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1.旅立ち編
第9章 過去との対決
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クラウディアたちを捕らえた王の部下は二人を離そうとしたが、マクシミリアンは断固として拒絶した。余りの頑固さに部下たちも根負けし、迎えの車に二人で乗り込んだ。
「先ほどは王子らしい物言いができてちょっとびっくりしましたわ。いつの間に習得しましたの?」
前の座席に人がいるので、クラウディアは小声でマクシミリアンにささやいた。
「クラウディアがいなくなった後、ジュリアンから『王子という役になったつもりでやれ』とアドバイスを受けたんだ。それでみんなで王様と家来になりきるごっこ遊びをしてみた。僕の王様がしっくり来ないから、立場を逆転してみたらうまくいった。ジュリアンの王様役を見て真似したんだ」
手紙にあった「王様ごっこ」ってこれだったのね。役に立ったから不問にするけど、ジュリアンが本物の王子を家来にして楽しんだだけなのではとしか思えなかった。
それから、クラウディアはしばらく車窓から街の景色を眺めていたが、ふとマクシミリアンに呼ばれた。
「ねえ、クラウディア。僕はこれから父上にある話をしようと思う。その時に君も一緒にいて欲しい。一人ではどうしても会う勇気がないんだ」
「それはいいですけど、陛下はいつもお優しいのでしょう? 今回のことだって確かに突発的でしたけど、そこまでお怒りになるとは思えませんわ」
「そのことじゃない。無断で王都に来たことはどうでもいい。僕がこれからする話は、必ず父上の逆鱗に触れる内容だ。父上にとっては到底受け入れがたいと思う。それでも自分の進む道を切り開くためにはしなくちゃならない。今まで父が唯一の味方で後ろ盾だった。そんな人の信頼を裏切るのは本当に怖い。だから君にいて欲しい。君と一緒なら何でもできる気がするんだ」
いつの間にか、マクシミリアンはクラウディアの手をぎゅっと握っていた。よく見ると、その手はぶるぶる震えており、緊張のせいかひんやりしていた。表情は硬く、地面のある一点を凝視している。いつもの穏やかでにこにこしている彼とはまるで別人だった。
「大丈夫ですわ。わたくしはずっと殿下のお側におりますからご安心ください」
彼の真剣な頼みを聞いたら承諾する以外の選択肢がなかった。返答を聞いたマクシミリアンは一気に花が咲いたような笑顔になった。この王子には人を惹きつける魅力のようなものがある。周りの人が何かしたくなる、頼みごとをされたら助けてやりたくなる、そんな素質を備えているような気がした。現にクラウディアだけでなく、ジュリアンやグランも味方につけている。生まれながらの王族とはこういうものなのか。
そんなことを考えているうちに、車は王宮に到着した。マクシミリアンは、はっと顔を上げて再び緊張した面持ちになったが、今度はクラウディアの方から「大丈夫」と言いたげに手を握り返した。
マクシミリアンがここに来るのは何年ぶりなのだろう。親子が会う時は殆ど国王が赴くばかりで、息子の方から行くのは、王室の私的な行事だけだ。となると2,3年は来ていないはずである。マクシミリアンの緊張ぶりを見たら、そんなことも聞けなかった。彼は車から降りてからずっと繋いだ手を放そうとしない。彼の心の動揺を想像したらそっとしておくしかなかった。
やがて王のいる部屋に着いた。「陛下がお待ちです」という声を聞いて二人は前へ進んだ。国王は一見いつもと変わらない様子だった。クラウディアが会ったのは婚約破棄があった夜会の後以来である。平常通りという空気が却って恐ろしかった。
「父上、お久しぶりです。この度はご心配をおかけして申し訳ありませんでした」
「しばらく見ないうちに変わったな、マックス。前より元気になったみたいだ。ブルックハースト嬢も先日はすまなかったね。報告を受けて私も気が動転してしまった。今から思うとやり過ぎだったと反省している」
「いいえ、わたくしの方こそ差し出がましい真似をして申し訳なかったと思っております。性急に動かず何らかの事情があると察するべきでした」
「そのことなのですが父上、本日お会いしたかったのは——」
「まず、急にいなくなって屋敷の者に迷惑をかけたことを反省しなさい。シーモア夫人がどれだけ驚いたことか。まさか、書置きを残しておいたから大丈夫と言うんじゃなかろうね?」
「そのようなことは決して。シーモア夫人には後で謝罪します。軽率な行動だったことは反省しています。それより僕は——」
「お前にも反抗期がやって来たと受け止めておくよ。今後はこのようなことをせぬよう厳に慎みなさい。ではこれで——」
「学園に行かせてください!」
たまらずマクシミリアンが叫んだ。しーんと辺りが静まり返る。
「守られるだけなのはもう嫌なんです。僕も他の人と同じように自分の可能性を試してみたい。植物学の研究をしたい。友達を作ってみたい。学生というものをやってみたい!」
「駄目だ!」
ようやく国王が感情を露わにした。これまで抑えていた分が一気に噴出したかのようだった。マクシミリアンとクラウディアはびくりと身体を振るわせた。国王の怒気に触れたことより、ここまでの感情を表に出すところを初めて見たことにクラウディアは衝撃を受けた。
「鏡を見ればなぜ駄目なのか分かるだろう? アッシャーの血を濃く継いだ者はこの国では排除されるのだ! シンシアがそうされたように! お前まで失ったら私はどうすればいい? 頼むから一人にしないでくれ!」
それが息子の自由を奪うことだと国王も分かっているはずである。それでもなお、このままでいてくれと悲痛な訴えをするしかないのがやるせなかった。どちらの訴えも共感できるだけに、クラウディアは胸がつぶれる思いがした。
「そのことですが、もし母上が毒殺されたわけではないとしたら、父上はどう思われますか?」
余りにも意外な展開に、国王もクラウディアもはっと息を飲んだ。マクシミリアンが言っていた大事な話とはこのことなのだろうか。
「何を言ってるんだ? 一体……」
「今も昔も我が国とアッシャー帝国が犬猿の仲であることから、母上は毒殺されたと信じられてきました。しかし原因の毒物は特定されていない。もしそれが毒物でなかったら? とは考えられませんか?」
マクシミリアンが何を言っているか全く理解できない。
「僕は子供の頃、地元の村の小学校に通わせてもらいました。そこでは読み書きだけでなく生活するうえで必要な知恵も教えていて、毒や薬になる植物の見分け方や、病気になった時の薬草の煎じ方なども教わりました。普通の薬は庶民にはまだ高いので、民間伝承による薬草が広く使われているのです。その中に、少量から始めて徐々に慣らさないと害を及ぼす薬があることを学びました」
「何が言いたい?」
「母上が服用したものはそのような類だったのでは、ということです。そして手がかりになるものがもう一つ、母の日記です」
マクシミリアンは肩から提げていたカバンから1冊の日記帳を取り出した。
「これはシンシアの?」
「整理しきれない遺品がうちにあって、母上がいなくて寂しかった僕は、よくそれを漁っていました。その中に日記帳が残されていました。これを見ると、最後の日にサイモン殿下の奥方、ミランダ夫人とお茶をしたことが書かれてます」
図書館でマクシミリアンが調べたのはこのことだったのだ。話が一気に核心に迫ったような感じがして、クラウディアは身を引き締めた。
「日記にはこう書かれています。『今日もミランダのお宅に伺った。今日は持病の心臓病の具合がいいみたいで、表情が明るくてよかった。お庭でお茶とお菓子を頂きながら、合間にボール遊びや川遊びをしたり、お世辞にもマナーがいいとは言えないけど、少女時代に戻ったみたいで沢山はしゃいで笑った。お茶はちょっと変わった味で、ミランダも飲んだとき変な顔をしていたから同じ感想を持ったと思う』この最後の文です。どうしてお茶の味が変わっていたと思われますか? 心臓病に対して民間で使われるニガラヒマリソウという薬草があります。煎じて濃縮して加工したものを服用するのですが、これはいきなり大量に飲むと反対に毒性が強く出るので、少量から始めて身体を慣らす必要があります。そして独特の味がするので、お茶に混ぜると渋みと中和して飲みやすくなると言われています。ミランダ夫人は、重い心臓病を患っており死因もそれでした。一般的な薬だけでは不十分で、ニガラヒマリソウも服用していた可能性があります。そしてお茶に垂らしたそれを、母上が間違って飲んでしまったとしたら?」
「当てずっぽうにも程がある! 大体シンシアが間違って飲んでおかしいと思ったなら、どうしてミランダも変な顔をしたんだ?」
「それは、お茶に薬を入れたはずなのにその味がしなかったからです。代わりに母上が飲んでしまったのです。これは推測ですが、ミランダ夫人はその日薬を飲んでいなかったことに気づいてお茶に入れたが、そのままにしてしまった。そしてボール遊びだか川遊びだかで戻ってきた母が目についたカップを取って飲んでしまった。少女時代に戻ったみたいにはしゃいだとあるから、カップを間違えるほどの状況だったのでは」
「推測だらけで、何一つ証拠がないだろう!」
「ええ、でも薬が効き始める時間と母上が帰宅してからしばらくして苦しみだした時間がちょうど一致するのです。ですからミランダ夫人の当時の使用人に話を聞いてください。夫人はどんな薬を飲んでいたか、その薬草を使ってはいなかったか。もし使っていたとしたら誰が管理していたか。どんな飲み方をしていたか。あともう一つ、これが最も重要ですが」
マクシミリアンは、ここで一息ついて、何かを決意するようにぐっと息を飲んだ。
「母上の亡骸をもう一度調べて、その薬の反応が出てくるか——」
「ふざけるな! シンシアの眠りを覚まして遺体を暴けと言うのか!」
「ですが、決定的な証拠を見つけるには、それしかありません。もし、僕の推論が正しければ、母上は謀殺されたのではないと分かります。事故だったのです。それなら、僕が学園に通うのを妨げる理由はありません」
「なぜ謀殺ではないと言い切れる? ミランダがシンシアを憎んで殺害したという可能性は?」
「それはないと思います。というのも、6歳の頃、一族がここに集まったことがありましたが、その時は父上もお忙しくて僕は独りぼっちでした。その時唯一優しくしてくれたのがミランダ夫人だったのです。どんな会話を交わしたか記憶はおぼろげですが、『お母様にはとてもお世話になったの。シンシアに本当にそっくりね。あなたのことをとても心配していたのよ』と涙ぐみながら何度も言われたのは覚えています。母上を憎んでいたならそんな言葉が出てくるとは思えません」
マクシミリアンはここで一旦言葉を切って、大きく一呼吸おいてから畳みかけるように言った。
「この提案が父上の心の傷をえぐり侮辱するものであることは、十分承知しています。それでも僕は母上が亡くなった理由を知りたい。止まっていた針を動かして、新しい道を進みたいのです。どうかお願いします!」
マクシミリアンは勢いよく頭を下げて、必死に頼み込んだ。彼が長年胸に秘めていたことをようやく吐き出したのだ。これは確かに勇気が要ったに違いない。だが、内容が内容だし、国王がどう出るか全く想像ができない。クラウディアかたずを飲んで見守っていた。
「お前の言うことは分かった。たが今は何も言えない。心の整理ができていない。しばらく考えさせてほしい。その間お前はここに滞在するように。ブルックハースト嬢までご足労かけてすまなかった。どうかこのことはしばらく内密にして欲しい。今日はもう休ませてくれ」
国王はそれだけ言うのが精一杯だった。こちらもこれ以上何も言えなかった。マクシミリアンはそのまま王宮に残り、クラウディアは家まで送ってもらった。そして1週間が経過した。
「先ほどは王子らしい物言いができてちょっとびっくりしましたわ。いつの間に習得しましたの?」
前の座席に人がいるので、クラウディアは小声でマクシミリアンにささやいた。
「クラウディアがいなくなった後、ジュリアンから『王子という役になったつもりでやれ』とアドバイスを受けたんだ。それでみんなで王様と家来になりきるごっこ遊びをしてみた。僕の王様がしっくり来ないから、立場を逆転してみたらうまくいった。ジュリアンの王様役を見て真似したんだ」
手紙にあった「王様ごっこ」ってこれだったのね。役に立ったから不問にするけど、ジュリアンが本物の王子を家来にして楽しんだだけなのではとしか思えなかった。
それから、クラウディアはしばらく車窓から街の景色を眺めていたが、ふとマクシミリアンに呼ばれた。
「ねえ、クラウディア。僕はこれから父上にある話をしようと思う。その時に君も一緒にいて欲しい。一人ではどうしても会う勇気がないんだ」
「それはいいですけど、陛下はいつもお優しいのでしょう? 今回のことだって確かに突発的でしたけど、そこまでお怒りになるとは思えませんわ」
「そのことじゃない。無断で王都に来たことはどうでもいい。僕がこれからする話は、必ず父上の逆鱗に触れる内容だ。父上にとっては到底受け入れがたいと思う。それでも自分の進む道を切り開くためにはしなくちゃならない。今まで父が唯一の味方で後ろ盾だった。そんな人の信頼を裏切るのは本当に怖い。だから君にいて欲しい。君と一緒なら何でもできる気がするんだ」
いつの間にか、マクシミリアンはクラウディアの手をぎゅっと握っていた。よく見ると、その手はぶるぶる震えており、緊張のせいかひんやりしていた。表情は硬く、地面のある一点を凝視している。いつもの穏やかでにこにこしている彼とはまるで別人だった。
「大丈夫ですわ。わたくしはずっと殿下のお側におりますからご安心ください」
彼の真剣な頼みを聞いたら承諾する以外の選択肢がなかった。返答を聞いたマクシミリアンは一気に花が咲いたような笑顔になった。この王子には人を惹きつける魅力のようなものがある。周りの人が何かしたくなる、頼みごとをされたら助けてやりたくなる、そんな素質を備えているような気がした。現にクラウディアだけでなく、ジュリアンやグランも味方につけている。生まれながらの王族とはこういうものなのか。
そんなことを考えているうちに、車は王宮に到着した。マクシミリアンは、はっと顔を上げて再び緊張した面持ちになったが、今度はクラウディアの方から「大丈夫」と言いたげに手を握り返した。
マクシミリアンがここに来るのは何年ぶりなのだろう。親子が会う時は殆ど国王が赴くばかりで、息子の方から行くのは、王室の私的な行事だけだ。となると2,3年は来ていないはずである。マクシミリアンの緊張ぶりを見たら、そんなことも聞けなかった。彼は車から降りてからずっと繋いだ手を放そうとしない。彼の心の動揺を想像したらそっとしておくしかなかった。
やがて王のいる部屋に着いた。「陛下がお待ちです」という声を聞いて二人は前へ進んだ。国王は一見いつもと変わらない様子だった。クラウディアが会ったのは婚約破棄があった夜会の後以来である。平常通りという空気が却って恐ろしかった。
「父上、お久しぶりです。この度はご心配をおかけして申し訳ありませんでした」
「しばらく見ないうちに変わったな、マックス。前より元気になったみたいだ。ブルックハースト嬢も先日はすまなかったね。報告を受けて私も気が動転してしまった。今から思うとやり過ぎだったと反省している」
「いいえ、わたくしの方こそ差し出がましい真似をして申し訳なかったと思っております。性急に動かず何らかの事情があると察するべきでした」
「そのことなのですが父上、本日お会いしたかったのは——」
「まず、急にいなくなって屋敷の者に迷惑をかけたことを反省しなさい。シーモア夫人がどれだけ驚いたことか。まさか、書置きを残しておいたから大丈夫と言うんじゃなかろうね?」
「そのようなことは決して。シーモア夫人には後で謝罪します。軽率な行動だったことは反省しています。それより僕は——」
「お前にも反抗期がやって来たと受け止めておくよ。今後はこのようなことをせぬよう厳に慎みなさい。ではこれで——」
「学園に行かせてください!」
たまらずマクシミリアンが叫んだ。しーんと辺りが静まり返る。
「守られるだけなのはもう嫌なんです。僕も他の人と同じように自分の可能性を試してみたい。植物学の研究をしたい。友達を作ってみたい。学生というものをやってみたい!」
「駄目だ!」
ようやく国王が感情を露わにした。これまで抑えていた分が一気に噴出したかのようだった。マクシミリアンとクラウディアはびくりと身体を振るわせた。国王の怒気に触れたことより、ここまでの感情を表に出すところを初めて見たことにクラウディアは衝撃を受けた。
「鏡を見ればなぜ駄目なのか分かるだろう? アッシャーの血を濃く継いだ者はこの国では排除されるのだ! シンシアがそうされたように! お前まで失ったら私はどうすればいい? 頼むから一人にしないでくれ!」
それが息子の自由を奪うことだと国王も分かっているはずである。それでもなお、このままでいてくれと悲痛な訴えをするしかないのがやるせなかった。どちらの訴えも共感できるだけに、クラウディアは胸がつぶれる思いがした。
「そのことですが、もし母上が毒殺されたわけではないとしたら、父上はどう思われますか?」
余りにも意外な展開に、国王もクラウディアもはっと息を飲んだ。マクシミリアンが言っていた大事な話とはこのことなのだろうか。
「何を言ってるんだ? 一体……」
「今も昔も我が国とアッシャー帝国が犬猿の仲であることから、母上は毒殺されたと信じられてきました。しかし原因の毒物は特定されていない。もしそれが毒物でなかったら? とは考えられませんか?」
マクシミリアンが何を言っているか全く理解できない。
「僕は子供の頃、地元の村の小学校に通わせてもらいました。そこでは読み書きだけでなく生活するうえで必要な知恵も教えていて、毒や薬になる植物の見分け方や、病気になった時の薬草の煎じ方なども教わりました。普通の薬は庶民にはまだ高いので、民間伝承による薬草が広く使われているのです。その中に、少量から始めて徐々に慣らさないと害を及ぼす薬があることを学びました」
「何が言いたい?」
「母上が服用したものはそのような類だったのでは、ということです。そして手がかりになるものがもう一つ、母の日記です」
マクシミリアンは肩から提げていたカバンから1冊の日記帳を取り出した。
「これはシンシアの?」
「整理しきれない遺品がうちにあって、母上がいなくて寂しかった僕は、よくそれを漁っていました。その中に日記帳が残されていました。これを見ると、最後の日にサイモン殿下の奥方、ミランダ夫人とお茶をしたことが書かれてます」
図書館でマクシミリアンが調べたのはこのことだったのだ。話が一気に核心に迫ったような感じがして、クラウディアは身を引き締めた。
「日記にはこう書かれています。『今日もミランダのお宅に伺った。今日は持病の心臓病の具合がいいみたいで、表情が明るくてよかった。お庭でお茶とお菓子を頂きながら、合間にボール遊びや川遊びをしたり、お世辞にもマナーがいいとは言えないけど、少女時代に戻ったみたいで沢山はしゃいで笑った。お茶はちょっと変わった味で、ミランダも飲んだとき変な顔をしていたから同じ感想を持ったと思う』この最後の文です。どうしてお茶の味が変わっていたと思われますか? 心臓病に対して民間で使われるニガラヒマリソウという薬草があります。煎じて濃縮して加工したものを服用するのですが、これはいきなり大量に飲むと反対に毒性が強く出るので、少量から始めて身体を慣らす必要があります。そして独特の味がするので、お茶に混ぜると渋みと中和して飲みやすくなると言われています。ミランダ夫人は、重い心臓病を患っており死因もそれでした。一般的な薬だけでは不十分で、ニガラヒマリソウも服用していた可能性があります。そしてお茶に垂らしたそれを、母上が間違って飲んでしまったとしたら?」
「当てずっぽうにも程がある! 大体シンシアが間違って飲んでおかしいと思ったなら、どうしてミランダも変な顔をしたんだ?」
「それは、お茶に薬を入れたはずなのにその味がしなかったからです。代わりに母上が飲んでしまったのです。これは推測ですが、ミランダ夫人はその日薬を飲んでいなかったことに気づいてお茶に入れたが、そのままにしてしまった。そしてボール遊びだか川遊びだかで戻ってきた母が目についたカップを取って飲んでしまった。少女時代に戻ったみたいにはしゃいだとあるから、カップを間違えるほどの状況だったのでは」
「推測だらけで、何一つ証拠がないだろう!」
「ええ、でも薬が効き始める時間と母上が帰宅してからしばらくして苦しみだした時間がちょうど一致するのです。ですからミランダ夫人の当時の使用人に話を聞いてください。夫人はどんな薬を飲んでいたか、その薬草を使ってはいなかったか。もし使っていたとしたら誰が管理していたか。どんな飲み方をしていたか。あともう一つ、これが最も重要ですが」
マクシミリアンは、ここで一息ついて、何かを決意するようにぐっと息を飲んだ。
「母上の亡骸をもう一度調べて、その薬の反応が出てくるか——」
「ふざけるな! シンシアの眠りを覚まして遺体を暴けと言うのか!」
「ですが、決定的な証拠を見つけるには、それしかありません。もし、僕の推論が正しければ、母上は謀殺されたのではないと分かります。事故だったのです。それなら、僕が学園に通うのを妨げる理由はありません」
「なぜ謀殺ではないと言い切れる? ミランダがシンシアを憎んで殺害したという可能性は?」
「それはないと思います。というのも、6歳の頃、一族がここに集まったことがありましたが、その時は父上もお忙しくて僕は独りぼっちでした。その時唯一優しくしてくれたのがミランダ夫人だったのです。どんな会話を交わしたか記憶はおぼろげですが、『お母様にはとてもお世話になったの。シンシアに本当にそっくりね。あなたのことをとても心配していたのよ』と涙ぐみながら何度も言われたのは覚えています。母上を憎んでいたならそんな言葉が出てくるとは思えません」
マクシミリアンはここで一旦言葉を切って、大きく一呼吸おいてから畳みかけるように言った。
「この提案が父上の心の傷をえぐり侮辱するものであることは、十分承知しています。それでも僕は母上が亡くなった理由を知りたい。止まっていた針を動かして、新しい道を進みたいのです。どうかお願いします!」
マクシミリアンは勢いよく頭を下げて、必死に頼み込んだ。彼が長年胸に秘めていたことをようやく吐き出したのだ。これは確かに勇気が要ったに違いない。だが、内容が内容だし、国王がどう出るか全く想像ができない。クラウディアかたずを飲んで見守っていた。
「お前の言うことは分かった。たが今は何も言えない。心の整理ができていない。しばらく考えさせてほしい。その間お前はここに滞在するように。ブルックハースト嬢までご足労かけてすまなかった。どうかこのことはしばらく内密にして欲しい。今日はもう休ませてくれ」
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