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小話《時系列関係なし突発短編》
冬の日
しおりを挟む「じゃあ、妾はちょっと出掛けてくるのじゃ!」
「はい、ちょーっとお待ちくださいね?」
すれ違い様に執事にお腹付近に腕を回されて引き寄せられた。そしていつものように抱っこされてジタバタしていると遠くからジェイルが慌てて走ってやってきた。
「あーねーうーえーーっ! 俺を置いて何処に行こうとしたんですか! 声もかけないとかあり得ません!」
いや、あり得るじゃろ……。思わず遠い目をしてしまったが、なにやらまだ下の方でギャンギャンとーー嘘です。執事に抱っこしてもらっても弟に少し見下ろされてます。執事、もう少し。もう少しだけ上の方で抱っこしてくれても全然構わな……あ、はい。ごめんなさい。でもぉ、妾もお年頃じゃしぃ、一人で散歩したいときもあるじゃろ? 説明しなくたって解れよ……と言うエゴを出してみたがダメだったらしい。
「さて、リア様?」
「姉上っ!」
何故だか怒っているお父さんその3と弟に挟まれたクリスタリアは怒られる理由がわからないのでプクッと頬を膨らませた。冬の今は雪を降らすからか厚い雲で日が出てこないために午前中でも気兼ね無く外に出られる。ーーが、いまだにプク~ッと膨らましたままの頬を執事は器用に片手で抱っこしたまま空いた手で両頬を押してプップッとためた空気を物理的に少なくしていった。
「全くいくつになられても可愛いですねぇ……。それで? どこへ出掛けられる予定でしたか?」
「妾、可愛くないのじゃ! ーーじゃなくて、えっと外周を散歩? 領都の外壁と言うか斜堤の外を見ながら歩こうかなって……。んでもって魔物を見つけたら殺ろうかなって……」
その言葉を聞いた執事は周囲にいた侍女達に目配せをすると彼女達は静かに頷き、そして音はたてずに早歩きで去っていった。それに気をとられていると執事は歩き出して暖炉のついたサロンへと歩き出した。もちろん妾は抱っこされたまま。ジェイルは妾の手をガッチリと繋いでいた。……手を繋いでついて来るとか妾の弟はやっぱり可愛い! ホクホクと頬を緩めながら大人しくしていると何故だか2方向から小さくため息が聴こえた。
「さて、リア様はまだ自覚なさってないのですね」
「姉上。どうして俺を散歩に誘ってくれないんですか!」
「え、何の自覚じゃ? それにジェイルはなんか作業してたじゃろ……」
なぜ怒られているのかわからず首をかしげていると執事によって首を元の場所に戻された。……執事よ、お前もかーーなんて思っているとジェイルは顔を真っ赤にしてへなへな~と力無く床に崩れた。
「え、ジェイルっ!?」
「リア様。ジェイル様は心配しなくても大丈夫です。それよりも、どうして外に出ようと?」
外に出たらダメなのかと聞くと「そんなことではない」と間を開けることもなく即答されたので尚更なぜダメなのかと思う。あ、もしかして一人だからか? でも馬のミルキーに乗っていく予定だったから実質一人ではないし……。ちなみにミルキーは産まれたときから可愛がっているアメジール種の綺麗な顔をした一歳の馬である。しかも鬣と尾はサラサラで他の馬よりも何故か長いので鬣は一部分編み込んだ三つ編みなどその日その日でちがく、人の手により強制的なお洒落さんである。でも何だかんだと言ってミルキーは歴とした男の子なのだが……。
「リシャール様。馬番がミルキーにお出掛け仕様のブラッシングをしようとしておりました。とりあえず普通のブラッシングに変更しておきました」
「リシャール様。ルノアール様は本日のお散歩と題したクリスタリア様の外出の事を聞いていないそうです」
「リシャール様。セシリア様方も以下同様です」
さささっと侍女達が裏付けを取ったのか報告をしている。有能じゃけど、今は必要ないと思うのじゃ。何なのじゃ、どうして外に出たらいけないのじゃ! そんなことを思いながらプンプンと怒っていると執事はニッコリと綺麗な笑みを見せた。
「リア様。そんなに運動がしたいのなら中庭でジェイル様と戦ってみては如何ですか?」
「ジェイルと?」
チラリと見るとジェイルは思っても見なかったのか真っ赤だったはずの顔を少し青くしていて、侍女達はさすがはリシャール様! と褒めている。そして楽しみですね~! なんて言いながらお茶の用意をしましょうか! 等と話ながらも何故かキャッキャしている。まぁいつも模擬戦みたいなことをする時は侍女や侍従も仕事をやめて観戦しに来るのだが……。確かに掃除が終わったこの時間は暇なのだろう。そう思いながら渋々妾は頷いた。
「とりゃぁーーっ!」
「甘いわぁーーっ!」
キンッキンッと甲高い金属のぶつかる音が中庭に響く。
片手長剣のジェイルに対して短剣よりもやや長めの双短剣の妾。さすがに使い慣れていない銃剣を可愛い弟に使うことはない。
「あ!」
「え?」
戦いの最中じゃけど良いもの思い付いた! 今年のジェイルのクリスマスプレゼントはこれで決まりじゃな! ……っとと、あぶなーいのじゃ。 ジェイルに殺られるかと思った! 避けたけど。
「ちぇっ……。姉上の姑息な手段への反撃だったのに……」
姑息? あー、そう言えば模擬とはいえ戦闘の最中に「あ!」って、姑息な手段のひとつではあるか……。って、不可抗力~っ! でも結果的にそうなったのは仕方ない。
ぴょんこぴょんこと飛び回りながら確実に仕留めようとするスタイルの妾は足に補助魔法を施している。それは敏捷度が上がったり、ジャンプ力も脚力も一時的にアップしている。対してジェイルは魔法が苦手とまではいかないがあまり使わない。なので妾がジェイルに補助魔法を掛けてそれが消えないように維持もしつつ手合わせをしているのだが……。そう言えばジェイルは魔法は何が使えるのだろうか……。湖の嵩ましは初歩の水魔法なはずだ。……それ以外使ってるのを見たことがない。うーむ、今度密かに鑑定しちゃおうかの……。
「ぅらぁっ!」
長い腕と長剣をいかして横に振るい、それを避けると今度は下から斜めに切り上げるように続けた攻撃をするジェイルにギリギリのところを短剣でカバーしながら受けると急に足に力が入らずガクンっと床に膝をつける。急激に体が重く感じて思わず首をかしげてしまう。
「姉上、大丈夫ですか?」
近寄ってきたジェイルの顔や体がグニャリとうねる。変だな……と、離れたところにいる執事に目をやると一気に視界が変になった。
「あ、あれ? にゃんにゃのにゃ~っ!」
「姉上っ! くっ、こんなときも可愛すぎる!」
にゃんだか視界がぐにゃぐにゃしてるのじゃ……。気持ち悪……。もう一回言っておこう、気持ち悪っ!
そんなことを思っていると執事はゆっくり傍へとやって来て額に手をそっと当てた。執事の手はいつも冷たいのでひんやりとして気持ちが良い。その手は額から頬へと下りて首の裏で最終的に落ち着いた。運動した火照った体には心地良い。
「ふむ、やっと自覚しましたか……。昨日から風邪気味なのに薄着で冬の寒空の下へ行こうとするからですよ」
ん? 自覚だと? しかも風邪気味……? 薄着……。あー、そう言えば今日は何だか暑く感じて薄着だったの……って、妾、もしかして熱あるのかの? 確かに冬にしては今日は暖かいな……と思ったからミルキーと散歩に行こうと思ったのだが……。
「はい、顔が林檎みたいに真っ赤ですよ? さぁ、今日はもう寝ましょうね?」
「やにゃー! やにゃのにゃー! やにゃー!」
「ここぞとばかりにニャーニャー言うんじゃありません!」
こうしてしばらくベッドの住人となるのであった。
END
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