死者と竜の交わる時

逸れの二時

文字の大きさ
79 / 84
第八章

抗い

しおりを挟む
アロイスが儀式をする間、残りの冒険者たちはさらに上のレベルの冒険者に会うために再びギルドにやってきて彼らの居場所を聞いて回った。ところが聞けたのは良くない知らせだった。

全員呪いによって死んでしまったらしいのだ。こうも簡単に高レベルの冒険者が倒されてしまうというだけで事の大きさがよくわかる。相手の計画とやらはかなり念入りのようだ。

「まさか残りの冒険者まであっさりやられるとはな。これはいよいよ世界の終わりかもな」

「そんなのダメです。こうなってしまうのならワタシたちだけでこの大陸を守るです!」

「本当にそうなりそうで困ったものだわ。事前にしっかりと準備しておいた方が良さそうね」

「襲撃に……備える……のか……」

「船団は来ると見ていいと思うぜ。危機に対処できる人間が狙われているのは明らかだからな」

「どんどん追い込まれてはきているけど、カイネちゃんのおかげで襲撃に備えられるのは大きいわ。向こうも予知夢があるとは思ってもいないでしょう」

「どんな備えをするですか?」

「それは私に任せて頂戴。罠を張り巡らせるのは私の得意技なのよ。今まで日の目を見なかったけど、ここで活用させてもらうわよ」

マデリエネが道中にいろいろと使えそうな罠を考えている内に、アロイスがいる宿に着いた。アロイスは援軍が期待できないことにガッカリしていたが、悪魔の力を借りることには成功したようで、さっそくその恩恵を受けていた。

知覚魔法と召喚魔法の応用によって海上に浮かぶ大量の船団の姿を盗み見ることができたのだ。

それを聞いて襲撃があることが確定し、恐ろしくなる気持ちもある。だがどの道把握していようがしていまいが現実は現実だ。彼らは襲って来る船の数をおおまかに認識することができてさらにどうやって対処するかをもう話し合っていた。

言うほど簡単なことではないことはみんな理解している。先輩たちも含めてたった九人で百以上の幽霊船を相手にしなければならない。

小さな船がほとんどだが大型船も数隻あるし、中にどれだけのアンデッドが存在しているかなど想像もしたくない。

だからこそ、目を背けるのではなくて直視するほどでなくてはならないのだ。

先輩たちにも情報を共有しておかなければということになり、再び冒険者の店、ファーストライトまで足を運んだ。

襲撃が実際にあることが確認できたと伝えると、先輩四人は驚く。カイネの予知能力についてもそう。そしてアロイスの魔法の才能についてもだ。

もはや嘘をついている場合ではなくなったため、すべての魔法系統に適性があることと、カイネには聖句という神聖な力を扱うことができるとも話した。

それで呪いの治療が可能だったことも併せて説明すれば納得してもらえる。

強すぎる力を隠していたことによくない反応をされることも覚悟していた二人だったが、そんなことはなくむしろ褒められた。警戒心は冒険者にとって命を救うものだとわかっているからこそだろう。

ともかく、火氷風雷の先輩たちには東のイゼオル海岸を固めてもらい、ストレンジは西のウェレン海岸を守ることになった。アロイスの予想通り、彼の探知魔法は東西からの侵略を捉えたのだ。

船がこの大陸に到着するまで、おそらくあと一か月くらい。ドメラクからウェレン海岸までは四日の距離だ。

それを考えてドメラクで必要なものを揃え、罠の準備をする必要がある。綿密に計画を立てて相手が攻めてくるまでに間に合わせるのだ。

この戦いは間違いなく生きるか死ぬかの戦いだ。だから本当はこのことをこの大陸に住む多くの人に伝えるべきなのかもしれない。

だが冒険者たちはそうしなかった。他の冒険者たちにもだ。

民衆に知らせれば無駄にパニックを生むだけ。実力のない冒険者に応援を求めても、アンデッドにされて戦力として取り込まれるだけなのだ。

誰もそんな素振りは見せないが、気を抜けば絶望感が襲いかかってくる。

しかし先輩冒険者たちは特にいつもと変わらない様子で事に当たっていた。ストレンジの冒険者もだ。

カルムの街に行って自室においてある物を回収しがてらファムにはすべて話していく。唖然とした彼だが、不思議と表情はそんなに暗くなかった。

むしろ是非頑張ってくれと他人事にも聞こえてしまうような口調だ。信頼されていると受け取って、冒険者たちは立てた計画に従って行動を始めた。

とは言ってもアロイスとマデリエネが罠の設置に、その他のメンバーはより強くなるために猛特訓をするくらいだ。

アロイスが罠の設置というのは創成魔法を使ってのこと。物を創りだすというのは疲労が大きく、集中力が削られるのがマデリエネの視点でも伝わってくる。

ところがそれはお互い様で、アロイスの視点からもマデリエネが疲れていくのがよくわかった。罠というのは時には自分を傷つけうることもあり扱いには慎重にならなくてはならない。

さらにはこの罠がのちの命運を決めると思えば相当なプレッシャーもあるだろう。

そういうわけで、お互いに労いながら集中を切らさないように会話しながら、念入りに準備をしていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...