小学生魔女アリス

向浜小道

文字の大きさ
8 / 17

第4話 確かに感じた魔法の力(2)

しおりを挟む
「実はね、昨日お家に帰ってから、アリスちゃんの似顔絵描いてたんだ。勝手にごめんね」
 一時間目の後の休み時間、楓ちゃんが〈スケッチブック〉を開いた。そこには、「わたし」がいた。ブロンドの髪まで綺麗な色で塗ってくれてて……なんか、実物より美人じゃない?
「すごい……! どうしてそんなに上手に描けるの?」
「そんな、上手だなんて。でも、ありがとう。――次はアリスちゃんの番ね。好きな絵、ここに描いてみて」
 スケッチブックのページをめくりながら楓ちゃんは言った。
「いいの? わたしの絵、本当に下手なのよ?」
 楓ちゃんの素敵な絵たちの中に、わたしのひどい絵が混ざるなんて、申し訳なさすぎる……。
「気にしなくていいって、今朝も言ったでしょ。――わたしの鉛筆、使う? 描き心地が良くて、折れにくいんだよ」
 楓ちゃんが貸してくれた鉛筆を握りながら、何を描こうかとあれこれ考える。
 楓ちゃんはわたしの似顔絵を描いてくれたから、今度はわたしが楓ちゃんの似顔絵を――いやいやいや、わたしの力じゃ絶対かわいく描いてあげられないわ!
 うーん、どうしよう。……そうだ! 小さい頃に描いたドラゴンの絵、リベンジしてみようかしら。きっと、前よりはマシに描けるはず……多分。
 紙の上で鉛筆を走らせているうちに……。
 ――できた! ヘビにしか見えないドラゴンが。うん、前と全然変わってない。
「わぁ、竜だ! アリスちゃんの絵、かわ、いい、ね」
 楓ちゃん、なんか笑いこらえてない? でも、〈竜〉って分かったのはすごい。東洋のドラゴンのことを、日本語では「竜」って言うの、前に聞いたことがある。
「ねぇねぇ、色塗ってもいい? アリスちゃんの竜、もっと素敵にできるかも」
「もちろん!」
 こんなへんてこりんな絵に色を塗ってくれるなんて、楓ちゃんはなんて優しいのかしら……。
 楓ちゃんは手際よくわたしの絵の上で色鉛筆を走らせて、あっという間に出来上がってしまった。なんか、速すぎてよく見えなかった……。それに、色を塗ってもらう前はどう見てもヘビだったのに、鮮やかで強そうで、でもどこか優しそうな赤竜に様変わりしてる。色が付いただけなのに、どうしてこんなに違うのかしら。楓ちゃん、すごい……。
「ありがとう、すっごくかっこよくなってる! ほんとに、すごい……」
「ほめすぎだって。そうだ、これ、良かったら持って帰って――あっ」
 楓ちゃんが、赤竜の絵のページをちぎったとき、その勢いでスケッチブックが床に落ちてしまった。ページが何ページかめくれて……そこには、男の子が描かれていた。わたしたちより少し年上かしら――
「あああ、見ちゃだめ! こ、こここれはまだ途中だから! 容姿端麗で頭脳明晰で、それにとっても優しい生徒会長の城戸障魔きどしょうま先輩に似てるかもしれないけど、違うからね!」
 楓ちゃんはすごい勢いでスケッチブックを拾い上げた。
「……あ、急に大きい声出してごめんね」
 楓ちゃんはそう言いながら、赤竜の絵のページを手渡してくれた。
「ありがとう! わたしの方こそ、勝手に見ようとしてごめんね」

 雪ちゃんにもう一度あの「力」について聞こうと思ったけど、なかなかタイミングがつかめなかった。だって、雪ちゃんは授業が終わると一目散に教室を出ていくから。そして、授業が始まるすぐ前に戻ってくるから。
 結局、雪ちゃんとお話できないまま、一日が終わってしまった。

「ただいま~……」
「おかえり――そんなところに寝転んでないで、せめてソファに行きなさい」
 色んなことが起こりすぎて、あまりにも疲れすぎて、わたしは靴も脱がずに玄関で仰向けに倒れこんでいた。
「は~い……」
 靴を脱いで、ランドセルを右肩だけで背負って、のろのろとリビングに入る。
「〈紅茶〉いれるから、ちょっと休んでなさい」
 ソファに横になってうとうとしていると、甘い香りで目が覚めた。

「そう、お友達ができたのね。アリスのような子と仲良くしてくれる子がいるなんて……」
 わたしが楓ちゃんのことを話すと、ママが優しい声で言った。最近のママは怒ってばっかりだったから、ちょっと安心した。でも、「アリスのような子」って何よ! 自分の娘に対して、ひどいんじゃない?
「うん、絵がすごく上手でね、それにすっごく優しいの!」
「まぁ、絵が上手くて優しいだなんて、アリスとは正反対ね」
 もう……!
 つい頭にきそうになったけど、紅茶の香りがそれを抑えてくれた。ママがいれてくれる飲み物はいつも美味しい。魔法界では、ママ特製の《目覚め水》(《目覚めの木》の葉っぱから作られてるんだって)が、宿題のお供だった。あれを飲むと、眠いのが嘘みたいになくなるの。紅茶にはそこまでの力はなさそうだけど、この甘い香り、なんだか落ち着く……。
「あとね、多分だけど……わたしのほかにも魔女の子がいたの、同じクラスに。北ノ原雪ちゃんっていうんだけど、ママ、知ってる?」
「北ノ原……いいえ、私は知らないわ。なんでその子を魔女だと思ったの? その子がそう言ったの?」
「そうじゃないけど……。ほんの少しだけ雪ちゃんから魔力を感じたときがあったの。雪ちゃんに聞いても、『馬鹿げたこと言わないで』って言われちゃったけどね……」
「魔力を感じたって、どんなときに?」
 ぎくり。どうしよう……今朝の事件のことを話さないといけない流れになっちゃった。あんまりこのことはママに話したくないんだけどなぁ……。またわたしの周りで問題が起きたのを知られたら、「昨日、余計なことをみんなに話したからでしょ」って怒られるかも。
 でも、このまま黙っているわけにもいかないから、思い切って話すことにした。一真君と順平君に生のカエルとトカゲを食べさせられそうになって、雪ちゃんがわたしから二人を引きはがしてくれたことをママに説明すると、
「もう、アリスが正直すぎる自己紹介なんかするから……」
 ほら、やっぱり言った! 
「もし雪さんが魔女なのだとしても、彼女は正体を明かさないよう努めているのよね。だったら、それを邪魔してはいけないわ」
 確かに、ママの言う通りね……。わたしだって、秘密にしてることを知られるのは嫌だもの。
「紅茶飲み終わったら、夕飯までに宿題済ませちゃいなさい」
「は~い……」
 ママは雪ちゃんのこと知らないって言ったけど、なんか怪しいのよね……。
 わたしたちが人間界に来た理由も教えてくれないし、色んなことが分からなくてもどかしいわ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

大人にナイショの秘密基地

湖ノ上茶屋
児童書・童話
ある日届いた不思議な封筒。それは、子ども専用ホテルの招待状だった。このことを大人にナイショにして、十時までに眠れば、そのホテルへ行けるという。ぼくは言われたとおりに寝てみた。すると、どういうわけか、本当にホテルについた!ぼくはチェックインしたときに渡された鍵――ピィピィや友だちと夜な夜な遊んでいるうちに、とんでもないことに巻き込まれたことに気づいて――!

グリモワールなメモワール、それはめくるめくメメントモリ

和本明子
児童書・童話
あの夏、ぼくたちは“本”の中にいた。 夏休みのある日。図書館で宿題をしていた「チハル」と「レン」は、『なんでも願いが叶う本』を探している少女「マリン」と出会う。 空想めいた話しに興味を抱いた二人は本探しを手伝うことに。 三人は図書館の立入禁止の先にある地下室で、光を放つ不思議な一冊の本を見つける。 手に取ろうとした瞬間、なんとその本の中に吸いこまれてしまう。 気がつくとそこは、幼い頃に読んだことがある児童文学作品の世界だった。 現実世界に戻る手がかりもないまま、チハルたちは作中の主人公のように物語を進める――ページをめくるように、様々な『物語の世界』をめぐることになる。 やがて、ある『未完の物語の世界』に辿り着き、そこでマリンが叶えたかった願いとは―― 大切なものは物語の中で、ずっと待っていた。

カリンカの子メルヴェ

田原更
児童書・童話
地下に掘り進めた穴の中で、黒い油という可燃性の液体を採掘して生きる、カリンカという民がいた。 かつて迫害により追われたカリンカたちは、地下都市「ユヴァーシ」を作り上げ、豊かに暮らしていた。 彼らは合言葉を用いていた。それは……「ともに生き、ともに生かす」 十三歳の少女メルヴェは、不在の父や病弱な母に代わって、一家の父親役を務めていた。仕事に従事し、弟妹のまとめ役となり、時には厳しく叱ることもあった。そのせいで妹たちとの間に亀裂が走ったことに、メルヴェは気づいていなかった。 幼なじみのタリクはメルヴェを気遣い、きらきら輝く白い石をメルヴェに贈った。メルヴェは幼い頃のように喜んだ。タリクは次はもっと大きな石を掘り当てると約束した。 年に一度の祭にあわせ、父が帰郷した。祭当日、男だけが踊る舞台に妹の一人が上がった。メルヴェは妹を叱った。しかし、メルヴェも、最近みせた傲慢な態度を父から叱られてしまう。 そんな折に地下都市ユヴァーシで起きた事件により、メルヴェは生まれてはじめて外の世界に飛び出していく……。 ※本作はトルコのカッパドキアにある地下都市から着想を得ました。

王さまとなぞの手紙

村崎けい子
児童書・童話
 ある国の王さまのもとに、なぞの手紙が とどきました。  そこに書かれていた もんだいを かいけつしようと、王さまは、三人の大臣(だいじん)たちに それぞれ うえ木ばちをわたすことにしました。 「にじ色の花をさかせてほしい」と―― *本作は、ミステリー風の童話です。本文及び上記紹介文中の漢字は、主に小学二年生までに学習するもののみを使用しています(それ以外は初出の際に振り仮名付)。子どもに読みやすく、大人にも読み辛くならないよう、心がけたものです。

少年イシュタと夜空の少女 ~死なずの村 エリュシラーナ~

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
イシュタは病の妹のため、誰も死なない村・エリュシラーナへと旅立つ。そして、夜空のような美しい少女・フェルルと出会い…… 「昔話をしてあげるわ――」 フェルルの口から語られる、村に隠された秘密とは……?  ☆…☆…☆  ※ 大人でも楽しめる児童文学として書きました。明確な記述は避けておりますので、大人になって読み返してみると、また違った風に感じられる……そんな物語かもしれません……♪  ※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

盲目魔女さんに拾われた双子姉妹は恩返しをするそうです。

桐山一茶
児童書・童話
雨が降り注ぐ夜の山に、捨てられてしまった双子の姉妹が居ました。 山の中には恐ろしい魔物が出るので、幼い少女の力では山の中で生きていく事なんか出来ません。 そんな中、双子姉妹の目の前に全身黒ずくめの女の人が現れました。 するとその人は優しい声で言いました。 「私は目が見えません。だから手を繋ぎましょう」 その言葉をきっかけに、3人は仲良く暮らし始めたそうなのですが――。 (この作品はほぼ毎日更新です)

処理中です...