36 / 37
第四章 集結する思い
君臨
しおりを挟む
教壇の真上に戻ったカイルは興奮の入り混じった声色で呟く。
「ついに揃った……。さあ我が魔導書たちよ、今こそその力を結集し、世界を統べるとしよう!」
カイルの周囲にいつの間にか魔導書達が姿を現して結集し、浮遊しながらそれぞれの色の輝きを放つ。現界の魔導書は青紫に。冥界の魔導書は紫色。地獄界の魔導書は赤色。魔界の魔導書は緑色。そして最後の神界の魔導書は白く発光し、それぞれの魔導書から天上へと、5筋の光線が立ち昇る。
やがて光を放出しきった魔導書はやがて光を失い、消え去ってしまった。だが同時に消えた五筋の光の中心、カイルの持つ黒い魔導書の真上の空からキラキラと淡い光の粒が舞い降りた。
魔導書に乗っ取られた哀れな青年、カイルの体は粉雪のように降る光の中で倒れるが、黒い魔導書のそばには別の何かが形成されていく。神の降臨。まさにその言葉がふさわしい現象が起こり、神々しい姿がそこに立ち現れた。
人間に近い姿だが、背中には四つの白い翼。透き通った白い肌が眩い。だがその存在を形容するには神々しいだけでは済まされない。
空気が震え、その存在は白く輝き辺りを淡く照らしている。それなのにその存在には悪魔のもののような先端の尖った尻尾が生え、頭にも二本の角がある。
しかもその外側の闇は蠢き、自然の魔力が闇を支配していた。ディルクは人類が一度たりとも見たことがない超越者の姿を目の当たりにした。これが世界を突き動かすもの。これが生命を超え、自然のありとあらゆるもの、森羅万象を司るものだとディルクは自然と悟る。
圧倒的存在の前に、ディルクはその場に固まった。小さな人間一人が何をしようとも、何かを変えることなどできない。それを嫌でも直感したのかもしれない。
そして今、その存在に黒い魔導書の意志が――無情にも宿った。光とも影ともわからない何かがその存在に絡まり、一体化し、そして目の色を変えた。白かった眼の光が深紅に染まる。それは邪悪な魔術師だったカイルの目の色と同じ。
そうして黒い魔導書は役目を終えて、その真下に転がった。その音を機に、世界の君主が動き出す。歩むこともなくフワリと舞って、聖堂の出入り口に静かに向かう。そこにディルクが懸命に立ちはだかった。畏怖、恐怖、無力感。彼の体を固めたすべてを払って懸命に。
だがそれは一瞬の出来事。これ以上ない血飛沫が、ディルクの体を赤々と濡らした。どこが切られたのかもわからぬまま、ディルクは倒れる。
彼の体は右肩から左腰にかけて完全に切断されてもう動かない。その真上を悠々と通って、君主はゆっくりと進んでいく。世界の終りか、はたまた新たな世界の始まりに向かって突き進む。
ところが君主の眼前に突如魔力の壁が現れる。そしていつの間にかディルクが、アマデウスが、そして聖女が一斉に立ち上がった。それを為したのは――教壇の前に倒れていたカイルだった。その目は深紅ではなく、微かな緑色。理性を感じる人間の瞳だった。
【ヤツを止めるぞ!】
今までカイルが発していたのとは違う声。でもやはり同じ人物の面影を持つ声は、三人を奮い立たせた。元は敵のカイルだが何故かその場の者たちはカイルに従うように君主に立ち向かった。
アマデウスは微かに残った知識を使って現界の魔導書の魔術の詠唱を、聖女も同じく神界の魔導書の魔術を使用する。そしてカイルは5界の魔導書すべての魔術を駆使して君主の魔導書を止めにかかった。
【電雷なる破壊光】
カイルが世界の君主に向けて空中に展開した魔法陣は青紫から瞬時に青白く閃く。そこから雷の砲撃とも言える巨大な雷が光を散らしながら大きく轟く。明滅する稲光は聖堂内を照らし、世界の君主を撃ち抜いた。
それをその身に受けてもなお、世界の君主は平然としているが、体には雷の青いスパークがところどころで火花を散らしている。続いてアマデウスが巨大な岩を生み出して自在に操り、一つのものを形作る。
【大地の大斧】
世界の君主の真上から振り下ろされる、規格外の大きさの斧。それは凄まじい衝撃音と共に受け止められる。
見れば世界の君主が片手を上げてその進行を止めていた。受け止められた斧はその先から崩壊し、ボロボロに崩れて消え去った。
消えた大斧の遮られた視界の先にいたのはディルク。彼は剣をその手に握り、世界の君主に豪速で向かう。世界の君主はその彼に風の魔術で幾千の斬撃を放つ。
不可視の刃は幾度となくディルクを襲ったが、すべて彼に届く前に弾かれた。微かに見える聖女の白い魔力が、彼を守っている。
あっという間に世界の君主と相対したディルクの剣が変質する。暗くも神秘的な緑。それが剣全体を覆い、荒々しい質感へと変わった。
全ての魔導書の力を結集して生まれた力。その一端で変質した神断ち剣が振るわれる。横に振り抜いた斬撃は躱されるも、そのまま回転して勢いがついた突きが世界の君主を真っ直ぐ捉えた。
ザンッと肉体ではない何かを突き刺す音。それの後は時が止まったかのように聖堂内が静まりかえる。ディルクが剣の柄を離した直後、世界の君主は黒い光と白い光が絡み合った両方の光を上方に解き放ちながら、その存在を消滅させていく。
その中にあった黒い意志もまた、それと共に空中へと霧散し始めた。そしてみるみるうちに、いつの間にか蔓延っていた重々しい空気が薄らいでいく。
そして清らかな聖堂の雰囲気が戻りつつあったとき。この一瞬の時を以て、世界の変革をもたらすはずだった世界の君主は完全に消え去ったのだ。
「ついに揃った……。さあ我が魔導書たちよ、今こそその力を結集し、世界を統べるとしよう!」
カイルの周囲にいつの間にか魔導書達が姿を現して結集し、浮遊しながらそれぞれの色の輝きを放つ。現界の魔導書は青紫に。冥界の魔導書は紫色。地獄界の魔導書は赤色。魔界の魔導書は緑色。そして最後の神界の魔導書は白く発光し、それぞれの魔導書から天上へと、5筋の光線が立ち昇る。
やがて光を放出しきった魔導書はやがて光を失い、消え去ってしまった。だが同時に消えた五筋の光の中心、カイルの持つ黒い魔導書の真上の空からキラキラと淡い光の粒が舞い降りた。
魔導書に乗っ取られた哀れな青年、カイルの体は粉雪のように降る光の中で倒れるが、黒い魔導書のそばには別の何かが形成されていく。神の降臨。まさにその言葉がふさわしい現象が起こり、神々しい姿がそこに立ち現れた。
人間に近い姿だが、背中には四つの白い翼。透き通った白い肌が眩い。だがその存在を形容するには神々しいだけでは済まされない。
空気が震え、その存在は白く輝き辺りを淡く照らしている。それなのにその存在には悪魔のもののような先端の尖った尻尾が生え、頭にも二本の角がある。
しかもその外側の闇は蠢き、自然の魔力が闇を支配していた。ディルクは人類が一度たりとも見たことがない超越者の姿を目の当たりにした。これが世界を突き動かすもの。これが生命を超え、自然のありとあらゆるもの、森羅万象を司るものだとディルクは自然と悟る。
圧倒的存在の前に、ディルクはその場に固まった。小さな人間一人が何をしようとも、何かを変えることなどできない。それを嫌でも直感したのかもしれない。
そして今、その存在に黒い魔導書の意志が――無情にも宿った。光とも影ともわからない何かがその存在に絡まり、一体化し、そして目の色を変えた。白かった眼の光が深紅に染まる。それは邪悪な魔術師だったカイルの目の色と同じ。
そうして黒い魔導書は役目を終えて、その真下に転がった。その音を機に、世界の君主が動き出す。歩むこともなくフワリと舞って、聖堂の出入り口に静かに向かう。そこにディルクが懸命に立ちはだかった。畏怖、恐怖、無力感。彼の体を固めたすべてを払って懸命に。
だがそれは一瞬の出来事。これ以上ない血飛沫が、ディルクの体を赤々と濡らした。どこが切られたのかもわからぬまま、ディルクは倒れる。
彼の体は右肩から左腰にかけて完全に切断されてもう動かない。その真上を悠々と通って、君主はゆっくりと進んでいく。世界の終りか、はたまた新たな世界の始まりに向かって突き進む。
ところが君主の眼前に突如魔力の壁が現れる。そしていつの間にかディルクが、アマデウスが、そして聖女が一斉に立ち上がった。それを為したのは――教壇の前に倒れていたカイルだった。その目は深紅ではなく、微かな緑色。理性を感じる人間の瞳だった。
【ヤツを止めるぞ!】
今までカイルが発していたのとは違う声。でもやはり同じ人物の面影を持つ声は、三人を奮い立たせた。元は敵のカイルだが何故かその場の者たちはカイルに従うように君主に立ち向かった。
アマデウスは微かに残った知識を使って現界の魔導書の魔術の詠唱を、聖女も同じく神界の魔導書の魔術を使用する。そしてカイルは5界の魔導書すべての魔術を駆使して君主の魔導書を止めにかかった。
【電雷なる破壊光】
カイルが世界の君主に向けて空中に展開した魔法陣は青紫から瞬時に青白く閃く。そこから雷の砲撃とも言える巨大な雷が光を散らしながら大きく轟く。明滅する稲光は聖堂内を照らし、世界の君主を撃ち抜いた。
それをその身に受けてもなお、世界の君主は平然としているが、体には雷の青いスパークがところどころで火花を散らしている。続いてアマデウスが巨大な岩を生み出して自在に操り、一つのものを形作る。
【大地の大斧】
世界の君主の真上から振り下ろされる、規格外の大きさの斧。それは凄まじい衝撃音と共に受け止められる。
見れば世界の君主が片手を上げてその進行を止めていた。受け止められた斧はその先から崩壊し、ボロボロに崩れて消え去った。
消えた大斧の遮られた視界の先にいたのはディルク。彼は剣をその手に握り、世界の君主に豪速で向かう。世界の君主はその彼に風の魔術で幾千の斬撃を放つ。
不可視の刃は幾度となくディルクを襲ったが、すべて彼に届く前に弾かれた。微かに見える聖女の白い魔力が、彼を守っている。
あっという間に世界の君主と相対したディルクの剣が変質する。暗くも神秘的な緑。それが剣全体を覆い、荒々しい質感へと変わった。
全ての魔導書の力を結集して生まれた力。その一端で変質した神断ち剣が振るわれる。横に振り抜いた斬撃は躱されるも、そのまま回転して勢いがついた突きが世界の君主を真っ直ぐ捉えた。
ザンッと肉体ではない何かを突き刺す音。それの後は時が止まったかのように聖堂内が静まりかえる。ディルクが剣の柄を離した直後、世界の君主は黒い光と白い光が絡み合った両方の光を上方に解き放ちながら、その存在を消滅させていく。
その中にあった黒い意志もまた、それと共に空中へと霧散し始めた。そしてみるみるうちに、いつの間にか蔓延っていた重々しい空気が薄らいでいく。
そして清らかな聖堂の雰囲気が戻りつつあったとき。この一瞬の時を以て、世界の変革をもたらすはずだった世界の君主は完全に消え去ったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる