ミナライの旅

燕屋ふくろう

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正に悪夢

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ベッドに入ってからけっこう経ったけど、眠れない。

最近はこういうことばかりだな…。夢を見ることもあまりなくなった。悪夢を見てないって考えたら良いことなのかもしれないけど、どうせなら村のみんなと会えるような良い夢が見たい。


でも、これは夢なんだろうかって疑問と焦りで胸がいっぱいになって、みんなに近づこうと気が逸って腕が空振って、ぞっとして夢から追い出されそうだ。


しげしげと手を見つめては、頭を抱えて毛布に潜り込むんだろう。なんて悪夢だ…!なんて思って、悔しくて泣きそうになる。そうなる気がする。


良い夢を見られたっていうのに眠れなくなって…今の夢はもう、悪夢でしかないって落ち込む。
正夢か逆夢かと考え事が増えて、夢のせいで寝ることすら怖くなるんじゃないだろうか。


だったら今の方がマシなのかな。

実際、夢に村が出てきたことはある。村の風景が出てきただけで、そこには誰もいなかった。

辛いからって、願い続けてたって、良い夢が見られるわけじゃないらしい。残念っていうか、腹が立つ。


せっかくの、村の夢なのに。イヤな光景が映った訳でも無いのに、目が覚めたときに暗い気分になっていたのがやるせなかった。


村に帰りたいのに、今との差が辛くて村のことを考えたくなくなる。村に居てイヤになったことがないわけじゃないけど、村自体をイヤになったことなんてない。

ただ村にいた夢を見ただけでこんな気持ちになってしまうのがたまらなかった。村に関することなら何でも嬉しくなると思っていたのに。


こんなこと、船長に話しても「村に帰るのがイヤなのか?」って変に受けとるだろうから言えない。

アイツの誘いに乗ったせいで余計に寂しさを感じるようになってるのに、アイツの前では特に平気なふりをしなきゃいけない。船長はめんどうなヤツだ。


何度も寝返りを打ってよくわかった。眠れない。
今日は訳が違う。村に帰れなくて、じゃなくて村のことで悩むなんて。


時々、村の夢を見るのは疲れてるせいなのかも。こうもモンスターばかりだと気を張ることが多くて、あまり寝てない状態だとかなり疲れたまま仕事をしなくちゃいけなくなる。だからってふらふらしてたら船員にいびられるし、早く寝なきゃ…。


眠れないことをこんなに焦ったのははじめてだ。
村にいた時は誰かがおやつをくれて、お母さんが寝かしつけてくれた。お父さんは散歩に連れ出してくれたし、一人で誰にもないしょで家を抜け出した時は海辺で星を眺めてみた。


あの時は星のわずかなきらめきも見逃すまいと見張るような気持ちで空を見つめていた。流れ星を見ることは叶わなかったけど、今でも流れ星を見てみたい思いは変わらない。


…見に行こうかな。


今はそんなことをするのに、ひどく勇気がいるけど。
ここは村よりもっと冷えるし。毛布を体に巻いていけば大丈夫かな?
いやだめだ、毛布が大きすぎて引きずっちゃう。じゃあ枕を持っていこう。今まで寝てたからあったかいし。


なんでこんなに寒いんだろう。ぞくぞくする冷たさが、床板からはい上がってくる。


地下室だと、水の圧のようなものを感じる。光が届かないからうっそうとしているだけかもしれない。
水の中は、昼でも夜みたいに暗い。


甲板に出たって夜だ。夜は静かだから、波の音がよく聞こえるだろう。

怖い。イヤだ。
海の近くに住んでたからって、いついかなる時も平気じゃいられない。


波が押し寄せるたびに船が揺れるのも、水底に吸いこまれそうなほど暗い海も、油のように月を映す海も全てが不気味だった。


夜は空と海の境目がわからない。このまま飲み込まれそうになる。


村の近くの海には月の光がよく届いたのに。
たとえこの船にモンスターが乗っていなかったとしても、自分が一人で村を出るなんて耐えられないし有り得ない。まだ出て行く時期じゃないはずだったのに。


ひどく寂しさを感じながら、ドアノブをさわる。
いざ出ようってなるとど勇気がいる。やめちゃおうかな。でも寝ようとしても「外に出る」っていう冒険が気になって眠れないだろうし…。


考えに考えて、やっとの思いでドアを開いた。やっぱりこのまま寝るのは惜しい。


この船も夜はまた、違う感じがする。

ジブンは昼の船にしか慣れていないから、新しくていけないことをしているようでドキドキした。イビキが聞こえるから一人じゃないのはわかるけど、静かで冷たい空気が流れている。


どれだけ静かに歩いても、ぎぃぎぃと床がきしむ。凄いイビキがしてるから、この程度の音じゃ誰も起きないとは思うけど。

起きたことがバレたところで別にどうってことはない。みんな面倒くさがって船長に告げ口なんてしないだろうし。


でもなんだか、今は誰にも会いたくなかった。こういう時は誰かの相手なんてしたくない。一つ屋根の下に大勢で暮らしてると、こういう時にストレスがかかる。


ジブンはこの船で、一人部屋をもらっている。船員から文句があがったけど、「ミナライはニンゲンで、オマエたちはモンスターだ。お互い、寝るときまで一緒だと気が詰まるだろう?」と船長がなだめて、どうにかなった。


別種族同士が住んでいる時点でおかしいんだから、いっしょに居ない方がストレスが溜まらないというわけだ。
それがわかるならなんでこんなメンバーを集めたんだと思っても、言っちゃいけない。


ジブンは「モンスターなんて」って思ってるし、船員は「ニンゲンなんて」って思ってる。それでも本気でケンカをしないのは船長がうるさいからだ。


ここでの生活を続けるうち、モンスターは面倒なことが本気でキラいなのが良くわかった。この船じゃ船長の存在自体が問題だから、みんな逃げていく。


耐えられるヤツだけが残っていくから、船にはまあまあ話が通じるヤツが揃った。


あとの少しは脱走予備軍だ。予備軍の中にもビビりと、冷やかしで変なことをするヤツとの二つに分かれる。


ビビりはなにもしなくても気付かないうちにいなくなってる。でもヤバいヤツとはよく口論になる。船長が止めに入ることもあるけど…そういうヤツも、気付いたらいなくなってる。
なんでだろう。船長がどうにかしてくれてるのかな。


船長といえば、アイツは船員とのケンカには大抵割って入っている。古株の中には、船長を口ばかりで呆れると言ってたり、船長そのものに怯えてるモンスターもいる。


ジブンも船員も、船長に怯えたり呆れたりで慣れてしまった。それでもまだ、驚く一面が潜んでいるから油断しちゃいけない。


夜の考え事は分が悪い。絶対に不安が勝ってしまう。


甲板に誰もいませんように、と願うけれど、こんなにドキドキしているのはどうしてだろう。もしかしたら誰かがいることを願っているのかもしれない。

村でのように、誰かが慰めてくれるようなことがあるんじゃないかって。いるわけないのに。「子どもは寝てろ」なんて怒られるんじゃないかってドキドキもあって、なかなか足取りが重かった。


やっぱり帰ろうかとも考えたけど、せっかくここまで来たんだから行こう。そのまま階段を上り続ける。

外に出られた。暗い、というか黒い。
星と月以外は見えないほどの暗さだ。とてもじゃないけど、特等席の船首まで行けそうもない。


海も黒い。今いるあたりの海は山に囲まれていて、海に月明かりが届かない。とてつもなく暗かった。自分の近くより遠い空の方が明るいなんて不思議だった。


誰かいるかな、なんて考えてたけどここまで暗いんじゃ誰もいなさそうだ。いたとしても探し回れないし。この暗闇で階段の場所を見失ってしまったら、この寒い中、朝まで震えて待つことになる。


それがいちばん怖いな…やめておこうか。ここから星を眺めるだけにしておこう。


冷たい風と暗闇の中、空を眺める。変わってることを「浮いてる」と言うけれど、今の空がまさにそう思えた。
空が暗いからジブンの周りがこんなにも何も見えないのに、空は明るい。


ここと違って空には誰もいないのに、大勢がひしめきあっているかのようににぎやかだ。

あべこべで、風で頭が冷えてぼんやりした。夢の中に迷い込んだみたいだ。


もう帰ろう。
さっき来たばかりだから惜しいとも思えないほど、ここは寒いから。
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