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第7章 青の魔女は頂上を目指す
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リリアーナは自分の耳を疑った。いきなりこの人は何を言い出すのだ? 彼女は、口をあんぐり開けたまま、ビクトールを穴のあくほど見つめた。
「もちろん、あんたがもうどうでもいいと思ってるなら、この話はナシだけど……どうする? 青の魔女さん?」
「諦めてなんかないわ! 本当に作ってくれるのね!? 後で取り消しはできないわよ?」
「そのために毎日しつこく来たんだろう? ただし条件がある」
「何なの、条件って? 何でも聞くわ」
身を乗り出して聞こうとするリリアーナを、ビクトールはうっとおしそうに避けた。
「証拠が残らない毒薬の存在は300年前の文献に記述がある。しかし、詳しい材料や配合までは書かれていない。もし書いてあったら禁断の書として魔法技術省の図書館に厳重に保管されるだろうが、そんな本は実在しないと思う。なぜなら、もし実在すれば、既に誰かが作って実用化されてるはずだが、その形跡はないからだ」
「材料も作り方も分からないなら、手も足も出ないじゃないの。そこからどうするの?」
「分からないなら自分で発見すればいい。証拠が残らないようにする作用機序はいくつか解明されている。他の薬にも応用できるはずだ。それらをうまく組み合わせれば、理論上は可能だと思う。ただ一つ問題がある」
「問題、と言うと?」
「材料が恐ろしく高価だ。金銭的な意味だけでなく、希少すぎて実在するのか怪しいと言われている物すらある。それを全部集めるだけでも奇跡に近い」
「可能性がゼロでないなら挑戦する価値はあるわ。その希少な材料というのを教えて」
リリアーナは俄然やる気が出て来た。困難が立ちはだかるほど燃えるタイプなのだ。
「ルリノハタテアカリという標高の高い岩山の隙間にしか生息しない植物だ。しかも新月の日に咲いた花しか効果がない」
ルリノハタテアカリ? リリアーナは、聞いたこともない名前を聞いて顔をしかめた。
「そんな名前の植物聞いたことないわ」
「だから希少と言っただろう。魔法技術省にもあるかどうか疑わしいと思う。薬の材料としても殆ど使われることはないから。昔の文献を漁ってちらほら名前が出るくらいだ」
「分かったわ。公爵家の情報網を使って探し出して見せるわ。見つかったら持ってくるわね」
リリアーナは、昼食も食べずに勢いよく部屋を出て行った。その後ろ姿を複雑な表情を浮かべながら、ビクトールは見送った。何週間か経ってリリアーナはそれっぽいものを持って来た。しかし、どれもことごとく外れだった。
「これじゃ駄目だ。ルリノハタテアカリによく似ているが、別の種類の植物だ。岩山に生えているのも同じだが、標高が低いところにも生息している」
がっかりしたリリアーナは肩を落として部屋を出て行った。そしてまたしばらく経って新しいものを持って来た。
「ルリノハタテアカリであることは確かだが、新月じゃないと駄目だと言っただろう。これはその条件を満たしていない。期待した反応が起こらない」
「どうしてどれもこれも違うの? 法外な報酬を払ったのよ? いくら私でも破産してしまうわ!」
同様のことが何度も繰り返された。さすがのリリアーナもお手上げだ。今までどんな高価なものでも手に入らなかったことはない。だから今回の件もどうにかなるだろうと軽く考えていた。ここまで難しいものだとは予想してなかったのだ。
「遥か東洋の昔話に、余りにも求婚者がしつこいのでわざと無理難題を言って追い払った姫がいたそうだけど、それと同じじゃないでしょうね!?」
「自分がしつこい自覚はあるのか。少しは成長したな。それはともかく、ルリノハタテアカリ自体滅多にない物だから仕方がない。しかも新月という条件が付くと限りなくゼロに近くなる。人に任せているとズルをして、新月関係なく花が咲いていれば採取してしまうだろうな。すぐにバレるもんじゃないし。よほど魔力が強くないと本物を見極めるのは難しい。まあ、それだけ不可能に近いってことだよ」
「でもルリノハタテアカリは確かにあって、新月も定期的に起きるわけでしょう? それなら新月の日に咲く花だって必ず存在するはずだわ。こうなったらもういい!」
リリアーナはそう言うと、憤然として部屋を出て行った。どうせまた懲りずに来るのだろうとビクトールは思ったが、予想に反してその日を境にリリアーナは姿を現さなくなった。あれだけしつこかった彼女も、とうとう諦めたらしい。
これでよかったはずだ。元の平穏な日々を取り戻したのだから、また実験に没頭できる。ビクトールは自分にそう言い聞かせた。寂しくなんかないはずだ。それなのに心がぽっかり空いたような、寒々しい風が吹きすさぶような感覚を覚えるのが不思議でならなかった。
そのまま数か月が経過した。ビクトールは、いつものように廃校舎の一角で秘密の魔法薬の調合をしていた。そこへ足音を立ててやって来る人の気配を感じた。
「ビクトール! 私よ、リリアーナよ! ここを開けてちょうだい!」
ビクトールはびっくりして思わず言われた通りドアを開けてしまった。そこにはリリアーナが立っていた。久しぶりの彼女は、最後に会った時と大分違っていた。公爵令嬢というのに、手は生傷だらけで、足には包帯を巻いている。余りの変貌ぶりにビクトールは言葉を失った。
「新月の日に取って来たわ! ルリノハタテアカリよ! 今度こそ偽物なんて言わせない。これで材料は揃ったでしょう?」
リリアーナは小さな花が入ったガラスの小瓶をビクトールの鼻先に突きつけた。
「ちょっと待ってくれ。一体これはどうしたんだ? どうやって手に入れた?」
ビクトールは動揺を隠せなかった。リリアーナが久しぶりにやって来たのも驚きだが、彼女が手にしているのは確かに条件に合ったルリノハタテアカリだったからだ。魔力の強い彼は一瞬見ただけで本物だと分かった。
「他人任せだと騙されてばかりだから、自分で取りに行ったのよ。標高の高い岩山と新月の日を調べて、しらみつぶしに登ったの。大変なんてもんじゃなかったわ、死ぬかと思った。お陰で体ががっしりしたわ。たおやかな公爵令嬢は卒業ね」
あっけらかんと笑うリリアーナを、ビクトールは黙って見つめた。人を殺す計画をしているのになぜ彼女はこんなに明るく輝いているのだろう。リリアーナという人間が空恐ろしく思えると共に、今まで味わったことのない感情がビクトールの中で湧き出た。胸の奥から突き動かされるような衝動、いても立ってもいられない感情。これは一体何なのだろうか。ふと、彼は杖を取り出し、リリアーナの怪我したところに当て、低い声で呪文を唱えた。すると、彼女の怪我がたちまち治った。
「怪我が治った……ありがとう! 治癒の魔法も使えるなんて知らなかったわ。これなら聖女なんていらないわね!」
「ごく軽いものだけだ、それに誰に対してもできるものではない。治癒魔法専門の聖女には敵わないよ」
なぜか顔をしかめながら言うビクトールの声は暗く沈んでいた。
「……本当は、まだ王太子のことが好きなんじゃないか? そうでなければ、どうしてここまで本気になるんだ? 殺したいほど好きってことなんじゃないか?」
それを聞いたリリアーナはきょとんとした表情になった。
「あんなバカ王子そこまでの価値はないわよ。誰も成しえなかったことをしたいだけ。バレたらバレたで、私は稀代の悪女として歴史に名を残すじゃない? それも悪くないわ。あなたのことは内緒にしておくから安心して。あとは……そうね、あなたの本気を見てみたい」
リリアーナは宝石のようにらんらんと輝く青の瞳でビクトールの黒い目を覗き込んだ。
「……俺の本気?」
「そう、天才魔術師のあなたの本気を間近で見たい。私が用意した最高の材料で、あなたが前代未聞の秘薬を作り上げるの。世紀の偉業が見捨てられた廃校舎で行われるのよ。ゾクゾクしない?」
ビクトールは唾をごくりと飲み込んだ。頭の冷静な部分では、彼女の甘言に惑わされてはいけないと警告していたが、世界の片隅で、未来のない、誰にも顧みられない、何者にもなれない二人が、どんな大魔術師でも成しえなかった大発明を密かに成功させるのは甘い誘惑だった。この息苦しい世界に一矢報いてやりたいという気持ちは常に彼の中にもくすぶっていたのだ。
「……分かった。約束するよ、完璧な毒薬を作ってやる。俺のプライドにかけて」
ビクトールの声は静かだったが、固い決意が込められていた。それを聞いたリリアーナは、満面の笑みで「ありがとう!」と抱き着かんばかりに喜んだ。しかし、リリアーナは知らなかった、ビクトールの覚悟がどれだけ深いものなのかを。
「もちろん、あんたがもうどうでもいいと思ってるなら、この話はナシだけど……どうする? 青の魔女さん?」
「諦めてなんかないわ! 本当に作ってくれるのね!? 後で取り消しはできないわよ?」
「そのために毎日しつこく来たんだろう? ただし条件がある」
「何なの、条件って? 何でも聞くわ」
身を乗り出して聞こうとするリリアーナを、ビクトールはうっとおしそうに避けた。
「証拠が残らない毒薬の存在は300年前の文献に記述がある。しかし、詳しい材料や配合までは書かれていない。もし書いてあったら禁断の書として魔法技術省の図書館に厳重に保管されるだろうが、そんな本は実在しないと思う。なぜなら、もし実在すれば、既に誰かが作って実用化されてるはずだが、その形跡はないからだ」
「材料も作り方も分からないなら、手も足も出ないじゃないの。そこからどうするの?」
「分からないなら自分で発見すればいい。証拠が残らないようにする作用機序はいくつか解明されている。他の薬にも応用できるはずだ。それらをうまく組み合わせれば、理論上は可能だと思う。ただ一つ問題がある」
「問題、と言うと?」
「材料が恐ろしく高価だ。金銭的な意味だけでなく、希少すぎて実在するのか怪しいと言われている物すらある。それを全部集めるだけでも奇跡に近い」
「可能性がゼロでないなら挑戦する価値はあるわ。その希少な材料というのを教えて」
リリアーナは俄然やる気が出て来た。困難が立ちはだかるほど燃えるタイプなのだ。
「ルリノハタテアカリという標高の高い岩山の隙間にしか生息しない植物だ。しかも新月の日に咲いた花しか効果がない」
ルリノハタテアカリ? リリアーナは、聞いたこともない名前を聞いて顔をしかめた。
「そんな名前の植物聞いたことないわ」
「だから希少と言っただろう。魔法技術省にもあるかどうか疑わしいと思う。薬の材料としても殆ど使われることはないから。昔の文献を漁ってちらほら名前が出るくらいだ」
「分かったわ。公爵家の情報網を使って探し出して見せるわ。見つかったら持ってくるわね」
リリアーナは、昼食も食べずに勢いよく部屋を出て行った。その後ろ姿を複雑な表情を浮かべながら、ビクトールは見送った。何週間か経ってリリアーナはそれっぽいものを持って来た。しかし、どれもことごとく外れだった。
「これじゃ駄目だ。ルリノハタテアカリによく似ているが、別の種類の植物だ。岩山に生えているのも同じだが、標高が低いところにも生息している」
がっかりしたリリアーナは肩を落として部屋を出て行った。そしてまたしばらく経って新しいものを持って来た。
「ルリノハタテアカリであることは確かだが、新月じゃないと駄目だと言っただろう。これはその条件を満たしていない。期待した反応が起こらない」
「どうしてどれもこれも違うの? 法外な報酬を払ったのよ? いくら私でも破産してしまうわ!」
同様のことが何度も繰り返された。さすがのリリアーナもお手上げだ。今までどんな高価なものでも手に入らなかったことはない。だから今回の件もどうにかなるだろうと軽く考えていた。ここまで難しいものだとは予想してなかったのだ。
「遥か東洋の昔話に、余りにも求婚者がしつこいのでわざと無理難題を言って追い払った姫がいたそうだけど、それと同じじゃないでしょうね!?」
「自分がしつこい自覚はあるのか。少しは成長したな。それはともかく、ルリノハタテアカリ自体滅多にない物だから仕方がない。しかも新月という条件が付くと限りなくゼロに近くなる。人に任せているとズルをして、新月関係なく花が咲いていれば採取してしまうだろうな。すぐにバレるもんじゃないし。よほど魔力が強くないと本物を見極めるのは難しい。まあ、それだけ不可能に近いってことだよ」
「でもルリノハタテアカリは確かにあって、新月も定期的に起きるわけでしょう? それなら新月の日に咲く花だって必ず存在するはずだわ。こうなったらもういい!」
リリアーナはそう言うと、憤然として部屋を出て行った。どうせまた懲りずに来るのだろうとビクトールは思ったが、予想に反してその日を境にリリアーナは姿を現さなくなった。あれだけしつこかった彼女も、とうとう諦めたらしい。
これでよかったはずだ。元の平穏な日々を取り戻したのだから、また実験に没頭できる。ビクトールは自分にそう言い聞かせた。寂しくなんかないはずだ。それなのに心がぽっかり空いたような、寒々しい風が吹きすさぶような感覚を覚えるのが不思議でならなかった。
そのまま数か月が経過した。ビクトールは、いつものように廃校舎の一角で秘密の魔法薬の調合をしていた。そこへ足音を立ててやって来る人の気配を感じた。
「ビクトール! 私よ、リリアーナよ! ここを開けてちょうだい!」
ビクトールはびっくりして思わず言われた通りドアを開けてしまった。そこにはリリアーナが立っていた。久しぶりの彼女は、最後に会った時と大分違っていた。公爵令嬢というのに、手は生傷だらけで、足には包帯を巻いている。余りの変貌ぶりにビクトールは言葉を失った。
「新月の日に取って来たわ! ルリノハタテアカリよ! 今度こそ偽物なんて言わせない。これで材料は揃ったでしょう?」
リリアーナは小さな花が入ったガラスの小瓶をビクトールの鼻先に突きつけた。
「ちょっと待ってくれ。一体これはどうしたんだ? どうやって手に入れた?」
ビクトールは動揺を隠せなかった。リリアーナが久しぶりにやって来たのも驚きだが、彼女が手にしているのは確かに条件に合ったルリノハタテアカリだったからだ。魔力の強い彼は一瞬見ただけで本物だと分かった。
「他人任せだと騙されてばかりだから、自分で取りに行ったのよ。標高の高い岩山と新月の日を調べて、しらみつぶしに登ったの。大変なんてもんじゃなかったわ、死ぬかと思った。お陰で体ががっしりしたわ。たおやかな公爵令嬢は卒業ね」
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「ごく軽いものだけだ、それに誰に対してもできるものではない。治癒魔法専門の聖女には敵わないよ」
なぜか顔をしかめながら言うビクトールの声は暗く沈んでいた。
「……本当は、まだ王太子のことが好きなんじゃないか? そうでなければ、どうしてここまで本気になるんだ? 殺したいほど好きってことなんじゃないか?」
それを聞いたリリアーナはきょとんとした表情になった。
「あんなバカ王子そこまでの価値はないわよ。誰も成しえなかったことをしたいだけ。バレたらバレたで、私は稀代の悪女として歴史に名を残すじゃない? それも悪くないわ。あなたのことは内緒にしておくから安心して。あとは……そうね、あなたの本気を見てみたい」
リリアーナは宝石のようにらんらんと輝く青の瞳でビクトールの黒い目を覗き込んだ。
「……俺の本気?」
「そう、天才魔術師のあなたの本気を間近で見たい。私が用意した最高の材料で、あなたが前代未聞の秘薬を作り上げるの。世紀の偉業が見捨てられた廃校舎で行われるのよ。ゾクゾクしない?」
ビクトールは唾をごくりと飲み込んだ。頭の冷静な部分では、彼女の甘言に惑わされてはいけないと警告していたが、世界の片隅で、未来のない、誰にも顧みられない、何者にもなれない二人が、どんな大魔術師でも成しえなかった大発明を密かに成功させるのは甘い誘惑だった。この息苦しい世界に一矢報いてやりたいという気持ちは常に彼の中にもくすぶっていたのだ。
「……分かった。約束するよ、完璧な毒薬を作ってやる。俺のプライドにかけて」
ビクトールの声は静かだったが、固い決意が込められていた。それを聞いたリリアーナは、満面の笑みで「ありがとう!」と抱き着かんばかりに喜んだ。しかし、リリアーナは知らなかった、ビクトールの覚悟がどれだけ深いものなのかを。
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