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第九章
月夜の海岸戦
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ドメラクの西の海域。そこはもう一か月もの間どんよりとした曇りが続き、天候は悪いまま。
静かだった海の水面は、今では荒々しい飛沫を上げて、それを見る者を威嚇するかのような大波で夜の空気を飲み込んでいる。
だが海が荒れだしてから一か月後のある夜、月の麗しい光に呼応するように波が静けさを取り戻した。ようやく落ち着いたのだろうか。
しかしそれなのに、この静けさはこの世のものとは思えないほど薄気味悪くて冷たい。その理由は、遥か彼方の海の向こうを見ればすぐに理解されるだろう。
大型の船から小型船まで、数えることも恐ろしいおびただしい数の幽霊船がこの大陸に向かっているからなのだ。
一つ一つの船には幾つもの邪悪な気配が潜み、黒い影が蠢いている。
その中のすべての大型船には奇妙な文様のローブを纏った人影が見える。一人一人違った形のネックッレスを身に着けているが、当然のことながら、ジェルグの村から相手にしてきた牙のネックレスの男も船に乗り込んでいる。
その彼は最後尾の最も大きい豪華な船にいて、船長室で立派な椅子に座り瞑想している。膨大な数のアンデッドの制御をしているのだろう。ローブの他の人物も同じく制御をしているのだが、もうそろそろそれも佳境に入る。
船が創り出す水の流れが集まって大きくなり、静かだった岸に向かって大きな荒波が再び飛沫を立て始めた。
それに対する冒険者たちは、遠くに見えてきた船団の数々を眺めて神経を研ぎ澄ませている。いよいよ始まるのだ。歴史の歯車を動かすような大きな戦いが。
いかにも壮大なこの戦いだったが、それは船団が大陸に着く前から既に始まっていた。陸地に近づいてきた小型船がなんと突然暗い海に沈んでいったのだ。
広範囲にわたって特定のラインから内側へ、陸地に近づくごとに次々と船が沈み始めた。
これはアロイスが必死に創成魔法で創り出した金属の杭のおかげ。ひっそりと水の底に沈められたそれは、船の底に大きな穴を開けて船を沈めたのだ。
だが海岸のすべてをその罠で埋めることはできなかったため、中央だけあえて罠を設置しなかった。
その範囲だけ船が沈まなかったのを見て、相手も慌ててすべての船の軌道を魔法によって変えて、中央に船を寄せてそこから進軍してきた。
罠の免れた数隻の小型船が陸地に着き、後ろに続く船がその船にぶつからない程度まで近づいていく。
そうして連結するようにしてすべての船が前の船の後ろに着けるころ、丁度良いタイミングで灰色の狼煙があげられた。
ここから、本格的に戦いが始まるのだった。冒険者が動き出したのである。
陸地につけた数隻から、穢れた者たちが上陸する。
しかし再び罠の応酬。海岸いっぱいに隠されたトラバサミが死者たちの足を捉えて離さない。先陣を切るアンデッドがつっかえて、後ろの者たちも進むことができない。
知能が高くないアンデッドは船から降りようとはしても、仲間の真上に降りようとはしないのだ。
そんな様子で戸惑う魔物たちにはそれぞれ遠隔攻撃がお見舞いされた。
銀製のボルトと、同じく銀製のナイフ。それらは頭部を狙って放射され、狙い通り頭を打ち抜いてゾンビやスケルトンを打ち倒す。
邪魔な味方の間を掻い潜ろうとする後続の魔物たちには、浄化の意味を持つ聖句が唄われ、彼らの忌まわしい怨念は消し去られる。
こうして足止めが成功している間に、後ろの船には空から容赦ない攻撃が降り注ぐ。
八レベルの変性魔法“フライト”の魔法で空を飛んだアロイスは、かなり無理をしながらも拡大した“ファイアボール”の魔法を何発も船に打ち込んでいる。
炎を浴びだアンデッドは焼き尽くされ、船ごと夜の海に沈んでいく。さらにそこから少し離れたところでは銀の矢が降り注いでいる。
早いペースで次々と放たれる矢は何匹ものアンデッドを貫いて倒す。数十隻も沈んだところでようやく、弓を持ったアンデッドがアロイスを狙ってきた。
ところが自由に飛び回るアロイスとゲルセルに狙いを定めるのは難しい。
アンデッドによって放たれた矢はかわされ、それで位置が特定されると、その弓兵を狙ってアロイスの火炎弾とゲルセルの銀の矢が飛んでいくのだ。
こうして少しずつでも船団の数は減っていく。
それでも岸に上がってくる魔物の数は甚大で、罠の足止めも完全ではない。数にものを言わせて突破してくる魔物すべてば抑えきれずに、汚らわしい者たちが惜しくも上陸してしまう。
しかしながらそんなことは想定の範囲内だった。トラバサミの罠を仲間の屍で封じてから抜けた先にはもちろん罠。
ゾンビが一歩前に踏み出した途端、地面から火炎柱が立ち昇った。
アロイスとマデリエネが共同で作成した呪刻による罠である。それがまた至るところに張り巡らされグールもマミーも区別なく焼き払う。
勢いよく噴射される炎に抗うことができない者たちはどうすることもなく焼かれて高熱の炎の中に消えていく。
それでも耐久力の高い者はいて、炎柱に焼かれながらも進んでいる。厄介な存在には変わりないのだが、その魔物たちの姿はすぐに真下に消えていった。巧妙に隠された落とし穴が機能したのである。
落とし穴はトラップゾーンを取り囲むように設置されて、それほど深くも長くもないが、筋力が低いアンデッドには効果的。無理に炎柱の罠を突破しようとする者は落とし穴の底に真っ逆さまだ。
飛び越えることができない上に炎で視覚を奪われたアンデッドは一匹二匹とどんどん穴に落ちていくが、それもしばらくするとすぐに効果がなくなってしまった。
山になった魔物の体で道ができ、落とし穴から先にアンデッドが押し寄せてきたのである。
それを見てアロイスとゲルセルは空から岸に戻る。この海岸の先に進まれるわけにはいかないからだ。
それからようやく、岸で遠隔攻撃を行っていた冒険者も近接武器を抜いた。その最前線には嬉しそうに笑う竜族の影。
やっと剣で魔物を切れることに喜びを感じたようで、ザルム瞳はいつも以上に紅蓮に輝いて光っている。さらには手に持つブロードソードはアロイスの“ヒーティッドウェポン”の魔法で赤く燃えあがった。
「楽しくなってきたぜ。大陸全体を襲おうなんて愚か者どもをまとめて蹂躙してやる!」
「今日という今日は徹底的にやっちゃいましょう。加減なんていらないわ」
「ええ。全力で魔法を使ってやりますよ」
「派手な魔法を期待するですよ。巻き込まれないところで戦うです」
「……一匹も……通さない……」
「打ち漏らしがあったら頼むわねゲルセル。私も気を配っておくわ」
「皆さん、いつも通り魔物を片付けて平和な街に帰りますよ!」
そこからいち早く魔物に向かって行ったザルムとマデリエネは、トラップゾーンから左右に分かれてアンデッドを切り伏せていく。
さらにそこから梅に面するように位置取って魔物に対処していた。
杭のおかげで船がない海に面するように位置取ることで、その部分を警戒しなくてすむように、さらにはアロイスの魔法を受けないようにということもある。
ということで空いた中央にはアロイスがいて、それを守って魔法が発動するまで時間を稼ぐのは彼を挟むように隣にいるカイネとゲルセルだ。
守りよりも攻めを重視して、広範囲を攻撃できる魔法を余すことなく活用する布陣である。
アロイスは遠慮が要らないとなれば効果が期待できそうな炎の魔法をいくつも詠唱していく。
その彼を守るようにして、ゲルセルは近づく相手を弓矢で打ち抜き、カイネは聖句を唱えて弱いアンデッドを戦闘不能にしながら強力な魔物の動きを阻害した。
魔物がやってくるところは冒険者たちに囲まれる形になっており、一匹も街のある方へと抜けることはできない。
右端から抜けようとすればザルムの赤く燃え上がった剣に断ち切られ、竜剣技によってネクロオーガやネクロトロールでさえも一撃で真っ二つになる。
それを恐れて左端に抜けようとすれば、マデリエネのダガーでありとあらゆる体の部位を切り裂かれて、弱ったあとには首を落とされ砂の地面に倒れることになる。
中央から行けばカイネの聖句で浄化され、消し去られるまでいかなくても苦しみ悶えてゲルセルの矢に撃ち抜かれる。
それでも押し寄せてくるアンデッドたちには、発動した“バーニングレイ”の魔法で高熱の炎線を食らい、“フレイムエクスプロージョン”でまとめて業火に焼かれて燃やされ、吹き飛ばされていくのだ。
静かだった海の水面は、今では荒々しい飛沫を上げて、それを見る者を威嚇するかのような大波で夜の空気を飲み込んでいる。
だが海が荒れだしてから一か月後のある夜、月の麗しい光に呼応するように波が静けさを取り戻した。ようやく落ち着いたのだろうか。
しかしそれなのに、この静けさはこの世のものとは思えないほど薄気味悪くて冷たい。その理由は、遥か彼方の海の向こうを見ればすぐに理解されるだろう。
大型の船から小型船まで、数えることも恐ろしいおびただしい数の幽霊船がこの大陸に向かっているからなのだ。
一つ一つの船には幾つもの邪悪な気配が潜み、黒い影が蠢いている。
その中のすべての大型船には奇妙な文様のローブを纏った人影が見える。一人一人違った形のネックッレスを身に着けているが、当然のことながら、ジェルグの村から相手にしてきた牙のネックレスの男も船に乗り込んでいる。
その彼は最後尾の最も大きい豪華な船にいて、船長室で立派な椅子に座り瞑想している。膨大な数のアンデッドの制御をしているのだろう。ローブの他の人物も同じく制御をしているのだが、もうそろそろそれも佳境に入る。
船が創り出す水の流れが集まって大きくなり、静かだった岸に向かって大きな荒波が再び飛沫を立て始めた。
それに対する冒険者たちは、遠くに見えてきた船団の数々を眺めて神経を研ぎ澄ませている。いよいよ始まるのだ。歴史の歯車を動かすような大きな戦いが。
いかにも壮大なこの戦いだったが、それは船団が大陸に着く前から既に始まっていた。陸地に近づいてきた小型船がなんと突然暗い海に沈んでいったのだ。
広範囲にわたって特定のラインから内側へ、陸地に近づくごとに次々と船が沈み始めた。
これはアロイスが必死に創成魔法で創り出した金属の杭のおかげ。ひっそりと水の底に沈められたそれは、船の底に大きな穴を開けて船を沈めたのだ。
だが海岸のすべてをその罠で埋めることはできなかったため、中央だけあえて罠を設置しなかった。
その範囲だけ船が沈まなかったのを見て、相手も慌ててすべての船の軌道を魔法によって変えて、中央に船を寄せてそこから進軍してきた。
罠の免れた数隻の小型船が陸地に着き、後ろに続く船がその船にぶつからない程度まで近づいていく。
そうして連結するようにしてすべての船が前の船の後ろに着けるころ、丁度良いタイミングで灰色の狼煙があげられた。
ここから、本格的に戦いが始まるのだった。冒険者が動き出したのである。
陸地につけた数隻から、穢れた者たちが上陸する。
しかし再び罠の応酬。海岸いっぱいに隠されたトラバサミが死者たちの足を捉えて離さない。先陣を切るアンデッドがつっかえて、後ろの者たちも進むことができない。
知能が高くないアンデッドは船から降りようとはしても、仲間の真上に降りようとはしないのだ。
そんな様子で戸惑う魔物たちにはそれぞれ遠隔攻撃がお見舞いされた。
銀製のボルトと、同じく銀製のナイフ。それらは頭部を狙って放射され、狙い通り頭を打ち抜いてゾンビやスケルトンを打ち倒す。
邪魔な味方の間を掻い潜ろうとする後続の魔物たちには、浄化の意味を持つ聖句が唄われ、彼らの忌まわしい怨念は消し去られる。
こうして足止めが成功している間に、後ろの船には空から容赦ない攻撃が降り注ぐ。
八レベルの変性魔法“フライト”の魔法で空を飛んだアロイスは、かなり無理をしながらも拡大した“ファイアボール”の魔法を何発も船に打ち込んでいる。
炎を浴びだアンデッドは焼き尽くされ、船ごと夜の海に沈んでいく。さらにそこから少し離れたところでは銀の矢が降り注いでいる。
早いペースで次々と放たれる矢は何匹ものアンデッドを貫いて倒す。数十隻も沈んだところでようやく、弓を持ったアンデッドがアロイスを狙ってきた。
ところが自由に飛び回るアロイスとゲルセルに狙いを定めるのは難しい。
アンデッドによって放たれた矢はかわされ、それで位置が特定されると、その弓兵を狙ってアロイスの火炎弾とゲルセルの銀の矢が飛んでいくのだ。
こうして少しずつでも船団の数は減っていく。
それでも岸に上がってくる魔物の数は甚大で、罠の足止めも完全ではない。数にものを言わせて突破してくる魔物すべてば抑えきれずに、汚らわしい者たちが惜しくも上陸してしまう。
しかしながらそんなことは想定の範囲内だった。トラバサミの罠を仲間の屍で封じてから抜けた先にはもちろん罠。
ゾンビが一歩前に踏み出した途端、地面から火炎柱が立ち昇った。
アロイスとマデリエネが共同で作成した呪刻による罠である。それがまた至るところに張り巡らされグールもマミーも区別なく焼き払う。
勢いよく噴射される炎に抗うことができない者たちはどうすることもなく焼かれて高熱の炎の中に消えていく。
それでも耐久力の高い者はいて、炎柱に焼かれながらも進んでいる。厄介な存在には変わりないのだが、その魔物たちの姿はすぐに真下に消えていった。巧妙に隠された落とし穴が機能したのである。
落とし穴はトラップゾーンを取り囲むように設置されて、それほど深くも長くもないが、筋力が低いアンデッドには効果的。無理に炎柱の罠を突破しようとする者は落とし穴の底に真っ逆さまだ。
飛び越えることができない上に炎で視覚を奪われたアンデッドは一匹二匹とどんどん穴に落ちていくが、それもしばらくするとすぐに効果がなくなってしまった。
山になった魔物の体で道ができ、落とし穴から先にアンデッドが押し寄せてきたのである。
それを見てアロイスとゲルセルは空から岸に戻る。この海岸の先に進まれるわけにはいかないからだ。
それからようやく、岸で遠隔攻撃を行っていた冒険者も近接武器を抜いた。その最前線には嬉しそうに笑う竜族の影。
やっと剣で魔物を切れることに喜びを感じたようで、ザルム瞳はいつも以上に紅蓮に輝いて光っている。さらには手に持つブロードソードはアロイスの“ヒーティッドウェポン”の魔法で赤く燃えあがった。
「楽しくなってきたぜ。大陸全体を襲おうなんて愚か者どもをまとめて蹂躙してやる!」
「今日という今日は徹底的にやっちゃいましょう。加減なんていらないわ」
「ええ。全力で魔法を使ってやりますよ」
「派手な魔法を期待するですよ。巻き込まれないところで戦うです」
「……一匹も……通さない……」
「打ち漏らしがあったら頼むわねゲルセル。私も気を配っておくわ」
「皆さん、いつも通り魔物を片付けて平和な街に帰りますよ!」
そこからいち早く魔物に向かって行ったザルムとマデリエネは、トラップゾーンから左右に分かれてアンデッドを切り伏せていく。
さらにそこから梅に面するように位置取って魔物に対処していた。
杭のおかげで船がない海に面するように位置取ることで、その部分を警戒しなくてすむように、さらにはアロイスの魔法を受けないようにということもある。
ということで空いた中央にはアロイスがいて、それを守って魔法が発動するまで時間を稼ぐのは彼を挟むように隣にいるカイネとゲルセルだ。
守りよりも攻めを重視して、広範囲を攻撃できる魔法を余すことなく活用する布陣である。
アロイスは遠慮が要らないとなれば効果が期待できそうな炎の魔法をいくつも詠唱していく。
その彼を守るようにして、ゲルセルは近づく相手を弓矢で打ち抜き、カイネは聖句を唱えて弱いアンデッドを戦闘不能にしながら強力な魔物の動きを阻害した。
魔物がやってくるところは冒険者たちに囲まれる形になっており、一匹も街のある方へと抜けることはできない。
右端から抜けようとすればザルムの赤く燃え上がった剣に断ち切られ、竜剣技によってネクロオーガやネクロトロールでさえも一撃で真っ二つになる。
それを恐れて左端に抜けようとすれば、マデリエネのダガーでありとあらゆる体の部位を切り裂かれて、弱ったあとには首を落とされ砂の地面に倒れることになる。
中央から行けばカイネの聖句で浄化され、消し去られるまでいかなくても苦しみ悶えてゲルセルの矢に撃ち抜かれる。
それでも押し寄せてくるアンデッドたちには、発動した“バーニングレイ”の魔法で高熱の炎線を食らい、“フレイムエクスプロージョン”でまとめて業火に焼かれて燃やされ、吹き飛ばされていくのだ。
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