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第一章 痛みの連鎖
捜索
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そして時は戻り現在。沢山の騎士の魂を狩った後、カイルが転移魔術で飛んだ先は、事件を起こしたゴスリック王国から離れた隣国のケレストロウズの国だった。
かの王国と比べるとこの国は少々色味に欠けて、街全体が石の灰色をしている。おまけに道も狭く作られていて、どこを歩いても左右を建物で囲まれて、まるで迷路の中にいるかのような街並みだった。
ここに住むものには閉塞感などの不都合もあるかも知れないが、カイルにとっては好都合であった。見通しが悪いこの場所なら、問題を起こしても誰かに気付かれる前に事を収めることができそうだからだ。
現に転移魔術でいきなりここに飛んできても、街の誰にも見られることはなかった。
カイルはさっそくここでの目的を達成するべく、狭い道のど真ん中で魔導書を手元に召喚した。というよりも、むしろ彼の体を動かしているものの本体が姿を現したといった方が適切なのだろう。
今のカイルはもう昔のカイルではない。元々は薄緑だった綺麗な瞳も、今や血を求める残虐な赤色に変わっている。そのせいで元の面影を無くした彼は、ゴスリック王国で集めた魂によって増幅された魔力で、求めているものを探知する魔術を改めて発動した。
本来は水晶玉のような補助的な道具を使用するこのような探知系の魔術でも、カイルはそれなしで難なく術を発動した。すると確かに、この国に求めているものの波動を感じ取ることができた。
ところがそれは微かな反応で、しかも何かが濁っているような不思議な感覚がカイルを襲う。おかしいと彼が感じたそのとき、鈍い衝撃が右肩に突き当たった。
集中のために瞑っていた目をゆっくりと開けると、素行の悪そうな労働者の男がカイルを睨み付けている。白いシャツは土か何かの汚れで完全に煤けており、茶色のズボンももれなく汚れている。
微かに漂ってくる臭いは、空気に触れて古くなった油の独特な臭い。恐らくランタンに使うためのものだろう。
「おい兄ちゃん、そんな道のど真ん中につっ立ってたら邪魔じゃねえか。肩がぶつかっちまったし迷惑なんだよ」
雑に顎髭を生やした男は敵意を隠そうともせずガラガラ声で難癖をつけてきた。喋ると見える口元は黄ばんでいて、歯がいくつか欠けている。
歯の欠けは喧嘩によるものか、それとも食生活によるものか定かではないが、生まれは良いとは言えそうもない。この男は立ち止まっていたカイルに自分からぶつかってきて、わざわざ絡んできたのだ。
確かに道の真ん中で立ち止まっていたのは良くないのだろうが、別にカイルの横を通ろうと思えば簡単に通れるくらいの道幅はある。つまり相手の男は、何か気に入らないことがあるとすぐに喧嘩を吹っ掛けるような性格の持ち主なのだ。
早速面倒事に巻き込まれたカイルは、人間の意志を感じさせない、しかしそれでいて物恐ろしい目つきで男を見る。すると一瞬その目つきに動揺した男。だがすぐに何か言うことはねえのか? と性懲りもなくカイルに絡んできた。
男はポケットに手を突っ込んで首を傾げながら、斜め下からカイルを睨み上げている。あまりのしつこさにカイルが思わず溜め息をつくと、それを挑発と取ったのか、労働者の男は勢いよくカイルの胸ぐらに掴みかかった。
「おい、喧嘩売ってんのか?」
だがその言葉の直後、男は力なく地面に倒れた。男の首はあり得ない角度にゴキリと曲がり、糸の切れた操り人形のような無機質さで地面に落ちている。
《念動》
瞬殺され、労働者の男の体から抜け出た魂は、カイルの左手に現れた黒い本の中に吸収されていく。
「汚い手で触るな、下衆が」
カイルは冷たい怒りを滲ませた声でそう吐き捨てると、男の死体を避けながらどこかを目指して歩きだした。
かの王国と比べるとこの国は少々色味に欠けて、街全体が石の灰色をしている。おまけに道も狭く作られていて、どこを歩いても左右を建物で囲まれて、まるで迷路の中にいるかのような街並みだった。
ここに住むものには閉塞感などの不都合もあるかも知れないが、カイルにとっては好都合であった。見通しが悪いこの場所なら、問題を起こしても誰かに気付かれる前に事を収めることができそうだからだ。
現に転移魔術でいきなりここに飛んできても、街の誰にも見られることはなかった。
カイルはさっそくここでの目的を達成するべく、狭い道のど真ん中で魔導書を手元に召喚した。というよりも、むしろ彼の体を動かしているものの本体が姿を現したといった方が適切なのだろう。
今のカイルはもう昔のカイルではない。元々は薄緑だった綺麗な瞳も、今や血を求める残虐な赤色に変わっている。そのせいで元の面影を無くした彼は、ゴスリック王国で集めた魂によって増幅された魔力で、求めているものを探知する魔術を改めて発動した。
本来は水晶玉のような補助的な道具を使用するこのような探知系の魔術でも、カイルはそれなしで難なく術を発動した。すると確かに、この国に求めているものの波動を感じ取ることができた。
ところがそれは微かな反応で、しかも何かが濁っているような不思議な感覚がカイルを襲う。おかしいと彼が感じたそのとき、鈍い衝撃が右肩に突き当たった。
集中のために瞑っていた目をゆっくりと開けると、素行の悪そうな労働者の男がカイルを睨み付けている。白いシャツは土か何かの汚れで完全に煤けており、茶色のズボンももれなく汚れている。
微かに漂ってくる臭いは、空気に触れて古くなった油の独特な臭い。恐らくランタンに使うためのものだろう。
「おい兄ちゃん、そんな道のど真ん中につっ立ってたら邪魔じゃねえか。肩がぶつかっちまったし迷惑なんだよ」
雑に顎髭を生やした男は敵意を隠そうともせずガラガラ声で難癖をつけてきた。喋ると見える口元は黄ばんでいて、歯がいくつか欠けている。
歯の欠けは喧嘩によるものか、それとも食生活によるものか定かではないが、生まれは良いとは言えそうもない。この男は立ち止まっていたカイルに自分からぶつかってきて、わざわざ絡んできたのだ。
確かに道の真ん中で立ち止まっていたのは良くないのだろうが、別にカイルの横を通ろうと思えば簡単に通れるくらいの道幅はある。つまり相手の男は、何か気に入らないことがあるとすぐに喧嘩を吹っ掛けるような性格の持ち主なのだ。
早速面倒事に巻き込まれたカイルは、人間の意志を感じさせない、しかしそれでいて物恐ろしい目つきで男を見る。すると一瞬その目つきに動揺した男。だがすぐに何か言うことはねえのか? と性懲りもなくカイルに絡んできた。
男はポケットに手を突っ込んで首を傾げながら、斜め下からカイルを睨み上げている。あまりのしつこさにカイルが思わず溜め息をつくと、それを挑発と取ったのか、労働者の男は勢いよくカイルの胸ぐらに掴みかかった。
「おい、喧嘩売ってんのか?」
だがその言葉の直後、男は力なく地面に倒れた。男の首はあり得ない角度にゴキリと曲がり、糸の切れた操り人形のような無機質さで地面に落ちている。
《念動》
瞬殺され、労働者の男の体から抜け出た魂は、カイルの左手に現れた黒い本の中に吸収されていく。
「汚い手で触るな、下衆が」
カイルは冷たい怒りを滲ませた声でそう吐き捨てると、男の死体を避けながらどこかを目指して歩きだした。
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