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1.旅立ち編
第10章 始まりの終わり
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これ程長い1週間をクラウディアは知らなかった。あれからマクシミリアンとは会っていない。王宮を訪ねても「殿下にはお会いできません」と返されるだけだし、手紙を出しても返事は来ない。父や兄からは、そろそろ学園に戻れと言われたが、それはそれでアレックスに再会するのも心の準備がいるし、こちらの問題が片付かなければ次の問題に着手する気分にはなれなかった。
そうこうしているうちに、ようやくマクシミリアンから返事が届いた。「再調査の件はどうにかなりそう。というか、毎日何度も何度も言いに行って父上も根負けしたみたい。初めて口にした時は怖かったけど、一度言ってしまえば開き直ることができたよ。父上に『お前はもっとおとなしい子だと思ってた』と言われた。あと、一度家に戻ることになったから、悪いけど一緒に着いてきて欲しい。まだやりのこしたことがあるんだ」
「殿下はいつの間に一人でおうちに帰れない子供になったんですの? わたくしは保護者じゃなくてよ?」
クラウディアはほっとすると同時に呆れたが、「やり残したことがある」という一文が気になったので了承せざるを得なかった。元はと言えば、クラウディアが巻き込んだ話だ。最後まで付き合わねばなるまい。
マクシミリアンの邸宅に戻る途中で二人は色々な話をした。
「もしかしたらですけれど、殿下の推理が違っていたとしたらどうするおつもりですか?」
「その時はその時だなあ。だってもう動き出しちゃったもの。でもこれ以外に全てを説明できないと思うんだ。違っていたとしても、父上には過去に囚われないで、未来のために動いて欲しかった。母上の亡骸を調べなおすというのは重い決断だったはずだ。それを僕のためにやってくれた。それだけでもとても嬉しい」
この王子は何も考えていないようで実際のところ色々考えている。父親である国王ですら息子の素質を見誤っていたのではないか。それに臆病で弱虫かと思えば、ふてぶてしいほどどっしり構えているところもある。「ダメ王子」「落ちこぼれ王子」というレッテルはどこから来たのだろう。
クラウディアがそんなことを考えているうちにマクシミリアンの邸宅に着いた。邸宅というには慎ましやかな建物だったが、戻って来たらますます小さく見えた。建物は何も変わってないから、変わったのはマクシミリアンの方なのかもしれない。
「お帰りなさいませ。坊ちゃま」
まるで何事もなかったかのようにいつもと同じ事務的な調子でシーモア夫人が出迎えた。まるで機械のような人だ。初めて会った時から、クラウディアはこの夫人が苦手だった。こんな人とずっと一緒に暮らしてきたマクシミリアンは一体どんな気持ちだったのだろう。
「ただいま。今回は急にいなくなってすまなかった。迷惑をかけて申し訳ない」
「ご無事に戻って下さってよかったです。長旅でお疲れでしょう。さあこちらへ。クラウディア様もどうぞ」
本当に心配していたならば、もっと他に言うことがあるのではないか。しかし、マクシミリアンは慣れっこなのか、何事もなかったかのように受けた。二人は初めてクラウディアが訪問した時と同じ部屋に通された。シーモア夫人がいつものお菓子とお茶を持ってくる。本来ならそこで下がるところだが、マクシミリアンが「シーモア夫人、話があるので椅子に座ってくれないか」と声をかけた。
いつもと違う展開にクラウディアは驚いたが、シーモア夫人は何食わぬ顔で「では失礼いたします」と椅子に腰かけた。
「改めて、あなたに無断で家を出たことは申し訳なかった。初めてだったのでとても驚いたと思う。僕は父上に会いに王都へ向かった。そこで母上の死の真相について父と話したんだ」
「さようでしたか。殿下が書置きを残して姿を消された時はとても驚きました。ご無事に戻って来て下さってとても安心しております」
安心したと言いながら、あくまで事務的な口調を崩さなかった。
「母上の話題が出たことについては何も思わないの?」
「私は一介の使用人でございますから。陛下と殿下の親子の会話に口を挟む権利はありません」
「僕の方からあなたに話をしたいんだ。頼むから聞いてくれ」
「かしこまりました」
「もうじき、母の遺体の再調査の結果が届くと思う。おそらく死因はニガラヒマリソウの急性中毒だ。アレックスの母親であるミランダ夫人のものを誤って飲んでしまったと僕は考えている」
「そうですか」
「他に何か言うことは? あなたがずっと仕えてきたシンシア妃のことだよ」
「原因がどうであれ、私は現在に至るまでお仕えしていることは変わりがないし、あのお方が戻ってこられるわけではありませんから」
話がおかしい。シンシアが既に亡くなっていることは知っているのに今でも仕えているとはどういう意味なのだ?
「あなたはこのことについて既に知っていたんでしょう? でもどこで知ったの? どうして誰にも言わなかったの? それがずっと疑問だった」
聞いていたクラウディアははっとした。一方、シーモア夫人は何も言わないまま席を立つと部屋を出て行った。やがて戻ってくると一通の手紙を持ってきた。
「ミランダ夫人が死の間際にこのような手紙を国王陛下宛に寄こしました。私は偶然それを知り陛下の手に渡る前に自分で保管しました。それで真相を知ったのです」
中身を読むと、最後の力を振り絞ったようなたどたどしい筆跡で,
『あの日いつもの薬を飲み忘れたことに気がついて、自分のお茶に数滴垂らした。すると急用で呼ばれてそのままになってしまった。そこへ水遊びから戻って喉が渇いていたシンシアが間違えて飲んでしまった。その時は気づかなかったが、後で自分のものだと思ったお茶が薬の味がしなかったから変だと思った。後日シンシアが帰宅してから容体が急変したと知って間違いに気づいた』
と書かれていた。それだけではなく、ミランダ夫人はこのことをすぐに夫であるサイモン殿下に報告していた。サイモン殿下は大層ショックで兄にも報告できず、事の重大さに耐え切れず自殺したとも書かれていた。手紙の末尾には『取り返しのつかないことをしてしまい、ずっと苦しんできた。あの時自分がすぐに薬を飲んでいれば親友を失うことはなかったのに。病弱で社交的でない自分と仲良くなってくれたシンシア妃はとても大事な友人だった。その最愛の人を亡くした罪は消えることはないが、死期が迫っている今、ようやく長い苦しみから解放される。あの人と同じところに行けるか分からないが、もし死後の世界で会えたら謝りたい』とあった。
手紙を読み終えたマクシミリアンは、ゆっくりと視線を上げて、シーモア夫人に向き直った。
「母とアッシャー帝国に忠実なあなたが、母の死について納得しているようだったから、何かを知っているんだろうとは疑っていた。でもどうして手紙を誰にも見せなかった? すぐに父上に見せるべきだったのでは?」
「私がお仕えしているのはシンシア様のみです」
シーモア夫人の声が一段高くなった。
「国王陛下でもなく、殿下でもなくシンシア様のみが私の主人です。この手紙を陛下に見せたところで、シンシア様が生き返るわけではございません。同じ理由で帝国側にも知らせておりません。シンシア様は私のもの、だから私の胸の内に秘めておこうと思いました。それに陛下は、シンシア様が異国で苦しんでいたにも関わらず何の対策もしてこなかった。私が知らせる義務はありません」
「なっ、何を言ってるのあなたは! さっきから聞いていればシンシア様シンシア様とそればかり。あなたが今お仕えしているのはマクシミリアン殿下よ。殿下にとって何が重要かを考えて動くのが臣下というものじゃないの!?」
クラウディアは堪らず口を挟んだ。
「あなたに何が分かるんですか! 敵国に輿入れされて天涯孤独だったシンシア様のご苦労は大変なものでございました! 陛下はご自身の愛情で彼女を守れると思ったようですが、見えないところでは嫌がらせを受けていました。唯一ミランダ夫人と意気投合できて仲を深めていたのに、その親友が原因で命を落としたなんて余りにもひどいじゃないですか! 私はマール王国全てを憎みました。陛下もミランダ夫人も何もかも。マクシミリアン殿下のこともアッシャー帝国へ移られた方が幸せだったと思います。妃殿下亡き後もここに残ったのはその可能性を捨てなかったからです」
クラウディアは反論しようとしたが、マクシミリアンが手で制した。
「何となく分かっていたよ。あなたが仕えているのは今でも母上であって僕ではないことを。それでも大きなケガや病気なくここまで成長できたのはあなたのお陰だ。今までありがとう。これからは自分の人生を生きなさい。全ては終わったんだ。僕はここを出て学園に入学する」
それだけ言うと、マクシミリアンは立ち上がり部屋を出て行った。クラウディアも慌てて着いて行った。
「あーっ! これで全部終わった。すっきりした!」
マクシミリアンは外まで出たところで大きく体を伸ばして深呼吸した。
「これでよかったんですの? シーモア夫人は知ってたのに黙っていたというのは、放置できないと思いますわ」
「別にいいよ。夫人もずっと過去に縛られていたんだ。これでみんな解放されたと思えばそれでいいじゃないか。僕も学園に行けるんだし」
「殿下はずっと孤独でしたのね……それなのに真っ直ぐ成長なさったのが奇跡のようですね……」
クラウディアがしみじみ言うと、マクシミリアンは少し恥ずかしそうに鼻を搔いた。
「まあその分趣味の植物に没頭できたとも言えるし。そのお陰でクラウディアに会えたと思えば、まあまあ悪くなかったよ」
マクシミリアンはそう言うが、これまで孤独で恵まれなかったからクラウディアという蜘蛛の糸に縋ったのだろう、と思った。彼の横顔がまぶしいのは、太陽の光に照らされているからだけではない。初めて会った時より、希望と期待に満ちた清々しい笑顔をしていた。
それから更に2週間ほど経ち、シンシアの死因が判明した。マクシミリアンが推測した通り、シンシアの遺体からニガラヒマリソウの成分が検出された。国王もマクシミリアンの学園への入学を許可した。ようやく止まっていた時計が回り始めたのだ。
そうこうしているうちに、ようやくマクシミリアンから返事が届いた。「再調査の件はどうにかなりそう。というか、毎日何度も何度も言いに行って父上も根負けしたみたい。初めて口にした時は怖かったけど、一度言ってしまえば開き直ることができたよ。父上に『お前はもっとおとなしい子だと思ってた』と言われた。あと、一度家に戻ることになったから、悪いけど一緒に着いてきて欲しい。まだやりのこしたことがあるんだ」
「殿下はいつの間に一人でおうちに帰れない子供になったんですの? わたくしは保護者じゃなくてよ?」
クラウディアはほっとすると同時に呆れたが、「やり残したことがある」という一文が気になったので了承せざるを得なかった。元はと言えば、クラウディアが巻き込んだ話だ。最後まで付き合わねばなるまい。
マクシミリアンの邸宅に戻る途中で二人は色々な話をした。
「もしかしたらですけれど、殿下の推理が違っていたとしたらどうするおつもりですか?」
「その時はその時だなあ。だってもう動き出しちゃったもの。でもこれ以外に全てを説明できないと思うんだ。違っていたとしても、父上には過去に囚われないで、未来のために動いて欲しかった。母上の亡骸を調べなおすというのは重い決断だったはずだ。それを僕のためにやってくれた。それだけでもとても嬉しい」
この王子は何も考えていないようで実際のところ色々考えている。父親である国王ですら息子の素質を見誤っていたのではないか。それに臆病で弱虫かと思えば、ふてぶてしいほどどっしり構えているところもある。「ダメ王子」「落ちこぼれ王子」というレッテルはどこから来たのだろう。
クラウディアがそんなことを考えているうちにマクシミリアンの邸宅に着いた。邸宅というには慎ましやかな建物だったが、戻って来たらますます小さく見えた。建物は何も変わってないから、変わったのはマクシミリアンの方なのかもしれない。
「お帰りなさいませ。坊ちゃま」
まるで何事もなかったかのようにいつもと同じ事務的な調子でシーモア夫人が出迎えた。まるで機械のような人だ。初めて会った時から、クラウディアはこの夫人が苦手だった。こんな人とずっと一緒に暮らしてきたマクシミリアンは一体どんな気持ちだったのだろう。
「ただいま。今回は急にいなくなってすまなかった。迷惑をかけて申し訳ない」
「ご無事に戻って下さってよかったです。長旅でお疲れでしょう。さあこちらへ。クラウディア様もどうぞ」
本当に心配していたならば、もっと他に言うことがあるのではないか。しかし、マクシミリアンは慣れっこなのか、何事もなかったかのように受けた。二人は初めてクラウディアが訪問した時と同じ部屋に通された。シーモア夫人がいつものお菓子とお茶を持ってくる。本来ならそこで下がるところだが、マクシミリアンが「シーモア夫人、話があるので椅子に座ってくれないか」と声をかけた。
いつもと違う展開にクラウディアは驚いたが、シーモア夫人は何食わぬ顔で「では失礼いたします」と椅子に腰かけた。
「改めて、あなたに無断で家を出たことは申し訳なかった。初めてだったのでとても驚いたと思う。僕は父上に会いに王都へ向かった。そこで母上の死の真相について父と話したんだ」
「さようでしたか。殿下が書置きを残して姿を消された時はとても驚きました。ご無事に戻って来て下さってとても安心しております」
安心したと言いながら、あくまで事務的な口調を崩さなかった。
「母上の話題が出たことについては何も思わないの?」
「私は一介の使用人でございますから。陛下と殿下の親子の会話に口を挟む権利はありません」
「僕の方からあなたに話をしたいんだ。頼むから聞いてくれ」
「かしこまりました」
「もうじき、母の遺体の再調査の結果が届くと思う。おそらく死因はニガラヒマリソウの急性中毒だ。アレックスの母親であるミランダ夫人のものを誤って飲んでしまったと僕は考えている」
「そうですか」
「他に何か言うことは? あなたがずっと仕えてきたシンシア妃のことだよ」
「原因がどうであれ、私は現在に至るまでお仕えしていることは変わりがないし、あのお方が戻ってこられるわけではありませんから」
話がおかしい。シンシアが既に亡くなっていることは知っているのに今でも仕えているとはどういう意味なのだ?
「あなたはこのことについて既に知っていたんでしょう? でもどこで知ったの? どうして誰にも言わなかったの? それがずっと疑問だった」
聞いていたクラウディアははっとした。一方、シーモア夫人は何も言わないまま席を立つと部屋を出て行った。やがて戻ってくると一通の手紙を持ってきた。
「ミランダ夫人が死の間際にこのような手紙を国王陛下宛に寄こしました。私は偶然それを知り陛下の手に渡る前に自分で保管しました。それで真相を知ったのです」
中身を読むと、最後の力を振り絞ったようなたどたどしい筆跡で,
『あの日いつもの薬を飲み忘れたことに気がついて、自分のお茶に数滴垂らした。すると急用で呼ばれてそのままになってしまった。そこへ水遊びから戻って喉が渇いていたシンシアが間違えて飲んでしまった。その時は気づかなかったが、後で自分のものだと思ったお茶が薬の味がしなかったから変だと思った。後日シンシアが帰宅してから容体が急変したと知って間違いに気づいた』
と書かれていた。それだけではなく、ミランダ夫人はこのことをすぐに夫であるサイモン殿下に報告していた。サイモン殿下は大層ショックで兄にも報告できず、事の重大さに耐え切れず自殺したとも書かれていた。手紙の末尾には『取り返しのつかないことをしてしまい、ずっと苦しんできた。あの時自分がすぐに薬を飲んでいれば親友を失うことはなかったのに。病弱で社交的でない自分と仲良くなってくれたシンシア妃はとても大事な友人だった。その最愛の人を亡くした罪は消えることはないが、死期が迫っている今、ようやく長い苦しみから解放される。あの人と同じところに行けるか分からないが、もし死後の世界で会えたら謝りたい』とあった。
手紙を読み終えたマクシミリアンは、ゆっくりと視線を上げて、シーモア夫人に向き直った。
「母とアッシャー帝国に忠実なあなたが、母の死について納得しているようだったから、何かを知っているんだろうとは疑っていた。でもどうして手紙を誰にも見せなかった? すぐに父上に見せるべきだったのでは?」
「私がお仕えしているのはシンシア様のみです」
シーモア夫人の声が一段高くなった。
「国王陛下でもなく、殿下でもなくシンシア様のみが私の主人です。この手紙を陛下に見せたところで、シンシア様が生き返るわけではございません。同じ理由で帝国側にも知らせておりません。シンシア様は私のもの、だから私の胸の内に秘めておこうと思いました。それに陛下は、シンシア様が異国で苦しんでいたにも関わらず何の対策もしてこなかった。私が知らせる義務はありません」
「なっ、何を言ってるのあなたは! さっきから聞いていればシンシア様シンシア様とそればかり。あなたが今お仕えしているのはマクシミリアン殿下よ。殿下にとって何が重要かを考えて動くのが臣下というものじゃないの!?」
クラウディアは堪らず口を挟んだ。
「あなたに何が分かるんですか! 敵国に輿入れされて天涯孤独だったシンシア様のご苦労は大変なものでございました! 陛下はご自身の愛情で彼女を守れると思ったようですが、見えないところでは嫌がらせを受けていました。唯一ミランダ夫人と意気投合できて仲を深めていたのに、その親友が原因で命を落としたなんて余りにもひどいじゃないですか! 私はマール王国全てを憎みました。陛下もミランダ夫人も何もかも。マクシミリアン殿下のこともアッシャー帝国へ移られた方が幸せだったと思います。妃殿下亡き後もここに残ったのはその可能性を捨てなかったからです」
クラウディアは反論しようとしたが、マクシミリアンが手で制した。
「何となく分かっていたよ。あなたが仕えているのは今でも母上であって僕ではないことを。それでも大きなケガや病気なくここまで成長できたのはあなたのお陰だ。今までありがとう。これからは自分の人生を生きなさい。全ては終わったんだ。僕はここを出て学園に入学する」
それだけ言うと、マクシミリアンは立ち上がり部屋を出て行った。クラウディアも慌てて着いて行った。
「あーっ! これで全部終わった。すっきりした!」
マクシミリアンは外まで出たところで大きく体を伸ばして深呼吸した。
「これでよかったんですの? シーモア夫人は知ってたのに黙っていたというのは、放置できないと思いますわ」
「別にいいよ。夫人もずっと過去に縛られていたんだ。これでみんな解放されたと思えばそれでいいじゃないか。僕も学園に行けるんだし」
「殿下はずっと孤独でしたのね……それなのに真っ直ぐ成長なさったのが奇跡のようですね……」
クラウディアがしみじみ言うと、マクシミリアンは少し恥ずかしそうに鼻を搔いた。
「まあその分趣味の植物に没頭できたとも言えるし。そのお陰でクラウディアに会えたと思えば、まあまあ悪くなかったよ」
マクシミリアンはそう言うが、これまで孤独で恵まれなかったからクラウディアという蜘蛛の糸に縋ったのだろう、と思った。彼の横顔がまぶしいのは、太陽の光に照らされているからだけではない。初めて会った時より、希望と期待に満ちた清々しい笑顔をしていた。
それから更に2週間ほど経ち、シンシアの死因が判明した。マクシミリアンが推測した通り、シンシアの遺体からニガラヒマリソウの成分が検出された。国王もマクシミリアンの学園への入学を許可した。ようやく止まっていた時計が回り始めたのだ。
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