死者と竜の交わる時

逸れの二時

文字の大きさ
20 / 84
第二章

仇討ちへの出陣

しおりを挟む
「山には俺たちに行かせてくれ」

出来得る限りの治療を施して二階から降りて来たリュドミーラを交えて、事の成り行きをすべて説明するや否や、ベリウスは何かに突き動かされるように頼み込んできた。

しかし……。

「やめておきなよ」

それはファムに止められる。

「どうして!?」

「仲間が大怪我を負っているのに、君たちは冷静に探索できるのかい? それにその大怪我を負ったモレノが、君たちのパーティの探索系の技能担当者だろう。相手が罠でも張って待ち構えていたらどうするつもりなんだい?」

「それは……」

ベリウスには反論の余地などなかった。

「この件はストレンジの三人にお願いしよう。相手の居場所をこんなにもすぐに掴んでくれたんだから、きっと上手く対処してくれるはずだ。それに君たちには他にやることがあるよ」

「何よそれ」

カティがふて腐れたように言ったが、ファムは動じずに答えた。

「気持ちの整理と神殿への頼み込みさ。いくらリュドミーラが神殿に所属しているからと言っても、高司祭様は忙しい身だよ。できるだけ早く治療してもらえるように頼んでおいて損はない」

「その通りですわね……」

リュドミーラが納得したところでファムはアロイスたちに顔を向けた。

「ということで、山の捜索はお願いできるかな?」

「もちろんやりましょう」

「そうだな。徹底的にやろう」

「あくまで冷静に、しっかり準備を整えてからやるわよ」

三人が息を合わせて返答すると、ファムはリズムよく頷いた。

「うんうん、頼もしいね。でも君たちはまだ経験が浅いんだ。危ないと思ったら素直に退くのも勇気だからね。君たちの死で先輩たちを悲しませないようにだけは頼むよ」

「わかりました」

アロイスがそう返事をすると、彼らはすぐに作戦を立て始めた。

まず考えるべきは、相手の場所に行くまでにどんな危険があるかということだろう。それについては彼の知識と彼の持つ本が役に立つ。山に出没する魔物はハーピィを初め、オーク、オーガ、トロールの亜人三兄弟に、要注意なのはライオン型の怪物、マンティコアだろう。

しかし今回は彼らの討伐が目的ではないため、基本的に戦闘は避け、消耗を抑える方向で話は進む。

それに伴い役立ちそうな魔法をアロイスがじっくりと考えていると、自室に戻っていたカティがあるものを差し入れてきた。それは彼女特製色とりどりのポーションたちだった。

「この紫の小瓶はおなじみの睡眠毒よ。範囲を少し広げておいたから、十分に離れてから使ってね。そしてこの緑色のポーションは酸性毒。強力だけどほとんど何でも溶かすから注意して。最後の黄色いポーションは麻痺毒よ。調合が難しくてせいぜい十五分くらいしか効果がないかもしれないけど、きっと役に立つわ。それから……よろしく頼むわね。みんな生きて帰ってきて」

それだけ言うと、彼女はすぐに部屋に戻っていった。説明する声がいやに平坦に聞こえたのは、複雑な心情を必死に抑えているからだろう。

だが今は山を攻略することに専念するべきだと考えて、三人は十分に話し合ってから、様々な準備に取り掛かった。


レシニス山のふもとに降り立ったザルムの鎧はいつもの金属鎧ではなく、たまたま店に残っていたお古の軽鎧だった。倉庫でボロボロになっていたのを、防具屋の新品を参考にしながらアロイスが修復したものである。

修復とは言ったものの、初めての試みだったことと、創成魔法で傷ついた部分の材料を補填したということもあって、難易度がかなり高く、出来はそこそこで完璧とは言えなかった。

それでもザルムが愛しの金属鎧を置いてきたのは、お察しの通りここが山だからである。当然足場の悪いところがあるのは目に見えているし、そこで足を踏み外せばどうなるかはトロールにでもよくわかるだろう。

また、今回は戦うだけでなく身をひそめることも要求される。動くたびにガシャリガシャリと音が鳴っていたのでは、魔物に袋叩きにされること間違いなしだ。これまたトロールにでもわかる話だ。

ということで、いつもの大盾も小さな革の盾になり、丸裸になったかのような気分のザルムだったが、すぐにその感覚にも慣れてきて、音がしないという利点をさっそく活用していた。

「あそこに一体オークがいるな。ここは気付かれないようにそっと抜けよう」

このレシニス山はふもとに近くなるほど緑の面積は大きくなり、頂上に近いほど段々と岩や土が見えるような状態になっている。高さが低いうちはまだいいが、高くなっていくにつれて足の踏み場も障害物の数も少なくなっていくだろうと予想される。

今回は大きな木の陰に隠れながら進み、気付かれることなく進むことができたが、たまたま運が良かったようだ。抜けてからふとオークの方を見ると、食事中のようで何かの肉を貪っているところだった。

「見ていて気分のいいものじゃないわね。早くいきましょ」

「そうだな。長くこの山にいるだけ見つかる可能性も高くなるってことだしな」

そうして大きな音を立てない程度に急いで進む。陣形はというと、指輪の効果を考慮して、先頭にザルム、その次にアロイス、最後にマデリエネが後ろを警戒する形だ。

しばらく緩やかな坂が続いていくようで、まだまだ植物の姿があちこちに見受けられる。だが身を隠せるから安心ということでもない。

ザルムが草場に入った途端に、今度は小さなオレンジ色の蛇が飛び出してきた。ザルムはそれに迅速に反応し、剣を突き立てて蛇の進行を防いだが、この出来事は危機感を大いに刺激したようだ。

「こっちも隠れられるが、同じく向こうも隠れてくるな」

「そうですね。遮るものが少なくなって風の音も激しくなってきたので、あとは目が頼りです。足元にも気を配りながら周りも見ていきましょう」

「難しい注文ね。私は慣れてるから何とかできそうだけど、二人には厳しいんじゃない?」

「俺は鎧の負担がなくなったおかげか結構余裕があるぜ。アロイスはどうだ?」

「いつも魔導書を読んでばかりいたのが響いてしまっています、といつもなら言うところですが、今日はしっかり対策してありますよ」

そう言って彼が目を閉じると、魔法には携わっていないザルムとマデリエネでさえもよからぬ力を感じる。

何だろうと彼らが思ったとき、アロイスの背後に緑の衣服をした射手の姿がうっすらと浮かび上がった。彼が集中を解くとその姿は消えてしまったが、確かにそこには何かがいた。アロイスはその現象を説明する。

「今はもう公には伝わっていませんが、遥か昔には今で言う、“古代魔法”というものが存在していました。実は私の恩人である死霊から、その魔法の一部を伝授してもらったんです」

「そんなものがあるのね。いったいどういう魔法なの?」

「護符を使った魔法と、悪魔を使役する魔法があったと言われています。その実態は、今の魔法よりさらに強力に原裏の力を操作するもので、護符に頼ったり、儀式を行ったりして制御するというものだったようです」

「あ、そういえば。ここに来る前に長い時間部屋に籠ってたよな。まさか儀式をやってたのか?」

「そうです。なかなか手間取りましたが上手くいったようですよ。レラージュというさっきの悪魔のおかげで身体能力が少し上がっているように感じます。本来は競技やスポーツを司る悪魔なのですが……いえ、説明はこの辺にしておきましょう」

「悪魔って言ったけど、そんなものに頼って大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ。本質は召喚魔法と変わりませんから。儀式で失敗すると被害は甚大ですが、油断しなければ利益だけを得られます」

「そうなの。まあそれならいいけど」

マデリエネは一瞬心配そうな顔をしたが、すぐにいつもの振る舞いに戻った。死霊であるアロイスなら、少なくとも命は落とさないという安心感があるからだろう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。 彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。 だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。 結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。 そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた! 主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。 ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

才能は流星魔法

神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。 そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。 流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。 ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。 井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。 山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。 井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。 二日に一度、18時に更新します。 カクヨムにも同時投稿しています。

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

処理中です...