そんなチートは要りません!

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24.決意

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「い…いま、なんて……?」

 さっきまで絶対に離すまいと必死にザハスさんを掴んでいた手からスッと力が抜けていく。

「アレクさんが…」

 まさか、そんなはずない。なんの冗談だよ、笑えないって。冗談にしたってタチが悪すぎる。

「このまま獣の姿で過ごし過ぎると、アレクの人としての人格が薄れて獣の部分だけが残ってしまうんだ」
「獣の部分だけって、そんな…。アレクさん今の話、本当なんですか?」

 背後のアレクさんを振り返るが、スッと目を逸らされてしまった。べつに返事を期待したわけじゃないけど、拒絶されたようで悲しい。
 アレクさんは、さっきまでザハスさん相手に暴れていたのがウソのように今は落ちつきはらっている。

 俺の窮地には何をおいても真っ先に駆けつけてくれるというのに、自分のことは妙におざなりな感じなの、なぜなんだろう。

「それに、獣人だからといって街中で獣の姿のままで生活することは禁じられている。今はまだ様子見している段階だけど、近いうちにアレクも調査されるだろうよ」
「そ、そんな規則があるって、俺はじめて聞きました」

 確かに言われてみれば、街中で獣姿の人を見かけたことはなかったけど、そんな決まりごとがあったなんて俺は知らなかった。
 つまり、今のままでは人格云々の前に、調査官たちによってアレクさんが街から追い出されてしまうということでは?

「な、なんで…ッ!? なんで、誰も俺にそのことを教えてくれなかったんですか?!」

 そんな可能性を想像したこともなかった。
 俺はアレクさんがそんな状態だなんて何も知らず、ただのんきに毎日ダラダラと過ごしてた。
 『毎日暇だな』とか『晩御飯のおかずは何にしようかな』だの、どうでもいい事ばかり考えてアレクさんの今の状況を全然理解してあげられなかった。
 それらが何もかもアレクさんの犠牲の上で成り立っていたなんて、そんなの間違ってる。というか申し訳なさすぎる。

「教えようとしたさ。でも妨害されて、こんなに時間がかかっちゃったんだ」
「妨害って、誰がそんなことを……」
「まぁ、アレクがこのままの状態の方が何かと都合のいい奴らとか。それと、仲間のはずなのに、手を差し伸べることが出来ないアホとかね。今回ここに侵入するために少し強引な手を使わせてもらったけど、それでアレクが助かるのであれば感謝されてしかるべきだと思うね、オレは!」

 フンと鼻息荒く力説するザハスさんは、先ほどまで股の下にしまわれていた太い縞模様のシッポをブンブン勢いよく振っている。
 なんだかコーフンしているらしい。強引な手っていったい何をしたんだろう。
 でも、ザハスさんの言っていることがもしホントなら、毎日顔を合わせていた隊員さんたちがジャマをしていたことになってしまう。

 それより問題は、ルーヴさんだ。俺は彼からは一切ザハスさんが教えてくれたことを聞いてない。
 なぜルーヴさんは俺に教えてくれなかったんだろう。俺が頼りにならないからかな…あり得るな。
 悲しいけど俺は自分が役に立たない自信がある。

「そんな…。アレクさんは他の隊員の人たちに慕われているんだと思ってました……」
「そこら辺はほら、俺らが衰退の一途を辿ってる一番の原因でもあるわけよ」

 ザハスさんはとても言いにくそうに、ガリガリと頭を掻いている。俺は何かまずい事でも聞いてしまったんだろうか。

「あーなんだ、アラタちゃんたちみたいな異世界人に説明するときは『イスとりげーむ』で例えるのが一番分かりやすいって言われてるんだけど、アラタちゃんは知ってる?『イスとりげーむ』」
「もちろん知ってますけど、それがなんなんですか?」
「よかった、じゃあ想像してみて。イスに座れた者が異世界人と番になれる権利を与えられるんだ。でも、イスは一つしかないのに、それを取り囲む俺らは何重もの円でイスを囲んで自分の番を待つしかない」
「何重もの円…そんなの座れるわけない…」

 そんな場面を想像しただけでクラクラと目眩がしそうだ。

「そうなんだよ。その上、最近は異世界から来る女性が極端に少なくて、ゴツくてオレらとそう変わらないようなガタイの人間ばかり来るようになってしまった」

 ザハスさん達と変わらないぐらいのガタイの人間なんて、ボディービルダーかよ。
 そういえば、日本人は珍しいって言われたことがあったな。アジア系はたしかに見かけたことない。
 ルーヴさんの番の人が日本人だって聞いて、俺めちゃくちゃ嬉しかったもん。

「えっと、女性がより好まれるのは分かるんですけど、神様の祝福があればそこら辺はあんまり関係ないんじゃないですか?」 
「オレらにだって最低限の好みがあるんだよ! 現に、二人目の出生率が低いのは事実なんだ」

 一人目は強制的に神の祝福(呪い)のお陰で成功するが、その後はお察し。
 むしろ、子供が生まれても夫婦生活が破綻している場合が多く、どちらの養育者も積極的に子育てすることを放棄する始末。
 慌てた重役たちが子育て支援の為の施設を作り、共同生活さえおくっていれば生活できるように制度を整えたのが今のこの街の真相と言うわけだ。

「まぁ、君らにはとくに余計なことを教えないって風潮があるからね。卑しいことだけど、少しでもこちらに有利な状況を作りたいんだよ。オレらみたいなこっちの世界の住民は」
「信じられないッ!」
「こっちの都合で色々振り回してしまって、ごめんね」

 怒りに震える俺を見て、元気を取り戻していた耳と尻尾を垂らして申し訳なさそうな顔をするザハスさん。
 そうだこの世界の住民に思うところが無いわけじゃないけど、だからといって彼に愚痴や文句を言っても何も解決することなんてない。
 今一番に優先すべきことは、アレクさんのことだ。

「それよりアレクさんの件、解決方法は何かないんですか? もしかして、さっきのアレがザハスさんの考えた解決方法だとか、言いませんよね?」

 ザハスさんに無理やり恥ずかしい格好をさせられた恨みはまだ忘れていない。

「えっと、あーそれは、アレだよ…。ショック療法とか、その…あえて、またアラタちゃんに危険が迫ったら元に戻るんじゃないかって、……ごめんね。(アレクのことだから、アラタちゃんに遠慮してまだアソコの慣らしもたいして進んでなさそうだし。一石三鳥だと思ったんだけどなぁ…)」
「ショック療法って、ちょっと酷くないですか! 俺のこと、なんだと思ってるんですか!? て、え…? アレクさん、どうしたの?」

 聞き捨てならないことを言われて反論しかけたとき、急にさっきまでおとなしかったアレクさんが牙を剥いて、ザハスさんを威嚇し始めた。
 それは今まで見たことがないぐらい恐ろしい顔で、俺はアレクさんに駆け寄って首筋に抱き着いた。
 そうしなければ、またザハスさんに飛びかかるんじゃないかってぐらいの激しい怒りを俺は感じて、とっさに行動してしまった。

「………俺、アレクさんにも怒ってるんですよ」

 首筋に埋もれるように顔を押し付けて、グリグリ頭を擦り付けると胸一杯に息を吸い込んだ。
 アレクさんからはあいかわらずの獣臭がして、嗅いでいるとそんな状況でもないのにホッとしてしまう。

「アレクさんがこの街に住めなくなるなら、俺も一緒にこの街を出て着いていきますからね」

 大きく揺れるアレクさんの体をきつく抱きしめながら、俺は決意を新たにした。
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