは……オレはこんなところで終われねぇんだよ!」
悲痛な叫びも虚しく、衝撃に耐えかねた天井が音を立てて崩れ落ちた。
動くこともままならない。
「クソが……解きやがれ!」
「はいはい、大人しくしててくださいよ。今からやること山積みなんですから」
こちらの発言に耳を傾ける素振りすらなく、そっぽを向いて、ごねる子供を雑になだめるように言うと、ウパルは牢屋にもたれ掛かった。
「ウェルトさん、残念でしたね。ヤクザをけしかけたのは間違いでしたよ。これであの人達にこちらの行いを全て擦り付けることが出来る。証人なんて誰も残りませんから、やりたい放題。あとはそれを利用して反乱軍も一掃。あなた方の努力は水の泡です」
体をはった無駄な努力ご苦労さまでしたという嫌味たっぷりな発言だ。
しかしウェルトは「それはどうかな?」とニヤリと笑った。
「どういうことですか?」
「外に行けば分かるさ」
その言葉に、ポルンは階段の方をちらりと見た。
しかしすぐにまた顔を戻す。
「そうやって監視の目がなくなったら脱走するつもりでは?」
「ははは、それだったらもっと前に逃げてるよ。僕はね、キミ達がもう詰んでるって言ってるのさ」
強気な態度だ。あれだけボコボコにされてよく、そんな態度が取れるなと感心してしまう。
「ラジオはないのかい? そうすれば全部分かるんだけど」
ウパルもウェルトの発言の真意を知りたいのだろう。渋い顔をした後、どこに置いてあったのかラジオを持ってきた。
チューニングを合わせると、ノイズ音が人の声に、いや機械音声に変わった。
「ザザッ……P.C.108番地市長ヴェルナーは自オアシスの水供給を過剰に制限、購入金額も過剰に高騰させている。他オアシスに繋がる水源をコントロールし、他オアシスへの水供給を制限、高額な値段で売りつけている。ヤクザと癒着し……ーーー」
流れたのはポルンの兄ケルラドが命を懸けて集めたヴェルナーの不正だった。
オレは驚きを隠せなかった。
だがそれ以上に驚愕していたのはウパルだ。
何せウェルトをハッキング前に捕まえた筈なのに、今こうして情報が流れているのだから。
「アナタ、いったい何をしたんですか!」
ウパルは檻を掴み、問い詰めた。
「解放してくれるなら教えてあげないこともないよ」
「ぐっ……」
冷静沈着なウェルトとは異なり、ウパルは相当な焦りようだ。
これではどちらが囚われの身か分かったもんじゃない。
ウパルとしても夢が崩れるのを防ぎたいのか、逡巡の後、返答する。
「やっぱりアナタ達を解放する訳にはいきません。危険人物である以上、全てが終わるまでここにいてもらいます」
「そうかい。それは残念だよ」
ウェルトが返したと同時、地下牢が揺れるほどの爆音が鳴った。
古臭い造り故に、天井からパラパラと砂状の物体が落ちてくる。
「おいおい何だよ」
「アナタ、何したんですか!?」
ヤクザの攻撃だろうか。
ウパルの問う姿はもう状況も分からず、ただただ戦いに巻き込まれた憐れな少女のそれだ。
「答えてくださ……ッ!」
再度爆音が鳴り、地下牢が揺れた。
本当に何をしでかしているのだろうか。ウパルだけでなくオレも知りたい。
というか、このままだと崩落する気しかしない。
その証拠に天井の石の位置が振動によって若干下がっている。
「ウェルト、何したか知らねぇけど、このままじゃ生き埋めだぞ」
「うーん、まぁそうなったら仕方ないかな」
「はぁ!?」
驚きよりも怒りが勝った。
「ふざけんじゃねぇよ! やっとグロリアを見つけたんだ! こんなバカみてぇな死に方してたまるかよ! お前が実行した作戦なんだろ!? なんとかしろよ!」
最後は自分でも無茶苦茶なことを言っている自覚はあった。
助けを求め、その手を握ってくれた相手に対し、恩を仇で返す発言だと分かっていた。
危険を顧みず、死地へ踏み込んでくれた恩人に掛ける言葉ではないと理解していた。
だがそれでも口から出てしまった。
信頼があったから。この状況を切り抜けられると信用していたから。
なのに出てきた言葉が「仕方ないかな」だ。
諦めととれる発言。許容出来る訳がなかった。
こうなれば自力で解決するしかない。
「外れろよ! クソが!」
だが最初とは比にならないほどに巻かれた鎖は外れない。
もはや人造人間の力を持ってしても千切ることは叶わない。
爆音が連続で鳴った。
揺れが更に強くなっていく。
「ふざけんなよ。オレは……オレはこんなところで終われねぇんだよ!」
悲痛な叫びも虚しく、衝撃に耐えかねた天井が音を立てて崩れ落ちた。
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