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船員の剪定 1
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「君も船を降りたら良かったのに。」
そんなことをミナライが言った。
今まで「うるさい!」というような子どもっぽい言い回ししか聞いたことがなかった船員たちは驚いた。あのミナライが、皮肉っぽく悪態をつくなんて…。
現実を教え、それを痛感したことによって成長したのだろうか?…と思った矢先に、ミナライは逃げるようにその場を去っていった。
「…ミナライが、あんな言い方するなんてな。」
「よっぽどだったんだろうね。ねえ、誰かさんのせいで?」
「は!?俺のせいかよ…!」
ビーゾンがのけ反ってまでして驚く。
「わかってないのならもういい。」
「んだよ、オマエらだって同じこと思ってたんだろ!?」
「だからって言わなくても良いことがあるでしょう…。ミナライは変わってしまいましたね。」
「…は、はは、成長したってことじゃねえの?これだけ荒波に揉まれたんじゃ当然だろうさ。別に可笑しなことじゃねえ。…なんだよ、言いたいことあんなら言ってみろよ!」
キャノヤーと狼男に非難の目を向けられるが、ビーゾンは食ってかかる。
「あのね、僕らだってミナライを利用してはいるけどさ。利用する側なりの礼儀があるじゃん。
前までは「うるさい!」って短絡的だったり、皮肉ると言っても「あーあ、誰かさんのせいで!」って苛つき全開だったミナライがさ、君の前では堪えたんだよ。どういうことかわかる?」
「わかんねえだろ。ビーゾンはガキに見限られたんだ。聞いて呆れるぜ。」
「まだ俺が答えてねえだろ!?」
「オマエの考えることくらい誰でもわかる。子どもに見限られて恥ずかしくないのか?」
「な…っ、ニンゲンなんざみんな子どもみたいなもんだろ!?俺はあいつに現実を教えてやったんだよ!お前らだってミナライに臭え演技してたじゃねえか!」
やれやれといった目を向けられるのに耐えかねて、ビーゾンが半ば八つ当たりのように矛を船員たちに向ける。
ミナライの前では、「船員がここで逃げ出すとは思ってもみなかった」という演技をしていたことについてだろう。
「うん、してたよ。確かに責任逃れをしたいっていうのもあるけどさ、僕らはビーゾンとは違ってミナライの精神面を慮ってのことだったよ。」
「はあ…!?俺以外が全員ミナライに献身的かっつうとそうでもないだろ!」
指を刺され、ドラーゴンやドオルが露骨に面倒くさそうな顔をした。
ビーゾン以上にミナライも船長のこともどうでも良く思っていて、それでもうまく隠している船員も一定数存在する。
ミナライへの礼節などありはしないが、事を荒立てまいとする姿勢は保っている。
「言い返せるもんなら言い返してみろ__」
マントマンが目配せをして、ティチュがビーゾンを掴み上げて勢いよく手すりに押し付けた。
大きな音が鳴る。
「何しやがる…放せ!」
「放したら落ちるんじゃないか?」
「別に良いんじゃない?あ、でもビーゾン種って泳げるんだっけ?」
「いえ、波で体が千切れて死ぬでしょうね。」
「わあ、大変だね。」
目の前の光景を対岸の火事のように見つめながら、ビーゾンの今後について感想を述べる。
「なんだよ…お前らそんなにミナライに肩入れしてんのか?その方が可笑しいだろ…!」
「そういうことじゃないって。自分以外のことも尊重しようって話だよ。」
「うるせえ、そんなこと…。」
「黙りなよ。落とされたい?」
ビーゾンは首をひねり、眼下に目をやった。
ティチュはしっかと噛みついて放さないが、ひとたび離れたら海へ真っ逆さまだ。息が荒くなる。
「うるせえな、本当…っ。」
ビーゾンはティチュを押しのけて、船室へ逃げていった。
「あーあ…僕たちもだいぶ船長に似てきたね。」
「ミナライに「船長みたいなことしないで」って言われたんだが…。」
「まあまあ、仕方ないんじゃないですか?」
冷笑も嘲りも含めずに話す。ミナライには決して見せない、いつも通りの言葉。
「みんなはモンスター殺すの初めて?」
「よせよ、そんな話。」
「ああ、そうだね。」
誰ともなく、波風の立たない海を見つめる。
海に何かを求めた訳ではないが、穏やかに漂う海が白けて見えた。
「ミナライが風邪引いた時さ、ほぼ出て行くって知ってたけど…いざいなくなると壮観だね。」
「ああ、まあ、そうか?」
「なんとも思わないの?」
「どうだろうな…驚いてはいるんだが、それも演技なような気がしてきた。」
「わかります、それ。」
その場を去りたくはあるが誰も行動に移せず、演技の反省会のようなものが幕を開ける。
「「自分たちも気づいてなかった」ってことにしておかねえと、船長に告げ口されたら不味いもんな。」
「ビーゾンの奴が言うほど、俺たちもミナライのこと好きな訳じゃないんだよな…。」
「そうそぅ。「助けてやらなきゃ」なんて思いからじゃない。ミナライが船長だけじゃなく船員にまで騙されてるから、哀れに思っただけぇ。」
「いや、そこまでじゃないけど…。」
ドオルの言葉にキャノヤーたちが否定に甘んじるように口ごもった。
「…報告、良いか?ミナライが風邪引いてた時、「村では風邪の時何を食べてたんだ?」って聞いたんだよ。」
「お、村の情報か?やるじゃねえか。」
「あの時は話を聞き出すには絶好の機会だったもんねぇ。」
「バカ、ミナライが聞いてたらどうする…。」
スケルトンはドラーゴンたちの言葉を否定しない。
「で、何だったんだ?」
「果物をすりおろしたものを食べていたらしい。」
「へえ、すりおろすってことはニンゲンの食文化だねぇ。」
「ニンゲンの村に住んでたのはマジっぽいよな。じゃないと生モノが駄目なんて知ってる訳ねえし。」
「だとしたらなんで今一人なのかって話になってしまいますけどね…。」
「結局、その話に帰結しちゃうよね。他には何か言ってた?」
「島に薬草を採りに行った時、船員が船長の出自を聞き出してただろ。そのことをミナライが「知りたい!」って強請られたから一応話したんだ。」
「え、マジぃ?」
ミナライの発達した好奇心と理解力に、何匹かが驚いた。
「ああ。ミナライもそんなに幼稚じゃない。…で、ちゃんと話しはしたんだが、こんな話を聞かせて良いものかとこっちが躊躇ったよ。」
「ミナライはどう反応したんです?」
「別に、どうもしない。普通に応対していた。」
はあ、とドラーゴンが嘆息混じりの声を漏らす。
「ミナライの奴、想像以上に自力で考えてるんだな。」
「僕も驚いたなぁ。船旅中にどれくらい成長したんだろぅ?」
「四面楚歌ですし、そうもなるんじゃないでしょうか?」
ミナライが大人びたことについてそれぞれの意見が交わされるが、ニンゲンのことなどわかるはずもなかった。
「…あれ?俺らってなんで謀反起こしてないんだっけ?」
「なんだよ急に?」
「いや、本当に急に頭に浮かんだんだよ。」
謀反というと、船長への実力行使のことだ。
そんなもの常日頃から考えていても可笑しくない話だが、旅の最中では気づかなかった。海から大陸へと移るに至った今、自分たちの現状を俯瞰すると疑問点として浮き彫りになったのだろう。
「そう言われると何でだろうね…思い出せない。」
「船長の背後を狙える機会は船に乗ってすぐの時からあったのに、だ。長らく過ごして、ミナライには甘かったり、癇癪を起こしがちという情報を得た上で、俺たちは謀反を起こさなかった…。」
ティチュも悩ましげに首をひねっている。
それだけ昔に答えを出した可能性がある話題ということだ。
「俺たちも逃げ出した奴らと同じ気持ちだったんじゃないか?謀反を起こさないのって、一言で表せば「面倒臭い」じゃねえか。」
全員が腑に落ちた顔をした。
「面倒臭い」というのは長く生きたモンスターの代表的な特徴で、もはや自分たちでも取り立てて問題にするほどのことでもなくなっている。
それゆえ、長々と考え事をする前から考えを打ち切っていたのだろう。
行き着く答えが「面倒臭い」なら、考える前から議論の無駄だと直感する。
「ヨロイノボウレイってそもそも倒すの面倒だもんな。防御力も攻撃力も高いし。」
「そうだね……ん?ニンゲンたちには弱いって言われてなかったっけ?」
「短絡的な性格を逆手に取れるからそういう評価になったんだろう。ニンゲンは計画的に動くのが得意だ。」
「ああ、そうだっけな…。」
人間の話になると、誰しもの心に嫌なわだかまりが沈んでいく。
「一番面倒なのはミナライの引取先か。」
「そう、それだ!ミナライから船長がいなくなれば、誰かに引っ付いて来るだろうからね。」
「船長への憐れみが一切生まれなかったのもどうなんだろうな…。」
「いやいや、子どもがここで生き延びてる方が怖い話だって。」
なんとも不思議なことに、ミナライを貶すような談義が弾む。先ほどまで庇ったり褒めたりしていたのが嘘のようだ。
嘘ではないのは船員たちもわかっているが、それでもミナライへの警戒は解けなかった。
「ミナライは船長にそこそこ懐いているから、犯人探しに躍起になるかもしれないしねぇ。大人ならなんとなく察して散開できるけど、子どもはそうはいかないじゃん?」
「我が儘モンスターだもんな。」
「モンスターがモンスターって言ってる…。」
「別に良いだろ。大枠を指す言葉であり、貶す言葉でもあるように作ったのはニンゲンだろ?」
「ニンゲンの言葉って難しぃ。魔王様方はよく習得できたよねぇ。」
「全くだ。ミナライもニンゲンの元で育たなければまともに会話ができていなかっただろう。
ミナライも始めの方は我が儘に見えたが、やがて落ち着いていった。事前に村でに何かあったのか、船での環境の変化に耐えかねて気が立っていたのか…どちらにせよ、あいつは利口だ。」
ミナライの性格についてはなんとなくわかってきた頃だが、過去については全くといって良いほど知らない。
「村が急に消えた」の一点張りだからだ。そんな話なんて誰も信じるはずがない。信じないからこそミナライも船員を信用せず、自身の村での生活を話そうとしないのだ。
とはいえ、甘やかされて育ってきた子どもではないことはこれまでの生活で予想がつく。
時間はかかったとはいえミナライはモンスターとの集団生活に混ざり込めた。まともに育った証と言えるだろう。
「割と、船長の死に対応できるかもしれないけどね。」
「したとしても一人で生きていけないだろ。どんな顛末を迎えたとしても、ミナライの始末なんか誰もやりたがらない。」
「言えてますね。船長を殺しても、面倒がなくなる以上の見返りが無い。むしろもっと面倒になる。…だから我々は誰も謀反を起こさないのでしょうね。
初めてここまで言語化しましたよ。少々スッキリしました。」
「そうかもな…。」
狼男たちは、そこまで考えてミナライに思いを馳せた。
そんなことをミナライが言った。
今まで「うるさい!」というような子どもっぽい言い回ししか聞いたことがなかった船員たちは驚いた。あのミナライが、皮肉っぽく悪態をつくなんて…。
現実を教え、それを痛感したことによって成長したのだろうか?…と思った矢先に、ミナライは逃げるようにその場を去っていった。
「…ミナライが、あんな言い方するなんてな。」
「よっぽどだったんだろうね。ねえ、誰かさんのせいで?」
「は!?俺のせいかよ…!」
ビーゾンがのけ反ってまでして驚く。
「わかってないのならもういい。」
「んだよ、オマエらだって同じこと思ってたんだろ!?」
「だからって言わなくても良いことがあるでしょう…。ミナライは変わってしまいましたね。」
「…は、はは、成長したってことじゃねえの?これだけ荒波に揉まれたんじゃ当然だろうさ。別に可笑しなことじゃねえ。…なんだよ、言いたいことあんなら言ってみろよ!」
キャノヤーと狼男に非難の目を向けられるが、ビーゾンは食ってかかる。
「あのね、僕らだってミナライを利用してはいるけどさ。利用する側なりの礼儀があるじゃん。
前までは「うるさい!」って短絡的だったり、皮肉ると言っても「あーあ、誰かさんのせいで!」って苛つき全開だったミナライがさ、君の前では堪えたんだよ。どういうことかわかる?」
「わかんねえだろ。ビーゾンはガキに見限られたんだ。聞いて呆れるぜ。」
「まだ俺が答えてねえだろ!?」
「オマエの考えることくらい誰でもわかる。子どもに見限られて恥ずかしくないのか?」
「な…っ、ニンゲンなんざみんな子どもみたいなもんだろ!?俺はあいつに現実を教えてやったんだよ!お前らだってミナライに臭え演技してたじゃねえか!」
やれやれといった目を向けられるのに耐えかねて、ビーゾンが半ば八つ当たりのように矛を船員たちに向ける。
ミナライの前では、「船員がここで逃げ出すとは思ってもみなかった」という演技をしていたことについてだろう。
「うん、してたよ。確かに責任逃れをしたいっていうのもあるけどさ、僕らはビーゾンとは違ってミナライの精神面を慮ってのことだったよ。」
「はあ…!?俺以外が全員ミナライに献身的かっつうとそうでもないだろ!」
指を刺され、ドラーゴンやドオルが露骨に面倒くさそうな顔をした。
ビーゾン以上にミナライも船長のこともどうでも良く思っていて、それでもうまく隠している船員も一定数存在する。
ミナライへの礼節などありはしないが、事を荒立てまいとする姿勢は保っている。
「言い返せるもんなら言い返してみろ__」
マントマンが目配せをして、ティチュがビーゾンを掴み上げて勢いよく手すりに押し付けた。
大きな音が鳴る。
「何しやがる…放せ!」
「放したら落ちるんじゃないか?」
「別に良いんじゃない?あ、でもビーゾン種って泳げるんだっけ?」
「いえ、波で体が千切れて死ぬでしょうね。」
「わあ、大変だね。」
目の前の光景を対岸の火事のように見つめながら、ビーゾンの今後について感想を述べる。
「なんだよ…お前らそんなにミナライに肩入れしてんのか?その方が可笑しいだろ…!」
「そういうことじゃないって。自分以外のことも尊重しようって話だよ。」
「うるせえ、そんなこと…。」
「黙りなよ。落とされたい?」
ビーゾンは首をひねり、眼下に目をやった。
ティチュはしっかと噛みついて放さないが、ひとたび離れたら海へ真っ逆さまだ。息が荒くなる。
「うるせえな、本当…っ。」
ビーゾンはティチュを押しのけて、船室へ逃げていった。
「あーあ…僕たちもだいぶ船長に似てきたね。」
「ミナライに「船長みたいなことしないで」って言われたんだが…。」
「まあまあ、仕方ないんじゃないですか?」
冷笑も嘲りも含めずに話す。ミナライには決して見せない、いつも通りの言葉。
「みんなはモンスター殺すの初めて?」
「よせよ、そんな話。」
「ああ、そうだね。」
誰ともなく、波風の立たない海を見つめる。
海に何かを求めた訳ではないが、穏やかに漂う海が白けて見えた。
「ミナライが風邪引いた時さ、ほぼ出て行くって知ってたけど…いざいなくなると壮観だね。」
「ああ、まあ、そうか?」
「なんとも思わないの?」
「どうだろうな…驚いてはいるんだが、それも演技なような気がしてきた。」
「わかります、それ。」
その場を去りたくはあるが誰も行動に移せず、演技の反省会のようなものが幕を開ける。
「「自分たちも気づいてなかった」ってことにしておかねえと、船長に告げ口されたら不味いもんな。」
「ビーゾンの奴が言うほど、俺たちもミナライのこと好きな訳じゃないんだよな…。」
「そうそぅ。「助けてやらなきゃ」なんて思いからじゃない。ミナライが船長だけじゃなく船員にまで騙されてるから、哀れに思っただけぇ。」
「いや、そこまでじゃないけど…。」
ドオルの言葉にキャノヤーたちが否定に甘んじるように口ごもった。
「…報告、良いか?ミナライが風邪引いてた時、「村では風邪の時何を食べてたんだ?」って聞いたんだよ。」
「お、村の情報か?やるじゃねえか。」
「あの時は話を聞き出すには絶好の機会だったもんねぇ。」
「バカ、ミナライが聞いてたらどうする…。」
スケルトンはドラーゴンたちの言葉を否定しない。
「で、何だったんだ?」
「果物をすりおろしたものを食べていたらしい。」
「へえ、すりおろすってことはニンゲンの食文化だねぇ。」
「ニンゲンの村に住んでたのはマジっぽいよな。じゃないと生モノが駄目なんて知ってる訳ねえし。」
「だとしたらなんで今一人なのかって話になってしまいますけどね…。」
「結局、その話に帰結しちゃうよね。他には何か言ってた?」
「島に薬草を採りに行った時、船員が船長の出自を聞き出してただろ。そのことをミナライが「知りたい!」って強請られたから一応話したんだ。」
「え、マジぃ?」
ミナライの発達した好奇心と理解力に、何匹かが驚いた。
「ああ。ミナライもそんなに幼稚じゃない。…で、ちゃんと話しはしたんだが、こんな話を聞かせて良いものかとこっちが躊躇ったよ。」
「ミナライはどう反応したんです?」
「別に、どうもしない。普通に応対していた。」
はあ、とドラーゴンが嘆息混じりの声を漏らす。
「ミナライの奴、想像以上に自力で考えてるんだな。」
「僕も驚いたなぁ。船旅中にどれくらい成長したんだろぅ?」
「四面楚歌ですし、そうもなるんじゃないでしょうか?」
ミナライが大人びたことについてそれぞれの意見が交わされるが、ニンゲンのことなどわかるはずもなかった。
「…あれ?俺らってなんで謀反起こしてないんだっけ?」
「なんだよ急に?」
「いや、本当に急に頭に浮かんだんだよ。」
謀反というと、船長への実力行使のことだ。
そんなもの常日頃から考えていても可笑しくない話だが、旅の最中では気づかなかった。海から大陸へと移るに至った今、自分たちの現状を俯瞰すると疑問点として浮き彫りになったのだろう。
「そう言われると何でだろうね…思い出せない。」
「船長の背後を狙える機会は船に乗ってすぐの時からあったのに、だ。長らく過ごして、ミナライには甘かったり、癇癪を起こしがちという情報を得た上で、俺たちは謀反を起こさなかった…。」
ティチュも悩ましげに首をひねっている。
それだけ昔に答えを出した可能性がある話題ということだ。
「俺たちも逃げ出した奴らと同じ気持ちだったんじゃないか?謀反を起こさないのって、一言で表せば「面倒臭い」じゃねえか。」
全員が腑に落ちた顔をした。
「面倒臭い」というのは長く生きたモンスターの代表的な特徴で、もはや自分たちでも取り立てて問題にするほどのことでもなくなっている。
それゆえ、長々と考え事をする前から考えを打ち切っていたのだろう。
行き着く答えが「面倒臭い」なら、考える前から議論の無駄だと直感する。
「ヨロイノボウレイってそもそも倒すの面倒だもんな。防御力も攻撃力も高いし。」
「そうだね……ん?ニンゲンたちには弱いって言われてなかったっけ?」
「短絡的な性格を逆手に取れるからそういう評価になったんだろう。ニンゲンは計画的に動くのが得意だ。」
「ああ、そうだっけな…。」
人間の話になると、誰しもの心に嫌なわだかまりが沈んでいく。
「一番面倒なのはミナライの引取先か。」
「そう、それだ!ミナライから船長がいなくなれば、誰かに引っ付いて来るだろうからね。」
「船長への憐れみが一切生まれなかったのもどうなんだろうな…。」
「いやいや、子どもがここで生き延びてる方が怖い話だって。」
なんとも不思議なことに、ミナライを貶すような談義が弾む。先ほどまで庇ったり褒めたりしていたのが嘘のようだ。
嘘ではないのは船員たちもわかっているが、それでもミナライへの警戒は解けなかった。
「ミナライは船長にそこそこ懐いているから、犯人探しに躍起になるかもしれないしねぇ。大人ならなんとなく察して散開できるけど、子どもはそうはいかないじゃん?」
「我が儘モンスターだもんな。」
「モンスターがモンスターって言ってる…。」
「別に良いだろ。大枠を指す言葉であり、貶す言葉でもあるように作ったのはニンゲンだろ?」
「ニンゲンの言葉って難しぃ。魔王様方はよく習得できたよねぇ。」
「全くだ。ミナライもニンゲンの元で育たなければまともに会話ができていなかっただろう。
ミナライも始めの方は我が儘に見えたが、やがて落ち着いていった。事前に村でに何かあったのか、船での環境の変化に耐えかねて気が立っていたのか…どちらにせよ、あいつは利口だ。」
ミナライの性格についてはなんとなくわかってきた頃だが、過去については全くといって良いほど知らない。
「村が急に消えた」の一点張りだからだ。そんな話なんて誰も信じるはずがない。信じないからこそミナライも船員を信用せず、自身の村での生活を話そうとしないのだ。
とはいえ、甘やかされて育ってきた子どもではないことはこれまでの生活で予想がつく。
時間はかかったとはいえミナライはモンスターとの集団生活に混ざり込めた。まともに育った証と言えるだろう。
「割と、船長の死に対応できるかもしれないけどね。」
「したとしても一人で生きていけないだろ。どんな顛末を迎えたとしても、ミナライの始末なんか誰もやりたがらない。」
「言えてますね。船長を殺しても、面倒がなくなる以上の見返りが無い。むしろもっと面倒になる。…だから我々は誰も謀反を起こさないのでしょうね。
初めてここまで言語化しましたよ。少々スッキリしました。」
「そうかもな…。」
狼男たちは、そこまで考えてミナライに思いを馳せた。
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