ミナライの旅

燕屋ふくろう

文字の大きさ
30 / 34

理想の旅 2

しおりを挟む
「あんまり「帰りたい、帰りたい」って思っても辛くならなぁい?環境に合わせて考えを変えるのも大切なことだよ?」
「あ、そう…」
「そんな露骨に嫌がんなくてもぉ!柔軟になんなきゃ、辛いのは自分だってば」


なんだかわかったようなことを…ん?よくもまあ、モンスターが「帰れなくて辛い」なんてことを理解できたな…。


「ドオルも、船での生活が辛いの?」
「当ったり前でしょお!柔軟に対応しきれない奴等が逃げ出しただけ」


へえ、モンスターにもそんな繊細なところがあるんだ…。


「あのねぇ、いくつか「自分」っていうものを使い分けなきゃいけないよ。ミナライは「故郷に居た頃の自分」が全てなんだろうけど、「よそ行きの自分」もちゃんと持っておかなきゃ」
「外に行くだけなのに?」
「よそ行きの自分っていうのは、仕事場みたいに畏まった場所での振る舞いのことだよぉ」

「仕事でかしこまる…?」
「仕事してる時の大人くらい見たことあるでしょ?」
「ううん、みんなで手伝ってた」
「どういうこと?」
「村の近くの海でサカナを獲って暮らしてたの。ジブンはもうちょっとで船に乗せてもらえたんだよ」
「ははぁん、仕事場と生活圏が同じだったわけね」


なんだか知った顔をして、ドオルは木箱の上で、寝転ぶみたいに足を投げ出して頭の後ろで腕を組んだ。


「それじゃあわかんないかもしれないけどねぇ。大体は仕事場と生活する場所っていうのは分かれてるものなんだよ。分かれてなかったとしても、仕事場ではある程度は畏まるものなのぉ」
「かしこまるってなに?」

「そこからぁ!?なんだろ、真面目スイッチを入れるみたいなことかな」
「それってなんで?」
「仕事場では身内以外の他人を相手にするからだよ。ミナライは、友だちにすらなってない、初めて会う人と話をする時って言葉とか態度を変えたことなかったぁ?」
「そんなのしたことないよ」

「箱入りだことぉ…。そうだ、モンスターとは初対面だったんじゃないの?緊張したでしょ?」
「相手がモンスターだったからじゃない?」
「へぇ、「人間相手ならジブンは緊張しない」って?」
「そんなのわかんないよ。やったことないもん」
「想像力がないねぇ…。経験がないんじゃどうしようもないか!」


放り出したついでにおちょくられた。最悪…。


「大人がなんにもやらせてくれなかったんだから仕方ないでしょ!」
「自分から「あれやりたい!」って言ったわけぇ?」
「何回も言ったよ!でも「まだダメ」って…」
「あ、それは失礼ぃ…」


急に謝ってこないで欲しい…文句の腰が折られる。


「まぁ、ミナライが色んな「自分」を使い分けられないのも仕方ないのかもね」
「どういうわけ!?」
「馬鹿にしてるんじゃないよぉ?そういうのを習う前に、運悪く外の世界に放り出されちゃったから仕方ないってこと」
「ああ、そういう…」

「そろそろ外の世界での生活には慣れて来ただろうから、今度は心を鍛えた方がいいかもねぇ」
「でも「色んな自分」なんてわかんないよ。自分が自分じゃなくなりそうだし」
「そんなことないよぉ。…あ、なるほど。ミナライはそこが怖いんだ」

「怖いっていうかイヤだけど」
「そう、嫌なんだよ。環境が変わったら新しく「自分」を作るようになるのが当たり前の変化なんだけど、ミナライはそれが初めてだから「イヤ」って感じるんだろうねぇ」


知ったような口を、とは言い返せなくて黙る。そうか、お母さんたちから教えられてないことだからイヤだって思うのか…。

変わっていくのを、当たり前だと言い切られてどきりとした。
これまでは、変わっていくことと言うと、船長に求められるがままの「ミナライ」に成り果ててしまうことだと思ってた。そんな怖いことにはならないのか…。


「ミナライみたいに、情緒が育ちきってないような奴ってモンスターにもいるんだよぉ。環境の変化に耐えきれない奴もいれば、自分が変わらなきゃいけないって状況に嫌気が差す奴もいる。ミナライは自分がどっちの方だと思う?」
「どっちも」
「正直だねぇ!でも、この船に残りたいんでしょ?」
「ほんとはイヤだけどね」
「だったら自分の気持ちを変えていかなくちゃ。その方が楽になるよぉ」


どうだか、と疑いの目でドオルを見つめたらウインクされた。どういうこと?


「ニンゲンはその辺、柔軟に対応するのが得意って聞いたよ。そろそろ大人になっていく時期ってことなんじゃない?頑張ってねぇ」
「え?ちょっ…」


ドオルはやる気をなくしたみたいに離れていった。
村に居たとき、こういう…こっちが長らく黙ったり考えてたりしてたら急に切り上げられることが時々あった。モンスターも同じことをやってくるなんて。ドオルも大人ってことなのかな…。

生活する場所の変化に合わせて自分も変わるなんて、できそうにない。船には慣れたけど、自分で自分をまるっきり変えるなんて。

ジブンはずっと村で生活してたから、外のことは知らない。だから「村の外に出ろ」ってジジババに言われた時は凄くイヤだった。

「外の世界で、色んな街にこの村を売り込んで来い」って言われるがままに始まった旅と、今の旅だったらどっちが苦しいんだろう。
…どっちもイヤだ。村からは出たくない。

なんなんだろう、売り込め売り込めって。
漁村1つでやっていけてるんだし、別にあのままあそこで生活するだけじゃダメだったのかな。村にいた頃は二度と口利くもんかと思ったけど、今会えるなら聞き出したい。奴らの話に納得するかは別として。

世界一周の旅なんて想像したことはあっても夢のまた夢だと思ってたし、そのまま夢で終わって欲しかった。それも、ジジババの命令でやらされるなんてもってのほかだ。

外の世界での旅なんてまっぴらごめんだってぷりぷりしてた時に船長と会ったから、とにかくイヤなことが積み重なった生活を送ることになってしまったんだった。

だから、いつもいい加減なモンスターでも驚くくらいには「村に帰りたい」って気持ちが強くなったんだろう。

ドオルがヤなことを蒸し返すから本気で気分悪くなったし…ほんとうにここでの生活はイヤなことばっかりだ。改めてそう思えるくらいに、ダメダメだ。

なんでドオルとあんな話になったんだっけ?旅をするならどこが良い?みたいな話から始まったような気がするけど…。

村以外で行きたい場所って言ったら、どこだ?
お城とは答えたけど、それ以外にもあるかもしれない。せっかく大陸に来たんだし、できるなら自分の望んだ場所にも行きたい。

村に居たころは海に出たかったけど、今思えばあれはお父さんたちに着いて行きたかっただけだろう。

うーん。やっぱり、行くとしたらお城かな。なんだか楽しそうだし。
前は船長に断られたけど、何度か頼み込めば連れて行ってくれないかな?

ここにはヤな大人とかジジイどもに選ばれた仲間がいないぶん、周りに合わせなくて良い。自分の好きなように動きやすいっていうのは数少ない良いところだ。

誰の言うことも聞かなくていい。好きに旅ができるんだ。どうせ世界を探し回るなら、そのついでに気になる場所に寄ったって誰も文句は言わないだろう。

船長はあいつらと違ってジブンの言うこと聞いてくれるし、また今度お願いしてみよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

勘当された少年と不思議な少女

レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。 理由は外れスキルを持ってるから… 眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。 そんな2人が出会って…

【完結保証】科学で興す異世界国家 ~理不尽に死んだ技術者が、「石炭」と「ジャガイモ」で最強を証明する。優秀な兄たちが膝を折るまでの建国譚~

Lihito
ファンタジー
正しいデータを揃えた。論理も完璧だった。 それでも、組織の理不尽には勝てなかった。 ——そして、使い潰されて死んだ。 目を覚ますとそこは、十年後に魔王軍による滅亡が確定している異世界。 強国の第三王子として転生した彼に与えられたのは、 因果をねじ曲げる有限の力——「運命点」だけ。 武力と経済を握る兄たちの陰で、継承権最下位。後ろ盾も発言力もない。 だが、邪魔する上司も腐った組織もない。 今度こそ証明する。科学と運命点を武器に、俺のやり方が正しいことを。 石炭と化学による国力強化。 情報と大義名分を積み重ねた対外戦略。 準備を重ね、機が熟した瞬間に運命点で押し切る。 これは、理不尽に敗れた科学者が、選択と代償を重ねる中で、 「正しさ」だけでは国は守れないと知りながら、 滅びの未来を書き換えようとする建国譚。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

迷宮遊戯

ヘロー天気
ファンタジー
ダンジョンマスターに選ばれた魂が生前の渇望を満たすべく、迷宮構築のシステムを使って街づくりに没頭する。 「別に地下迷宮である必要はないのでは?」

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

処理中です...