死者と竜の交わる時

逸れの二時

文字の大きさ
78 / 84
第八章

海の悪魔

しおりを挟む
「なるほどな。もし襲撃があるんだったらなんとしてでも止めないといけないわけだが……」

「いったいどうすればいいって言うのよ。そもそも遠くからやって来る船団なんて止めようがないじゃない……」

話を聞き終わった先輩、ベリウスとカティはそろいもそろって苦い顔をする。スケールが大きすぎるしテレポートで逃げる相手をどうやって追い詰めればよいのか見当もつかないのだ。

そもそももう現れないかもしれない。そうなれば止めることは不可能に近い。

「10レベルの冒険者の方が生きていれば天候を制御して船団を寄せ付けないなんてことも可能だったかもしれませんが」

「呪いで真っ先に倒されてしまったですね。全く、準備の良さだけは褒めてやるです」

カイネが冗談ぽくそんなことを言うのに不覚にも微笑みつつ、マデリエネは現在の状況を確認する。

「ともかく頼みの綱は既に切られてしまっているわ。聞いた話じゃ高レベルと呼べる冒険者は、ここにいる私たちと九レベルの冒険者が二人、八レベルの冒険者が三人だったはずよ」

「大都市を攻めるつもりでしょうから、おそらくここから近くの海岸を狙って来るでしょう。テロフィ近くのイゼオル海岸とハーメルム湿地のウェレン海岸のどちらか、もしかしたら両方から来るかもしれませんね」

「他の冒険者に……会うべき……だ……」

「そうして手分けをするですね」

そうして先走る後輩に、先輩のモレノが待ったをかける。

「夢の話が本当ならそれでいいと思うけど、ただの悪い夢の可能性もある。そもそもどうやって高レベルの冒険者たちを説得するつもりだい? 彼らも忙しいだろうからただ信じるのは難しいと思うよ」

「その問題は確かに残りますわね。カイネさんには特別な力があることは、神官の私も身を以って体験しているのでわかりますが、他の人にしてみれば夢で見たというのは少し弱いかもしれませんわ」

神を信奉するリュドミーラもモレノに賛同する。

「どうにかして証拠を集める必要がありそうだな。俺は信じてるが、他の人には絶対と言い切れるくらいじゃないと動いてもらえないかもしれないからな」

そう言うザルムの言葉を皮切りに、アロイスは危険が迫っているという証拠を提示する方法をあれこれと考え始めた。

直接船を観測するのでは遅すぎるとなれば、もう魔法に頼るしかない。

とはいえ魔導書に載っている魔法では対処できそうもなかった。やろうとしていることの規模が大きすぎるのだ。

そうなればあとはもう奥の手しか残されてはいない。彼は仲間にそのことを伝えると、儀式のための部屋を手配することにした。

幸いこれは良くない噂のおかげで宿が空いていたので簡単。それから証拠を用意するためにアロイスは、ファーストライトでの話合いを閑散してからすぐに一人部屋に籠って儀式を始めた。

もちろん、古代魔法の儀式である。

今回のようなことは海の統治者とされている悪魔、ヴェパールの力を借りるのがよさそうだった。海上、海中すべてのことを司っているとされているため、彼に頼めば幽霊船団の手がかりを掴めるかもしれないと踏んだのだ。

まずは場所を儀礼的に清めて、日常の場所から儀式の場として区別、つまり聖別した後、悪魔から身を守るための魔法円を宿の床に描く。

これは意識と無意識を画する大事な境界線を意味している。

儀式中にここから向こうへと踏み出せば無意識の波に呑まれて自我を失うことになるのだ。

そうしてすべての準備が終わったらいよいよ悪魔の召喚が始まる。もっと厳密に言えば喚起だ。

アロイスが円の中で呪文を唱えて、その最後に悪魔の名前を呼ぶ。それからしばらくして周りの空気が振動し始めたかと思うと、人魚の姿をした悪魔が円の外に忽然と現れた。

悪魔から感じる威圧感はかなりのもの。常人であればその力に呑まれて誘惑され、円の外に踏み出してしまうが、アロイスを崩すのはそう簡単ではない。

彼は悪魔を完全に見下すような態度を取って、自分を主人として崇めるように言い伝える。すると悪魔は意外にも、それを簡単に呑むと言ってきた。円の外に出てきたらという条件をつけて。

いつものように円の外におびき出そうとする悪魔のささやきに、アロイスはうんざりする。

だが強大な力を制御するためにはこの相手を従えなくてはならない。手こずらせてくる悪魔の存在に張合いもあって、アロイスは面白いとでも言いたげに笑みを浮かべるのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。 彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。 だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。 結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。 そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた! 主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。 ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

才能は流星魔法

神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。 そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。 流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。 ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。 井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。 山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。 井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。 二日に一度、18時に更新します。 カクヨムにも同時投稿しています。

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

処理中です...