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莉子の巻 2
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そう言いたいのに、その言葉がなかなか出てこない。
頑張って話そうとするが、それでねの
その字も出てこない。
僕の強張っている顔を見た莉子は
「こうちゃん、どうかしたの?」
そう声を掛けてくれるが、おかしく思われてもいけない。
ここは一旦引き下がろうと
「いや、なんでもないよ」
「そう、なら良いんだけど
私、仕事しないといけないから、ごめんね」
そう言うと足早にオーナー夫人の元へと歩いて行った。
莉子の後ろ姿を目で追いながら、何故こんな簡単な言葉が出てこないのかと、歯痒かった。
しかしこのまま引き下がる訳にはいかない。
なんとかしないと、そういう思いが頭の中でぐるぐる回る。
莉子はまだオーナー夫人と話をしている。
さすがに仕事の打ち合わせをしている最中に話しかける訳にもいかない。
しばらく様子を見ようと僕は他の本のコーナーに移動した。
移動した本のコーナーで本を眺めていると本棚の反対側で莉子が本の整理をしはじめた。
本棚越しに話をするのも憚ったのでしばし待つことにする。
しばらくすると莉子がこちら側のコーナーに移動して来た。
「あら、こーちゃん、何かお目当ての本があった?」
「うーん、僕はこの本が好きでね」
和久峻三作の赤かぶ検事奮戦記という本を取り上げてそう言った。
「あ、その本知ってる。テレビ化された小説だよね。確か赤かぶ漬けが好きな検事さんの話だよね」
「そうそう、名古屋弁を喋る検事さんの法廷ミステリー。見たことある?」
「うん。何回か見たことあるよ」
「僕も面白くて何回も見てる。小説もほぼ全巻揃えたしね」
「うんうん。面白かった。そんなに小説持ってるんだね。良かったら今度貸してね」
「もちろん良いよ。また持ってくるよ」
「うん。楽しみにしてるね」
莉子が話に乗ってきたのでこれは行けると思った。
「ねぇ。莉子、実は、はな」
と言い掛けた所で、オーナー夫人が莉子を呼びつけた。
「ごめん。また後でね」
莉子の後ろ姿を目で追いながら深いため息をついた。
もう少し時間があれば、莉子に想いを伝えられたかも知れないと思うと残念で仕方なかった。
しかし仕方なかったで済ます訳にはいかない。
今回僕は告白するにあたり秘策を用意していた。
たまたまではあるが映画のチケットを2枚貰い物で持っていた。
映画の題名は「銀河鉄道の夜」
宮沢賢治著の本をアニメ化した作品であった。以前その本を読んだ事があるが難解で理解するのが難しかった。
確か中学か高校の授業で出てきた作品なので、莉子も知ってるはずだ。
多分映画がやってるのも知っているだろう。
莉子はこう言う映画が好きだとも思う。
悪い言い方をすれば映画のチケットをエサに莉子を釣り上げようと言う事だ。
しかしこの後、なかなか莉子が近くに来ない。
オーナーも出てきているようで、話をしながら作業をしている。
これでは映画に誘って告白しようとしている僕にはかなり辛い。
莉子の行く先を追っていくのもスマートではない気がする。
そんなこんなで時間だけが過ぎていく。
ジリジリしていると莉子が僕のいる本のコーナーに近づいてきた。
これぞ天の助けだ。いざ誘おうとした途端、僕の胸の鼓動が凄まじい勢いで増加していく。
「どうしたの。こーちゃん、何か良い本あった?」
莉子から声をかけてくれた。
僕は全身が固まった様にギクシャクと体を動かして莉子の方を向いた。
パクパクと口を動かしたが声が出ない。
映画のチケットがあるんだけど、一緒に行かない?
と言うセリフがどうしても出ない。
一生懸命声を出そうとすると、ますます変になっていく。
しかし、この機会を見逃す訳にはいかない。
勇気を振り絞って何とか声を絞り出した。
「映画のチケットが2枚あるんだけど、良かったら一緒に行かない?」
声が裏返っていた。
莉子は気付かないと言う様に、こう答えてくれた。
「何の映画?」
「銀河鉄道の夜って映画なんだけど」
「あ、それ観たいと思ってたの。いついく予定?」
「明日行きたいけど、都合はどう?」
「明日かぁ」
頼むOKと言ってくれ。
頑張って話そうとするが、それでねの
その字も出てこない。
僕の強張っている顔を見た莉子は
「こうちゃん、どうかしたの?」
そう声を掛けてくれるが、おかしく思われてもいけない。
ここは一旦引き下がろうと
「いや、なんでもないよ」
「そう、なら良いんだけど
私、仕事しないといけないから、ごめんね」
そう言うと足早にオーナー夫人の元へと歩いて行った。
莉子の後ろ姿を目で追いながら、何故こんな簡単な言葉が出てこないのかと、歯痒かった。
しかしこのまま引き下がる訳にはいかない。
なんとかしないと、そういう思いが頭の中でぐるぐる回る。
莉子はまだオーナー夫人と話をしている。
さすがに仕事の打ち合わせをしている最中に話しかける訳にもいかない。
しばらく様子を見ようと僕は他の本のコーナーに移動した。
移動した本のコーナーで本を眺めていると本棚の反対側で莉子が本の整理をしはじめた。
本棚越しに話をするのも憚ったのでしばし待つことにする。
しばらくすると莉子がこちら側のコーナーに移動して来た。
「あら、こーちゃん、何かお目当ての本があった?」
「うーん、僕はこの本が好きでね」
和久峻三作の赤かぶ検事奮戦記という本を取り上げてそう言った。
「あ、その本知ってる。テレビ化された小説だよね。確か赤かぶ漬けが好きな検事さんの話だよね」
「そうそう、名古屋弁を喋る検事さんの法廷ミステリー。見たことある?」
「うん。何回か見たことあるよ」
「僕も面白くて何回も見てる。小説もほぼ全巻揃えたしね」
「うんうん。面白かった。そんなに小説持ってるんだね。良かったら今度貸してね」
「もちろん良いよ。また持ってくるよ」
「うん。楽しみにしてるね」
莉子が話に乗ってきたのでこれは行けると思った。
「ねぇ。莉子、実は、はな」
と言い掛けた所で、オーナー夫人が莉子を呼びつけた。
「ごめん。また後でね」
莉子の後ろ姿を目で追いながら深いため息をついた。
もう少し時間があれば、莉子に想いを伝えられたかも知れないと思うと残念で仕方なかった。
しかし仕方なかったで済ます訳にはいかない。
今回僕は告白するにあたり秘策を用意していた。
たまたまではあるが映画のチケットを2枚貰い物で持っていた。
映画の題名は「銀河鉄道の夜」
宮沢賢治著の本をアニメ化した作品であった。以前その本を読んだ事があるが難解で理解するのが難しかった。
確か中学か高校の授業で出てきた作品なので、莉子も知ってるはずだ。
多分映画がやってるのも知っているだろう。
莉子はこう言う映画が好きだとも思う。
悪い言い方をすれば映画のチケットをエサに莉子を釣り上げようと言う事だ。
しかしこの後、なかなか莉子が近くに来ない。
オーナーも出てきているようで、話をしながら作業をしている。
これでは映画に誘って告白しようとしている僕にはかなり辛い。
莉子の行く先を追っていくのもスマートではない気がする。
そんなこんなで時間だけが過ぎていく。
ジリジリしていると莉子が僕のいる本のコーナーに近づいてきた。
これぞ天の助けだ。いざ誘おうとした途端、僕の胸の鼓動が凄まじい勢いで増加していく。
「どうしたの。こーちゃん、何か良い本あった?」
莉子から声をかけてくれた。
僕は全身が固まった様にギクシャクと体を動かして莉子の方を向いた。
パクパクと口を動かしたが声が出ない。
映画のチケットがあるんだけど、一緒に行かない?
と言うセリフがどうしても出ない。
一生懸命声を出そうとすると、ますます変になっていく。
しかし、この機会を見逃す訳にはいかない。
勇気を振り絞って何とか声を絞り出した。
「映画のチケットが2枚あるんだけど、良かったら一緒に行かない?」
声が裏返っていた。
莉子は気付かないと言う様に、こう答えてくれた。
「何の映画?」
「銀河鉄道の夜って映画なんだけど」
「あ、それ観たいと思ってたの。いついく予定?」
「明日行きたいけど、都合はどう?」
「明日かぁ」
頼むOKと言ってくれ。
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