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これでも領主です
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しおりを挟むこの場に残って上から人族の話し合いを見るのは時間の無駄だと思い、一度席を外す事にした。ーー時間の無駄と言うよりもこの場に残ることで人を罰しようとする口だけは達者なようなので、残ることで話が全く進まなそうだーーと言うのが正解だろうか……。
とりあえず弟のジェイルと廊下へ出たのだが今の時期は夜となると思いの外、肌寒い。しかしそれのお陰で空気は清々しいので窓の外を見ると満点の星に仄かに光る月があった。
ーー今日も夜空はとても綺麗じゃなぁ……。
このドアの向こうはなかなかこのような情緒を理解できなさそうな集まりと言うか集団が押し掛けて来ておるのだが……。先程までの騒動を思い出すと若干の憂鬱と疲労感はさすがに否めない。頭痛などないが、現状を言葉で表すなら頭が痛いの一言。数ヵ月前までは人族も普通に楽しそうな顔で暮らしていたはずなのだが……。泥棒にでもあったのか? 静かな廊下で色々と想定していたがこれだと思うものは見つからなかった。
「それにしても姉上、本当に宜しいのですか?」
「……ん? 宜しいってなにがじゃ? 仕事なら後でちゃんとやるが? それとも他に何かあったかの?」
コテン……と、首をかしげて見上げると彼は顔を少し赤らめて慌てていた。
「で、ですから! 人族の者達が出ていく事になっても宜しいのですか?」
「別に引き留める必要などないじゃろ? 領民が出ていくのなら好きにしたらいい。止める必要などあると思うか? 考えても見よ! この領都に何人の民が暮らしていると思う? 人族の人数は把握しているのか? 彼らが出ていったとして支障が出るとでも? 少し寂しくなるくらいじゃろ……」
強いて言えば最近住みたいと見学に来る者が増えているところから察するに彼らが出ていったところですぐに増えるだろう。まぁ、移り住むにしても今回みたいなのはしばらくお断りしたいので鑑定スキルや色んなモノを使って審査しようと思うがな……。
「このアメジールは税金と言っても家と畑含む借地。しかも妾からしてもありえんくらいに破格な賃金だし? それに金では無理じゃろと思うて農作物で若干のレートを高めにして処理してるのじゃからこの地はかなり優しかろ? それ以外に徴収したものは国に納める血税だからの……。こればかりはさすがに正規のレートにしておるよ。それに関しては国民の義務じゃろ? 払えなくても国民である限りは払わなければならんよ。払う気がないと言うのなら潔く国外退去しててもらわねばな。ただ、この領地を出たら逆に地獄じゃろうの……。だがな? 妾は領主として牢屋に入れて王都へ連行する。温情? あるわけなかろう? 非国民じゃぞ? お前も今後のためにもちゃんと覚えておくが良い。それもまた勉強じゃよ。妾は妾の信念で代理をしておる。それは領民、国民ひとりひとりが信念を持って暮らし、生活をしておる。上に立つものはそれを守る義務がある。これはわかるな? でもな? あからさまに誰かを殺そうとしておる輩に守る気など妾にはない。そして今回のように出ていくのならそれはそれで結構。平和とはいえこの辺境の地は国を守る要のひとつ。和を乱すものなど妾は正直要らぬ」
実際、この領地は本当に優しい方だ。
他領の噂では孤児が増えたり、治安の悪化。平民は明日生きれるのかも判らぬ生活を強いられているところもあると聞く。
……が、それに比べて我が領地はどうだ? そもそも平民と呼ぶのを禁じ、一般人がとしている。意味合いは似ているだろうが平民は階級制度では最下位。妾は見下す気はないが平民よりも一般人の方が普通の人と言う意味合いは強いかと思ってそちらを採用している。まぁ、この領の中でのルールだから他のところにいけば平民に変わりない。
そもそも今回、税金が高いとか言っている人族の衣服を見ても着古したようなボロボロになった服ではなく、強いて言えば比較的新目のものだったし、顔や体はガリガリに痩せ細っているわけでもない。明日生きるために必死でもない。毎日辛いと言いながらも笑えてるではないか! 声も出せているではないか! まぁ、些か甘やかしすぎたのやも知れぬがな。
次回、人族が移住したら正規のレートで取引して甘やかすのはやめよう……。
また同じことになるかもしれないし、少し余分に税金を納めさせた方が良いのじゃろうか? だが寿命の短い人族は楽しく過ごしてもらえば良いかと思ってたんだがな……。妾の考えも甘いってことかの……。
ーー実際、人族の彼らがキツいと言ったこの地は農民でも未来を考えて貯蓄しようと思えばどうとでも出来る。
現に宵越しの金は持たない主義らしい人族以外の他の種族に関しては小人族や獣人族、妖精族、魔人族の面々は食べるものなどに対しても独自の知恵を使い、時には恥をーー凌いでるかは判断がつかないが、お互い好き好きに情報の交換をし、余計なものを買わず節約をし、要らないものを売り払っては貯蓄をしているのだろう。まぁ、普通の基準はわからないがそれなりに貯まっているはずだ。使用人の話を聞くには物々交換は当たり前の様に行われているのだそうだ。
領主としては自分の私腹を肥やすために税金をつり上げても良いのだろうが、妾はがめついわけではない。あえて繰り返そう。それに妾は守銭奴ではない。そしてそんなに物欲と言うものもないからの……。あるとしたら知識欲じゃろか……。
「まぁ、この領地の舗装を終えた道は姉上のオリジナルに近い完結した土魔法で工事を行ってますからね。寝ても魔法は完結しているので消えることは一切ないですし……。姉上が消耗した魔力の回復するために購入する薬の価格が領の運営費から引かれるのみです。水路も土魔法ですし、畑の整備も土地の区画分けも全て土魔法ですものね」
「それは岩の切り出し作業やら何やらが本当に危険でかなり面倒なだけなのだがの……。じゃが、ジェイルの水魔法で夏の水不足の時は助かったぞ? 妾、水だけは何故か出せなくてな。しかもここ最近は特に住人が増えて水不足になるのは目に見えてたからの……。生活用水の井戸も助かっておる。さすがは妾の自慢の弟じゃな! 偉い、偉い」
ガシガシと乱暴に頭を撫でるとジェイルは頬を赤くして「姉上がコツを教えてくれたからです」と恥ずかしそうに言うとそのまま頭を撫で続けていたら嬉しそうに大人しくしていた。しかも撫でやすいようになのか頭を差し出してくる始末である。
妾の弟はいくつになっても可愛い。誰がっ! なんと言おうともっ! ジェイルはイケメンだと何度でも言おう! 妾の弟は超可愛いっ!!
ーーあれ? 可愛いはイケメンになるのかの……。
とりあえず話を戻そう。妾達が部屋の移動を一々するのが面倒だったので立ち話も疲れると行儀作法としてはダメな部類だろうが、お互い出窓に腰かけつつ話をしていると気を利かせたメイドが熱い紅茶を入れてくれた。
うん。うちの使用人はやっぱり仕事ができる。
寒いからだろうか、お洒落なティーカップではなくたっぷりと入り、尚且つ保温機能の付いた魔道具のマグカップにミルクティーを入れてくれた。
それに軽く礼を言うと2人の姉弟は恐らく出ていくだろう人族に対し、明日の朝までに必要になるであろう書類の種類などの確認を口頭ではあるが指折りしながら始めたのであった。
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