66 / 84
第七章
恵みの祭壇
しおりを挟む
操原魔法の扱いにより長けているカイネの魔法を主軸にして、集中能力の高いアロイスがそれに合わせて力場の質を増幅させる。
そうして強力になった上向きの力を維持している間に、マデリエネ、続いてザルムが川の向こう側にたどり着く。
地面と同じように空中を歩けるという奇妙な現象は言葉にしがたい。マデリエネとザルムは少しばかりの恐怖を感じつつ、どこか楽しんでしまっていた。
そうしてここからが本番。アロイスとカイネの順番だ。
彼らは先ほどのように魔法の維持に専念するわけにはいかない。維持しながら歩いて進まなければならないのだ。
自分にかかる重力とちょうどぴったりの上向きの力を維持してさらに歩いて前に進む。
これをやっている間、極度の集中によってアロイスとカイネには疲労の色が見え始める。しかしなんとか二人とも渡り切り、川に落下することはなかった。
落下したときにはゲルセルが空に引き上げるという手筈になっていたとはいえ、川のどこにクロコダイルやウォーター・リーパーが潜んでいるかなんて誰にもわからないのだ。
一安心して十分ほど、水辺から離れて休憩すると、彼らはまた歩き出した。集中して疲れただけなので、頭を空っぽにしてリラックスできれば休憩に時間はかからないのだ。
川を渡り切ったこちら側もやはり対岸と変わらず、高い木の群生が続き、日差しが遮られている。
その中で日が差し込むところを見つけてはザルムが地図を確認しながらカイネと並んで先頭を歩いていく。
その後ろ、つまり真ん中にゲルセルがいて、さらにその後ろがアロイスとマデリエネという隊列で厳戒態勢を敷いている。
そうして警戒していたおかげで、木の陰に隠れながらこっそりとこちらに近付いてくる魔物を発見する。後方からストーキングするようにやってくる魔物の大きさはそれなりで、人間よりも大きいというくらい。
動物の下半身に上半身は毛深い人間のような見た目はケンタウロスに似ているが、こちらの魔物は下半身がシカの足だ。
気付かれていないと思っているようで、のそりのそりと距離を詰めて来るが、アロイスとマデリエネにはまさにバレバレだ。
というよりも体が大きすぎて木に隠れきれていないため、どうやっても体の一部がはみ出てしまっている。この魔物の正体は、アロイスがマデリエネに囁いて告げる。
「あれはピアレイですね。奇襲攻撃をかけてくるつもりでしょう」
「敵対的な種族なのね。それならみんなに伝えましょう」
それとなく伝えるために、ザルムとカイネを立ち止まらせ、道を確認するという名目で話をする。
マデリエネがザルムを追い越す形で、後ろを見ないように気を使った。
そうして後ろの不振な魔物の話をし終わり、意を決して全員で振り返ると、ピアレイは観念したようでおとなしく姿を現した。
相手は慣れた手つきで弓を取り出し矢をつがえている。水で隠れているが、山羊を模した蹄には力が入っているに違いない。
だが番えられた矢が放たれる前に、アロイスの魔法がピアレイを眠りに誘った。奇襲作戦は見事に失敗だ。
深い睡眠に入れたためか、ピアレイの体は完全に倒れて水飛沫を上げる。それでも起きないが。
「どうするこれ?」
マデリエネが困ったようにピアレイを見下ろす。放置という選択肢もないことはないからだ。
「後を追われたら面倒だ。とどめを刺すか?」
「そうしましょうか。帰りもここを通りますから危険は減らしておきましょう。ザルムさん、お願いできますか?」
「おう」
結局無力化することになった。戦おうとする意志が見えた以上は遠慮しないこともときには必要だ。無情だが賢明な決断をして先を急ぐ。
足元が水に浸かっている感覚が気にならなくなってきて、そう時間も経たない内、冒険者たちは明らかな地形の変化を感じた。
湿地にはあまり見られないごつごつとした岩が所々から隆起しているのだ。
不自然な状態だが、地図には注意書きのように岩の隆起について書かれている。どうやら魔法でこのあたりを覗いた者がいたようだ。
注意書きとはいえ実際にここ赴いて調査したということではないので、隆起の原因もわからなければ、目的の場所までの道のりなどは当たり前の如く書かれていない。
いよいよ危険な地帯に踏み込んだらしいと思った彼ら。
だがそう遠くはない場所に大きな岩石の壁で囲まれた、まるで岩の祭壇のような場所を発見する。
その周辺には木々はなくなっており、ここが目的地であることが直感的に理解できる。
岩の祭壇中央の窪みには湧き出した水が蓄えられているようで、祭壇の端から溢れた綺麗な水が少しずつ流れ落ちているのがわかる。
膝まで浸かるような場所に呪いを解くことのできる水が本当にあるのかと実は疑問に思っていたザルムも、この光景を見て納得した。なるほど、こういうことかと。
そうして強力になった上向きの力を維持している間に、マデリエネ、続いてザルムが川の向こう側にたどり着く。
地面と同じように空中を歩けるという奇妙な現象は言葉にしがたい。マデリエネとザルムは少しばかりの恐怖を感じつつ、どこか楽しんでしまっていた。
そうしてここからが本番。アロイスとカイネの順番だ。
彼らは先ほどのように魔法の維持に専念するわけにはいかない。維持しながら歩いて進まなければならないのだ。
自分にかかる重力とちょうどぴったりの上向きの力を維持してさらに歩いて前に進む。
これをやっている間、極度の集中によってアロイスとカイネには疲労の色が見え始める。しかしなんとか二人とも渡り切り、川に落下することはなかった。
落下したときにはゲルセルが空に引き上げるという手筈になっていたとはいえ、川のどこにクロコダイルやウォーター・リーパーが潜んでいるかなんて誰にもわからないのだ。
一安心して十分ほど、水辺から離れて休憩すると、彼らはまた歩き出した。集中して疲れただけなので、頭を空っぽにしてリラックスできれば休憩に時間はかからないのだ。
川を渡り切ったこちら側もやはり対岸と変わらず、高い木の群生が続き、日差しが遮られている。
その中で日が差し込むところを見つけてはザルムが地図を確認しながらカイネと並んで先頭を歩いていく。
その後ろ、つまり真ん中にゲルセルがいて、さらにその後ろがアロイスとマデリエネという隊列で厳戒態勢を敷いている。
そうして警戒していたおかげで、木の陰に隠れながらこっそりとこちらに近付いてくる魔物を発見する。後方からストーキングするようにやってくる魔物の大きさはそれなりで、人間よりも大きいというくらい。
動物の下半身に上半身は毛深い人間のような見た目はケンタウロスに似ているが、こちらの魔物は下半身がシカの足だ。
気付かれていないと思っているようで、のそりのそりと距離を詰めて来るが、アロイスとマデリエネにはまさにバレバレだ。
というよりも体が大きすぎて木に隠れきれていないため、どうやっても体の一部がはみ出てしまっている。この魔物の正体は、アロイスがマデリエネに囁いて告げる。
「あれはピアレイですね。奇襲攻撃をかけてくるつもりでしょう」
「敵対的な種族なのね。それならみんなに伝えましょう」
それとなく伝えるために、ザルムとカイネを立ち止まらせ、道を確認するという名目で話をする。
マデリエネがザルムを追い越す形で、後ろを見ないように気を使った。
そうして後ろの不振な魔物の話をし終わり、意を決して全員で振り返ると、ピアレイは観念したようでおとなしく姿を現した。
相手は慣れた手つきで弓を取り出し矢をつがえている。水で隠れているが、山羊を模した蹄には力が入っているに違いない。
だが番えられた矢が放たれる前に、アロイスの魔法がピアレイを眠りに誘った。奇襲作戦は見事に失敗だ。
深い睡眠に入れたためか、ピアレイの体は完全に倒れて水飛沫を上げる。それでも起きないが。
「どうするこれ?」
マデリエネが困ったようにピアレイを見下ろす。放置という選択肢もないことはないからだ。
「後を追われたら面倒だ。とどめを刺すか?」
「そうしましょうか。帰りもここを通りますから危険は減らしておきましょう。ザルムさん、お願いできますか?」
「おう」
結局無力化することになった。戦おうとする意志が見えた以上は遠慮しないこともときには必要だ。無情だが賢明な決断をして先を急ぐ。
足元が水に浸かっている感覚が気にならなくなってきて、そう時間も経たない内、冒険者たちは明らかな地形の変化を感じた。
湿地にはあまり見られないごつごつとした岩が所々から隆起しているのだ。
不自然な状態だが、地図には注意書きのように岩の隆起について書かれている。どうやら魔法でこのあたりを覗いた者がいたようだ。
注意書きとはいえ実際にここ赴いて調査したということではないので、隆起の原因もわからなければ、目的の場所までの道のりなどは当たり前の如く書かれていない。
いよいよ危険な地帯に踏み込んだらしいと思った彼ら。
だがそう遠くはない場所に大きな岩石の壁で囲まれた、まるで岩の祭壇のような場所を発見する。
その周辺には木々はなくなっており、ここが目的地であることが直感的に理解できる。
岩の祭壇中央の窪みには湧き出した水が蓄えられているようで、祭壇の端から溢れた綺麗な水が少しずつ流れ落ちているのがわかる。
膝まで浸かるような場所に呪いを解くことのできる水が本当にあるのかと実は疑問に思っていたザルムも、この光景を見て納得した。なるほど、こういうことかと。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる