死者と竜の交わる時

逸れの二時

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第七章

解呪への光明

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眠りの魔法は自然な眠りへと誘うだけの効果のため、少々心もとない。かといってずっとカイネが檻の魔法を維持している訳にもいかないし、そもそも彼女の魔法が治療に有用で、二つの魔法を同時に使うことは困難を極める。

カイネのレベルならできなくはないが、低レベルの魔法だけに限られるのだ。

ということで不本意ながら、アロイスの魔法で創りだした鎖で彼女を拘束することになる。

悲鳴を聞いて恐る恐るやってきた人には村長がもう安心であると対応し、パニックになった女性の二人には、彼女らの家にまで赴いて、ザルムとマデリエネが怖がらせてしまったことを丁寧に謝罪した。

ゲルセルに見守られながら狂暴化した女性の診断と治療をするアロイスとカイネは、やはりと言うべきか、とてつもなく苦労していた。

身体的な異常、つまり病気ではないことはわかった。

そうなれば呪いであることはほぼ間違いないのだが、解呪というのは手間がかかることが殆どなのだ。

魔法がかかっていると言う点では同じなので、呪刻のときと同様の手順でも呪いを解くことはできなくはない。

しかし呪いがかけられるレベルの魔法使いなら、それなりの力を持っていることを意味する。

無理やり変化させられた力の流れをさらに変えることは相手の術者の力量を上回らないと難しいのだ。

さらにいえば、物に魔法がかけられていたならアロイスほどの才能があれば解除も可能だ。

ところが人間という複雑な存在にかけられた魔法は流石の彼でもお手上げだ。こういった難しい状態に対処するには方法が限られる。

「私たちだけの力で解呪できないのなら、物に頼るしかありませんね」

「何か考えがあるですか?」

「ないこともないとしか今は言えませんね。一応呪いがどんなものかはわかりましたし、全員でまた会議といきましょう」

帰って来るなり深いため息を吐いたザルムとマデリエネを交えて、村長の家のテーブルの上で話し合いだ。

「彼女が狂暴化してしまった原因はわかりました」

「高レベルの魔法使いが彼女に呪いをかけていたです。夜になると……その……人を食べたくなる呪いだったです……」

「そんな恐ろしい魔法が存在するのか。物騒なもんだな。当然、呪いなんかは禁止されてるんだろ?」

「実はそうでもないんです。悪意を持って他者に災厄や不幸をもたらす魔法というのが呪いの定義。考え方によっては、知覚魔法の大半はそれに分類されてしまうんですよ。災厄や不幸という主観的な用語を使ってしまったのが原因でしょうね」

「あら、禁止されていないとは意外ね。魔物との戦闘でも有用だし、一概に禁止にもできないってことかしら」

「……それより……彼女は……」

「そうだったです。残念ながら、ワタシの魔法では解呪できなかったです」

「ですが解呪の儀式に必要な物があれば彼女の呪いはどうにかなりそうですよ」

「それは朗報じゃねえか。どうやったらその必要なものを集められるんだ?」

「これが少々面倒でして、ハーメルム湿地で見つかる天賦の恵水というものが必要なんですよ」

「もしかして湿地の奥地にある祭壇でしか取れないっていうあれかしら?」

「マデリエネさん、知っているですか?」

「この辺りの地形は熟知しているもの。ギンベルト遺跡からさらに北西にいったところよね」

「そうです。それと湿地までには一日はかかるので、呪いをかけられた彼女には眠りの呪刻がされた装飾品が必要ですね」

「それを作るのは大変なのか?」

「そこまででもないです。せいぜい十分くらいあれば作れるでしょう。呪刻は便利なことが多いので、呪刻にぴったりなロケットペンダントはいつも携帯しているんですよ」

アロイスは腰の小カバンからペンダントを取り出してみせる。いつも様々なことを考えている彼の思慮の深さには仲間たちも感心した。

それから朝を待つ間に、アロイスはペンダントに呪刻を施す。

ロケットの中にある羊皮紙にアロイスが意識を集めて詠唱していくと、その言葉と共に文字が刻まれていった。

彼が手を動かしていないのに文字が浮かび上がっていくのは不思議だ。

すべての詠唱を終えて力を込めると、作業は終了。身に付ければ眠りについてしまうペンダントの出来上がりだ。

日が差し込んでくる時間に彼女を起こしてみると、調べた通り、彼女の様子は元に戻っていた。

アロイスは彼女にペンダントを渡し、夜になる前に余裕を持ってこれを首にかけるように言い含めた。

彼女も記憶があるのか、しかと頷いてペンダントを握りしめた。

人を一人殺めてしまった彼女の罪は消えないが、せめて呪いを解いて然るべき償いをさせるべきだろう。そもそも彼女よりも彼女に呪いをかけた魔術師に咎があるのは明らかなのだから。

ペンダントの魔法が機能することを確認して、まずはカルムの街へと向かった。
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