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船員の剪定 2
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ミナライは、最近は船内のメンバーが変わらないことを「みんな、船の生活に慣れてきたんだろう」と楽観的に見ていたのかもしれない。
可哀想に。誰も一度たりとてそんなことを考えた経験はないのだ。
しかも、風邪を引いていた時に、船員が一丸となっての恩恵を最も得たのがミナライだったため、人知れず船長以上にショックを受けている可能性がある。
「どうかした?」
「ミナライは大丈夫かと思ってな。」
「ああ、ね。あの子、どう思ってるんだろうね?」
頭の後ろで腕を組みながら、ゴブリンはミナライが去っていった方を見つめた。
「脱走を裏切りだとは思っていないはずだが…。手切れ金のように感じる可能性はあるな。」
「そんな言葉知ってるかな?」
「知らなくても理解はするだろう。アイツは言葉を知らないだけで理解力は備わってる。」
「へえ。脱走員たちは船長のご機嫌取りが面倒だから、マシな方の「看病」を取っただけってところまで気づくかな?」
「気づきかねんな。このタイミングで逃げた意味を徐々に理解するのは来るものがあるだろう。」
あの、面倒臭がりで口が悪い船員から直接愚痴られることはもうない。ゆえにミナライは自力で答えにたどり着く。
その時が訪れるのはずっと後になるがゆえ、ミナライは船長と時間差でショックを受ける。
船長はそれを把握できるだろうか?船長も船長で立ち直るかどうか読みづらいため、どう出るかわからない。無理に明るく振る舞う傾向にあるので、ミナライが凹んでいることに気付かず絡み倒すかもしれない。
「今さら、ミナライの再評価路線が来るとは思ってもみなかったな。」
「同感。」
風邪の時、船員たちはミナライがどれくらいこの船のことを理解しているか、どんな想いで過ごしているかを確かめる名目で探りを入れたのだ。すると、思っていたよりもずっと賢くて冷静な子どもだと判明した。
穏健派も、そこまでミナライのことを理解していなかったのだ。
よくわからない=危険な事例がないという方程式が成り立っていたために、攻撃的な態度を取らずにいられただけだった。
その事実も妙に心に寒気を残したが、相手は人間なのだからどうしようもなかった。
「俺たちの優しさなんてほぼ偽物だもんな…」
「そこまで凹まなくても良いでしょ。僕らの暮らしは咎められることじゃない。」
「そうだけどよ…」
「そういえば、ミナライには話したんだっけ?」
「何が?」
「ずっとうわの空で過ごしてる奴らのこと。」
「どうだっけな?ちゃんと説明はしてなかったかもな。」
船の隅で日夜うわの空でいた船員たちも一匹残らず逃げ出していた。
「奴らはひとところに留まれないから逃げ出しただけだろう。ミナライや船長への思い入れは関係ない。」
ティチュがもっともらしい推理を口にする。
皆もそれ以上はわからないため、その推理を正しいと思うことにした。
「それで、この話はミナライにするのか?」
「気にしてるようならする、してないならしないで良いんじゃない?」
「いや、気にするだろ。黙ってるだけで。」
「ああ、そっか…。「なんでみんな漏れなく黙って出ていったんだろう?」って話になるよね。」
ミナライを何も考えていない子どもという扱いをしてきたため、癖が抜けなかった。
「あいつらは船長からの反感を買わないように黙って出て行ったんだよね?」
「おそらくな。これまでの脱走もそうだったんだろう…もうそのまま話せば良くないか?」
「ミナライに勝手に傷つかれたり、それで船長の恨み買いたくないから黙って出て行った、なんて言って良い訳ないでしょぉ?」
「それは確かに不味いか…。」
脱走した船員たちが最も恐れたのは、船長がミナライの傷心の責任を取らせようと追いかけて来る事態だ。
秘密裏に抜け出した原因の中にミナライはいない。
船長が邪魔だからといって殺せば良い訳ではない。それではミナライの引き取り先の話に逆戻りだ。
兎にも角にも、自分が迷惑をこうむるからミナライと船長に手を出さなかったまでである。
「なら、どう説明しよう?死ねばいいのに、ってニンゲンでも良く思い浮かぶ感情なのかな?」
「そうなんじゃないか?じゃないとこうはなってない。」
「そっか。だったら織り込んでも大丈夫かな…。」
モンスターの殺意は単純だが、人間の場合はそうではないため、考えあぐねていた。子どもに向けた説明となると、なおさら難しい。
モンスターは戦いのために生まれてきた種族のため、生き死にがそこまで重要な話ではない。
命の瀬戸際が日常で、もはやコミュニケーションの一貫である。
ゆえに船長やミナライを狙うのはもちろん、その他の船員同士でもやり合いかねない。
それに、急に思い立っての不意打ちも起こり得る。
実際、裏で何匹か死んでいる。ミナライや船長にはひた隠しにしていたのは、騒がれると面倒という理由からだ。
その事例は泳げない船員が無理に海へ飛び込んだ…というだけではない。常に船員が減り続けた船内では、脱走ということにしておいて先のビーゾンのように私刑で殺されかけたり、殺された者が存在する。
モンスターは長らく戦いを経験せずに生き長らえてきたため、情緒が育って面倒くさがりになったというだけで、根幹の凶暴性は全く衰えていないのだ。
そうにしては、船長は誰も殺していない。間接的に自害的な海への飛び込みの要因にはなっているが、それでも奴の目的が殺害や拷問ではない可能性が見え始めていた。
そんなもの、理解できない。さすがのモンスターでも気味悪く思うのだ。
「あれだけ殺戮するのがニンゲンなんだもんね、死ねって怒りを知らない方が可笑しいか…。」
「そりゃそうだろ。こっちがのんびり過ごしてたところを狙ったようにモンスター狩りだもんな、参ったぜ。」
「あんなに後悔したことなかったよねぇ。ミナライはそのこと知ってるのぉ?」
「話したことはある。どこまで深刻な話なのかはわかってないだろうな。」
「じゃあしばらく黙っとこうかぁ。」
「僕、話しちゃうかも…」
「別に良いんじゃなぃ?」
「どっちだよ…」
「どっちでも良ぃ。」
確かに、どうなろうがどうでも良い。心の何処かで共感した。
「ここから逃げたとして、同じ事の繰り返しになるしな…」
「しかもこれからミナライの希望に沿って人里に行く訳だろ?勘弁して欲しいぜ…」
「その間にも、先に逃げた船員は投獄されるかもねぇ。」
「全く、いつまでこんな情勢なんだ…?魔王様はまだ対応してくださらないのか?」
「僕たちが戦わないとダメなら指示をくださるはずだけどね。」
「じゃあ耐えろてことか?何のために?」
「わからん…何か別の策を進めておられるのかもしれん。」
「そんなもんあるのか?」
「じゃなきゃここまで放っておかれてるのは可笑しいだろ。俺たちはニンゲンの動向を見るための捨て駒だってのか?そんなはずはない。」
「モンスター狩りが始まったのはここ100か200年くらいの話だしな。まだ時間が足りねえのかも…」
「そう考えると、ミナライがそのことを知らないのもしょうがないのかもしれませんね。あの様子では政治のことをまるでわかっていませんし。」
「そんなことを知る年齢ではないんじゃないか?」
「だとしても世間知らず過ぎる。…立派にモンスターを毛嫌いしてはいるが。」
「洗脳教育が浸透してきた証拠だろうね。城とは何ら関わりのない末端の村だとしたら、その村の大人も洗脳に染まりきってる可能性があるよ。」
「なんともおぞましい話だな…」
口に出すまいとしていた話題が広がる。脱走した船員も、船長もが不安に思っている話だ。
そんなことをしたものだから、ほんの少し勇気が湧いてきた。
「ここらで一旦、整理しておこう。皆はどうしてここに残ろうと思った?ニンゲンの捕縛から逃れる、以外の理由で頼む。」
「ミナライが心配だからかもしれん…」
「俺はあいつらの末路が見たいからだな。」
「他に行く当てが無いから居るだけですかね?」
大まかに分けると、全員がその3つの理由のうちのどれかひとつに当てはまっていた。
手の内を明かすなど以ての外だが、これからも付き合う仲だとわかったからには乗るしかない話題だった。
「そういえば、船長はどうしてるかな?」
その場に若干の気まずさを振りかけた薄衣を取り払うように、キャノヤーが新しい話を投げ込んだ。
「まだ落ち着いてないんじゃないか?昨夜、ミナライと心中しようとしてたらしいし。」
「心中ってか船長が一人でに死のうとしてただけなんじゃね?」
「どちらでも良いだろう。どうせ、今日中は使い物にならない。」
どうでも良い話題で緊張がほぐれ、皆がくだけた姿勢で会話をするようになった。
「船長は今日日のこと、予期してなかったのかな?」
「そうでもないだろう。あいつは常に焦っている。どこかで察知していたはすだ。」
「そうなのか?よく見てんな。俺なんかあいつのこと忘れて過ごす日があるくらいだぜ。」
「お前はもう少し気を引き締めた方が良い。ともかく、船長は環境の変化が立て続けに起こったから精神的に参って、八つ当たりしそうな状態になっているんだろう。」
「放っておけば治りますよね?」
「ああ。あいつも自力でどうにかするだろう。」
「意外と船長の方が訳わかんないよね…ここに来た当初はミナライの方が謎の存在だったけど。」
「本当にな。今の推理、後でミナライに伝えておくか?」
「そうしよう。ドオル、頼む。」
「えぇ、僕ぅ?」
「今まで我関せずを貫いてきたんだろうが、今回は訳が違う。後でドラーゴンも話しかけに行ってやれ。」
「はいはい、わかったよ。」
「自分たちの今後」よりかは関心の向かない話をしたおかげで良い具合に気が抜け、それぞれが好きな場所へと散っていく。
ここまで話し込んでおいて、陸の旅を始めようが始めまいがどうでも良いという船員もいる。
それでもミナライのためを思う者が数匹いる。
殆どが、それは自尊心を保つためなのか、庇護欲なのか、船長からの敵意を阻むためなのかは自分でもわかっていない。
皆の悩み事は、ミナライと船長を中心に展開されている。
どうでも良いはずなのに、それが確かなのが気に食わない。だが波風を立ててはいけない。下手に動けば波紋が広がり、あの二人は素早く気づく。
今は何もわかっていないだけで、奴らは全てを取り込んで理解する力がある。奴らは船員たちにとって対岸の火事であり、目前に現れた竜巻のようでもあった。
船が波に軋んで、否定か苦しみのような呻きをあげた。それをしばらく聞くばかりの待ちぼうけ。船長とミナライの興奮が鎮まるのを待つばかりの、つまらない子守の時間の幕開けだった。
可哀想に。誰も一度たりとてそんなことを考えた経験はないのだ。
しかも、風邪を引いていた時に、船員が一丸となっての恩恵を最も得たのがミナライだったため、人知れず船長以上にショックを受けている可能性がある。
「どうかした?」
「ミナライは大丈夫かと思ってな。」
「ああ、ね。あの子、どう思ってるんだろうね?」
頭の後ろで腕を組みながら、ゴブリンはミナライが去っていった方を見つめた。
「脱走を裏切りだとは思っていないはずだが…。手切れ金のように感じる可能性はあるな。」
「そんな言葉知ってるかな?」
「知らなくても理解はするだろう。アイツは言葉を知らないだけで理解力は備わってる。」
「へえ。脱走員たちは船長のご機嫌取りが面倒だから、マシな方の「看病」を取っただけってところまで気づくかな?」
「気づきかねんな。このタイミングで逃げた意味を徐々に理解するのは来るものがあるだろう。」
あの、面倒臭がりで口が悪い船員から直接愚痴られることはもうない。ゆえにミナライは自力で答えにたどり着く。
その時が訪れるのはずっと後になるがゆえ、ミナライは船長と時間差でショックを受ける。
船長はそれを把握できるだろうか?船長も船長で立ち直るかどうか読みづらいため、どう出るかわからない。無理に明るく振る舞う傾向にあるので、ミナライが凹んでいることに気付かず絡み倒すかもしれない。
「今さら、ミナライの再評価路線が来るとは思ってもみなかったな。」
「同感。」
風邪の時、船員たちはミナライがどれくらいこの船のことを理解しているか、どんな想いで過ごしているかを確かめる名目で探りを入れたのだ。すると、思っていたよりもずっと賢くて冷静な子どもだと判明した。
穏健派も、そこまでミナライのことを理解していなかったのだ。
よくわからない=危険な事例がないという方程式が成り立っていたために、攻撃的な態度を取らずにいられただけだった。
その事実も妙に心に寒気を残したが、相手は人間なのだからどうしようもなかった。
「俺たちの優しさなんてほぼ偽物だもんな…」
「そこまで凹まなくても良いでしょ。僕らの暮らしは咎められることじゃない。」
「そうだけどよ…」
「そういえば、ミナライには話したんだっけ?」
「何が?」
「ずっとうわの空で過ごしてる奴らのこと。」
「どうだっけな?ちゃんと説明はしてなかったかもな。」
船の隅で日夜うわの空でいた船員たちも一匹残らず逃げ出していた。
「奴らはひとところに留まれないから逃げ出しただけだろう。ミナライや船長への思い入れは関係ない。」
ティチュがもっともらしい推理を口にする。
皆もそれ以上はわからないため、その推理を正しいと思うことにした。
「それで、この話はミナライにするのか?」
「気にしてるようならする、してないならしないで良いんじゃない?」
「いや、気にするだろ。黙ってるだけで。」
「ああ、そっか…。「なんでみんな漏れなく黙って出ていったんだろう?」って話になるよね。」
ミナライを何も考えていない子どもという扱いをしてきたため、癖が抜けなかった。
「あいつらは船長からの反感を買わないように黙って出て行ったんだよね?」
「おそらくな。これまでの脱走もそうだったんだろう…もうそのまま話せば良くないか?」
「ミナライに勝手に傷つかれたり、それで船長の恨み買いたくないから黙って出て行った、なんて言って良い訳ないでしょぉ?」
「それは確かに不味いか…。」
脱走した船員たちが最も恐れたのは、船長がミナライの傷心の責任を取らせようと追いかけて来る事態だ。
秘密裏に抜け出した原因の中にミナライはいない。
船長が邪魔だからといって殺せば良い訳ではない。それではミナライの引き取り先の話に逆戻りだ。
兎にも角にも、自分が迷惑をこうむるからミナライと船長に手を出さなかったまでである。
「なら、どう説明しよう?死ねばいいのに、ってニンゲンでも良く思い浮かぶ感情なのかな?」
「そうなんじゃないか?じゃないとこうはなってない。」
「そっか。だったら織り込んでも大丈夫かな…。」
モンスターの殺意は単純だが、人間の場合はそうではないため、考えあぐねていた。子どもに向けた説明となると、なおさら難しい。
モンスターは戦いのために生まれてきた種族のため、生き死にがそこまで重要な話ではない。
命の瀬戸際が日常で、もはやコミュニケーションの一貫である。
ゆえに船長やミナライを狙うのはもちろん、その他の船員同士でもやり合いかねない。
それに、急に思い立っての不意打ちも起こり得る。
実際、裏で何匹か死んでいる。ミナライや船長にはひた隠しにしていたのは、騒がれると面倒という理由からだ。
その事例は泳げない船員が無理に海へ飛び込んだ…というだけではない。常に船員が減り続けた船内では、脱走ということにしておいて先のビーゾンのように私刑で殺されかけたり、殺された者が存在する。
モンスターは長らく戦いを経験せずに生き長らえてきたため、情緒が育って面倒くさがりになったというだけで、根幹の凶暴性は全く衰えていないのだ。
そうにしては、船長は誰も殺していない。間接的に自害的な海への飛び込みの要因にはなっているが、それでも奴の目的が殺害や拷問ではない可能性が見え始めていた。
そんなもの、理解できない。さすがのモンスターでも気味悪く思うのだ。
「あれだけ殺戮するのがニンゲンなんだもんね、死ねって怒りを知らない方が可笑しいか…。」
「そりゃそうだろ。こっちがのんびり過ごしてたところを狙ったようにモンスター狩りだもんな、参ったぜ。」
「あんなに後悔したことなかったよねぇ。ミナライはそのこと知ってるのぉ?」
「話したことはある。どこまで深刻な話なのかはわかってないだろうな。」
「じゃあしばらく黙っとこうかぁ。」
「僕、話しちゃうかも…」
「別に良いんじゃなぃ?」
「どっちだよ…」
「どっちでも良ぃ。」
確かに、どうなろうがどうでも良い。心の何処かで共感した。
「ここから逃げたとして、同じ事の繰り返しになるしな…」
「しかもこれからミナライの希望に沿って人里に行く訳だろ?勘弁して欲しいぜ…」
「その間にも、先に逃げた船員は投獄されるかもねぇ。」
「全く、いつまでこんな情勢なんだ…?魔王様はまだ対応してくださらないのか?」
「僕たちが戦わないとダメなら指示をくださるはずだけどね。」
「じゃあ耐えろてことか?何のために?」
「わからん…何か別の策を進めておられるのかもしれん。」
「そんなもんあるのか?」
「じゃなきゃここまで放っておかれてるのは可笑しいだろ。俺たちはニンゲンの動向を見るための捨て駒だってのか?そんなはずはない。」
「モンスター狩りが始まったのはここ100か200年くらいの話だしな。まだ時間が足りねえのかも…」
「そう考えると、ミナライがそのことを知らないのもしょうがないのかもしれませんね。あの様子では政治のことをまるでわかっていませんし。」
「そんなことを知る年齢ではないんじゃないか?」
「だとしても世間知らず過ぎる。…立派にモンスターを毛嫌いしてはいるが。」
「洗脳教育が浸透してきた証拠だろうね。城とは何ら関わりのない末端の村だとしたら、その村の大人も洗脳に染まりきってる可能性があるよ。」
「なんともおぞましい話だな…」
口に出すまいとしていた話題が広がる。脱走した船員も、船長もが不安に思っている話だ。
そんなことをしたものだから、ほんの少し勇気が湧いてきた。
「ここらで一旦、整理しておこう。皆はどうしてここに残ろうと思った?ニンゲンの捕縛から逃れる、以外の理由で頼む。」
「ミナライが心配だからかもしれん…」
「俺はあいつらの末路が見たいからだな。」
「他に行く当てが無いから居るだけですかね?」
大まかに分けると、全員がその3つの理由のうちのどれかひとつに当てはまっていた。
手の内を明かすなど以ての外だが、これからも付き合う仲だとわかったからには乗るしかない話題だった。
「そういえば、船長はどうしてるかな?」
その場に若干の気まずさを振りかけた薄衣を取り払うように、キャノヤーが新しい話を投げ込んだ。
「まだ落ち着いてないんじゃないか?昨夜、ミナライと心中しようとしてたらしいし。」
「心中ってか船長が一人でに死のうとしてただけなんじゃね?」
「どちらでも良いだろう。どうせ、今日中は使い物にならない。」
どうでも良い話題で緊張がほぐれ、皆がくだけた姿勢で会話をするようになった。
「船長は今日日のこと、予期してなかったのかな?」
「そうでもないだろう。あいつは常に焦っている。どこかで察知していたはすだ。」
「そうなのか?よく見てんな。俺なんかあいつのこと忘れて過ごす日があるくらいだぜ。」
「お前はもう少し気を引き締めた方が良い。ともかく、船長は環境の変化が立て続けに起こったから精神的に参って、八つ当たりしそうな状態になっているんだろう。」
「放っておけば治りますよね?」
「ああ。あいつも自力でどうにかするだろう。」
「意外と船長の方が訳わかんないよね…ここに来た当初はミナライの方が謎の存在だったけど。」
「本当にな。今の推理、後でミナライに伝えておくか?」
「そうしよう。ドオル、頼む。」
「えぇ、僕ぅ?」
「今まで我関せずを貫いてきたんだろうが、今回は訳が違う。後でドラーゴンも話しかけに行ってやれ。」
「はいはい、わかったよ。」
「自分たちの今後」よりかは関心の向かない話をしたおかげで良い具合に気が抜け、それぞれが好きな場所へと散っていく。
ここまで話し込んでおいて、陸の旅を始めようが始めまいがどうでも良いという船員もいる。
それでもミナライのためを思う者が数匹いる。
殆どが、それは自尊心を保つためなのか、庇護欲なのか、船長からの敵意を阻むためなのかは自分でもわかっていない。
皆の悩み事は、ミナライと船長を中心に展開されている。
どうでも良いはずなのに、それが確かなのが気に食わない。だが波風を立ててはいけない。下手に動けば波紋が広がり、あの二人は素早く気づく。
今は何もわかっていないだけで、奴らは全てを取り込んで理解する力がある。奴らは船員たちにとって対岸の火事であり、目前に現れた竜巻のようでもあった。
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