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第三章 足掻き、突き進む者

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 崩落都市の城下。階段を下りていくと一段と周りが暗くなってくる。明かりを召喚する魔術で辺りを照らしながら、アマデウスは湿気の強くなっている地下へと進む。

 下水道が付近にある影響か、水の滴る音が綺麗な高温となって届いてくる。水に濡れるのも覚悟しつつ思い切って足を踏み入れれば、そこは湿った黒い岩の床の上。濡れているためか壁も黒く、緑の苔が生えているところもある。

 しばらく誰も出入りしていないためか松明はもう火の粉を失っており、先に進めば地上の灯りは届かず真っ暗闇になっている。文字通り手探りで辺りを調べれば、アマデウスは階段を下りたところから進んだ先、右手の方に通路を発見する。

 その先がどれくらい続くかを調べるため、彼はもう一つ光源を創り出してできるだけ遠くまで飛ばしてみた。

 すると思いのほか近くの方でその光源は壁にぶつかった。それを基に具体的な距離を頭の中で思い浮かべている間、それと時を同じくして、左右にあったらしい監獄の一室、左奥の部屋から反応がある。

 メラメラと燃える炎が真っ暗な闇に赤黒炎を放ち、さらに同時に鎖のような鉄の何かが破壊される音が水音をかき消した。破壊によって生まれた小さな破片は、光源の影となって通路に散ばる。

 何事かと構えるアマデウスの前に現れたのは、地獄の炎を全身に纏った人型の何か。全てが赤黒い炎に包まれているため、それが人なのかすらわからないが、一つ言えることはこの生物が敵だということだった。咄嗟に魔術障壁を張るアマデウスの元に黒くて赤い炎が、その殺意を示すが如く襲いかかる。

 苛烈に障壁にぶつかるそれは辺りにとてつもない熱気を放ち、ジリジリとあらゆるものを焦がし始めた。岩の壁すらも燃やす炎に対処しながら、アマデウスは何とか反撃に出る。

大河の奔流ラージリバーズ・トレント

 アマデウスの足元から湧き上がる透き通った水が、まるで山のような高さまで宙を登り、炎を呑み込まんと進撃した。洪水を引き起こすほどの大量の水が地下通路に満たされ、アマデウスの前方一面のすべてのものを流し去る。

 そうして役目を終えた水は何事もなかったかのようにどこかに引いて、そして消えた。炎は消え去ったかと思われたが、勢いはやや衰えたものの怪物の赤黒い炎は未だ燃え続けていた。

 あれだけの水に呑まれなお炎が燃えることなど、通常はあり得ないが、世界の違う炎ならばそれはあり得る話であった。

「これだけの水を受けてもやはり燃え続けるか。それなら手は一つだな」

 相手の炎の揺らめきが強くなりはじめ、次の攻撃が来ようとするとき、いきなり炎の怪物の足元に魔法陣が展開される。強大な魔力がそれを覆い、発動までそれが続くと一気に周囲が冷気に包まれる。

凍てつく棺フリーズ・コフィン

 その魔術はカイルが使っていたものと同じ、現界の魔導書の魔術であった。

 きちんと効果を発揮したそれは地獄の眷属すらも瞬時に氷で覆いつくし、地獄界の炎ごと、完全に封印することを成し遂げた。すべてを焼き尽くす炎にアマデウスの魔力が打ち勝ったのだ。

 強力な魔導書の力をこっそり保有していた大賢者は、大義を成し遂げて盛大にその場にへたり込む。

「はあ、しんど……」

 先の魔術で魔力が切れたために、彼は地上で休憩した後。なんと地下の監獄の中から地獄界の魔導書を発見した。それはあの眷属が守っていたようで、左奥の独房にあった。

 赤と金で彩られた表紙の魔導書にはしっかりと古代文字で地獄界の魔導書と記されている。

 アマデウスはそれを小脇に抱えつつ、魔導書が暴発したことで呼び出されてしまった地獄の眷属を一掃して逃げるように帰るのだった。
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