死者と竜の交わる時

逸れの二時

文字の大きさ
57 / 84
第六章

遠き森の親友

しおりを挟む
「夢を利用する魔物か。これは知覚魔法なのか?」

「知覚魔法の応用でしょう。お得意の催眠凝視を発展させたのだと思います」

「魔物の目を見られないし、知覚魔法にも用心しないといけないですか? 難儀な相手だと思うです」

「確かに困った相手よね。直視できないとなると鏡で戦うなんていうのも希に聞く話だけど、知覚魔法までこられると対策のしようがないわね」

「そうですね……石化の視線ではないことだけが救いですが……」

アロイスが対策を考えあぐねていると、その彼が腰に付けていた瓶を見て青年が聞いてくる。

「……そのポーション……錬金術か……?」

そのヒントによってアロイスは気が付いた。

「そうか! 錬金術を使えば催眠対策ができますね」

「最近ポーションを使ってなかったから忘れてたな」

青年の援護のおかげで対策を考え付いたところで単純な構造の遺跡から抜け、そこから東に広がる森の中に入っていく。

ここの森はゲルナードの森よりもさらに草木が生い茂っていて、よりジメジメしているのだが、それによってシダ類の植物が非常に多く群生しており、独特の香りが充満していた。

その中で抗催眠作用のあるマヌサの薬草を探し当てて丸々採取するのには苦労するが、五人分の材料をようやく見つける。

しかしかなり時間がかかってしまって、一旦森を抜けて日の高さを確認すると、もうお昼を過ぎたくらいの時間になっている。

ここからカルムの街へは三時間ほどかかるが、睡眠対策ポーションの作成に加え、青年の身なりと武器を確保するには帰還するのが一番いいだろう。

アロイスがそう仲間に告げると、夜までどうせ待たなくてはならないと青年が言ってきた。

ということで各々街に向かって歩き出すが、そのときに少しばかり青年のことについて聞いてみた。もちろん親の話は抜きにしてだが。

彼の名前はゲルセル ベルゲラルド。ニ十年間森で狩猟をして暮らしていたらしい。そのため索敵と探索能力は高く、森の魔物についても知識が豊富だ。

衣服や武器の弓などはカルムの街の知り合いから貰ったものらしく、その彼とは子供の頃からの付き合いで、今もたまに会う程度だそうだ。

度々黙ったり、間を空けて話したりするので、そこまで話をする間にはもうカルムの街の正門に到着していた。

しかし今の彼は貸し与えたマントがあるとは言え、上半身裸の状態で、しかも半魔族という珍しい種族だ。そのままカルムに入れるはずもなく、やむを得ず門の外で装備を待つことになった。

お金はパーティの財産から出すことに決まって鍛冶屋に向かうと、相変わらずジャンがハンマーで鉄の塊を叩いている。

熱せられた塊は高熱でオレンジ色をしており、水に入れると音を立てて鉄の暗い色へと戻っていく。

四人でその様を眺めていると、ようやくジャンが客が来たことに気付いて対応しに来る。集中すると周りが見えなくなるのは職人の性のようである。

「お、金の入りが良くなってきた冒険者の御一行様じゃねえか。また武具の新調か?」

「新調というか追加だな。弓と半魔族用の軽装備をくれ」

「弓を使う半魔族だって? それってもしかしてゲルセルって名前だったりしないか?」

「ジャンさん、知っているですか?」

「やっぱりか。このあたりじゃ半魔族自体珍しいからな」

「もしかして私がこの街に初めて来たときに話されていた半魔族って……」

「ああ、ゲルセルのことだ。アイツは森で暮らしてるはずだが、どこで知り合ったんだ?」

「聞いたら驚かれそうだけど、彼、処刑されそうになってたのよ」

「何だって!?」

「ある事件の犯人だと決めつけられて危うくな……。俺たちがたまたま通りかからなきゃどうなってたかわからねえぜ」

「そんなことがなあ……詳しい事情も気になるが、ともかく親友を助けてくれて感謝するぜ。そういうことならお代はもらえねえな。ちょっと待っててくれ」

ジャンはそう言って店の奥に入っていくと丈夫そうでしっかりとした弓に、翼の部分を空けてあるジャケットと革のズボンを持ってきた。彼らが頼む前から既に用意されていたかのようだ。

「お代のお心遣いも含めて、どうもありがとうございます。準備がいいですね」

「弓はともかく半魔族用の装備は滅多に作らないんだが、なんだかゲルセルのことを聞いてから作っておくべきのような気がしてな。しばらく会ってなかったからちょうどいいぜ」

「サービスがいいのね。彼と一緒に事件を解決したらまた来るわ」

「そのときにアイツと話をしてえなあ。大丈夫だと思うが無事に帰って来いよ!」

「みんなで協力すればきっと大丈夫だと思うです。行ってくるです」

カイネの可愛らしい笑顔と仕草も相まって、ジャンは安心したように頷くと、また暑苦しい仕事に戻っていった。

アロイスはそれからレインボーファーマシーに向かい、摘んできた薬草をポーションにする作業をしに行き、残りの三人は外で待たせているゲルセルに装備を届けに行った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...