バスタオル1枚から始める異世界生活 ー世界を包む最強へー

maibo

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第1話 風呂上がり、転生、そしてタオル。

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 湯気が立ちこめる風呂場。
 俺、巻神カイ(まきがみ カイ)は今日もささやかな幸せを噛みしめていた。
 仕事終わりの風呂。湯船のぬくもり。明日は休み。
 あとは冷えた麦茶でも飲めば、完璧な一日だった。

 ──ドンッ!!

 玄関の扉が吹き飛ぶ音がした。
「……え?」

 湯船から上がろうと片足を出していた時のことだった。

「金を出せッ! 動くな!」
 マスクをつけた男が、包丁を構えて風呂場のドアを蹴破ってきた。

「ちょっ、風呂入ってんだけど!? せめてノックしろよ!」
 俺は咄嗟に近くのバスタオルを掴み、腰に巻いた。
 全裸よりはマシだ。……たぶん。

「動くなって言ってんだろ!」
 包丁が振り下ろされる。
 俺は洗濯しようとしていたタオルを前に出して防御した。
 当然、紙のように裂けた。

「うわあああっ!!」

 反射的に振り回したタオルの端が、男の顔をかすめる。
「痛っ……!?」
 男がひるむ。その隙に逃げようとした瞬間、
 足を滑らせて──頭を打った。

 ……真っ白になった世界の中で、
 俺は確かに何かの声を聞いた気がする。

 《神器適性、確認。対象:巻神カイ》
 《神器“布丸ぬのまる” 付与完了》

「ぬの、、ま、、る、、、?」

 ──そして、目を覚ますと。

 青い空。緑の草原。
 頬を撫でる風。
 俺は、腰に巻いた真っ白いバスタオル一枚で立っていた。

「……おい、夢だよな?」

 いや、夢ならせめて服を着てるだろ。

 周囲には見慣れぬ木々、浮かぶ岩、遠くに見える塔のような城。
 どう見ても異世界。
 どう考えても状況がひどい。

「なんでタオルだけ転生してきてんだよ……!」

 そんな時だった。
 草むらの向こうから、異形の影が現れた。
 灰色の毛並み、二本足で立つ狼──。
 爪は刃のように光り、赤い眼が俺を射抜く。明らかにこちらに殺気を向けている。

「おいおいおい、チュートリアルくらいさせてくれよ!」

 奴は牙をむき、咆哮を上げる。
 全裸タオル男VSモンスター。絵面がひどい。

 俺はタオルを手に取った。
 どう見てもただの布きれだ。

「こういう時は、剣とかだろー!」

 半ばヤケ気味に叫んでしまった。
 ──その瞬間、タオルが光を帯びて形を変えた。
 細長く伸び、先が鋭くなっていく。

「え、剣!?形が変わった!?もしかして、俺が剣をイメージしたから!?」
 俺は半信半疑のまま、それを構えてみた。
 見た目は完璧に剣だ。だが──。


 俺はおそるおそる、試しに振り抜いた。

 ──ふにゃん。
「柔らけぇぇぇぇ!!」

 完全に布。
 切るどころか、むしろ相手をくすぐりそうなレベルだ。
 狼が首をかしげたように見えた。
 こっちだって困惑してる。

「でも、攻撃が当たれば、実は強かったりして…!   よし……いくぞ!」

 思いきり狼に斬りかかる。

 ペチッ。

「やっぱり柔らけぇぇぇぇ!!ただの叩きタオルだコレ!!」

 見た目が剣でも、感触はタオル。
 ダメージゼロである。

 その隙を突いて、狼が飛びかかってきた。
「うおっ!?」
 反射的に身をひねるが、爪が頬をかすめた。
 冷たい痛みが走る。

「マジで死ぬやつだこれ!!」

 必死でタオルを振り回す。

「くそっ……! どうすりゃいいんだ!」

 息が荒い。
 狼は低く唸り、じりじりと距離を詰めてくる。
 地面の草が、爪先でざくざくと削れる。
 焦げるような緊張。

「……形は変わる。でも柔らかい。なら……“中身”を使う!」

 視線の先、小川の脇に転がる岩。
 俺は駆けだし、タオルを岩にかぶせる。
「頼む……変われッ!」

 タオルが淡く光り、岩を包み込むように形を変える。
 ずっしりと腕に重みが乗る。
「ハンマーっぽい……のか!?」

 振り返れば、狼が飛びかかってくる。
 時間が止まったような一瞬。
「これで終われぇぇぇッ!!」

 岩を包んだ布を全力で振り抜く。
 ドゴッ!!

 地面が震え、衝撃が腕を突き抜ける。
 狼の体が弧を描き、数メートル先に叩きつけられた。
 動かない。

「……倒した……? 本当に倒した……!」

 《錬気、確認。神器反応、安定化──》

「れ、錬気……?」
 胸の奥がじんわりと熱くなる。
 光が消え、タオルはただの白布に戻った。

「……形を変えるしか、能のないタオルか。
 まあ、命を守ってくれただけで御の字だな。」

 俺はため息をつき、腰に巻き直した。
 だがその時、タオルの奥からかすかに響いた声があった。

 《──形を変えるは、始まりに過ぎぬ。》

「……今、しゃべった……?」

 風が止み、草原の空気が変わる。

 俺はごくりと喉を鳴らした。

 返事はない。
 ただ、風に揺れた布丸が、どこか誇らしげに光った気がした。

 ……バスタオル、まさかの武器化。

 胸の奥に、微かな熱が宿る感覚。
 でもそれよりも、もっと重大な問題が。

「……俺、戦闘中ずっと全裸だったよな?」

 草原に一人、タオルを抱えて絶望する俺。
 風が、やけに冷たく感じた。


 ──こうして俺とバスタオルの異世界生活は始まった。   
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