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第八章
店主の静観
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カルムから二日歩いて大都市ドメラク。正門で行われるのは、いつもは軽い検問だけだが、今回は素性から目的まで何から何まで聞かれた。
衛兵たちも呪いの可能性を視野に入れているということだろう。
不審な点はないと判断されて門の中に入れてもらうが、やっとこさ入れた街の中にはあまり人がいない。大都市ならもっといてもいいくらいの人が、今は全くいないのだ。
歩きやすいと前向きに考えて冒険者ギルドを探して歩くしかない。まずは先輩たちが無事かどうか知りたいからである。
あれから彼らがどこの冒険者の店に所属し、何をしていたのかはよくわからない。だがそれも無理もない。
手紙を書いてそれを届けてもらうというシステムはあまり普及していないのだ。
街から街に移動するにも魔物と遭遇する危険があるからということだろう。
その点、モレノがミアに手紙を送っていたのはかなりの金額を要したことであろう。彼がそれほど彼女のことを思っているということの証だ。
ともかく、それ以外の表立っての手紙のやりとりはいままでなかったのだ。
カルムの街より広いこのドメラクは、背後に山脈を構える構造になっているため、それに伴って街並みも山に向かって高くなっていく。
ところがいくら街の中核に向かって登って行っても人の数はあまり変わらない。
それどころかもっと活気がなくなっていくようにすら感じた。
いくら病が流行っていると噂が立っているとは言え、そんなに変わるものなのだろうかと疑問に思ったが、歩いているうちに聞こえてきた街の人間の言葉で腑に落ちた。
高レベルの冒険者にお世話になった人も悲しんでいたし、なにより最高司祭が暗殺されたというのが何よりショックだったようだ。
冒険者という立場上、ストレンジの彼らは街にいないことがあったりカイネが治療の魔法を使えたりすることもあって気付かなかったが、司祭と言うのは言わば街の人を病気や怪我から守る聖人のようなもの。
その長が亡くなったともなれば、人々の心の支えは無くなったも同然なのだ。
しかも街の人の反応から、その人は相当好かれていたらしく、これから何を頼りに生きればよいのかと嘆く人までいた。
この街の司祭は毎日説教を行って、人々を善の道に導いていたようだ。
それがわかってきたときにようやく冒険者ギルドの本部を見つけた。人目に付きやすいところにあった本部の中には、冒険者たちが詰め寄っていて、病について調べ回っている冒険者もいる。
原因を解決したいのか、あるいは共通項の冒険者であるということから、病を恐れているのかもしれない。
だがギルドがその詳細を明かすことは無さそうだった。実態を隠したいからというよりは、本当にどうなっているのかわからないのだろう。
これほど大人数に死をもたらす呪いなどそうそうないのだから当たり前である。
渋々帰るその冒険者を見送って、空いた受付で火氷風雷についての情報を聞いた。高レベルの冒険者探しということで疑われることにはなったが、彼らと親しくないと知らないようなことについて話せば情報を教えてくれた。
既に四人とも病にかかって苦しんでおり、危ない状態だそうだ。彼らがいる店の名前はファーストライト。
それを聞いたカイネはまだ命を落としていないなら間に合うかもしれないと焦った様子でギルドを後にする。それに続く残りの冒険者たちは、先輩が無事であるようにと祈った。
そして無事ならばカイネの聖句が呪いをすべて消し去ることができるようにと。
街でもそれなりに大きい店のファーストライトの店主は、有力な冒険者が病に倒れたことで商売あがったりなのを酒でごまかす毎日を送っていた。
元々コワモテの彼は客から愛想が悪いと言われたことはいくらでもあったし、初めてこの店に来た冒険者ですら山賊なのではないかと疑うような目線すら向けてくる。
しかし今はそんなことが理由で店の利益が落ち込んでいるわけではない。
病なんて単語が浮上したせいで客がやってこないのだ。
三人の冒険者が倒れたし、もはや自分だって倒れてもおかしくない。経営難で倒れるか病で倒れるか、これはもう時間の問題だ。彼はそう思っていた。
最高司祭様も暗殺されたと言うし、運が悪い。
しかしある冒険者一行がやってきたことでようやく、運の悪い彼は何者かが悪さをしているということを認識することになる。
その冒険者たちはストレンジとかいう、それこそ変なネーミングだったが、もしかしたら火氷風雷の面々よりも腕が立ちそうだと思った。
特にふざけた帽子を被っている少女はダークホースだ。
そう思った理由は、一度かかったらどうにもならないと思われていた病を、ものの数十分かで治してしまったからである。しかも寝込んでいた四人全員をだ。
これには治療を受けた本人たちもどうなっているのか理解できなかったようだが、角帽子の少女は治療の方法を答えなかった。
最高司祭クラスの魔法の実力があるのに謙遜しているのだろう。店主を含めた火氷風雷のみんながそう思っていた。
リュドミーラは自分以上の神官が後輩のパーティにいることを素直に喜んでいるようで、感謝を何度も述べて帽子の角を触りたがっていた。
少女だけでなく彼女の仲間たちも何故かそれを必死に止めていたのは傑作で、久々に店が騒がしくなって少々元気を取り戻した店主だったが、一つ上手くいけばすべて上手くいくとは限らない。
その証拠に、彼はこれが呪いであるということを聞いてしまったのだ。これから来るかもしれない良くないことについても。
絶対にこのことは口外しないようにと言われて、店主は頷いたはいいものの、動揺しきってしまい後に彼らが何を話していたのかよくわからなかった。耳に入っているのに理解できないという感じだ。
聞きたくなかったとも思ってしまう事実だったが、高レベルの冒険者を抱える店の店主である以上、彼らが何と戦うのかは知っておかなくてはならない。
パニックになりかけて真っ白になってしまった頭を整理して、話の内容を理解しようとした。
高司祭を暗殺して高レベル冒険者を呪いで手にかける。
それからこれらのことを引き起こした魔術師が死者の船団を率いてこの大陸を襲撃しようとしている……らしい。
死者の船団どうこうの夢の部分はともかくとして、高司祭の暗殺と冒険者にかかった呪いは紛れもない事実であって、実際に悪行を行っている魔術師は後輩の冒険者たちによってその存在が確認されているのだ。
自分は戦う能力がないため、もし襲撃があっても前線に立つことはないだろうが、それでも、いやだからこそ彼らが話していることは恐ろしくて仕方がないのだった。
衛兵たちも呪いの可能性を視野に入れているということだろう。
不審な点はないと判断されて門の中に入れてもらうが、やっとこさ入れた街の中にはあまり人がいない。大都市ならもっといてもいいくらいの人が、今は全くいないのだ。
歩きやすいと前向きに考えて冒険者ギルドを探して歩くしかない。まずは先輩たちが無事かどうか知りたいからである。
あれから彼らがどこの冒険者の店に所属し、何をしていたのかはよくわからない。だがそれも無理もない。
手紙を書いてそれを届けてもらうというシステムはあまり普及していないのだ。
街から街に移動するにも魔物と遭遇する危険があるからということだろう。
その点、モレノがミアに手紙を送っていたのはかなりの金額を要したことであろう。彼がそれほど彼女のことを思っているということの証だ。
ともかく、それ以外の表立っての手紙のやりとりはいままでなかったのだ。
カルムの街より広いこのドメラクは、背後に山脈を構える構造になっているため、それに伴って街並みも山に向かって高くなっていく。
ところがいくら街の中核に向かって登って行っても人の数はあまり変わらない。
それどころかもっと活気がなくなっていくようにすら感じた。
いくら病が流行っていると噂が立っているとは言え、そんなに変わるものなのだろうかと疑問に思ったが、歩いているうちに聞こえてきた街の人間の言葉で腑に落ちた。
高レベルの冒険者にお世話になった人も悲しんでいたし、なにより最高司祭が暗殺されたというのが何よりショックだったようだ。
冒険者という立場上、ストレンジの彼らは街にいないことがあったりカイネが治療の魔法を使えたりすることもあって気付かなかったが、司祭と言うのは言わば街の人を病気や怪我から守る聖人のようなもの。
その長が亡くなったともなれば、人々の心の支えは無くなったも同然なのだ。
しかも街の人の反応から、その人は相当好かれていたらしく、これから何を頼りに生きればよいのかと嘆く人までいた。
この街の司祭は毎日説教を行って、人々を善の道に導いていたようだ。
それがわかってきたときにようやく冒険者ギルドの本部を見つけた。人目に付きやすいところにあった本部の中には、冒険者たちが詰め寄っていて、病について調べ回っている冒険者もいる。
原因を解決したいのか、あるいは共通項の冒険者であるということから、病を恐れているのかもしれない。
だがギルドがその詳細を明かすことは無さそうだった。実態を隠したいからというよりは、本当にどうなっているのかわからないのだろう。
これほど大人数に死をもたらす呪いなどそうそうないのだから当たり前である。
渋々帰るその冒険者を見送って、空いた受付で火氷風雷についての情報を聞いた。高レベルの冒険者探しということで疑われることにはなったが、彼らと親しくないと知らないようなことについて話せば情報を教えてくれた。
既に四人とも病にかかって苦しんでおり、危ない状態だそうだ。彼らがいる店の名前はファーストライト。
それを聞いたカイネはまだ命を落としていないなら間に合うかもしれないと焦った様子でギルドを後にする。それに続く残りの冒険者たちは、先輩が無事であるようにと祈った。
そして無事ならばカイネの聖句が呪いをすべて消し去ることができるようにと。
街でもそれなりに大きい店のファーストライトの店主は、有力な冒険者が病に倒れたことで商売あがったりなのを酒でごまかす毎日を送っていた。
元々コワモテの彼は客から愛想が悪いと言われたことはいくらでもあったし、初めてこの店に来た冒険者ですら山賊なのではないかと疑うような目線すら向けてくる。
しかし今はそんなことが理由で店の利益が落ち込んでいるわけではない。
病なんて単語が浮上したせいで客がやってこないのだ。
三人の冒険者が倒れたし、もはや自分だって倒れてもおかしくない。経営難で倒れるか病で倒れるか、これはもう時間の問題だ。彼はそう思っていた。
最高司祭様も暗殺されたと言うし、運が悪い。
しかしある冒険者一行がやってきたことでようやく、運の悪い彼は何者かが悪さをしているということを認識することになる。
その冒険者たちはストレンジとかいう、それこそ変なネーミングだったが、もしかしたら火氷風雷の面々よりも腕が立ちそうだと思った。
特にふざけた帽子を被っている少女はダークホースだ。
そう思った理由は、一度かかったらどうにもならないと思われていた病を、ものの数十分かで治してしまったからである。しかも寝込んでいた四人全員をだ。
これには治療を受けた本人たちもどうなっているのか理解できなかったようだが、角帽子の少女は治療の方法を答えなかった。
最高司祭クラスの魔法の実力があるのに謙遜しているのだろう。店主を含めた火氷風雷のみんながそう思っていた。
リュドミーラは自分以上の神官が後輩のパーティにいることを素直に喜んでいるようで、感謝を何度も述べて帽子の角を触りたがっていた。
少女だけでなく彼女の仲間たちも何故かそれを必死に止めていたのは傑作で、久々に店が騒がしくなって少々元気を取り戻した店主だったが、一つ上手くいけばすべて上手くいくとは限らない。
その証拠に、彼はこれが呪いであるということを聞いてしまったのだ。これから来るかもしれない良くないことについても。
絶対にこのことは口外しないようにと言われて、店主は頷いたはいいものの、動揺しきってしまい後に彼らが何を話していたのかよくわからなかった。耳に入っているのに理解できないという感じだ。
聞きたくなかったとも思ってしまう事実だったが、高レベルの冒険者を抱える店の店主である以上、彼らが何と戦うのかは知っておかなくてはならない。
パニックになりかけて真っ白になってしまった頭を整理して、話の内容を理解しようとした。
高司祭を暗殺して高レベル冒険者を呪いで手にかける。
それからこれらのことを引き起こした魔術師が死者の船団を率いてこの大陸を襲撃しようとしている……らしい。
死者の船団どうこうの夢の部分はともかくとして、高司祭の暗殺と冒険者にかかった呪いは紛れもない事実であって、実際に悪行を行っている魔術師は後輩の冒険者たちによってその存在が確認されているのだ。
自分は戦う能力がないため、もし襲撃があっても前線に立つことはないだろうが、それでも、いやだからこそ彼らが話していることは恐ろしくて仕方がないのだった。
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