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第2話 魔女の自己紹介(1)
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えーっと……職員室は確か奥の校舎の一階だって、校門であいさつした先生が言ってたわよね。
玄関に入り、靴を空いている靴箱に入れ、上履きにはきかえ、職員室に向かう。
玄関を抜けて左に曲がると、「職員室」って書いてあるプレートを見つけた。漢字は読めないけど、部屋の中に先生らしき人がたくさんいるから、ここが職員室なんだと思う。
ノックをして、引き戸を開ける。
「失礼します。今日から転校してきたアリス・ホワイトです」
すると、眼鏡をかけた若い男の先生がわたしの声に気付き、職員室から出てきてくれた。
「おはようございます、アリスさん。アリスさんのクラスは五年二組で、僕がこのクラスの担任の黒崎です。教室まで一緒に行きましょう」
眼鏡に黒色のスーツ……それに綺麗な顔立ち。執事みたいで素敵。きっと、女の子に人気があるんだろうな。……いけない! そんなにじろじろ見つめたら先生に失礼よね。
「――と、その前に……アリスさんの靴箱の場所をまだ教えていませんでしたね」
「え、場所が決まってたんですか? ごめんなさい、適当に空いてるところに入れちゃいました……」
いいんですよ、と黒崎先生はほほ笑んで、靴箱の場所を案内してくれた。出席番号は三十一番か……ちゃんと覚えられるかしら。
「では、行きましょうか」
黒崎先生に続いて、わたしは階段を上る。
それに……しても……階段……上るの……疲れる……。三階に着いた頃には、息が切れて、うるさいくらいに心臓がドキドキしていた。
五年二組は、三階の真ん中の教室ね。
「階段、疲れたでしょう。落ち着いたら、教室に入りましょう」
深呼吸を何度かしたら、少しずつドキドキが落ち着いてきた。
「みなさん、おはようございます。今日からこのクラスに新しい仲間が加わります。――アリスさん、中へどうぞ」
黒崎先生の合図で、わたしは教室の中に入る。
クラスの子たちは、珍しそうな顔をしてこっちを見ている。教室を見渡してみると、みんな髪の毛が黒かった。よく見ると焦げ茶色の子もいるけど、ほとんどみんな同じ色。黒色の髪、あこがれるなぁ……夜空みたいで綺麗だもの。
「こ……こんにちは。アリス・ホワイトです」
そういえば、自己紹介って何を話せばいいんだろう。言いたいことはたくさんあるけど、うっかり人間界の常識とは違うことを喋ったりなんかしたらみんなを怖がらせちゃうし……どうしよう!
『そうそう、明日学校で、どこから来たのか聞かれたら、イギリスから来たんだと言うのよ』
今言わないと忘れちゃいそうだな……。
「イギリスから来ました。――よろしくお願いします」
そう言うと、「わぁ、すごい!」という声があちこちから聞こえた。
本当は違うんだけどね……。
「アリスさんの席は、窓際のいちばん後ろです」
黒崎先生にうながされて、席に座ることになった。窓際のいちばん後ろね。うん、覚えやすい!
前の席の子は、長くてサラサラで真っ黒な髪をしたおとなしそうな女の子だった。いいなぁ……わたしの髪みたいにクセがついてなくて、綺麗。
一時間目が始まる前の休み時間に、クラスの子たちが集まってきてくれて、わたしにたくさんの質問をした。
「ねぇねぇ、イギリスに住んでたってことは、英語がしゃべれるの?」
「うん、まあね」
「すごい!」
本で勉強したことがあるから、ちょっとなら話せる。ちょっとなら……ね。
「イギリスの学校は、おしゃれな制服があるんでしょう? わたしも着てみたいなぁ……」
「そうね。あなたならきっと似合うと思うわ! でもわたしのところの制服は、あんまりおしゃれじゃなかったの。だからわたしもあこがれちゃうなぁ……」
本で見たことがあるけど、イギリスの学校の制服ってかわいいのよねぇ。魔法界の学校にも制服があるけど、ローブだからあっついし動きにくくてイヤになるの!
「習い事とかやってるの?」
「あ、えっとね! ……ううん、やってないよ」
「わたしね、ピアノやってるんだけど、アリスちゃんも良かったら今度ピアノ教室に来ない?」
「行ってみたい! 帰ったらママに聞いてみるね」
〈ピアノ〉かぁ……これも本では見たことがあるけど、どんな音色なんだろう。聞いてみたいなぁ。
実は魔法界で習い事はやっていた。《魔法音楽》って言って、杖で色んな音を出して演奏するんだけど、それがすっごく楽しいの! みんなに言いたいけど、言ったら魔女だってばれちゃう……。
「髪の色、綺麗! いいなぁ、金髪。お人形さんみたい」
「そうかしら、ありがとう! わたしはみんなみたいな黒い髪、いいなぁって思うわ」
これは本当の気持ち。
「なぁ、イギリスのメシ不味いってマジ?」
失礼な子ね! まぁ、昔読んだ本にそんなことが書いてあったような気がするけど。
「あんたは黙ってなさいよ! ――ごめんね、アリスちゃん、こいつバカだから」
「バカ」は言い過ぎだと思うけど、追い払ってくれて助かったわ、ありがとう。
……ふぅ。正体がばれないように話すのって思ったより大変なのね。
正直言って、もう疲れたわ。
玄関に入り、靴を空いている靴箱に入れ、上履きにはきかえ、職員室に向かう。
玄関を抜けて左に曲がると、「職員室」って書いてあるプレートを見つけた。漢字は読めないけど、部屋の中に先生らしき人がたくさんいるから、ここが職員室なんだと思う。
ノックをして、引き戸を開ける。
「失礼します。今日から転校してきたアリス・ホワイトです」
すると、眼鏡をかけた若い男の先生がわたしの声に気付き、職員室から出てきてくれた。
「おはようございます、アリスさん。アリスさんのクラスは五年二組で、僕がこのクラスの担任の黒崎です。教室まで一緒に行きましょう」
眼鏡に黒色のスーツ……それに綺麗な顔立ち。執事みたいで素敵。きっと、女の子に人気があるんだろうな。……いけない! そんなにじろじろ見つめたら先生に失礼よね。
「――と、その前に……アリスさんの靴箱の場所をまだ教えていませんでしたね」
「え、場所が決まってたんですか? ごめんなさい、適当に空いてるところに入れちゃいました……」
いいんですよ、と黒崎先生はほほ笑んで、靴箱の場所を案内してくれた。出席番号は三十一番か……ちゃんと覚えられるかしら。
「では、行きましょうか」
黒崎先生に続いて、わたしは階段を上る。
それに……しても……階段……上るの……疲れる……。三階に着いた頃には、息が切れて、うるさいくらいに心臓がドキドキしていた。
五年二組は、三階の真ん中の教室ね。
「階段、疲れたでしょう。落ち着いたら、教室に入りましょう」
深呼吸を何度かしたら、少しずつドキドキが落ち着いてきた。
「みなさん、おはようございます。今日からこのクラスに新しい仲間が加わります。――アリスさん、中へどうぞ」
黒崎先生の合図で、わたしは教室の中に入る。
クラスの子たちは、珍しそうな顔をしてこっちを見ている。教室を見渡してみると、みんな髪の毛が黒かった。よく見ると焦げ茶色の子もいるけど、ほとんどみんな同じ色。黒色の髪、あこがれるなぁ……夜空みたいで綺麗だもの。
「こ……こんにちは。アリス・ホワイトです」
そういえば、自己紹介って何を話せばいいんだろう。言いたいことはたくさんあるけど、うっかり人間界の常識とは違うことを喋ったりなんかしたらみんなを怖がらせちゃうし……どうしよう!
『そうそう、明日学校で、どこから来たのか聞かれたら、イギリスから来たんだと言うのよ』
今言わないと忘れちゃいそうだな……。
「イギリスから来ました。――よろしくお願いします」
そう言うと、「わぁ、すごい!」という声があちこちから聞こえた。
本当は違うんだけどね……。
「アリスさんの席は、窓際のいちばん後ろです」
黒崎先生にうながされて、席に座ることになった。窓際のいちばん後ろね。うん、覚えやすい!
前の席の子は、長くてサラサラで真っ黒な髪をしたおとなしそうな女の子だった。いいなぁ……わたしの髪みたいにクセがついてなくて、綺麗。
一時間目が始まる前の休み時間に、クラスの子たちが集まってきてくれて、わたしにたくさんの質問をした。
「ねぇねぇ、イギリスに住んでたってことは、英語がしゃべれるの?」
「うん、まあね」
「すごい!」
本で勉強したことがあるから、ちょっとなら話せる。ちょっとなら……ね。
「イギリスの学校は、おしゃれな制服があるんでしょう? わたしも着てみたいなぁ……」
「そうね。あなたならきっと似合うと思うわ! でもわたしのところの制服は、あんまりおしゃれじゃなかったの。だからわたしもあこがれちゃうなぁ……」
本で見たことがあるけど、イギリスの学校の制服ってかわいいのよねぇ。魔法界の学校にも制服があるけど、ローブだからあっついし動きにくくてイヤになるの!
「習い事とかやってるの?」
「あ、えっとね! ……ううん、やってないよ」
「わたしね、ピアノやってるんだけど、アリスちゃんも良かったら今度ピアノ教室に来ない?」
「行ってみたい! 帰ったらママに聞いてみるね」
〈ピアノ〉かぁ……これも本では見たことがあるけど、どんな音色なんだろう。聞いてみたいなぁ。
実は魔法界で習い事はやっていた。《魔法音楽》って言って、杖で色んな音を出して演奏するんだけど、それがすっごく楽しいの! みんなに言いたいけど、言ったら魔女だってばれちゃう……。
「髪の色、綺麗! いいなぁ、金髪。お人形さんみたい」
「そうかしら、ありがとう! わたしはみんなみたいな黒い髪、いいなぁって思うわ」
これは本当の気持ち。
「なぁ、イギリスのメシ不味いってマジ?」
失礼な子ね! まぁ、昔読んだ本にそんなことが書いてあったような気がするけど。
「あんたは黙ってなさいよ! ――ごめんね、アリスちゃん、こいつバカだから」
「バカ」は言い過ぎだと思うけど、追い払ってくれて助かったわ、ありがとう。
……ふぅ。正体がばれないように話すのって思ったより大変なのね。
正直言って、もう疲れたわ。
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