そんなチートは要りません!

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23.懇願

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 弾き飛ばされたザハスさんは、反対側のベッド脇にアレクさんと一緒に落ちていった。

「アレクさん!」

 俺のところから二人の姿は見えないが、激しく争う音だけが聞こえてくる。

「お前、来るのがおっせえんだよッ!」

 ザハスさんの怒鳴り声に被せるように狼の唸り声が重なる。
 揉みあい弾き飛ばされるように扉の方へ移動したザハスさんは、至る所に噛み傷と血を滴らせ息が上がっていた。

「二人ともやめてください!」

 俺はなんとか足に力を入れて立ち上がり、シーツを引っ張って体に巻き付けると反対側に回り込んだ。
 
「お前…俺がなんでこんなことしたか、わかってんだろ……もう、時間がねぇんだよ!」

 二人には俺の声が届いていないようだった。

 傷を庇いながら必死の形相でアレクさんに語りかけるザハスさんの姿を見ていると、先ほどまで感じていた彼への怒りが収まり、代わりに胸がざわついてくる。

 焦燥感を掻き立てるザハスさんの言葉を無視するように、アレクさんは再度ザハスさん目がけて飛びかかる。
 怒りを顕にしたザハスさんも負けじとアレクさんに応戦するが、見る間に傷が増えていく。
 俺は激しく動く二人の間に割り込めず、見守る事しかできない。

「こンのバカ野郎がッ!! このままじゃお前、二度と戻れなくなるんだぞ!」
「ガァァァ!!」

 被せる様にアレクさんが咆哮をあげるが、ザハスさんの発した不穏な言葉を俺は聞き逃さなかった。

「ちょっ、ちょっと待ってください! その話、本当ですか!?」

 黙っていられなくて俺は二人の前に割って入った。
 割って入ったのはいいものの、二人の攻撃を俺が避けられるわけもなく、まさに今ザハスさんへ飛びかかろうとしていたアレクさんが咄嗟に攻撃を逸らしてくれた。
 ザハスさんの爪が頬をかすめて空を切る。

「あッぶな…!? あ、アラタちゃん…ここは危ないから、向こうでジッとしててくれないか?」
「イヤです!!」

 ザハスさんに注意されても、ここで引くわけにはいかない。慌てて手を引いたザハスさんに飛びついて絶対にはなれないように必死にしがみつく。

「さっき言ってたこと、一体どういうことか教えてください! ザハスさんが教えてくれるまで、俺離れませんからね!!」

 大人と子供ぐらい体格が違うザハスさんに軽く払いのけられただけでもケガをしてしまうかもしれない。そんな恐怖がなかったわけじゃないけど、こうでもしないと二人は俺の話を聞いてくれない気がした。

 必死になり過ぎていたからか、体に巻き付けていたシーツがはらりと解けてしまったけど、今はそんなことかまけている場合じゃない。

「ちょッ、俺は何もしてないからな!」

 背後から不機嫌そうなアレクさんの唸り声が聞こえてくる。

「いや、何もしてなくもない…か。むしろアラタちゃんにこんなハレンチな格好させてるのは俺のせいだけど」
「ハレンチな恰好で悪かったですね……。そんなこと言われようと、絶対に逃がしませんから!」

 上半身はビリビリに千切れたシャツがかろうじて身を隠してくれている一方で、下半身は何も着ていない。ってことは、アレクさんから見たら俺の尻が丸見えなんじゃ…。
 いや、尻ぐらい見られたからってなんだ。今更じゃないか。
 俺は両腕にさらに力を込めてザハスさんに抱き着いた。

「うぐッ。アラタちゃん、それ以上刺激したら俺、アレクに殺されちゃうかもしんない…」

 なぜかアレクさんの方を見ながら怯えはじめたザハスさん。丸い耳はペタリと伏せ、シマシマの太い尻尾はくるりと股の間に仕舞われている。

 さっきだって俺からしたら二人とも手加減しているようには見えなかったのに、全然本気ではなかったということだろうか。

「さっきアレクさんに、このままだと二度と戻れなくなるって言ってましたよね!」
「あ~……聞いてたの。まぁ、アラタちゃんも知っておいた方がいいかもね」

 俺を引き離すのを諦めたのか、グイグイと遠慮がちに引っ張られていた両肩からザハスさんの手が外れた。

「教えてください!」

 意気込んで見上げる俺の顔を見下ろして、ザハスさんはため息を吐いた。

「このままだとアレクは、獣人だった時の人格をなくしてしまうかもしれないんだ」
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