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第一章
母の病
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出された夕食に大量の熊肉があったのを見て弟のユリアンはキラキラと目を輝かせた。その様子を見た姉もまた幸せそうな面持ちだったことで、冒険者の二人はとても満たされたようである。
そしてその後、フィオナに付き添われながら別室で夕食を食べていたカテジナも、少し元気を取り戻したようだ。彼女が車椅子で団らんの場へとやって来ると、アロイスがここで動いた。
「カテジナさん、ちょうど良いところに。お体の病気について少し調べさせていただけませんか?」
するとフィオナとユリアンは驚いた様子だ。どうやら挨拶したいという言葉以上の意味があるとは思っていなかったようである。しかしそうは思っていなかったザルムはやはりといったようにアロイスを見ていた。
「薄々そうじゃないかと思っていたが、治癒の心得もあるのか。いったいどれだけ万能なんだ?」
「魔法に関しては恵まれているとは思っていますが、万能ということはありませんよ」
アロイスの表情はほんの一瞬だけ曇ったが、すぐに優しい表情に戻る。その表情の変化に気付く者はいないようであった。
「カテジナさんは楽にしていて構いませんよ、魔法を使って原因を調べますね」
そう言って彼は杖を握り絞めると、そのまま詠唱を始めた。傍にいる全員が黙ってアロイスとカテジナを見守っている。
“アナライズプロパティ”
対象の状態を調べる二レベルの知覚魔法を唱え終わると、アロイスの目は煌びやかな光に包まれた。魔法が発動してからしばらくして、彼は納得したように瞬きする。そうして集中は解かれ、彼の目の光は静かに消えた。
「何か分かりましたか?」
いの一番にフィオナが尋ねる。
「ええ、大体わかりましたよ。カテジナさんはどうやら生まれつき体が強くないようですね。それが問題となって心臓が弱っているようです」
「そんな。お母さんは良くなりますか?」
今度はユリアンが心配そうな目で訴えてくる。それにフィオナも加わって気圧されそうになりつつも、アロイスはいつもの冷静な調子で告げた。
「治癒が専門ではないので確たることは言えませんが、売らずに取っておいた薬草を煎じて飲み続ければ、心臓の方については問題なく回復すると思います。ただ……」
「ただ、なんだ? 勿体ぶるなよ」
「ただ、生まれつきの体質については早く何とかしないと、また体調を崩す可能性が高いかと思います」
「何とかする方法については何かご存じでないですか?」
フィオナがさらに食らいつく。それを見てアロイスが落ち着かせるように言った。
「対処する方法については一応考えがあります。それにはザルムさんの協力が必要になりそうですが」
彼は自分の名前が呼ばれてなんとなく察したようだ。
「俺か……魔物と戦うってことだよな?」
「ええ、そういうことです」
深く頷いてからアロイスは説明した。
「カテジナさんは、原裏の力を備えておける量が通常よりも少ないようです。この原裏の力というのはこの世界すべてに流れる力で、万物の源になっている力のことです」
「つまりは、生命力みたいなものを蓄えておける量が少ないってことでいいのか?」
「そうですね。その認識で大体合っていますよ。問題の対処する方法ですが、その力を蓄えておける物を身に着けておくというのが手っ取り早くかつ確実だと思います」
アロイスは一息ついて結論を導く。
「そこで必要になるのが魔晶石という物で、魔物が生息する場所で発見できる代物という訳ですね」
ここまで聞いて、ようやくカテジナが口を開いた。
「そのような危険な場所に行っていただく訳には参りません」
彼女はこれまでになくキッパリと言い放った。
「娘の命を助けていただいた上に私の病気を治す当てまで考えてくださっている。それだけで返しようがないほど恩がございますのに、これ以上助けていただくなど私には勿体のないことです。どうか見ず知らずの私のために命を危険に晒すような真似はお止めください」
フィオナとユリアンは母親の気迫に圧倒されている。苦しい思いをしているにも関わらず、アロイスとザルムのことを危険に晒すまいとした母親の決意は容易に踏みにじるべきではない。二人にはそう思えた。
しかし、彼女の隠された手は強く握られている。
そのことに気付いたからこそ、アロイスは彼女の決意は間違っていると強く思った。大切なものを守るチャンスを彼女は自分の意志で捨てようとしている。アロイスがそれを許すはずがなかった。
「カテジナさん。もしあなたがいなくなったら、お子さんたちがどれだけ悲しみどれだけ苦労するか。それは良くわかっているはずです。見ず知らずの私たちの身を案じてくださる優しい方なのはわかりますが、お子さんたちのことを第一に考えてください。正式に登録していないとは言え、これでも冒険者の端くれ。危険を冒す覚悟は出来ています」
「俺もそうです。とっくに覚悟は出来てます。頼りないかもしれませんが、俺たちを信じてもらえませんか?」
二人の若者の言葉を聞き、カテジナは目を閉じて息を吐く。そうしてゆっくり目が開けられた。
「……わかりました。そこまで言っていただけるのならあなたたちを信じましょう。ですが、いくら貧しいとは言え無償でお願いするのは失礼というもの。お礼はさせていただきましょう」
アロイスとザルムは報酬を聞く前にお互いに顔を見合わせて頷き合った。
そしてその後、フィオナに付き添われながら別室で夕食を食べていたカテジナも、少し元気を取り戻したようだ。彼女が車椅子で団らんの場へとやって来ると、アロイスがここで動いた。
「カテジナさん、ちょうど良いところに。お体の病気について少し調べさせていただけませんか?」
するとフィオナとユリアンは驚いた様子だ。どうやら挨拶したいという言葉以上の意味があるとは思っていなかったようである。しかしそうは思っていなかったザルムはやはりといったようにアロイスを見ていた。
「薄々そうじゃないかと思っていたが、治癒の心得もあるのか。いったいどれだけ万能なんだ?」
「魔法に関しては恵まれているとは思っていますが、万能ということはありませんよ」
アロイスの表情はほんの一瞬だけ曇ったが、すぐに優しい表情に戻る。その表情の変化に気付く者はいないようであった。
「カテジナさんは楽にしていて構いませんよ、魔法を使って原因を調べますね」
そう言って彼は杖を握り絞めると、そのまま詠唱を始めた。傍にいる全員が黙ってアロイスとカテジナを見守っている。
“アナライズプロパティ”
対象の状態を調べる二レベルの知覚魔法を唱え終わると、アロイスの目は煌びやかな光に包まれた。魔法が発動してからしばらくして、彼は納得したように瞬きする。そうして集中は解かれ、彼の目の光は静かに消えた。
「何か分かりましたか?」
いの一番にフィオナが尋ねる。
「ええ、大体わかりましたよ。カテジナさんはどうやら生まれつき体が強くないようですね。それが問題となって心臓が弱っているようです」
「そんな。お母さんは良くなりますか?」
今度はユリアンが心配そうな目で訴えてくる。それにフィオナも加わって気圧されそうになりつつも、アロイスはいつもの冷静な調子で告げた。
「治癒が専門ではないので確たることは言えませんが、売らずに取っておいた薬草を煎じて飲み続ければ、心臓の方については問題なく回復すると思います。ただ……」
「ただ、なんだ? 勿体ぶるなよ」
「ただ、生まれつきの体質については早く何とかしないと、また体調を崩す可能性が高いかと思います」
「何とかする方法については何かご存じでないですか?」
フィオナがさらに食らいつく。それを見てアロイスが落ち着かせるように言った。
「対処する方法については一応考えがあります。それにはザルムさんの協力が必要になりそうですが」
彼は自分の名前が呼ばれてなんとなく察したようだ。
「俺か……魔物と戦うってことだよな?」
「ええ、そういうことです」
深く頷いてからアロイスは説明した。
「カテジナさんは、原裏の力を備えておける量が通常よりも少ないようです。この原裏の力というのはこの世界すべてに流れる力で、万物の源になっている力のことです」
「つまりは、生命力みたいなものを蓄えておける量が少ないってことでいいのか?」
「そうですね。その認識で大体合っていますよ。問題の対処する方法ですが、その力を蓄えておける物を身に着けておくというのが手っ取り早くかつ確実だと思います」
アロイスは一息ついて結論を導く。
「そこで必要になるのが魔晶石という物で、魔物が生息する場所で発見できる代物という訳ですね」
ここまで聞いて、ようやくカテジナが口を開いた。
「そのような危険な場所に行っていただく訳には参りません」
彼女はこれまでになくキッパリと言い放った。
「娘の命を助けていただいた上に私の病気を治す当てまで考えてくださっている。それだけで返しようがないほど恩がございますのに、これ以上助けていただくなど私には勿体のないことです。どうか見ず知らずの私のために命を危険に晒すような真似はお止めください」
フィオナとユリアンは母親の気迫に圧倒されている。苦しい思いをしているにも関わらず、アロイスとザルムのことを危険に晒すまいとした母親の決意は容易に踏みにじるべきではない。二人にはそう思えた。
しかし、彼女の隠された手は強く握られている。
そのことに気付いたからこそ、アロイスは彼女の決意は間違っていると強く思った。大切なものを守るチャンスを彼女は自分の意志で捨てようとしている。アロイスがそれを許すはずがなかった。
「カテジナさん。もしあなたがいなくなったら、お子さんたちがどれだけ悲しみどれだけ苦労するか。それは良くわかっているはずです。見ず知らずの私たちの身を案じてくださる優しい方なのはわかりますが、お子さんたちのことを第一に考えてください。正式に登録していないとは言え、これでも冒険者の端くれ。危険を冒す覚悟は出来ています」
「俺もそうです。とっくに覚悟は出来てます。頼りないかもしれませんが、俺たちを信じてもらえませんか?」
二人の若者の言葉を聞き、カテジナは目を閉じて息を吐く。そうしてゆっくり目が開けられた。
「……わかりました。そこまで言っていただけるのならあなたたちを信じましょう。ですが、いくら貧しいとは言え無償でお願いするのは失礼というもの。お礼はさせていただきましょう」
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