死者と竜の交わる時

逸れの二時

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第五章

竜穴仙の洞窟

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翌日、宿屋の一階に集合した彼らは、宿屋の親父の笑顔を背にして三時間ほどの距離の竜穴仙の洞窟に歩いていく。

道中整備されていない道ということもあって、オオカミに遭遇したりもしたが、特に迷ったりすることなく問題の場所にたどり着く。

事前に調べた通り、見上げれば頂上が見えるくらいの高さの小さな山に不自然な窪みがあるが、ただ窪んでいるだけで先になんて進めるわけがなさそうに思える。

しかしアロイスが原理の力を見る魔法を使えば、何らかの力が働いているのがわかった。だが解除するのは難儀そうで、そう簡単にはいきそうもない。

マデリエネが窪みの周辺を念のために調べてみるが、原理の力が関係する以上、もちろん何もできることはなかった。

困り果てた彼らはザルムに色々試してもらうことにする。ここが作られた目的は竜剣の技を保管し伝えること。であれば竜族が関係しているのではないかと当たりをつけたのだ。

ザルムが手をかざしたり少し叩いてみたりするが、反応はない。剣を抜いて岩肌を切りつけてみてもダメだった。

もはや祈るしかない。ザルムがそう思ったとき、突然、目の前の岩が色を失っていき、最後には消え去ってしまった。

呆気にとられる冒険者たち。

「何をしたんですかザルムさん」

「いや、何もしてないぞ。なんかもう祈るしかないなって思ってたらこうなったんだ」

「どういうことかしら。前の行動が時間差で効果を発揮したとかかしら?」

「ワタシは祈るが正解だと思うです」

カイネの意見に納得する三人。確かに祈って解決しようなんて熟練の冒険者であればあるほど考え付きもしないだろう。

祈ってどうにかなる状況など経験してこないのだから。

「なんにせよ道が開けたな。剣技目指して進んでみるか」

今回ばかりはザルムを先頭にして口の開いた窪みから中に入っていく。

少し歩いて視界が開けると、それは見事な光景が広がっていた。

真っ先に目に飛び込んでくるのは、澄んでいる綺麗な水が滝のようになって上から流れてくる泉だ。それは大きい音にも関わらず心地良さ生み出しており、細かい飛沫が小さな虹を描いている。

右に見える階段状の段差は魔法によって整備されたのか均一の広さの足場になって上へと続いている。最上段から先は下からでは見ることはできないが、奥へと続いていそうだった。

天井部分は穴が開いていて日の光をしっかりと取り入れているため中は十分すぎるほどに明るい。

「美しい洞窟ね。定期的に見に来たいくらいだわ」

「夏には水浴びできそうだと思うです」

「こんな場所が隠されているとは少し勿体ない気もしてしまいますね」

「ここが故郷の近所にあったなんて驚きしかないぜ」

水の流れる音というのは癒しの効果があるようで、滝壺から少し離れたところで四人は滝を眺めている。

しかしその奥のも気になっているザルムは、右の段差を一段一段上がっていった。

登るにつれて見えてきたのは小さな台座。そこには分厚い巻物がひっそりと置かれていた。

マデリエネはゆっくりと台座に近づいて罠を調べるが、何も仕掛けられていないようで、すんなりと台座の巻物を手に取ることができた。彼女はそれを開けることなくザルムに手渡す。

「罠がないとは思わなかったわ。確実にあると思ったからあなたの代わりに取るところまでやってみたけど」

「助かるぜ。それで中身の方は……と」

ザルムが巻物を広げると、そこには剣を持った竜族の絵が描かれていて、その横につらつらと細かい文字が並んでいる。

さわりの部分だけでもと読み始めたザルムだが、次第に読み進める速度が速くなって結局すべてに軽く目を通す。

しかしながら彼は満足とは程遠い顔をしていた。

「なんだこれ。基礎中の基礎しか書かれてないぞ?」

「本当ですか? それは不思議ですね」

「そんなことがあるの?」

「ザルムさんには竜剣の技術が既に備わっているですか?」

カイネが聞くのにザルムはブンブン首を振る。

「そんな訳ないぜ。竜剣技は一つしか覚えてない」

どういうことか考えあぐねる四人。だがずっと黙っているわけにもいかずにカイネは励ますように言った。

「まだ全部探索終わってないです。もしかしたら他の場所にも何かあるかもです」

「そう……だな……」

しょんぼりと落ち込むザルムを励まして、洞窟全体を調べることにした。
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