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第五章
授かりし力
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マデリエネとカイネもランタンに火をつけて近くの岩場に設置すると、いよいよザルムによる剣と復讐の儀式が始まった。
「アリオク! この剣を以てイスト ラハナストの復讐を果たす!」
ザルムが鋼のブロードソードを空に掲げて叫ぶ。するとどこからともなく翼のはためく音が聞こえてきて、やがて全員の前に魔物が姿を現した。
黒い翼に四本の腕。そしてそのうちの一本の腕にはイストのものと似た文様が刻まれている。おそらく、イストの力を取り込むための文様だろう。
光の照らす範囲のギリギリ外側で闇に紛れた口元が微かに揺いだ。
「汝らが復讐の挑戦者か。面白い。だが我を破って呪いを解こうなど不可能であると知るがよい」
黒い顔が不気味に笑う。しかしそんな余裕などなかったことをこの魔族はすぐに思い知ることになった。
油断した魔族の元へ緑色の容器が飛んでくる。それは文様が刻まれた腕に当たって砕けると、異様なにおいを発して泡を立て始めた。
もちろんこれはカティから貰って取っておいた強力な酸性毒。彼女が言うだけあってその威力は一級品。数秒も経たない内に魔族の腕の文様は消え失せ、痛々しい火傷のような傷になっていた。
「グアアァァ! おのれ! 冒険者風情が!」
苦痛に満ちた声の魔族は操原魔法で腕の傷を治すと、大きく羽ばたき瓶を投げてきたアロイスに爪による攻撃をしかけてきた。文様は消え去ったが腕の怪我は完全に治ったらしく、その腕も攻撃に参加してくる。
一直線に空中を飛んできているからか黒い影の動きは非常に素早く、咄嗟に横に避けなければアロイスの体は肩からザックリと真っ二つになっていただろう。
魔物はアロイスの背後からさらに夜空に羽ばたいて飛んでいくと、四人の周りをぐるりと回って狙いを定めている。
だが狙いを定めているのは冒険者たちも同じで、クロスボウと投げナイフを取り出して闇の中を飛ぶ標的を狙っていた。
「どっちの集中力が先に切れるか勝負だな」
ザルムは強敵を前にして楽しんでさえいるように見える。だが情報の通り、放ったボルトは操原魔法の壁によって弾かれ、一向に当たる気配はない。
マデリエネもザルムの射撃に倣ってナイフを投げるが、これもうまくかわされた。
ところが投げナイフはマデリエネの策の布石だったのだ。魔物が避けた先の真下には熱水泉。その底に彼女はナイフを勢いよく投げつけた。
するとこれも情報通り、高熱の飛沫が天高く舞っているアリオクに襲い掛かり、またもや酷い火傷を負わせた。
しかしながらそれが怒りを買ったようだ。ナイフを投げ終わった直後の彼女に、傷を治したアリオクの反撃がきた。
空中からの急襲を先駆けにして地上に降りると、四本の腕を使って強烈な掌打を繰り出し爪で斬撃を放ってくる。さすがのマデリエネでも通常の二倍の手数の攻撃は避けきれず、掌打を食らって後ろに吹き飛ばされ地面に倒れた。
追撃しようとするアリオクの前に、突如豪速の剣が振り下ろされる。
「フッ。やってくれるじゃねえか。だがそういうことなら手加減はしねえぞ?」
剣の持ち主ザルムの瞳が赤く燃え盛って輝いた。彼は盾を背負ったまま両手で剣を握ると、特殊な構えを取る。
相手に切っ先を向けて左上に持つ構えは、清竜のような堅固さを持ち相手に弱みを見せない。そしてそこから生まれる剣筋は隙を生じない連撃を可能にした。
一本二本と続けざまに打ち込まれる剣は連撃にも関わらず重く、早い。
しかし残念ながらそれらは操原魔法によって弾かれていた。
もはや鉄壁のように感じられる魔法の守り。魔物に再び余裕が見えようとしたところに、タイミング良く妨害魔法が発動した。
アリオクがザルムの剣を防ごうとした手は魔法が発動せずに切りつけられる。さらには見切っていたザルムのフェイント攻撃にも引っかかってしまった。
これは知覚魔法五レベルの“ディストラクションの”効果だ。集中を妨害するこの魔法は一時的に魔法を封じ、さらには回避や接近攻撃にまで影響する。
身を守る術を失いアリオクは再び空中へと飛んでいく。そうして知覚魔法の届かない距離まで逃げると、もう一度戦場に戻ってきて不可視の衝撃波を広範囲に放った。
間一髪でなんとか避けたアロイスとカイネの横の地面は大きく陥没している。
妨害の知覚魔法を発動しても範囲外逃げられて解除され、射出系の魔法は操原魔法で弾かれて無効化される。
そろそろ手の打ちようがなくなってきた。それでも諦めずに剣を振るってナイフを投げ、風の刃を放つがどれも効果が薄かった。
もはや為す術なしかと思った矢先、カイネが空を見上げて耳を澄ましている。明確に何かを聞きとっているようで、その彼女の表情は真剣そのものだ。
しばらくしてカイネはコクリ頷くと、突然澄んだ声で何かの詠唱を始めた。それはアロイスにもわからない未知の言葉。ところがどこか清らかな印象を与え、心を洗うような神聖さすら感じさせる。
大らかな声が空中の邪悪な身に届いた途端、魔族の体は眩く光り始め、アリオクは苦しそうに焼かれ始めた。
凄まじい形相でそれを耐えようとするが、ついには翼が閃光を放ち、魔族は飛ぶこともままならなくなって地に落ちた。
どさりという音と共にカイネが詠唱を締めくくる。
最後に発せられた語の意味はヘヴンズライト。この天からの神々しい光はイストにかけられた邪悪なる呪いごと、魔族の体を浄化するのだ――。
「アリオク! この剣を以てイスト ラハナストの復讐を果たす!」
ザルムが鋼のブロードソードを空に掲げて叫ぶ。するとどこからともなく翼のはためく音が聞こえてきて、やがて全員の前に魔物が姿を現した。
黒い翼に四本の腕。そしてそのうちの一本の腕にはイストのものと似た文様が刻まれている。おそらく、イストの力を取り込むための文様だろう。
光の照らす範囲のギリギリ外側で闇に紛れた口元が微かに揺いだ。
「汝らが復讐の挑戦者か。面白い。だが我を破って呪いを解こうなど不可能であると知るがよい」
黒い顔が不気味に笑う。しかしそんな余裕などなかったことをこの魔族はすぐに思い知ることになった。
油断した魔族の元へ緑色の容器が飛んでくる。それは文様が刻まれた腕に当たって砕けると、異様なにおいを発して泡を立て始めた。
もちろんこれはカティから貰って取っておいた強力な酸性毒。彼女が言うだけあってその威力は一級品。数秒も経たない内に魔族の腕の文様は消え失せ、痛々しい火傷のような傷になっていた。
「グアアァァ! おのれ! 冒険者風情が!」
苦痛に満ちた声の魔族は操原魔法で腕の傷を治すと、大きく羽ばたき瓶を投げてきたアロイスに爪による攻撃をしかけてきた。文様は消え去ったが腕の怪我は完全に治ったらしく、その腕も攻撃に参加してくる。
一直線に空中を飛んできているからか黒い影の動きは非常に素早く、咄嗟に横に避けなければアロイスの体は肩からザックリと真っ二つになっていただろう。
魔物はアロイスの背後からさらに夜空に羽ばたいて飛んでいくと、四人の周りをぐるりと回って狙いを定めている。
だが狙いを定めているのは冒険者たちも同じで、クロスボウと投げナイフを取り出して闇の中を飛ぶ標的を狙っていた。
「どっちの集中力が先に切れるか勝負だな」
ザルムは強敵を前にして楽しんでさえいるように見える。だが情報の通り、放ったボルトは操原魔法の壁によって弾かれ、一向に当たる気配はない。
マデリエネもザルムの射撃に倣ってナイフを投げるが、これもうまくかわされた。
ところが投げナイフはマデリエネの策の布石だったのだ。魔物が避けた先の真下には熱水泉。その底に彼女はナイフを勢いよく投げつけた。
するとこれも情報通り、高熱の飛沫が天高く舞っているアリオクに襲い掛かり、またもや酷い火傷を負わせた。
しかしながらそれが怒りを買ったようだ。ナイフを投げ終わった直後の彼女に、傷を治したアリオクの反撃がきた。
空中からの急襲を先駆けにして地上に降りると、四本の腕を使って強烈な掌打を繰り出し爪で斬撃を放ってくる。さすがのマデリエネでも通常の二倍の手数の攻撃は避けきれず、掌打を食らって後ろに吹き飛ばされ地面に倒れた。
追撃しようとするアリオクの前に、突如豪速の剣が振り下ろされる。
「フッ。やってくれるじゃねえか。だがそういうことなら手加減はしねえぞ?」
剣の持ち主ザルムの瞳が赤く燃え盛って輝いた。彼は盾を背負ったまま両手で剣を握ると、特殊な構えを取る。
相手に切っ先を向けて左上に持つ構えは、清竜のような堅固さを持ち相手に弱みを見せない。そしてそこから生まれる剣筋は隙を生じない連撃を可能にした。
一本二本と続けざまに打ち込まれる剣は連撃にも関わらず重く、早い。
しかし残念ながらそれらは操原魔法によって弾かれていた。
もはや鉄壁のように感じられる魔法の守り。魔物に再び余裕が見えようとしたところに、タイミング良く妨害魔法が発動した。
アリオクがザルムの剣を防ごうとした手は魔法が発動せずに切りつけられる。さらには見切っていたザルムのフェイント攻撃にも引っかかってしまった。
これは知覚魔法五レベルの“ディストラクションの”効果だ。集中を妨害するこの魔法は一時的に魔法を封じ、さらには回避や接近攻撃にまで影響する。
身を守る術を失いアリオクは再び空中へと飛んでいく。そうして知覚魔法の届かない距離まで逃げると、もう一度戦場に戻ってきて不可視の衝撃波を広範囲に放った。
間一髪でなんとか避けたアロイスとカイネの横の地面は大きく陥没している。
妨害の知覚魔法を発動しても範囲外逃げられて解除され、射出系の魔法は操原魔法で弾かれて無効化される。
そろそろ手の打ちようがなくなってきた。それでも諦めずに剣を振るってナイフを投げ、風の刃を放つがどれも効果が薄かった。
もはや為す術なしかと思った矢先、カイネが空を見上げて耳を澄ましている。明確に何かを聞きとっているようで、その彼女の表情は真剣そのものだ。
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大らかな声が空中の邪悪な身に届いた途端、魔族の体は眩く光り始め、アリオクは苦しそうに焼かれ始めた。
凄まじい形相でそれを耐えようとするが、ついには翼が閃光を放ち、魔族は飛ぶこともままならなくなって地に落ちた。
どさりという音と共にカイネが詠唱を締めくくる。
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