小学生魔女アリス

向浜小道

文字の大きさ
2 / 17

第1話 人間界の小学校へ

しおりを挟む
「――いい? 人間の前では絶対に魔法を使わないで。自分が魔女だってことを周りの子に話すのもだめ」
「どうして? えっと……周りの子がびっくりしちゃうからっていうのは覚えてるんだけど……でも、びっくりさせるのって悪いことかしら」
「悪いことかどうかは、今はどうでもいいの! ……人間の世界では魔法使いは受け入れられないのよ」
「……なのに、どうしてわたしたちは人間界に来たの?」
「大事な仕事があるって、前にも言ったでしょ。――そうそう、明日学校で、どこから来たのか聞かれたら、イギリスから来たんだと言うのよ」
「イギリス? イギリスなら知ってるわ! 本で読んだことがあるもの。でも、わたしたちイギリスから来たんじゃないわよ」
「魔女だとばれないためよ」
「でも……」
「いいから、私の言った通りになさい! くれぐれも、問題を起こさないようにね」
「……分かったわ。ねぇ、ママ、さっき言ってた大事な仕事って――」
「アリス、今日は遅いからもう寝なさい。明日寝坊して遅刻したらいけないでしょ」
「は~い……」

 ママのことは、大好き。しっかり者で頼もしいし、わたしを大切に思ってくれているから。でも、怒ると怖いし、最近何か隠しごとしてるみたいだし……。

 ベッドに寝転んでもなかなか眠れなくて、パパの部屋でお話を読んでもらおうと身体を起こす。どんなに眠れない夜でも、パパのお話は夢の世界へ連れていってくれる。
「パパ、入ってもいい?」
 ドアをノックすると、パパはすぐに出てきてくれた。
「ああ、お入り、アリス。眠れないんだろう?」

 今日パパがしてくれたのは、人間の子がとある理由から魔法界にやってきて、魔法を習う話。なんだか、今のわたしと似てる。そのお話の主人公は、最初は失敗ばかりでクラスメイトに馬鹿にされてたけど、がんばってるうちに魔法が上手になって、友達もできたの。わたしも、小学校の勉強がんばって、友達もたくさん作りたいなぁ……。
 でも……。

「ねぇ、パパ。人間界では、魔法使いは受け入れられないの? もし学校で、わたしが魔女だってばれたら、追い出されちゃうのかな……」
「今の人間界では、魔法使いは珍しがられるだろうね。でも、人間と魔法使いが分かり合える日は、いつか必ず来るさ。――もし学校がアリスを追い出そうとなんかしたら、パパがそうはさせないよ」
「本当!?」
 パパの優しさに涙がこぼれそうになったけど、明日ひどい顔で学校に行きたくなったから、泣くのは我慢した。
「明日からの学校、アリスらしくがんばっておいで」
「うん……!」

 明日から毎日背負うことになる〈ランドセル〉を少しの間ながめてから、ベッドにもぐり込んだ。
 昨日ためしに背負ってみたけど、教科書やノートがたくさん入ったランドセルはすごく重くて、肩ひもが肩に食いこみそうだった。
 魔法界の学校に通っていたときは、教科書を学校に置いて帰っても良かったけど、人間界のこの国では、毎日持って帰らないといけないみたい。
 明日、ちゃんとひとりで起きれますように。そうお星様にお願いすると、いつの間にか眠っていた。

 なのに、お星様はわたしの願い事を叶えてはくれず、ママにたたき起こされて目が覚めた。

 リビングに入ると〈トースト〉の甘い香りが広がっていた。お皿に乗った〈ベーコン〉と〈目玉焼き〉の上では、湯気がふわふわとダンスを踊っていて、まるで「美味しいよ」と伝えてくれているみたいだった。
 ベーコンを一口かじると、カリッと音がして、美味しさが口の中でジュワッと広がった。魔法はいっさい使わずに、お砂糖をふりかけた弱火のフライパンの上で焼いただけのシンプルなお料理。魔法なしでこんなに美味しいものがあるなんて、魔法界(向こう)にいる間は知らなかった。
 目玉焼きって、何の目玉なのかと思ったけど、ニワトリの卵の黄身が目玉に見えるから「目玉焼き」っていうのね。焼き加減で黄身のやわらかさが決まるみたいだけど、わたしはやわらかい方が好き。トロッとしてて、ベーコンにからめるとすっごく美味しいの!
 人間界の食べ物って、すっごく美味しくて、とっても幸せ。でも……でも……なぜだか力が入らないの!
 魔法がかかってないからだってママが言ってたけど、慣れるまでには時間がかかりそう。

 お腹いっぱいにならない朝ご飯を済ませ、ランドセルを背負う。うぅ、やっぱり重いなぁ……。
 
 学校までの道のりは、覚えてるはず! この前ママと一緒に学校まで歩いたし、それにわたしは方向音痴じゃないから。そりゃあ、ママの言いつけをよく忘れたり、三日に一度は忘れ物したりはするけど、一度来た場所への道は絶対に忘れない。

 歩くのって、疲れるなぁ……。ランドセルを背負ってるから、なおさらペースがゆっくりになる。魔法界では、ほうきで学校に通ってたから、自分の足で外を歩くのって、なんだか変な感じ。
 人間界の小学校って、どんなことをするのかしら? 教科書は読んでみたけど、〈漢字〉が難しくて自分ひとりでは分からなそうだった。〈ひらがな〉と〈カタカナ〉は魔法界にいる間にほとんど読み書きできるようになったけど、漢字はなかなか覚えられない。授業、ちゃんとついていけるかなぁ……。

 そんなことを考えながら歩いていると……。
「なぁ、これお前にやるよ」
「どうせ、変なものなんでしょ――」
「ほら」
「きゃあ! やめて、すぐ逃がして!」
 男の子が女の子に差し出したのは、小さくてかわいくて美味しそうなアマガエルだった。(ふたりともランドセルを背負ってるから、きっと小学生ね)
 人間の子の中には、カエルが苦手な子もいるのね。それに、この国ではあまりカエルを食べないみたい。魔法界と人間界では常識が違うってママが言ってたし、うっかり人間の子を怖がらせないように気を付けなきゃ。

 やっと着いた。家から小学校までの距離は十分ぐらいで、そんなに遠くないはずなのに、ランドセルの重さのせいで三十分ぐらい歩いた気分。
 校門前には〈サクラ〉の木が立っていて、花びらが空中で舞踏会を開いていた。
 いろんな色のランドセルを背負ったほかの子たちに続いて、わたしも学校の中に入る。もちろん、校門の前に立ってる先生へのあいさつも忘れずに。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

大人にナイショの秘密基地

湖ノ上茶屋
児童書・童話
ある日届いた不思議な封筒。それは、子ども専用ホテルの招待状だった。このことを大人にナイショにして、十時までに眠れば、そのホテルへ行けるという。ぼくは言われたとおりに寝てみた。すると、どういうわけか、本当にホテルについた!ぼくはチェックインしたときに渡された鍵――ピィピィや友だちと夜な夜な遊んでいるうちに、とんでもないことに巻き込まれたことに気づいて――!

グリモワールなメモワール、それはめくるめくメメントモリ

和本明子
児童書・童話
あの夏、ぼくたちは“本”の中にいた。 夏休みのある日。図書館で宿題をしていた「チハル」と「レン」は、『なんでも願いが叶う本』を探している少女「マリン」と出会う。 空想めいた話しに興味を抱いた二人は本探しを手伝うことに。 三人は図書館の立入禁止の先にある地下室で、光を放つ不思議な一冊の本を見つける。 手に取ろうとした瞬間、なんとその本の中に吸いこまれてしまう。 気がつくとそこは、幼い頃に読んだことがある児童文学作品の世界だった。 現実世界に戻る手がかりもないまま、チハルたちは作中の主人公のように物語を進める――ページをめくるように、様々な『物語の世界』をめぐることになる。 やがて、ある『未完の物語の世界』に辿り着き、そこでマリンが叶えたかった願いとは―― 大切なものは物語の中で、ずっと待っていた。

カリンカの子メルヴェ

田原更
児童書・童話
地下に掘り進めた穴の中で、黒い油という可燃性の液体を採掘して生きる、カリンカという民がいた。 かつて迫害により追われたカリンカたちは、地下都市「ユヴァーシ」を作り上げ、豊かに暮らしていた。 彼らは合言葉を用いていた。それは……「ともに生き、ともに生かす」 十三歳の少女メルヴェは、不在の父や病弱な母に代わって、一家の父親役を務めていた。仕事に従事し、弟妹のまとめ役となり、時には厳しく叱ることもあった。そのせいで妹たちとの間に亀裂が走ったことに、メルヴェは気づいていなかった。 幼なじみのタリクはメルヴェを気遣い、きらきら輝く白い石をメルヴェに贈った。メルヴェは幼い頃のように喜んだ。タリクは次はもっと大きな石を掘り当てると約束した。 年に一度の祭にあわせ、父が帰郷した。祭当日、男だけが踊る舞台に妹の一人が上がった。メルヴェは妹を叱った。しかし、メルヴェも、最近みせた傲慢な態度を父から叱られてしまう。 そんな折に地下都市ユヴァーシで起きた事件により、メルヴェは生まれてはじめて外の世界に飛び出していく……。 ※本作はトルコのカッパドキアにある地下都市から着想を得ました。

王さまとなぞの手紙

村崎けい子
児童書・童話
 ある国の王さまのもとに、なぞの手紙が とどきました。  そこに書かれていた もんだいを かいけつしようと、王さまは、三人の大臣(だいじん)たちに それぞれ うえ木ばちをわたすことにしました。 「にじ色の花をさかせてほしい」と―― *本作は、ミステリー風の童話です。本文及び上記紹介文中の漢字は、主に小学二年生までに学習するもののみを使用しています(それ以外は初出の際に振り仮名付)。子どもに読みやすく、大人にも読み辛くならないよう、心がけたものです。

少年イシュタと夜空の少女 ~死なずの村 エリュシラーナ~

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
イシュタは病の妹のため、誰も死なない村・エリュシラーナへと旅立つ。そして、夜空のような美しい少女・フェルルと出会い…… 「昔話をしてあげるわ――」 フェルルの口から語られる、村に隠された秘密とは……?  ☆…☆…☆  ※ 大人でも楽しめる児童文学として書きました。明確な記述は避けておりますので、大人になって読み返してみると、また違った風に感じられる……そんな物語かもしれません……♪  ※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

盲目魔女さんに拾われた双子姉妹は恩返しをするそうです。

桐山一茶
児童書・童話
雨が降り注ぐ夜の山に、捨てられてしまった双子の姉妹が居ました。 山の中には恐ろしい魔物が出るので、幼い少女の力では山の中で生きていく事なんか出来ません。 そんな中、双子姉妹の目の前に全身黒ずくめの女の人が現れました。 するとその人は優しい声で言いました。 「私は目が見えません。だから手を繋ぎましょう」 その言葉をきっかけに、3人は仲良く暮らし始めたそうなのですが――。 (この作品はほぼ毎日更新です)

処理中です...