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第九章
死霊の終焉
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ドラゴンの後方にあった船も竜巻によって破壊されて海に沈んでおり、ローブの男がどこにいったかはわからない。
それを探そうとする冒険者たちだったが、彼は意外にも“テレポート”の魔法で姿を現した。
懲りずに攻撃をしかけてくるかと思ったが、どうやらもう戦意はなさそうだ。集中力の限界で全員を相手にするような高位の魔法を扱うことができなくなったのだろう。
「ただおとなしく倒されれば良いものを。無駄な抵抗を続けて何になると言うのだ」
「事実攻め込めてないくせに何が無駄だって言いやがるんだ? そっちこそ諦めて俺たちに切られればいいだろう」
「死の定めを持たない私に何を言うか。今日この大陸が落ちなくても、いつかは必ず滅びるのだ」
「滅びるのは……お前だ」
「その通りね。悪いけどあなたを消し去る方法を見つけ出してみせるわよ」
「ほざけ。我々を消すことなどできるはずもない」
「そこが私とあなたの違いです。永遠に意識を保つということがどれだけ空しいことか、あなたは考えたこともないのでしょうね」
「考えるはずもなかろう。我らには大義があるのだからな」
「まだそんなことを言い続けるですか。わからずやはお仕置きするです」
「何をしようと言うのだ。どうせ何もできないだろう」
テレポートの魔法と死霊であるという余裕が彼にはあるのだろう。しかし油断というのは身を滅ぼすということを彼は長い時間をかけても学ぶことはなかったらしい。
カイネに操原魔法をかけられたことに気付いたときにはもう遅く、彼は一気に原理の力が霧散していくのを止めることができない。
それによって集中するだけの力を失い、魔法を使えなくなった。
この現象はカイネの最高レベルの操原魔法“ヴァニッシュメント”で原理の力を消し去られたことによるものだ。
体に流れる力を極限まで消し去るこの魔法は肉体に死を与える。
死霊という存在でなければとっくに倒せていただろうが、精神体のような存在のこの男は倒すことができないようだ。
カイネはとにかく相手を逃がさないようにとこの魔法を使ったのだが、それが功を奏することになる。おかげでアロイスが古代魔法の詠唱を始めることができたのである。
アロイスの合図によって、相手の足元に魔法円が展開されていく。
「この魔法が有効かどうか……試させてもらいますよ」
その言葉のあとから始まった詠唱の言葉はどこか暗い、空しい言葉が集まっている。どうやらこれはアロイスのオリジナルの魔法のようだ。
展開されたときにははっきりとしていた相手の足元の白い魔法円は、アロイスの詠唱が進んでいくごとに徐々に薄く黒く消えていっている。それを何とか視界におさめたローブの男は、今何が起きているか理解したようだ。
「まさか……私という存在を……無意識の波に飲み込ませるつもりか!?」
アロイスはもちろんそれに答えることはない。だがそれは肯定も同じだった。
特定の悪魔を呼ぶことは無くとも、魔法円が消えかかるにつれて自ずと、より大きなものの存在が周りに渦巻いているのを他の冒険者たちですら感じる。
男の足元の魔法円は意識と無意識の境界線の象徴。それが消えれば自我と精神は崩壊し、事実上死を迎えるも同じだ。
やがて長かった詠唱は無慈悲にも終わりを迎える。僅かに煌めいた灰色の魔法円が――消えた。
その刹那、ローブの男は断末魔をあげて苦しみだした。普段は統制されていた内なる力が暴れ回り、区切られていた自己が崩壊したのだ。
男を中心にして空気の鳴動が広がって、やがてそれは静かな波の内に飲み込まれていく。
その様子を間近で眺めていたアロイスは不意に呟いた。空しさで溢れる心を解放するために。
「イザークさん……どうして、こうなってしまったのでしょうね……」
数日後、レンタグル大陸の首都ドメラクの議会に恐ろしい報告が入る。東のイゼオル、西のウェレン海岸共に大量の船と大量のアンデッドの亡骸が存在しているという、一見いたずらではないかと思うような内容の報告である。
にわかに信じがたいというのは報告に来た冒険者も承知のようで、まずは実物を見てから説明をするとのことだった。
たまたま手の空いていた者二人をそれぞれの海岸に行かせることにすると、黒い外套の青年とポーションを携帯する女性魔術師はそろって“テレポート”の魔法を使い、それぞれの海岸へと調査員を連れて行った。
すぐに戻ってきた調査員たちは血相を変えて王の元へと急いだ。
事実であると告げられた王は、冷静さを保っているかのように見えた。少し唸ったが何かを考え込んでいる様子だったからだ。
ところが実はそうではない。頭の中は真っ白の白紙のようで、いつまでたっても白いまま。しかも白いのに灰色の雲がかかるかのようにぼんやりとして何をすべきなのかが浮かんでこないのだ。
死体の数は調査員の語彙を疑うほどに、全く伝わってこないくらいの多さのようだし、船の残骸も処理に困る。
とどめにはウェレン海岸の浅瀬には鉄の杭が沈めてあるそうではないか。
是非とも直接そうなった経緯を聞きつつ頭をハッキリさせようと思った王に、さらなる驚愕の事実が付きつけられる。
他の大陸の邪悪な魔法使いが死者の軍団を率いて攻め込んできたという事実である。
頭がハッキリするどころか動揺で頭がショートしかかっている王の変化にさすがに側近も気付いてしまう。
左様であったかという言葉からずいぶん経って、ご苦労であったという言葉がひねり出される。一旦冒険者たちはドメラクの街に留まってもらって、然るべき報酬と名声を受け取ってもらうことになった。
一旦冒険者たちに下がってもらって色々と考える王は、いつものように議会も巻き込んで決めるべきことを決めていくのだった。
それを探そうとする冒険者たちだったが、彼は意外にも“テレポート”の魔法で姿を現した。
懲りずに攻撃をしかけてくるかと思ったが、どうやらもう戦意はなさそうだ。集中力の限界で全員を相手にするような高位の魔法を扱うことができなくなったのだろう。
「ただおとなしく倒されれば良いものを。無駄な抵抗を続けて何になると言うのだ」
「事実攻め込めてないくせに何が無駄だって言いやがるんだ? そっちこそ諦めて俺たちに切られればいいだろう」
「死の定めを持たない私に何を言うか。今日この大陸が落ちなくても、いつかは必ず滅びるのだ」
「滅びるのは……お前だ」
「その通りね。悪いけどあなたを消し去る方法を見つけ出してみせるわよ」
「ほざけ。我々を消すことなどできるはずもない」
「そこが私とあなたの違いです。永遠に意識を保つということがどれだけ空しいことか、あなたは考えたこともないのでしょうね」
「考えるはずもなかろう。我らには大義があるのだからな」
「まだそんなことを言い続けるですか。わからずやはお仕置きするです」
「何をしようと言うのだ。どうせ何もできないだろう」
テレポートの魔法と死霊であるという余裕が彼にはあるのだろう。しかし油断というのは身を滅ぼすということを彼は長い時間をかけても学ぶことはなかったらしい。
カイネに操原魔法をかけられたことに気付いたときにはもう遅く、彼は一気に原理の力が霧散していくのを止めることができない。
それによって集中するだけの力を失い、魔法を使えなくなった。
この現象はカイネの最高レベルの操原魔法“ヴァニッシュメント”で原理の力を消し去られたことによるものだ。
体に流れる力を極限まで消し去るこの魔法は肉体に死を与える。
死霊という存在でなければとっくに倒せていただろうが、精神体のような存在のこの男は倒すことができないようだ。
カイネはとにかく相手を逃がさないようにとこの魔法を使ったのだが、それが功を奏することになる。おかげでアロイスが古代魔法の詠唱を始めることができたのである。
アロイスの合図によって、相手の足元に魔法円が展開されていく。
「この魔法が有効かどうか……試させてもらいますよ」
その言葉のあとから始まった詠唱の言葉はどこか暗い、空しい言葉が集まっている。どうやらこれはアロイスのオリジナルの魔法のようだ。
展開されたときにははっきりとしていた相手の足元の白い魔法円は、アロイスの詠唱が進んでいくごとに徐々に薄く黒く消えていっている。それを何とか視界におさめたローブの男は、今何が起きているか理解したようだ。
「まさか……私という存在を……無意識の波に飲み込ませるつもりか!?」
アロイスはもちろんそれに答えることはない。だがそれは肯定も同じだった。
特定の悪魔を呼ぶことは無くとも、魔法円が消えかかるにつれて自ずと、より大きなものの存在が周りに渦巻いているのを他の冒険者たちですら感じる。
男の足元の魔法円は意識と無意識の境界線の象徴。それが消えれば自我と精神は崩壊し、事実上死を迎えるも同じだ。
やがて長かった詠唱は無慈悲にも終わりを迎える。僅かに煌めいた灰色の魔法円が――消えた。
その刹那、ローブの男は断末魔をあげて苦しみだした。普段は統制されていた内なる力が暴れ回り、区切られていた自己が崩壊したのだ。
男を中心にして空気の鳴動が広がって、やがてそれは静かな波の内に飲み込まれていく。
その様子を間近で眺めていたアロイスは不意に呟いた。空しさで溢れる心を解放するために。
「イザークさん……どうして、こうなってしまったのでしょうね……」
数日後、レンタグル大陸の首都ドメラクの議会に恐ろしい報告が入る。東のイゼオル、西のウェレン海岸共に大量の船と大量のアンデッドの亡骸が存在しているという、一見いたずらではないかと思うような内容の報告である。
にわかに信じがたいというのは報告に来た冒険者も承知のようで、まずは実物を見てから説明をするとのことだった。
たまたま手の空いていた者二人をそれぞれの海岸に行かせることにすると、黒い外套の青年とポーションを携帯する女性魔術師はそろって“テレポート”の魔法を使い、それぞれの海岸へと調査員を連れて行った。
すぐに戻ってきた調査員たちは血相を変えて王の元へと急いだ。
事実であると告げられた王は、冷静さを保っているかのように見えた。少し唸ったが何かを考え込んでいる様子だったからだ。
ところが実はそうではない。頭の中は真っ白の白紙のようで、いつまでたっても白いまま。しかも白いのに灰色の雲がかかるかのようにぼんやりとして何をすべきなのかが浮かんでこないのだ。
死体の数は調査員の語彙を疑うほどに、全く伝わってこないくらいの多さのようだし、船の残骸も処理に困る。
とどめにはウェレン海岸の浅瀬には鉄の杭が沈めてあるそうではないか。
是非とも直接そうなった経緯を聞きつつ頭をハッキリさせようと思った王に、さらなる驚愕の事実が付きつけられる。
他の大陸の邪悪な魔法使いが死者の軍団を率いて攻め込んできたという事実である。
頭がハッキリするどころか動揺で頭がショートしかかっている王の変化にさすがに側近も気付いてしまう。
左様であったかという言葉からずいぶん経って、ご苦労であったという言葉がひねり出される。一旦冒険者たちはドメラクの街に留まってもらって、然るべき報酬と名声を受け取ってもらうことになった。
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