死者と竜の交わる時

逸れの二時

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第八章

天啓

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目の前の魔物は倒したが、まだ安心できない。あの奇妙なローブの男がまだどこかで様子を窺っている可能性があるからである。

というかほぼこちらの動向を見ていることは間違いなさそうだった。

あの魔物は倒された瞬間光の粒子になって消えた。これは召喚された生物であるということを意味するのである。

冒険者たちはしばらく死角を作らないように警戒していたが、あの男は現れなかった。いくら待ってもである。

「どうやらもう現れるつもりはないようですね。探知の魔法もかかっていません。テレポートの魔法があるので油断はできませんが、あの魔物の制御で余裕がないのかもしれません」

「相手の探知魔法がかかっていないなら早いとここの場を離れましょ。カルムの街に帰ることは想像できるだろうけど、どのあたりにいるかはわからなくなるはずよ」

「それには賛成するですけど、考えるべきこともあるです」

「……我々の計画……か」

「あの男の言っていたことだよな。何の事を言ってるのかはわからないが、どうせロクでもないことに決まってるぜ」

「結論にたどり着けそうにないからそう発言したのでしょうね。痕跡を全く残さないあたり、抜け目のない相手のようですから」

「余計な言葉に踊らされかけたです」

「……計画自体は……あると思う……」

「全くの戯言ってことでもないはずだから、頭の片隅にでも入れておくことは有益だと思うわよ」

「その通りだな。だが先を急ぐとしようぜ。司祭様も忙しいだろうからな」

司祭は黙っていたがきっと早く帰りたがってはいるだろう。ザルムの言葉でそれを意識した彼らはカルムの街に向けて改めて進んで行った。

もちろん一番隙のできる真夜中にはアロイスが“プリモニション”の魔法を活用していつもよりもさらに警戒する。

しかし彼の番では夜襲はこなかった。来るならアロイスが起きているときではないかと皆が思っていたが、これは意外である。

カイネは夜襲が来なかったことに少し安心して眠りに就いたのだが、夜襲よりも恐ろしいものを見ることになろうとは思いもしなかった。

彼女が眠って少しすると、外にいた見張り番のザルムとゲルセルは、テントから聞こえるカイネのうめき声に気付く。彼らはどうしたのかと思うが、女性が寝ているところを覗くわけにもいかずにまごまごしていた。

ただうめき声が悲鳴に変わった瞬間はそうはいかない。彼らは驚きながらもテントの入り口を開けて彼女の様子を確認する。

テントの中のカイネは無事。しかしひどく怯えた表情で震えていた。

「大丈夫か? 何があった?」

「悪い……夢か……?」

彼らが聞くもカイネはまだ話す余裕がなかったようで、荒い呼吸を整えている。司祭は悲鳴を聞いて飛び起きはするものの、やはりどこか緩慢な動きだ。

それに対し、マデリエネは悲鳴が聞こえてからすぐに状況を把握して、カイネを安心させるように背中をさすってあげていた。

さらにアロイスはついさっきまで寝ていたのにもかかわらず、お留守になった外の警戒をしている。これが冒険者とそうでない者の違いだ。

アロイスは外には異常がないと思ったが、念のためと外の空気を吸って落ち着いてもらおうと、周りが見えるテントの外でカイネの夢について聞く。

もちろん依頼主にはテントの中に戻ってもらう。敵襲でなければ起きていてもらう必要はないからだ。

「よほど恐ろしい夢だったようですが、どんな夢でしたか?」

「それが……夢にしては妙に現実味があったです。何というか……生々しかったです」

「それは興味深いな。何か意味があったりするのか?」

「雑夢と違って予知夢には記憶に近い感覚があると聞きます。特に彼女は聖句を天から授かるように常人よりも感覚が鋭いようですから、何か良くない予兆を夢として受け取ったのかもしれません」

「……未来の出来事がわかる……のか?」

「本当にそうなら内容が重要になるわね。カイネちゃん、怖かったかもしれないけど教えてくれないかしら?」

「まず……たくさんの船が見えたです。それがとにかく不気味だったです。それから船がどこかの岸に着いて……大勢の骸骨やゾンビが船から降りていたです。幽霊船の襲撃……だと思うです」

「ずいぶん不吉だな。もしかしてこれが計画ってやつだったりするか?」

「考えたくはないですが、このタイミングで見る予知夢だと考えれば、その可能性もあるとは言えるでしょうね」

「でもそうだったとしても今の私たちができることはあまりないわ。せいぜいカルムの街に急ぐことくらいね」

「そうすべきかも……しれない」

「賛同はしますが無理は禁物です。しっかり休んでから、できるだけ早く街に向かうことにしましょう」

カイネがうなされた夜からしばらく、話し合ったとおり魔法も駆使しながら急いで、ようやくカルムの街に着いた。

途中の峠を越してから街が近くなって気持ちが開放的になったのか、イングヴァル司祭も早いペースで歩いてくれた。

正門をくぐり、依頼主を神殿まで送ったことで安心する冒険者たちだったが、司祭を迎えてくれたシスターから嫌な話を聞くことになる。

それはドメラクの神殿の最高司祭が暗殺されたというものだった。

さらに謎の病が高レベルの冒険者たちに蔓延しているそうで、そのおかげで大都市は大騒ぎになっているらしい。

シスターの話を聞いて、冒険者たちはすぐさまファムの店へと戻る。

高レベルと言えば、火氷風雷の先輩たちもそれに当たるはず。冷や汗が流れた。

冒険者の店の店主、ファムは独自の情報網でドメラクの危機について耳にはさんでいるらしく、応援に行ってはどうかと提案してきた。残念ながら彼には病が流行っているということくらしかわからないらしいが、何もしないよりはマシだと思ったのだろう。

しかも病とは言われているが、どうせ呪いだ。誰もがそう思っていた。ファムにもこれまでの冒険のことは伝えてあるので、もちろん彼も含めてだ。
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