青の魔女の統べる御代で天才魔術師と見る夢は

雑食ハラミ

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52.エピローグ

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「トト、ジュジュ、お料理運ぶの手伝ってー」

レディ・ナタリーがこの日のために借り切ったパーティー会場を所狭しと走り回っていた。

「兄ちゃん、ちゃんと帰って来るかなあ。ここ最近実験が終わらないとかで家にも戻ってないみたいだから」

「今日だけは絶対空けとくように、本人だけでなくダスティンさんにもよく言い含めておいたから大丈夫なんじゃないの? まさか自分の結婚披露パーティーをすっぽかすことはないでしょう?」

「奥さん放ったらかしで実験に没頭するんだもんなあ。よくリリアーナはキレないよねえ」

「あの子もあの子で一度ハマり出すと抜けられない性質だから。いつか自分の施設を持つんだって私の下で必死になって修行してるから気にならないみたいよ」

更に数か月の時が経ち、落ち着いて来た頃だからとビクトールとリリアーナの結婚披露パーティーが開かれることになった。すっかり世事に疎い二人は何も考えてなかったが、「こういう時はお世話になった人への挨拶をするものなのよ」とレディ・ナタリーに説得されたからだ。もっとも、中心になって準備をしてくれたのもレディ・ナタリーで、リリアーナは言われた通り動くだけ、ビクトールに至ってはダスティンと一緒に魔法技術省に泊まり込みで魔法薬の研究にのめりこむ有様だった。

「レディ・ナタリーお久しぶりです。先日はご迷惑をおかけしました。孤児院の方は元通りになりましたか?」

大人の仲間入りをして前より垢抜けた印象のカイルが姿を現した。学生時代に比べて若干髪型や服装が変わり、大人ぽく見せようとしている努力がうかがえる。

「お気遣いありがとう。お陰様でうちの補修代は王室からたっぷりせしめてやったわ。ついでに寄付金も。王太子たちの尻ぬぐいも大変だろうけど、責任はきっちり取ってもらわなきゃ、王家の権威が損なわれるものね」

「ははは、確かに」

カイルは鷹揚に笑ってくつろいだ様子で椅子に腰かけた。魔法技術省入りしたビクトールは、文字通り期待以上の働きをしているという。彼を推薦したギャレット侯爵の株も上がるだろう。父はここまで計算していたのではないかと今になって思う。

「そういえば、ルーク殿下とフローラはどうなったの?」

「フローラの悪事が皆の知るところとなって肩身が狭いらしいですよ。ルーク殿下も、目覚めたら世界が一変していたからびっくりしたでしょうね。噂じゃフローラと一緒になるつもりなら王位継承を考え直すなんて話も出ているくらいで。王位より恋人を取ったらそれはそれで話題になるかな? おまけにフローラの魔力が弱まってるらしい。聖女の能力を邪なことに使っていると、魔力自体が弱まるって聞いたことはあるけど。まあ、俺は取り巻きを卒業できたからどうでもいいですけど」

「うちにいたフローラ親衛隊の女の子たちもすっかり熱が冷めちゃって。フローラを手引きしたデボラって子もすっかり反省して、今やリリアーナを姉のように慕うようになったわ」

「雨降って地固まるってやつですね。散々な豪雨だったけど」

カイルは苦笑した。そしてちょこまかと動くトトとジュジュを見てレディ・ナタリーに尋ねた。

「そういや、弟と妹はどうなったんですか? 自分がいなくては家には置いとけないとか前にビクトールが言ってたけど?」

「ビクトールが新居に移ったので、全寮制の学校に行くことになったの。魔法技術省で働けばそれなりの収入になるし、リリアーナの財産もあるから困ることはないそうよ」

トトとジュジュの様子からは環境の悪い場所で育った子には見えなかった。将来苦労をさせないようにビクトールが手塩にかけて育てて来たのが少し見ただけで分かった。

「それにしても肝心の主役がいないんじゃなあ……あ、やっと来た! こっち、こっち!」

ダスティンに引っ張られながらビクトールが急ぎ足でやって来た。二人とも魔法技術省のローブを着ており、徹夜明けらしく髪はボサボサで目の下には隈ができている。

「お前、晴れの日だってのにそのツラは何だよ! いくら何でもリリアーナに怒られるよ! 何とかしろよ!」

「とりあえず風呂入って来る! リリアーナはまだだよな!?」

慌ててビクトールが部屋の奥に消えていくと、カイルはダスティンを睨みつけた。

「全く、ダスティンさんがいながらこの体たらくは何ですか?」

「俺は魔法薬に関すること以外は自他ともに認めるポンコツだからそんなこと言われても……大体、俺より年下のくせにさっさと結婚するなんて100年早いんだ、あのスケコマシめ」

また他の場所ではもう一個の騒動が起きていた。

「リリアーナ駄目じゃない、主役が今出て来ては。あら、素敵なワンピースね」

レディ・ナタリーは準備を済ませたリリアーナがひょっこり早めに姿を現したのを注意しようとしたが、素敵な衣装に目を細めた。

「ごめんなさい、招待客が到着できてるか気になってつい」

「すごーい! リリアーナお姫様だ!」

トトとジュジュがリリアーナの服装を見て興奮した声を上げた。この日のために、ビクトールが結婚式の時に魔法で変えた服と同じデザインのものを作ってもらったのだ。控えめなAラインのシルエットのワンピースで、裾にパールが縫い付けられており、上半身にはボレロを羽織っていた。

「これ絵本の挿絵で見たことある! 同じデザインだ!」

ジュジュが嬉しそうな声を上げた。寝る前に読み聞かせしてくれる絵本に同じのがあったというのだ。婦人服の知識なんて殆どなかったであろうビクトールが唯一心当たりのあったデザインだったのかもしれない。それを聞いてリリアーナは彼が愛おしくなった。

「ビック、久しぶり!」

そう言って賑やかに入って来たのは、ディーンとライラ、そして踊り子たち。「邯鄲の夢」のメンバーが全員来てくれた。

「ちゃんとたどり着けて良かった。道に迷っていないか心配だったの」

「めでたいのはビックだけじゃないわよ。うちらも……じゃじゃーん!」

ライラはディーンと自分の左手を見せた。薬指におそろいの指輪が光っている。

「ということは……二人ともおめでとう!」

「人生は何が起きるか分からないだろ? それなら悔いが残らないように何でもチャレンジしようと思って」

ディーンは、リリアーナに言われた言葉を引き合いに出してウィンクをした。

「あの時は差し出がましいことを言いました……でも嬉しい」

リリアーナは、ぱっと笑顔を輝かせて、自分のことのように喜んだ。こんなに屈託なく笑える日が来るなんて、ほんの数か月前までは思いもしなかった。

「ビクトールも準備できたわよ! 二人とも並んで! そろそろ始めるわよ!」

和気あいあいとしたパーティーは夜遅くまで続けられた。二人がそれぞれの分野で成功して大きな功績を残すことになるのはまだ先の話である。この時はまだ初々しい夫婦でしかなかった。
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